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作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第9回   オッパ、10年ぶりですね?





「おっ、ジェファ・・キド(祈り)の曲か?
懐かしいな・・・ジェファ、何でこの曲を?」

帰宅したサムチョンがピアノを弾いている
ジェファに聞いた。



ジェファ:「・・うん、今日シオンちゃんの家に
行ったんだ。シオンちゃんは今度の
オボイナレで桜の木の役を演るんだ
けど・・ムグンファ組の人達は今日
シオンちゃんを抜かして権って言う
威張ったおばさんの家の子の家に呼
ばれて劇の練習することになってて
・・・・」
サムチョン:「シオンアガシは呼ばれなかったんだな。
・・・それで?何でキド?なんだ?」


ジェファ:「シオンちゃんのお母さんもサムチョンと
同じで秋の童話って言うドラマが好きで、
主人公の女の子が生まれ変わったら何に
なりたい?って言うので女の子は「木」
って言うところを話して、木ってとって
も良い役だし重要だって・・それで僕た
ち遊びに来てた人にもドラマを見せてく
れて・・その話をしたらシオンちゃんは
元気になったんだ・・・
僕もこのドラマ好きだし・・・・
別れの曲よりも「キド」の方が好きだ
から練習してシオンちゃんやお母さんに
聴かせて上げようって思ったんだ・・」



サムチョン:「・・あぁ、そうか・・
どれちょっと
サムチョンにも弾かせてくれるかい?」


サムチョンはピアノの前に立ち、弾きながら歌い
出した。




僕の前を立ち去ろうと
つらそうにするのは
僕のためなの?

1日ぐらい離れたって構わない
君がどこにいようと
その愛を信じている

あの時は気付かなかった
僕を見る君のまなざしに
小さな君の肩さえも

抱く事が出来なかった・・
自分が嫌だった・・・

いつまでも悲しい運命が
僕たちを引き裂いても

二度と君を悲しませないよ



かけがえのない君だから

君より大切な物は


もう僕にはないと分かっているよね♪




ジェファ:「・・サムチョン、凄い!
キドってそんな歌だったんだ
良い曲だね?僕も歌えるかな?」



サムチョンは笑いながら「・・あぁ、歌えるけど・・
内容を理解するには
まだジェファには無理だな
・・・そうだな・・
大学生になれば良く分かる
かもしれないな・・
まだまだ先の話さ・・・
そうさ・・

秋の童話は凄く悲しいドラマなんだ
・・・生まれ変わったら

木になりたいっと言った女の子の
切ない気持ちは、
このドラマの大切なキーワード
なんだ・・
木の役は考えたら凄く大切だとも
思えるんだ。
シオンアガシは悲しむ事も落ち込む事も
する必要はない・・・
木を考えた時、このドラマは慰めたり、
励ましたり出来る内容だし

木が重要なポジションだと言えるしね。

相手の男が血のつながらないお兄さんなんだ
けど、ずっと妹だと思っていた女の子が
なりたい物が木だったってことを覚えておいて
くれて、ずっと最後まで木の事を記憶に
残してくれているんだ。

最初、婚約者に選んだ女の人も、
結婚を決めた理由がその女の人が
木になりたいと言ったからだしね・・・
ハハハ〜・・・」


ジェファは、ふ〜んと言いながら、やがて自分も大人に
なったら、その曲や木が重要な役割を持つドラマを理解
出来るのだろうかと漠然的に考えていた・・・





ジェファは「シオンちゃんはカササギ幼稚園でも、
リラ幼稚園でも1番可愛い女の子なんだ。
オボイナレだってシンデレラとか主役の
お姫様になれると僕は思ったんだ。
なんでお姫様じゃないんだろう?って・・
僕は・・凄く悔しい気持ちなったんだ・・」

サムチョン:「・・サムチョンは大人だから・・
今回の件は何となく良く分かるな・・・
ただ・・・
シオンアガシは小さな内から
色々な事を学びとれていいかも
しれない・・これで良かったんだよ。



(ジェファ、お前も同じさ・・・
お前は頭も良い、運動だって良く出来る
・・・音楽的センスもある・・・
外見も親の良いところを全て受け継いで
いる・・・何でも手に入れられる・・・
生まれながらにしてスターなんだ・・

だけれど、時には挫折や諦めも必要だ
・・)」



ジェファ:「難しくて・・良く分からないや・・」

サムチョン:「・・あぁ、そうさ・・・
分からなくて良いんだ・・・

ジェファ、早く大人におなり・・
そうすれば直ぐに分かるさ・・・
シオンアガシは・・・
少し早目に、大切な事を学べるチャンス
を味わおうとしているだけさ・・・」

ジェファは笑いながらピアノから去って行く
サムチョンを眺めながら、
僕は僕に出来る事でシオンちゃんを慰めて
上げようと思っていた・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


月曜日になり幼稚園に行くと、ソラミの家に呼ばれて
練習に行った子供たちは二派に分かれた。

威張ったソラミや自分の母親達を顎で使うソラミの母親
の傲慢さや、何もかも嫌味っぽい豪華で贅沢な生活ぶりが
嫌だと言う子供たちと・・・
余りにもセレブな生活ぶりを羨ましく思う子供たちと、


「権さんと仲良くしていれば、リラでの生活は安泰だから」
と云い聞かせる母親たちの子供たち・・・



勿論、後者は多くは無かった・・・



ソラミは得意満面で「土曜日は皆さん、よくいらして
下さったわ・・あたくし、主役として
頑張るけれど、皆さんも頑張って頂戴。
また御招待するわよ。キャビアやフォ
アグラのお料理はどうだったかしら?
KALホテルの一流シェフが作った物
ですの・・お土産のお菓子も皆さんの
お口に出来ないベルギーのお菓子です
のよ。」っと言った。


大人と同様にへこへこする園児もいたが、
大半はもう二度と行きたくないと言う気持ちで一杯だった。


ヨンス:「ソラミちゃん、ずっと威張っていて・・・
何でも命令するの・・」

クミョン:「そうそう、言う事きかないと、ご本とか
投げつけるの・・自分が失敗したのに・・
直ぐ人のせいにするし・・・
もう行きたくない。」

仲良しのヨンスもクミョンもソラミの家では散々だった
事をシオンに話した。

シオンは微笑みながら「でも、ソラミちゃんのお家って
凄く大きくて綺麗だったでしょう?お姫様みたいなお家
で、お母さんも美人で、、、ご飯とかも美味しかったで
しょう?」と言った。

皆は「ううん、ちっとも羨ましくなかったよ。
お家は凄くお金持ちの家だと思ったけど・・
でもちょっとでも汚したり触っただけでも、
これはパリで100万円とか・・・
これは日本で200万円とか・・・・
いちいち値段をソラミちゃんのお母さんが
威張って言ってたよ・・」


「ご飯も、冷たくてあんまり美味しくなかった・・
私は自分のお母さんが作るご飯の方が美味しいと思ったし
デパートで買う御菓子の方が美味しいと思った。」

「不味いなんて言ったら悪いから、皆、黙ってたの・・」

等など・・・


「シオンちゃんは土曜はどうしてたの?」っとヨンスが
言うと
「うん、カササギ幼稚園の時のお友達や、ひまわり組の
ジェファお兄ちゃん達が遊びに来てくれて、
皆でゲームしたりビデオ見たりしたよ。
お昼はオンマがチヂミとか冷麺とかジャージャー麺を
作ってくれたの。皆で美味しく食べたよ。オンマはお
料理が上手だから・・・」

それを聞いてヨンスもクミョンも

「わぁ、いいな・・私もシオンちゃんの
お家に行って遊べば良かった」と云って羨ましがった。



ソラミ:「あら、お二人とも・・そんな風に
言うなら次はもう呼んであげないわよ!!」
と言って二人を睨んだが、


二人は「うん、良いよ」とあっさり言って、
シオンの手を取って
「あっちに行こう」と云って行ってしまった。




その場に一人残されたソラミは悔しいやら腹が立つやらで、
ワナワナと震えた。



どうして、皆、、シオン、シオン、シオン

シオンなの?


ソラミの目から大粒の悔し涙がこぼれた・・・


しかし直ぐに涙を拭って、きりりとした口を作り
クラスの園児たちを威嚇し「シンデレラの主役は
私よ
だから皆は自分の言う事を
聞きなさい」と云い張ったのだった・・・・




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




そうこうしている内に、オボイナレの日が近づき、
明日が本番となった・・・




「はい出来上がり!!」

それはとても可愛い桜のドレスだった。


カノンが手作りしたもので、
真っ白な生地に桜色の花弁が刺繍が施された
美しいドレスだった。
髪飾りも可愛いそして決して嫌味がない
真っ白な物で可愛いシオンがより一層、
可愛いく見えた。

「靴とタイツは茶色の木の色の物にしようね?」
カノンは笑顔で言った。

シオンも「うん・・オンマ、綺麗・キレイですね〜」
と云って、ドレスをあてがいながらクルクルと踊った。


カノン:「明日はオボイナレ、オンマもアッパーも
楽しみにしていたんだけど、、、
アッパーは残念な事に、演奏会で
ウイーンに行ってしまって、
出席出来なくて、、、ごめんねって・・」


シオン:「ううん、アッパーは
お仕事だから仕方ないですねぇ、
アッパーがさっき電話くれたから
シオンは、大丈夫だもん。
オンマ、デジカメに撮ってね?
アッパーに後で見せるから・・」

カノン:「沢山、たくさん撮ってアッパーに
見せようね?」


シオン:「うん」


ソンジェは、残念な事に、ウイーンでの演奏会が
押せ押せで入ってしまい、オボイナレには出席
できない状態だった。

演奏会よりも娘の晴れ舞台の方が重要だと
言わんばかりに、帰国を申し出ようとしたが
カノンが呆れてストップをかけた。

「オッパーちゃん、頑張ってお仕事して下さい。
うちは貧乏です。
オッパーちゃんが仕事をしてくれないと
たちまち明日の暮らしが大変になります。
オッパーちゃん、明日のオボイナレは
しっかりカノンがビデオに収めて
おきますし、オッパーちゃんの分まで見て
来ます。

なので安心して仕事をして下さい。以上!!」

と云って仕事を優先させたのだった。



親バカと言うかマイホームパパのソンジェは、
仕事よりも娘の方が大切だとして仕事を放り出して
しまうだろうと見て取って、早目に帰国NGを
カノンが出したのだった・・・



ソンジェは、帰国したら電話をTV電話にしようと
堅く決意した。TV電話なら可愛い娘の声だけで
はなく顔や姿も分かるからだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




オボイナレ当日になった。



沢山の父兄たちが続々と講堂に集まって来た。
リラ幼稚園の講堂は交響楽団のコンサートホールにも
匹敵する位の本格的な美しい造りで、全てが父兄たち
からの援助金で賄われていた。

マヤは朝からご機嫌斜めだった・・・
・・・と云うのも、母親の呉ジナは演奏会の為、
ドイツのザルツブルグに行ってしまったのだった・・・
コーディロイの美しい茶色のドレスと真珠の宝石がちりばめ
られ、髪飾りも真珠だった。靴も真っ赤な可愛いリボンが
ついたものだった。それらをプレゼントとして残し、渡独し
てしまったのだった・・・・

マヤは母親譲りのピアノの天才だったが、皆が浮き浮きと
してミュージカルを頑張ろうとする姿が無性に腹立だしく
ぶち壊してやりたいと思った。


(見てらっしゃい・・・)

マヤはある行動に出たのだった・・


シオン達の出番は、丁度7番手だった・・・
1番手は、年長のひまわり組による伝統舞踊と演奏だった。

中でも目をひいたのはやはりジェファだった。
遠目で見てもその美しさは輝いていたし、話題をさらって
いたのだった・・・

「あの男の子、凄く綺麗ね・・」
「踊りも上手だし・・・演奏も凄く上手ね?」

「長身でハンサムなのが直ぐに分かるわね?
将来が楽しみね?」

「ひまわり組のチョンジェファ君でしょう?
何でもリラ幼稚園に満点合格で入った天才少年よ。」
「お母様は有名なブロードウエイでご活躍のキャスター
よ。元々は女優だったけどね・・・」
「あぁ、だから美少年なのね?」
「あんな子が家の子だったら、鼻が高いのにね〜」


余りにも素晴らしい出来栄えからのスタートだった
ので、流石、リラ幼稚園と称賛が絶えなかった・・・



シオン達の準備が教室で始まった時、
大変な事件が起こった・・・

主役であるソラミの声が出なくなり、
「あう・・あうあう」と言う言葉しか出なくなっていた。
更に、緊張と不安の余りにおもらしをしてしまった・・

ソラミはあうあうと泣きじゃくった・・・

ユリ:「・・・これじゃあ、シンデレラは無理ね・・
あぁ・・どうしましょう・・・」

ユリは困ってしまった・・・
そこへ、マヤが笑いながら言った・・・

マヤ:「先生、あたくしが、シンデレラを演ります。
完璧に音を外さずに歌を歌えるのは私しか
できませんもの・・・丁度、あたくしピアノ
が上手く弾けない状態でしたから・・・」

ユリ:「・・・え???」

マヤは深爪をしてしまった(=実は、母親が見に来
ないと分かって、その悲しさのあまり、マヤはよく
爪を噛むのだった)と手を見せたのだった・・・

ユリ:「・・でもピアノ・・肝心のピアノを弾いて
くれる人がいないわ・・・」


マヤ:「あら!先生・・いるじゃありませんか?
天才音楽家の李ソンジェの子供、李シオン
が・・・ねぇ、シオン、貴女は私のピアノは
下手だって言ったわよね?だったら、貴女が
弾いてよ。簡単よね?貴女は音楽家の娘です
もの・・・アハハハ」

シオンは、どうしようと思ったが、売られた喧嘩を
ここで買わなかったら、、、ずっとマヤに嫌味を
言われるだろうし、自分だけではなく、音楽のヒジョン
先生も苛められてしまうだろうし・・・
最初に、喧嘩を売ったのは、もしかしたらシオンかも
しれない・・


自分の言った言葉や行動は、必ず自分にいつか
返って来る・・そんな気持ちにシオンは子供ながらも思った。

その時、
「シオン、下手でも間違っても構わないんだよ。
楽しんでピアノを弾いて!ピアノはきっと
楽しんで弾いてくれたら、楽しいと云う気持
ちを伝えてくれるよ。沢山の人を楽しませて
くれるよ。」っと・・アッパーであるソン
ジェの声が聞こえてきた気がした。

シオン:「・・先生、シオンがピアノを弾きます。」

シオンは楽譜を手にしてギュッと力瘤を作った・・・

ユリは「・・そう・・じゃあ、やって貰おうかな?
マヤさんがシンデレラで、演奏はシオンちゃん
で行きましょう・・・時間が無いわ・・皆、
準備して!! ・・それからソラミさんは、
台詞の無い木の役をすればいいわね。お母
様達も貴女の舞台を楽しみにされてるから・・
衣装は、ソラミさんのとマヤさんのを替え
ればいいわね?丁度、マヤさんのドレスが
茶色で木の色だし・・・」

シオンは「じゃあ、先生、シオンはオンマが作って
くれた桜のドレスでいいの?」と聞いた。

ユリはニッコリ笑って「ええ、とっても可愛いドレス
ね?シオンちゃんに似合っ
ているわね?
いい、シオンちゃん楽譜を
見ながら弾けばいいのよ。
間違えても良いから頑張って
演奏してね?大丈夫かな?
出来なかったら、多分、マヤさ
んがアドリブで歌を歌いごま
かしてくれると思うのね?
だから大丈夫よ。
ファイティング !!」と
ガッツポーズを作って言った。

シオンは大きくうなずき、頑張って演奏しよう
と思ったのだった。
それに大好きなアッパーが「音楽は楽しんでするもの
だ」といつも言っていたし、楽器は演奏する人の気持
ちが直ぐに出てしまう物だから、シオンが楽しんで
やれば、楽器もそれに応えてウキウキ楽しい音楽を
奏でてくれると言っていたからだ・・・
更には世界中で1番大好きなオンマがシオンの為に
作ってくれた桜のドレスを着て、オンマが大切にして
いたお守り・・・TEFと言う文字とお花の形、そして
直角三角形のペンダントもシオンの首にかけられていた。

シオンは、ペンダントをギュッと握った・・
するとペンダントは、日の光に輝きキラキラとした。

「ペンダントさんも応援してくれるの?」っとシオンは
話しかけると、寄り一層、銀色のペンダントは輝いた。



「続きまして、プログラム7番 年少組ムグンファに
よるミュージカルシンデレラです。」っとアナ
ウンスが流れた・・・


シオンは、真っ先に舞台の前に行き、一礼をして
向きを変え、ピアノの前に立ち座った・・・


観客席がざわついた・・・

サヤカの取り巻きの父兄たちが

「あら?可笑しいわね?演奏は呉ジナの娘、
呉マヤではないの?」

「あの子って・・・ほら・・確かサヤカ様の
親戚である音楽家 李ソンジェの娘では?」



すると違う方向から

「可愛いわね?」
「お人形さんみたい・・」

「お姫様の役の方がいいのでは?」
「でも、あの子、李ソンジェの娘
みたいですわよ・・」
「え?あの若き天才音楽家の?」
「かなりイケ面の李ソンジェの娘?」
「あぁ、やっぱり蛙の子は蛙ね?」


シオンを褒める声が聞えて来た。


それを見ていたカノンはただただ
ビックリしていた・・


自分の娘であるシオンが、演奏?
そんなの聞いてないし、シオンは「木」の役
では???昨日の・・いや今朝も「木」の役
だとカノンもシオンもそう思っていたし・・
何か大きなハプニングがあったに違いないと
思った・・・

逆に大した演奏も出来ないのではとカノンは
不安になった・・・すると

やはりカノンにも「カノン、音楽は 音を
楽しむものってカノンが教えてくれたんだよ。
上手に弾こうとか、褒められようとか・・
そんな事を考えて楽器を奏でたら楽しくないよ。
下手くそだって、間違ったって良いんだ・・
音楽を楽しんで演奏したいね?」とソンジェの
声が聞こえた・・・

カノンはフフフっと笑って、「そうそう、偉大
なるカノンちゃんがライバルの李ソンジェに言
って上げた素晴らしい言葉だった・・・
シオン、楽しく弾こうね?スマイル、スマイル」
っと呟いた・・・


シオンはカノンに似てぶっつけ本番に強かった。
終始笑顔でピアノを演奏していた。
失敗もご愛嬌で、可愛い笑顔で大人たちは、魅了
された。

シンデレラの主役よりも・・シンデレラのお話よりも
人気はシオンに集まっていた。
シルクの真っ白なドレスに淡いピンクの桜の花びらの
刺繍柄がスポットライトを浴びてキラキラしていたし
シオンの愛らしい顔は、本当に可愛いくて、お姫様
と云って良いくらいだった・・・
ピアノの演奏も園児としては先ず先ずのレベルであり
ぶっつけ本番にしては大したものだった・・・
ずっと笑顔で楽しんで弾いていたので、聴くもの達
を楽しくさせて貰えたのだった・・・


シンデレラが呉マヤだった事も、話題を呼んだ・・・

「あら?シンデレラって権ソラミさんじゃなかった
かしら?」
「何故?呉マヤさんがやってるの?・・ソラミさんは?」


サヤカもかなり動揺していた・・あのドレスは
本来ならソラミが着て、ソラミが演るはずだったシンデレ
ラなのに・・何故?・・ではソラミは一体どこにいるの?



あ!!

取り巻きの母親が言った。
サヤカは指さす方向を見ると、舞台の端っこに、ぽつんと
唯突っ立っているソラミが居た・・しかも泣き顔だった。

ムグンファ組の父兄たちは余りにも情けない枯れ木の様な
役に笑いを抑えきれない様子だった・・・
ずっと威張り散らされて、面白くない気持ちの父兄が沢山
いたからだった・・・

シンデレラの役となり、今日の晴れ舞台を楽しみにしていた
サヤカは、リラ幼稚園の園児達全員に紅白餅を引き出物の様
に出していたのだった。
ところが・・蓋を開けてみると、主役は呉マヤに奪われ
人気はシオンに集中していて、腸が煮えくり返りそうな
気持ちのサヤカだった・・・


どうして?サヤカは、納得がゆかず、
近くに座っていたカノンに怒鳴り散らした。


サヤカ:「ねぇ、カノン、貴女は嬉しいでしょう?
自分の娘がピアノ演奏で脚光を浴びて・・
木の役からいきなり主役並みの演奏よ?
どんな汚い手口を使ったの?
やっぱりソンジェさんかしら?音楽家って
事で、演奏させろって言ったの?」

カノンはビックリして「え???そんな・・・・
サヤちゃん、私だってソンジェ
だって今朝も・・いえミュー
ジカルの本番までシオンは木の役って思って
たのよ。シオンだって桜の木の役って事で
私が作った桜のワンピースを着て頑張って
木の役をやるって言ってたのよ。サヤちゃん
も知ってる通り、シオンは音楽家の子供では
あるけれど、音楽の才能があるとは分から
ないし、寧ろお絵描きの方が好きだし、ピアノ
も少しは出来るけど・・・さっきの演奏の通り
園児らしい弾き方しか出来ないでしょう?
ピアノにしても劇にしてもソラミちゃんの方が
シオンよりも上手だと思うし、努力の度合いが
違うもの・・・
ソンジェは汚い手口なんて出来る人じゃない
し、特に音楽に関しては人に対してよりも
自分に対して物凄く潔癖で厳しい人なの・・
だからズルなんてしないよ・・私が命を賭
けて言える事だもの・・
きっと何かハプニングがあったと思う・・
お芝居が終わったら、姜先生のところに行こうよ。
事情を聞きに行きましょうよ。 」っと言った。

カノンは真っ直ぐサヤカを見詰めたので、きっとカノン
の言う通りなんだろうと思うサヤカだったが、それでも
晴れの舞台でこんな恥ずかしい思いをしたかと・・・
悔しくてならなかった・・・




カノンの目から涙が溢れだしていた・・・
サヤカはハットして「御免なさい・・カノン・・・
ついカッとして・・私も現状を把握できないの・・・
何故?ソラミが木の役なのか?シンデレラじゃない
のか?」と震えながら言った。

カノンは優しく微笑んで「・・サヤちゃん、私も分からない
から、この劇が終わったら一緒に姜先生のところに行って
聞きましょうよ。」ともう一度言った。


シオンはぶっつけ本番ながらも一生懸命、楽譜を見ながら
演奏をし、何とか恰好がついたミュージカルになり成功
したのだった・・・



劇が終わると、サヤカ、カノン、サヤカの取り巻きの母親
達が、こぞってムグンファ組の所へ行った。

すると着替えをしていた泣きべそ顔のソラミがサヤカを見て
ビクビクしていた。

サヤカ:「・・・ソラミ・・」

ソラミ:「・・お・・おっ・・お母様・・」

サヤカ:「一体、どういう事なの?え?貴女がシンデレラ
じゃないの?」

ソラミはたまらずに泣きだしてしまった。

「御免なさい、お母様、、御免なさい」何度も謝りながら
ただ泣くばかりだった・・・


サヤカはソラミが興奮して泣くのがうるさかったので、
直接、教師である姜ユリに聞こうと思って、物凄い剣幕で
取り巻きを引き連れてユリのいる方向に向かって行って
しまった。

残されて唯泣きじゃくるソラミを見てカノンは
ソラミがとても可哀相になった・・・

「ソラミちゃん、きっと何か事情があったのね?
それなのに頑張って舞台に立っていたね?偉かったね」
と言って微笑んだ。

ソラミは、優しく微笑むカノンを見て、お母様も、カノン
叔母ちゃんみたいな人だったら良かったなっと・・・

カノン叔母ちゃんはいつだって優しくて、いつも楽しそうに
笑っていて・・・シオンがいつも笑顔なのはきっと
カノン叔母ちゃんやソンジェ叔父さんの子供で幸せだからだ
と言うのが、幼いソラミの中で、分かっていたからだった。

シオンはやっぱりお姫様だ・・・
シオンは自分よりも幸せだし、恵まれている・・・
私はシオンには勝てない・・・

ソラミは心の中で封印していた気持ちを再び呼び覚まして
しまった・・・



サヤカ:「姜先生、なんですの?今日のミュージカルは!」

姜ユリ:「え?何ですのって言われても・・・」

ユリは、何故、急きょ、このような事態になったのかを
伝えた。ソラミは余りにも期待と緊張に耐えられず、
急に声が出なくなってしまったのだろう・・
震えだし、おもらしまでしてしまった事などを冷静に
話した。


サヤカは、何となく理解できた・・
ソラミは過度の緊張をすると身体が硬直し、
何も出来なくなってしまうのだった。
リラのお受験もそうだが、、、
これまでピアノの発表会にしてもバレエの公演会にしても、
いつもいつもあがってしまい、失敗する・・
失敗以前に、舞台に立てずに終わってしまうのだった・・・

だが、それを認めるわけにはいかなかった・・・

サヤカ:「大方・・呉マヤが主役をやりたがったんじゃない
かしら?かなり意地悪な園児だと伺っていますもの・・
それにもしマヤが演奏しなければ舞台が大なしに
なる事を見込んで、わざと・・・
そう、わざと自分が主役をやると言いだしたので
しょう?
ところが、まぁ、下手だけれど、音楽家の娘の
李シオンが演奏したので、調子が狂ったのかも
しれないわね?
ならば、先生、酷いですわ、何故、ソラミに
演奏させて下さらなかったの?
やはり音楽家の李ソンジェの娘の方が話題を
呼ぶからそうしたのですか?」


余りにも勝手な意見にユリは、呆れてしまった・・・
が、もしかしたら少しは当たっているかもしれない・・
何れにしても今は、サヤカに何を言っても勝手な考えを
言われてしまうので、黙秘した。


サヤカ:「・・本当に・・今回は、もう終わってしまったので
我慢しますわ・・ですが2回目は無いと思って下さ
いね・・先生だからと言って胡坐はかかないで下
さいましね!」

取り巻き達も、ユリを白い目で見ながらサヤカの後に
へこへことついて行った・・・


ユリはヤレヤレと思いながら、ため息をついていると、
小さな手にスカートを引っ張られた。

シオンだった・・・


ユリ:「わぁ、シオンちゃん、今日はとっても頑張りましたねぇ〜
ピアノ、とっても上手だったわよ。
先生、ビックリしちゃったわ。」

シオン:「本当?シオン、ピアノは上手じゃないけど・・
でもね、アッパがね、楽しく弾ければいいん
だって言ってたから・・下手でも良いやって
思って弾いたの・・・
沢山、たくさん間違えちゃったよ〜えへへ」と云って笑った。

ユリ:「ううん、間違えても、楽しく弾けたならそれで
良いと先生も思うわ。シオンちゃん、凄く上手
だったし、ずっと笑いながら演奏してたのが分
かったし、良かったと先生は思ったのよ。」

シオンは「うん」と頷いて、カノンを見つけると


「あっ、オンマだ!」と云って嬉しそうに駆け寄って
行った。



シオン:「オンマ、オンマ、あのね、シオンね・・」

今日の出来事を一生懸命喋るシオンを嬉しそうにカ
ノンは「うんうん」と聞いていた。



午前中で出し物が終わって、ちょっと遅い昼食になった。
時計は13時を少し回っていた。
各教室で食事となり、その後はクラスでお茶会があり
終わると解散だった。
沢山の父兄たちが、帰り際にサヤカの所に来てお餅の振る舞いに
お礼と挨拶をして行った。




そんな中で、ジェファやジェファの家族もお礼に
ムグンファ組を訪れた。

ジェファの親は母親はニューヨークにいたし、父親は、
日本にいるらしく、今日のオボイナレもサムチョンが
見に来ていたのだった。

ジェファは「サムチョン、ここ、ここ、このクラスの
権さんていうお家の人だよ」と云って
ムグンファ組を指差しながら駆け寄って来た。





シオンは、こちらに向かって来るジェファと
サムチョンを見つけた。


シオン:「オンマ、ジェファお兄ちゃんと
サムチョン!!」と言って指差した。



カノンは「え?」っと笑いながら指さす方向を
見て、ギクリとした・・・


それは、

見覚えのある・・・

懐かしい姿の男性だった・・・



カノンが生涯唯一人


「オッパ」と呼べる

大好きな

鄭テファ

だった・・・


カノン:「・・オッパ??」



シオンは無邪気に、ジェファとサムチョンが
いる所に駆け寄った・・・
そしてやはり、「シオンのオンマ」と
サムチョンに言って指差した。

サムチョンも、カノンを見て、

立ち止まった・・・


「・・・カノン・・・

鈴木・・・カノン・・・

カノン?」


驚いて二人は立ち止り、サムチョンの方
からぺこりと挨拶した。

カノンも、つられて挨拶をした・・・



10年ぶりの再会になるのだろうか?


懐かしい風が吹いたが・・それは
束の間の事だった・・・


サムチョンは向きをかえて、車のある
駐車場に向かって歩き出した。

ジェファは「サムチョン・・待ってよ・・」
と言って追いかけた・・・


ジェファ:「サムチョン・・サムチョン・・」

何かあったのか?分からないまま、ジェファは
呼びかけていた・・・

サムチョン:「シオンアガシのお母さんて
・・・鈴木・・いや李カノン
さんだったんだね・・・?」

ジェファ:「え?・・・そうなんだ・・・
サムチョン知ってるの?
凄く優しくて、綺麗で、ご飯も
おやつも美味しくて、お家も綺麗
で・・・
いつも笑っていて・・・
僕のママンもシオンちゃんの
お母さんみたいな人だったら
なぁって・・・いつも思うよ。」

サムチョン:「・・そうか・・・ジェファは
シオンアガシのお母さんが
大好きなんだね?
ママンは嫌いなの?」

ジェファ:「ママンの事は好きだよ・・
でもさ・・
いつも、いつも仕事で、
あんまり家にいないし・・・
何だか僕の家にはダディが
2人いるみたいだ・・・
僕のお母さんはサムチョンって
感じがするよ・・」


サムチョン:「え?ジェファのお母さん?
サムチョンの俺が?
ハハハ・・おカマちゃんじゃ
ないか?」

ジェファ:「・・だってさ、家にいる事が
断然多いのはサムチョンだし、
行ってらっしゃいも、お帰り
なさいもサムチョンから聞く
事がママンよりも多いよ。
部屋の掃除、洗濯、料理だっ
て、サムチョンだし・・
ママンが家にいても、ヘルパー
さんが来てて、ママンは寝てば
かりだもの・・ご飯だって、
デリーバリーばかりだし・・・」

サムチョンは、「そうか・・オンニに1度
サムチョンから話をして
みるよ。このままだと、
俺がオカマになるしかない
から問題だしな・・ハハハ」

・・・と笑った・・・・

ジェファも笑いながら「それより権さんのお家
に御挨拶しなくて良
かったの?」
と聞いた・・・

サムチョン:「・・あぁ、、、今度、機会が
あったらするよ・・・
ムグンファ組が結構忙しそう
だったし・・・それにシオン
アガシは、ずっと今日の出し物
では木の役をやるって言ってた
のに・・・何かトラブルがあっ
たんだと思うけれど・・・
急きょ、ピアノ演奏になって・・
・・・・・・
  シオンアガシのお父さんは・・
そうすると音楽家の李ソンジェ
って事かな?」


ジェファ:「サムチョン、シオンちゃんの
お父さんの事も知っているの?」


サムチョン:「・・あぁ・・遠い、遠い昔の
知り合いさ・・・」

寂しそうな・・
遠い場所を見つめながら
サムチョンは話す姿を見て
それ以上は聞いてはいけない・・

そんな雰囲気を子供ながらに
感じ取るジェファだった・・・




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カノン達が、帰宅する時間を見計らったかのように
電話が鳴った・・・


シオンは元気よく電話を取り「ヨボセヨ(=もしもし)
」っと言うと、クスクスと笑いだした声が聞こえた。


シオン:「あ!アッパー!!」

ソンジェ:「シオン、アンニョン、オボイナレ
オッテヨ?(両親の日はどうだった?)


シオン:「チェミソッソヨ(=面白かった)」


楽しそうにシオンがソンジェの電話を話している
様子を聴きながら、カノンは、ソンジェは
シオンのプチストーカーになれるかも?と
思いながら笑いだしてしまった・・・
余りにもタイミングが良すぎる位、電話して来たり
するからだった・・・


暫く話した後、ソンジェが「じゃあ、シオン、
ママに代ってね」と言うとシオンは「うん」
と頷いて笑っているカノンに電話を渡した。


カノン:「アハハハ、オッパーちゃん、可笑しい。
本当に面白いね?笑いすぎてお腹が
痛くて上手く話せないよ〜」

ソンジェ:「え?何が面白いの?」

カノン:「全部、面白いよ〜」

ソンジェ:「ええ?・・まっ、いいか・・
それより、今日はお疲れ様・・・
シオンの話だと、ぶっつけ本番で
木の役からピアノ演奏者になった
みたいだね?シオンは沢山間違え
たけど、僕の声が聞こえたみたいで
楽しく元気に弾けたって・・」

カノン:「え?オッパちゃん、実は私も、シオンが
突然、ピアノの演奏者になったんで、
何かあったのかな?とは思う物の、
シオンはちゃんと弾けるかな?って心配
になった時に、オッパちゃんの声が聞こえ
たの・・それはね、偉大なるカノンちゃん
と言う李ソンジェの師匠が言った言葉でね
・・・上手く弾こうとか、間違えないよ
うにしようとかって思わずに、楽しく
元気に弾こうよって・・音楽は音を
楽しむものだからって・・
そしたら、シオンの失敗とか全く気に
ならずスマイル、スマイルって思ったの。
シオンはずっと笑顔で弾いてたしね・・
観客はみんな楽しそうだったしね・・」

ソンジェ:「ええ?じゃあ、僕の声がカノンとシオン
に届いていたの?僕って凄いな〜」

カノン:「オッパちゃん、何かナルシストだね?
その言葉もカノンちゃんがオッパちゃん
に言った言葉だから凄いのはカノンだよ」

ソンジェ:「えぇ〜、、、まっ、いいか・・
シオンが楽しんで演奏してたなら
それはそれで良かったけれど・・
一体、何があったんだろうね?
詳しい事は帰国したら聞くよ。
じゃあ、またね?」

カノン:「うん、アンニョン〜」



電話を切った後も、カノンは可笑しくて
笑い転げていた・・・





すると又電話がかかって来た。

カノンはてっきり、ソンジェが言い忘れた
事があったのかな?と思い、
ふざけた声で笑いながら電話に出た。



カノン:「おかけになった電話番号は
現在、使われておりません・・
もう一度お確かめになってから
おかけ直し下さい。・・・」



鼻をつまみながら如何にもアナウンス
の声の様に言うと、受話器から笑い声が
聞こえた・・・






「アハハハ、、、カノン、カノンは相変
わらず面白いね。コメディアンになれるよ」



え?聞き覚えのある声だった・・

それはジェファのサムチョンだった・・



サムチョン:「カノン、昼間は余りに突然
だったので・・会釈だけで
立ち去ってしまい・・
済みませんでした。
10年ぶりの再会だったね?
元気そうでなによりさ・・
それに甥っ子のジェファが
いつもお世話になっていて・・
お礼も言えず、済みませんでした。
ジェファはカノン・・いや今は
李カノンさんだったね?
李カノンさんの大ファンなんでね。
シオンアガシも可愛い女の子だし、
今日のピアノ演奏も上手だったよ。
僕は木をやるってアガシから聞いて
いたんだけど、あれはサプライズな
冗談だったのかな?ハハハ」


カノンはシドロモドロで真っ赤になりながら

「いえいえ、ずっと木の役をやるつもりだったんです。
でも何かハプニングがあって急きょ、シオンが弾く
事になってぶっつけ本番だったんですよ。
オッパ・・あっ、いえ鄭さんもお変わりなく
お元気そうで・・うちのシオンも鄭さんの
大ファンでイケ面サムチョンだって!」
っと言って笑った・・・

サムチョン:「先ずは、御挨拶とお礼までと思って・・
それと本当に懐かしい気持ちで・・・
またこうして再会出来て、驚いたけれど
嬉しかったよ。・・あっ、どうのこうの
ではなくて懐かしい気持ちで一杯になった
と言うか・・若かった楽しかった頃に
タイムスリップした感じがしたんだ。
ハハハ。」

カノンはフト、韓国短期留学の最後の日の事を聴いて
みたくなったが、、、
その気持ちを抑えて、全ては遠い昔の事だと・・・
良い思い出だと思って、それ以上は話さなかった。


当たり障りのない会話で電話を切ったが、カノンの
心臓はドキドキと高鳴った・・・
オッパ、大好きだったオッパ、、、
いや今も大好きは変わらないかもしれない・・
何故ならば、この鼓動の高鳴りは
ドンドン大きくなって行ったからだった・・・




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ソンジェと呉ジナは、お互い納得しあって別れた部分も
あったし、ソンジェの心がドンドンとジナから離れ、
冷めて行ったから、再会した今でも、ソンジェはジナに
対しては恋愛感情は全く生まれず、、、
更には、付き合っていた事や、その時も、
本当にソンジェはジナを愛していたのか?さえも
疑わしい気持ちになっていたのだった。


一方、カノンとテファの場合は違っていた。
お互い大好きな者同士で別かれた状態だった
からだ・・・



だが10年と言う月日は、
お互いの立場や環境を大きく変えてしまって
いたし、境界線が出来てしまっている状態
だった。


今さら、どうする・どうなる訳ではないと
分かってはいるが、



それでも
「もし、あの時」と言う後悔が
生じてしまうのだった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




10年と言う月日は、あっと言う間に
通り過ぎた・・
しかし、人々の環境・生活・心や思いを
大きく変えてしまった部分もある・・・


もう引き返せるわけではないが・・・
それでも、時々、懐古の念を抱いてしまう
のだった・・・




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



呉マヤの娘、マヤは悔しさと悲しさで
帰宅してから部屋に閉じこもり、泣いていた。


今日のオボイナレの計画は万端だった。
それは子供ながらにマヤが考えた事だった。


ソラミを利用して・・・更に
シオンに恥をかかせてやろうと思ったのだ。



粉状の利尿剤が入った薬をフルーツジュースに
混ぜて、シオンに渡した。

ソラミは極度の緊張状態で、落ちつかせる為に
シオンのフルーツジュースを見て
「これ頂戴」と言って 一気に飲み干した・・・

シオンは、木の役だったので、最初から最後
まで舞台に立っていなければならないので、
直ぐには飲まず、後で飲もうと取っておいた
のだった。

マヤは、シオンが飲まずにソラミが飲んだ事を
知らずにいた・・・
きっと舞台の最中に、おもらしを何回もするだ
ろうと思っていた・・・

ところが、着替えの最終に、ソラミが、極度の
緊張で、声が出なくなってしまったのだった。


「あうあう」と唯、声を出せずに泣いている
ソラミを見て、マヤは更に意地悪を思いついた。

自分がシンデレラの役をやろう・・
ピアノ演奏は、多分、出来るものはいないので、
姜先生がやるか?或いは音楽教師のヒジョンが
やるだろう・・・
そうだわ・・「先生、ピアノは李シオンが
弾いてくれるでしょう?」と
思わず言ってみた・・・
シオンが弾ける訳はない・・・
きっと断るだろう・・・
ソラミは主役は降ろされてチョットは可哀相
だけれど・・・

ところがシナリオが少し狂い出した・・

シオンが売られた喧嘩をかったのだった・・
ピアノを弾くと言うのだった・・・


楽譜を受け取り毅然とした態度で演奏しよう
とする姿に、マヤはキリキリトした痛みを
感じた・・・

やれるものならやってみなさい・・・
私よりも上手くなんて弾ける訳がないわ。
それに演奏中、薬が効いてきておもらしする
わ!!アハハハ、面白いじゃない・・・

観客の前で・・シオンやシオンの親は大恥を
かくだろう・・・


シオンは終始笑顔で演奏をし、人気をさらった。
利尿剤の作用も無かった・・・
後で知った事だが、、、
ソラミが代りに飲んだと・・・

益々、シオンの人気は高まり、更には
李ソンジェの娘としての名声を高めて
しまった・・・

光輝く家族として・・・
幸せなムグンファ組のお姫様として・・
確固たる位置を確立させてしまったのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ソンジェが帰国した。
丁度、日曜日に当たるため、
仁川空港にカノンとシオンは迎えに来ていた。



カノンは空港が好きであり、また嫌いな場所
でもあった。

ここは幾つもの、出会いと別れがある・・

見送る方と、見送られる方・・・
色々なドラマが生まれる・・・


昔、オッパであるテファにカノンは

見送る方と見送られる方、どっちが
辛いかを聞いて・・・
更にカノンは見送る方が辛いと答えた・・

見送られる方は、未来の扉を開けて
羽ばたいて行く・・今迄の事を良い思い出
として・・・

見送る方は、過去に取り残されて、強い
思い入れを募らせてしまう・・・


今日の場合は、未来の扉を開けて羽ば
たいて来るソンジェのお迎えなので、
いささか違った気分だった・・・


カノンよりも先にシオンがソンジェを
見つけて走り出した。

「アッパー」


可愛いシオンの声を聞いて、ソンジェは
大きく手を振った・・・


楽団の皆は、ソンジェがかなりの親バカで
あり、愛妻家である事を知っているので、
ニヤニヤとし、冷やかした・・・


カノン:「オッパーちゃん、お帰りなさい」

ソンジェ:「ただいま。予定よりもかなり
遅れちゃったな・・・随分
待った?」

カノン:「ううん、全然、待ってないよ。
シオンと一緒だと面白くて時間の
経つのも忘れちゃうもの・・」

シオン:「アッパー、シオンね、オンマと
チョコレートパフェ食べたの。」

アッパー:「美味しかった?」

シオン:「うん」

ソンジェは 優しくシオンに微笑んだ。



帰りの楽団の団体バスの中で、シオンは
ずっと幼稚園の話・・特にオボイナレの
時の話をソンジェに話していた・・・

カノンはソンジェが帰国したばかりで
しかも時差が大きいので疲れている事も
考えて「シオン、パパは疲れているから
お話を一杯してたら眠れないじゃ
ない?」と言ったが、
ソンジェが「いやいや、いいんだ。シオン
の可愛い顔や声を聴いて
いたら疲れも吹っ飛ぶし・・
嬉しいんだ・・・」と言った。



カノンは、あぁそうですか?と言って
笑った・・・


「オッパちゃん、後でいいので、カノン
の話も聞いて欲しい」と言ったが、
聞こえていないようだった・・・

そう、カノンはテファとの10年ぶりの
再会をした事を、ソンジェに話そうと
思っていたのだった・・・







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