「話はすっかり聞かせてもらったよ。相馬。こんな父親で本当に申し訳ない。本当に悪かった。簡単に許してくれなんて言えない。でも、信じてくれないだろうが、俺はお前のことを1日だって忘れたことはなかったよ」 「もしや、部長は気がついて・・・?」僕は聞いた。 「ああ」と静かに肯定する。 「でも、今さら名乗り出られるわけもない。最後まで隠し通すつもりだったんだがな」 「真実は隠せるものではありません。相馬が教えてくれました」課長が目じりを抑えながら部長に話す。 「そうだな。今すぐには許してもらえなくても、何年もかけて償いをすることにするよ。それにしても、高野、井上、近藤、そして、相馬。世話になったな。本当に今までありがとうな」 「部長はまだ、しばらく会社にいるじゃないですか。そんな別れの挨拶みたいなのやめてください」井上さんも目を潤ませながら言う。 「ははは。すまん。すまん。なあ、ついでにもうひとつ俺の告白を聞いてくれないか?」 「何ですか?」と課長。 「20代のころから隠し続けて、今まで誰にも話したことのない秘密だ。でも俺も、お前たちのおかげで偽りのない人生を生きてみたいって気持ちになった。これが本当の自分だ。見てくれ」そう言うと、部長は自分の頭髪に手を持っていき、髪の一部をつかみ、そのまま手を振りおろした。振り下ろされた手には髪がそのまま握られ、頭の天辺はむき出しにされている。蛍光灯の光がまばゆく反射している。ハゲだ。 「部長。そういうことなら私もお付き合いしなければなりませんね」言ったのは課長。 「な!!いいんだ。別に。俺は見せたかったから見せただけなんだ。無理はしないでくれ」部長が課長を気遣って言う。でも、その時点で、すでに言ってしまっていますよと、僕は思ったけれど、もちろん口に出しては言わなかった。 課長は決意ある目で部長を見た後、頭髪の中に両手を入れ、パチ、パチ、と何個か留め具を外す動作をした。そして、大量にある頭髪を手で、そっと持ち上げた。 「これが本当の私です」 「課長!!そして部長!!」井上さんが感極まって泣きながら二人を称えた。「ちくしょう。二人とも光ってます。輝いてます。俺なんか足元にも及ばないくらい。」 部屋の中では手を取り合って涙を流すハゲ二人と、デブ一人。そして、冷やかな目で見る僕と、一人うなだれているイケメン。 「ああ、いい気分だ。最高の気分だ。これも全部相馬のおかげだ。相馬。ありがとうな。改めて礼を言わせてくれ」そういって、部長は相馬を優しく見た。 相馬はさっきからずっと何も言わずに下を向いていた。拳でテーブルをいらだたしげに叩いている。そして、しゃべりはじめた。 「くそう。くそう。ふざけやがって。何お前らだけで盛り上がってやがる。20年以上もほっとかれた子供の気持ちがお前らにわかるのか?父親がゲイだと教えられた子供の気持ちがお前らにわかるのか?こんな父親認めたくないけど、それでも、それでも、やっぱり親子なんだな。血は争えないんだな・・・」 「相馬・・・」僕は何か言ってやりたかったが、何と声をかけていいのかわからない。 最後に相馬は「チクショー」と叫んで、頭髪に手をやった。そして、部長、課長と同様に頭髪を手でわしづかみ、一気にむしり取った。 そこには父親同様の蛍光灯の光を跳ね返すまばゆい、地肌があった。そして、相馬は男泣きに泣いた。 「相馬・・・」声をかける部長の目からは大粒の涙が止まることなく零れ落ちていた。
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