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作品名:もう・・笑うしかない 作者:ののはな

第112回   そのU
 治療は即刻、インシュリンの投与から始まった。食前に血糖値を計り、朝夕2回のインシュリンを自分で注射する生活が一生欠かせない身体になった。
これまでなら、ざまあみろ!とおっさんの自業自得を冷たく見ていたけれど、今回だけはそういう訳には行かなかった。
生涯かかる医療費の事を考えたら、テンションは下がる。
今後の合併症による入院の事を考えて、新たに医療保険に入った。高齢なので掛け金は高いが、その保険は苦しくても入っておく必要がある。

 何でまた私に降りかかるのだと、悔しい気持ちは爆発しそうなぐらいだった……
しかし、悲しい事におっさんの食生活、食事の管理をしなくてはいけない。
糖尿がここまで悪化するにはお酒も原因はあるけれど、おっさんはなぜか甘いものばかりを自分でで買っては食べていた。度が過ぎていたので何度も注意はしていた。
けれど私の言う事など聞く訳もなく、ついにこんな事になった。

 普通、歳をとってからの食事なんて それ程贅沢しなくても質素なものでじゅうぶんである。それなのに、逆に糖尿食は贅沢食だ。
お昼だから簡単に済まそうとか、カップラーメンで と言う事も出来なくなった。
なんでこんなおっさんのために三度三度の食事を? 最後まで私に世話を焼かせるのか? 正直、キレて怒る元気すら無かったのだ。
 
 しかし今回の糖尿による入院で唯一救われた事は、お酒と縁が切れた事だ。何よりもこれが大きく変化した事はありがたい。もう二度と飲む事は無いだろう。
それに退院後は車も無い。飲酒運転の恐さから解放された事が、こんなにも軽い気持ちにさせられるなんて……

 がっちりと嵌められた足カセに、身動き出来ない今後は変わりようが無いけれど、私に与えられた天罰なのかと身震いがした。
お金の事も、病気の事も なんで私が全て引き受けなければならないのか……
たいして感謝される事もなく都合良く利用されていると思うのは、信頼や愛情の無い印し。
 
 過去の限りないアクシデントや私の受けた数々の被害を考えたら、もうとっくに離婚して他人になっていてもいいはず。
愛は無くなった……微かに残っている情だけが今の私を動かしているとしか思えない。


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