20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:DYSTOPIA 作者:HAPPYソフィア

第2回   打ち砕かれた希望の始まり
打ち砕かれた希望

県立淑南高校
異動で着任教師や新規採用者は先ず校長室に呼ばれ着任式が行われた。
私を含めて6人だった。内新卒採用は私だけで2度目の教員採用試験
挑戦で合格した国語の小田ひろみ先生24歳、臨時採用で入った
英語の木下恵美子先生31歳、他の高校から転勤で来た体育、理科、
社会の中高年のベテラン先生がいた。
更に私は1年4組の担任になっていた。副担任は去年新採用で着任した
美術教師の八尾先生(28歳で5度目の勝負で教師になった先生だった。
採用試験合格までは公立中学や高校で臨時採用で教師をしていた。)
だった。
 それぞれの思いを抱いていたことなど分からず、ただただ教師になれた
嬉しさで、、、まるで恋する女子高生のように私は盲目になっていた。

 「では体育館に移動しましょう、着任の挨拶を在校生にしましょう。」と。
私は気持ちが急いていたのか、何かに躓いて転んでしまった。

  教頭先生が「早川先生、大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。
  鼻血が出ていた。小田先生がハンカチを取り出して渡してくれた。
     「あひがとうごひゃいますぅ、、」とへんてこな発音で言って
      笑った。
  更に教頭先生が「あっ、膝からも血が出てますねぇ」と言った。
  おそらく膝は朝、草むらに突っ込んだ時のものだと思った。

 私は努めて明るく「大丈夫です。転んだのは今日は2回目です。
 体育館では転ばないように注意します」と言って笑った。

 校長が「では皆さん、最初が肝心です、落ち着いて、着任式に
向かいましょう。列を乱さないように。」と言って校長室のドアを開け
一列になって静かに体育館へと向かったのだった。
私は、校長室を出る時、躓いて転んだところを見たが、何も障害物もなかった。
確かに何かに引っかかった感触があったのだった。

誰かが故意的に足を引っかけでもしない限り転ぶはずのない校長室の床をチラリ
と見ながら、私は「まさかね?」と思い直し、列に沿って体育館へと歩き始めた。

体育館の壇上にあるパイプ椅子に腰かけるように言われ、校長から紹介されたら
前に出てマイクで名前と担当教科を伝えて席に戻るようにと指示があった。
まだ新入生がいない新2年生と新3年生の新学期の始まりの朝礼だった。
二年生は7組、三年生は8組で600人くらいの在校生がいると聞いたが、どの顔も
元気がないように見えた。
   あれ?なんか変だ、、自分たちの高校二年、三年ってこんなだったのだろうか?
 さらの雑然としていて、割と静かだった。
教師も無表情だった。
多分・・・いやきっと空が灰色で照明が薄暗いから気のせいなんだと私は思った。

教頭先生が「早川先生、早川先生」と呼んだ。
いつの間にか私がマイクで話す番だったのだ。
ぼうっとしていたので他の先生の話など全く聞いていなかったのだ。
慌てて前に出てマイクに向かって
「生徒諸君!英語担当早川です。そこのところよろしく!英語だけじゃなく
なんでも困ったことがあったら相談に来て欲しい。話の分かる先生目指してるよ。
先生は皆と仲良くしたい、友達みたいな感じでさ先生と楽しく青春を過ごそう!」
と・・ビシット決めたつもりでいた。
生徒は受けてくれて爆笑と拍手が沸いたので私はうきうきしてピ−スまでしていた。
うおっほんと教頭が怪訝そうな顔をした校長の顔色をうかがって咳ばらいをした。
体育館中がまたは灰色の色で染まった。

小田先生が木下先生に「あ〜あ、やっちゃった・・あんな奴がなんで現役合格?
最低!」と言った。木下先生も「同じ英語教員として恥ずかしい。ただでさえ
軽く見られる英語がもっと馬鹿にされちゃいますよね」と話を合わせた。

私は全く周りの教師たちの感情が伝わってなかった。ただただ生徒に受けた!と
思って喜んでいたのだった。
私はヤレル!センみたいな先生になれると希望に燃えていた。
初日は学校に慣れてもらうということで教員研修があり、学校見学やら先生方への
紹介や、学校運営やら授業の進め方やらなんやら骨組みを教えて貰った。
更に1学年にかかわる教員は入学式の準備に追われた。

私は学校というものが良くわからず、、、センのように真似て自由に振舞っていた。
更にセンもきっと私みたいな感じだったのだろうと思い込んでいたのだった。
学校と言うのは1つの組織であり、縦の社会、横の社会、学校・家庭・地域との
連携など全く無視していた・・・というか・・ドラマと漫画の見過ぎでそんなもの
なくても先生は出来るものだと思っていたのだった。

時間になればまだ新人だからで帰宅していたし、、
部活動顧問もやりたいものは何かを聞いてくれて絵が趣味なので美術部と言った。
よく考えれば非常識だったと思った。
自分の副担任の八尾先生は美術の先生だった。
美術部でも顧問を私がしてしまったら、八尾先生は副顧問になるか、イラスト研究会
の顧問になるかだった。研究会と部では予算が天と地の差がある。
専門の美術の先生を差し置いて私は美術部の顧問になってしまったのだった。
私はどんどん周りを敵に回していったことも知らずに何でも思い通りに順調に
進んでいると勘違いをしていたのだった。

いよいよ明日が入学式となった。
私は机の上に置かれていたプログラムを見て気持ちがうきうきしていた。
今日は早く帰って新調した新しいスーツを着てみたり、クラスの皆に挨拶する言葉を
考えたり・・忙しいなと思っていた。
5時15分が一応、帰れる時間だった。
私は15分とともに職員室を飛び出して帰ってしまったのだった。
誰一人、教師は帰っていないのに・・更に明日の入学の最終打ち合わせで5:30から
職員会議だと言うことも気が付かずに帰ってしまったのだった。

「木下先生、早川先生はどうしましたか?」学年主任の薬師寺先生が困った顔で
 聞きにきた。
木下:「分かりません、、」
薬師寺:「同じ英語の先生なんでつい聞いてしまって悪かったね」
木下:「いえいえ・・また帰っちゃったのでしょうか?」
小田:「私はあれほど何度も今日は職員会議があり明日の入学式の最後の打ち合わせが
    あるって伝えたんですよ。早川先生は分かった、分かったと言っていたのに。
    忘れちゃったのかしら?私、早川先生に連絡してみます。」
 
そう言って小田先生は電話を架ける振りをした。
実は小田先生は職員会議があることなど一言も言ってなかったのだった。
小田は心の中で いい気味・・みんなあんたに腹が立ってるのよ。
   いい加減に分かれよ、バァカ!
         教師失格だし、辞めて貰いたいわ。

木下:「薬師寺先生、電話が繋がりません。明日の入学式大丈夫でしょうかね。」
薬師寺:「困った先生ですね・・トラブルメーカーだ。
     八尾先生、貴女には申し訳ないが、万が一、早川先生がきちんとできない
    場合は、早川先生の代行で式を進めてもらいます。いいですね」と。
八尾:「え?・・・分かりました」

  八尾も面白くなかった。美術部の顧問を外され、新卒の非常識教師の尻拭いを
  なんで私がいつもしなければならないのか・・
  式のプログラムだって、舞台の準備だって毎晩遅くまで残って早川先生のやる
  べき仕事を全部私がしているのに・・・
  早川先生は全部手柄を横取りし・・絶対に許せない。
  早川理央・・お前が世界一嫌いだ。
 八尾は心の中で何度も何度も叫んでいた。
    早川理央なんて大嫌いだと。


そんなことになっていりなんて全く知らず私はセンの真似して「皆紹介」の準備で
うかれていた。これでクラスの心はガッチリ掴めるし楽しい高校一年になるし、
人気者の先生に益々なっちゃったりして・・・楽しみだな・・・
早く明日にならないかなとプログラムを見つめて眠りに入った。     


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 177