「会社を辞める時、相談してくれんかったよなぁ。借金の事も隠してたよなぁ。商売始める時も、何にも話してくれんと事後報告やった…私ってあんたの何やったんやろか、あんたのする事に何も関われんと、事件の時だけ引きずり出されて、いつも後になってからあんたのした事知ったんや。まるで縄に縛られてズリズリと引きずられて生きて来た気がするわ…」
「…………」
「裁判の時も、あんたは こんな事どこにでもある! 嫁はんなら誰でも協力するのは当たり前や! つべこべ言わんと弁護士に言われたようにせい! って言うたやろ? 悪いなぁとか、すまんなぁとか、そんな事も言わんかったよな。どこにでもある日常の事やったんか? あの時の事は…」
「…………」
「今更やけど 聞きたいんよ。ほんまに私に悪いとか申し訳ないとか、そんな気持ちは無かったん? もしそうなら、私は今まで生きて来た事が空しいわ」
ようやく口を開いたおっさんは
「お前に何か話しても、文句ばっかり言うて協力せんかったやろ! わしが商売手伝うてくれって言うた時も知らん顔しとったやろ! お前は元々金さえ貰たらええ女やったんじゃ!」
「なんで嫁さんを納得させられんかったん? 何をしようとしてたか説明してくれるのが普通やろ? 事前に何にも聞かされずに、突然手伝うてくれって、都合が良すぎるやん! いっつも言葉足らずで私には何も言わんかったよな! 偉そうな事言うくせに、あんたのやらかした事の後始末はいつでも私の仕事やった!」
「とにかくお前には話が通じんのじゃ! 自分の事ばっかり考えてるような人間やしな」
「その言葉、そっくりあんたに返すわ! お前がお前がって、あんたそれでも男かぁ! 何でも私が悪いみたいな言い方、いつもそうやった!二言目にはお前がって、全部嫁さんの精にして自分のして来た事棚にあげて、気分ええか?若いなら許せるけど、60も過ぎた男の言うセリフかぁ! 早うから仕事辞めて遊んで暮らしていられるのは誰のお陰よ! 私がきっちりお金を残して来たからでしょうがぁ!!」
「あぁあ、わしが悪いんじゃ、全部わしが悪いんじゃ。あんたは偉い! それで納得か?」
捨てゼリフ残して二階へ上がって行った。 やっぱ、空しいよ〜胸の中を空っぽにしたい。 一人でいつも犬と壁に話してた昔…返って来る言葉も無く、空しさだけが倍返し。 今、仕方なくとは言え、向かい側には話す相手が居るのに話が噛み合わない。 一人暮らしをしていたあの頃となんら変わらない今の生活。
年齢だけが確実に増えている。また今夜もひとり酒に逃げた…
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