ある時、お金を持って帰って来て私に渡した後、すぐに出て行こうとするのを引き止めた事があった。 帰って来て欲しいと訴えた。もうプライドも何もない。 泣きすがる私の姿をもう一人の私が見ていた。
「無駄な事はやめな、分かるヤツじゃないよ、みっともないから泣くな!」
と言ってる。 おっさんは一言も言葉を発しなかった。 帰って来て欲しいと頼む事はもう二度としなかった。 開き直ってお金だけ貰ってたらいいじゃん…… 今までも 何度も何度も開き直ったのに…… 悠々自適、一人暮らしを楽しんだらいいと思うようにした。面倒な食事作りもないし、時間を好きなように使って好きにして暮らそう。 またパチンコに通うようになった。 ある日私がパチンコをしている最中、台のガラスに映るおっさんの姿を見て驚いた。 私の背中に立って何やら言っていたけど、聞こえなくて台を離れた。
「何? こんな所まで来て」と言ったら
「今日は結婚記念日やし、何か食べに行こか……」
「何が結婚記念日? 一緒に生活もしてないのにアホらしい!」
ムッと ふくれっ面をした。 おっさんはすごすごと店を出て行った。 まだ私を疑ってる?それとも罪滅ぼし? やり方が下手くそだよ。 二面性のおっさんの一面は蛇に睨まれた蛙。 もう一面はカマキリが両足を上に上げ威嚇する姿。
数日後、夜も遅い時間になって救急病院から 電話がかかってきた。 何かがまたよからぬ方向に動き出していた。
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