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作品名:もう・・笑うしかない 作者:ののはな

第106回   もう酒は飲むな!
 癌の手術後 3年、4年と何事もなく無事に過ぎて行く。
半年に一度の検診のたびに 私は再発や転移を願っていた。
「異常なし」この言葉を聞くたび、うんざりしていた。

 脇のリンパにまで転移していた癌なのに、どこにも転移や再発が無いなんてどこまで運の強い男だろう。
この男は癌で死ぬ事は絶対に無いと思えた。

 腐れ縁は切れる事が無いのか……意気消沈した。
それぐらい おっさんの存在が邪魔でしょうがなかったのだ。
仕事もしないで魚釣りに明け暮れ、夕方暗くなると家に帰る前には必ず飲み屋で飲んで帰る。

 酒酔い運転がどれほど怖くて、世の中の敵のように思われている事か。
にも関わらず平気で車で帰って来る。
そのうち加害者の家族の立場になる。
それが怖くてたまらなくなり、ついに行きつけの飲み屋さんに手紙を書いた。

 おっさんはいつも 飲むだけ飲んだら、食事はしないで仕出しのお弁当みたいなのを一人分だけ持ち帰って来る。
それを私に『食え』と言う。
私はいつもおっさんを待たずに一人で食べる癖がついているので、食後にお弁当は食べれない。
ブツブツ言いながら仕方なく自分で食べる訳だけど、電話でお弁当を持ち帰ると言えば済むことなのにそれをしない。
 そのお弁当箱は使い捨てではないので洗って返す。
空のお弁当箱に手紙を入れておいたのだ。

『いつもそちらにお邪魔してお世話になります。とても言いにくい事ですが 今後、そちらに行きましてもお酒は出さないで頂けますか。飲酒運転でいつ捕まるか、事故をしてひと様に迷惑をかけるか、家族みんなが困っていますので、どうかよろしくお願いします』

こんな内容を書いて入れておいた。

 おっさんはそうとも知らずに、丁寧に風呂敷で包まれた空のお弁当箱をお店に返したのだ。翌日、その飲み屋さんから電話がかかってきた。
とても恐縮した様子で

「実はこちらとしてもお酒を出すのはどうかと・・早く家に帰るように言い続けて来ましたが どうしてもお酒が欲しい、店には迷惑をかけん。そう言われたら お客様なのでそれ以上は何も言えなかったんです。奥様からのお手紙で 実はホッとしていたところです。これからは、ここでは絶対にお酒は出しませんので、安心して下さい」

ああ良かった。営業妨害かもと不安だったので、同じ気持ちだった事にホッとした。

 それ以後もお店へは顔を出すけれど、お酒類は一切出されなかったようだ。
しかし、それで安心できた訳ではない。飲み屋はどこにでもある。
自販機もあるし確実とはいえない。

実際 おっさんは どこで飲んで来たのか酒の匂いをプンプンさせて帰って来る。

 もう最後の手段、警察に言ってやろうかとまで考えた。
また誰かが見ていてタレ込みされるかも知れない。
どこまで手を焼かせるんだか……


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