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作品名:もう・・笑うしかない 作者:ののはな

第29回   そのV
 弁護の言葉もドラマで見た通り。
私の名前が呼ばれ、証言台まで出て行く。
台の上には宣誓書が置かれていた。
宣誓の時に手を上げるのはなかった。
宣誓書を読み上げ、サインをしていよいよ事実を曲げた事を言う。

「これは全部嘘です!」

と叫びたい心境に駆られた。
おっさんにはいつも嘘をつかれ、隠し事をされ、散々な目に合わされた。
ここで仕返しをしてやろうかなどと悪魔がささやく。
ほんの数十秒の短い間に心の中に悪魔が舞い降りた。
すらすらと平気な顔して尋問に答えてる私は悪魔? それとも天使?
裁判官から、ひとつだけ意表をつく質問をされた。

「タクシーで帰って来た事をあなたは毎晩確かめていましたか? ご主人の車ではなかったですか?」

こ、これは想定外だった。

「はい、いつも起きていましたし、屋根のライトでタクシーと分かりました。朝もタクシーを呼んで乗って行っていました」

すらっと言えたし、上出来だと思った。

厳正なる法廷で、完全に事実に反した事を言った私はどっと疲れが出た。
嫌な事がひとつ終わった。
早くこの場を去りたかった。
ドラマじゃない本物の裁判は正しい事を言わなければならないはずなのに…
判決は後日、弁護士さんから執行猶予と聞かされた。
刑務所行きは免れた。

 裁判の日の朝、おっさんは仏壇に線香をあげ、手を合わせていた。
いつも仏壇の前に座ることなど無かった男が、亡き両親に何を言っているのだろうか。
両親がこんな姿を見たら泣くだろうね。
親孝行もしないうちに早くに亡くして挙句の果てに、こんな事してよく手が合わせたもんだ。
ついでに言うなら、私の両親もお墓の下で娘の苦労を泣いてるかも知れない。
結婚を反対された後「頼むぞ…」とおっさんを信じて、嫁に出したはずである。


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