無言電話もしょっちゅうかかってきた。 今ならディスプレイで、相手が分かった人だけ出ればいいけど、もしかしておっさんからの電話かもと思うと、かかる電話は全部出ていた。 それが仇になり知りたくもない事を知ってしまったりする。
「オクサン、ご主人今日はそっちですか? 連絡取りたいんで…」
どういう事、今日はそっち? って、そっちじゃなかったら、どっちよ! おっさんのもろもろの事情を知った人と、何も知らない人が居るらしく、何も知らない人は当然この自宅に電話して来る。
そんな時、女の名前をチラチラ耳にするようになる。 どうもこの商売に関わっているらしい。 もしかして一緒に仕事をやっているのかも知れない。
確かめようと行動を起こすこともせず、半ば諦め気分で、ヤケを起こしていた。 以後…愛人と呼ぶ事にする。 愛人宅で暮らしていることは間違いなかった。 漠然と考えてた事が事実になった。
ここに移り住んだ事や、家を建てた事は間違いだったのだろか。 こんなはずじゃなかった。 何がいけなかったのかと自分を責めたりしたけど、おっさんの精にしたい気持ちの方が勝っていた。 加害者と被害者的関係になっている現実がたまらなく嫌で嫌で、正しい判断が出来なく、混乱した頭が私を暗い方へ暗い方へ追いやった。
買い物も、パチンコも、お酒も 空しくするだけのものだった。 私が今死んだら…犬達が可哀相。 この子達を残して逝けない。 子供達は、どう思うだろう…… いい暮らししてるのに何が不満で死んだのか、理解はしてくれないだろう。 罪悪感など感じていないおっさんも、理解はしてくれないだろう。
むしろお金はいっぱいやってるのに、何が不満だったと責めるだろう。 そんな事を考えている間はまだ本気ではない。 死ぬ時には多分後の事など何も考えないのだろう。
もう 心はとっくに死んでいた…… お酒を飲んで、気持ちを麻痺させて何度も手首を切った。
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