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作品名:もう・・笑うしかない 作者:ののはな

第113回   懲りないヤツ・そのT
 おっさんは 長きにわたって中古車と関わって来た。商売が終わる頃には、せめて自分が乗る車ぐらい、まともなものを確保しておけばいいものを、最後にはポンコツ車に乗る事になる。
修理しながら乗っていた車もついには廃車。
次の車を買おうにも自分にはもうお金が無い。
 仕方なく私が安いのでも買ってやろうかと思ったけれど、車に乗れば何処で何をしていようとも、私の目が届かない。また何をしでかすか分からない上に、好きなものを買い食いされては私の食事管理も無駄になる。

 退院後一日中家に居る事は、おっさんの性分からして これは拷問に近いのではないか……
私自身も、おっさんと顔を突き合わせての生活は拷問である。
今までに継続して同居した経験が無いので、これはもう考えただけで恐怖だ。
そう思いながらも窮屈な生活をしなくてはならない。
 朝、昼、夕ご飯の間隔がこれほど短いとは想像もしなかった。
まるで乳児の授乳を3時間、4時間おきにする感覚に近いものがある。
私の自由は完全に奪われた。時間など気にせずに庭いじりしたり、買い物に出かけたり
そんな事も出来なくなり、ストレスが溜まって爆発寸前に追い込まれた。

 せめてお昼御飯だけでも解放されたいと思い、宅配の糖尿食を頼む事にする。
週に5日の宅配食に少し救われた気がする。不自由とお金を天秤にかけて、お金で済ませる方を選んだ。

 同居しながら、食事以外は別居の様な生活である。おっさんは食事以外は自分の部屋で1日を過ごす。殆んど寝ているような毎日。一種の引き篭もりかも知れない。
外へ出る訳でもなく、庭の草引きをする訳でもなく、私の役に立つ手伝いをする訳でもない。
とにかく何も出来ないし、やろうとしない。
車が無いと身の置き場のない、魂を抜かれたおっさんである。

 私も何故か奇妙な同居生活をするようになってから、一歩も外へ出掛けられくなった。出掛けても短時間で戻って来る。一人にしておくと、これもまたヘンな話ではあるが、食べ物を探してキッチンでウロウロするおっさんの姿が頭にちらつくのだ。

 糖尿病という病気は、今まで甘いものに関心のなかった者が、異常な程お菓子や菓子パン、チョコレートなどを食べたくなるらしいし、隠れ食いをするそうだ。
そう言えばここ数年のおっさんは、車の中にも自分の部屋にもチョコレートやお菓子などが、常にあった気がする。

 重い荷物を抱えたけれど、私には私のやるべき生活がある。


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