癌の告知を受けて、爪部悪性黒色腫の説明をされて手術を受けた。 親指の半分を失ったあの日から2年が過ぎた今になって、この癌の怖さを改めて知った おっさんは、3年目に入ってから始めて怖いと感じたようである。
術後の2年間は怖いもの無しで、親指を失くした程度の理解しかなかったのだ。 やはり当初に私や娘が、この病気の怖さをおっさんは理解していないと思った通りだった。
ある時、食事中に私が話した事が非常にショックだったらしく、飲んでいたビールを缶の半分くらい残しキッチンのシンクに流して、無言でそそくさと二階に上がって行った。
「今、再発もなく転移もなく病状が治まっている事をどう思うの? きっと神さんが、あんたに何か言うてるのと違う? お墓の下でお母さんやお父さんが何か言うてるのと違う? 生きててやるべき事を教えてくれてると思うんやけど…どうよ? 小さな子供じゃあるまいしさぁ、こんな事言うのもイヤやし、聞くのもイヤやろ?」
「大げさな事言うな、指一本ぐらいで」
とおっさんは言った。
「この病気の事、どれくらい理解してる? もう2年経ったし忘れたんか?」
「この間の検診で、再発してなかったわ」と言う。
「指一本切って治ったと思ってるん? 胃を全部摘出したのよりもタチが悪い癌やし。 再発率も転移率も高い悪性の癌や、それにすでにリンパに転移してたやん…2年間無事やった事に感謝して、生きてる内に私に対してやれる事をやっておいてよ。まだしてない事あるやろ? 年金の事いつまで延ばしておくつもり? せめて私に最後の責任を果たしてよ。生かされてるんよ! 何かやりなさいって言われてると思わんの!」
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