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作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第3回   嵐の始まり・・お受験の結末とその結果・・
嵐の始まり・・お受験戦争とその結末・・・


 カササギ幼稚園では、一人一人の個性を活かした
 伸び伸びとした教育指導をしてくれ、シオンは
 遊び感覚で毎日、楽しく幼稚園に通っていた。

 カノンもシオンが元気に幼稚園に通っているのが
 嬉しかったし、昼間、シオンが出かけている間に
 家事や、やりたい事が落ちついて出来るので、毎日
 が有意義に過ぎて行った。
  お受験用の洋服も作り上げる事に専念も出来たからだ。

 そんなある日、いつものようにシオンをお迎えに
 幼稚園に行くと、金園長にカノンは「チョット」と
 言って、呼びとめられ、園長室に呼ばれた。

 園長:「突然で、御免なさいね・・」
 カノン:「・・いえ?何かシオンに?」
 園長:「いえいえ、違うのよ。・・覚えているかし
     ら?初めて公園で会った時、私はシオン
     ちゃんがこの幼稚園には勿体ないと言い、
     リラ幼稚園が良いと言ったのを?」と、
     言いだした。

 カノンは「ハイ、覚えてますが、、、でもシオン
      には無理です。それにシオンはこのカサ
      サギ幼稚園が合っていて、毎日、凄く
      楽しみに通っています。ですから、この
      まま通わせたいです。」
 園長:「そうね、私も是非、そうして欲しいと思
     っているの・・でもね、もしかしたら、
     この幼稚園はなくなるかもしれないの。」

 カノン:「え?」

 園長:「貴女も噂で聞いたかもしれないけれど、今、
     イテオンは都市開発が進み、古き良きもの
     もドンドンと取り壊されてしまい、近代化
     の波にのまれているの・・・ここの幼稚園
     も、イテオン国際教育幼稚園があるから必
     要ないと言われ、更に目の前の公園を潰し
     大きなリゾートホテルやマンションを建て
     る話が持ち上がっているの・・・
     私は頑なに首を振らなかったのだけれど、
     もう限界に来ていて・・・御免なさいね。
     それで今いる子供たちの行き場をなくさせ
     たら可哀相だと思い、知り合いの幼稚園に
     声をかけたりしている状況なの・・・
     唯、その子供たちのレベルもあるから・・
     私は長年、子供たちを見て来て、この子は
     ここの幼稚園なら良いなっと言うのが分か
     るの・・貴女の娘さんは、やっぱりリラ
     幼稚園だと思うのよ。」
 カノン:「え?・・でも何も用意もしてませんし、
      私はずっとカササギでお願いしたいと
      思ってましたから・・・」
 園長:「大丈夫、リラ幼稚園の準備は私たちが全力
     でさせて頂くわ。それにシオンちゃんの他
     に、年長さんで鄭ジェファ君もリラを勧め
     ているのよ。一緒に行けるようにしたいと
     思っています。」
 カノンはジェファなら、リラは合格だろうと思った。
 何度か遊びに来る度に、品の良さ、物腰の柔らかさ
 、頭の良さを感じ、更にはルックスも抜群だったか
 らだ。歌もうまいし、運動も良く出来る、非の打ち
 どころがない男の子だから、国際教育でも、リラで
 も合格するだろうと思った。
 シオンは恐らく、無理だろう・・・カノンは自分の
 子供のレベルを良く知っているつもりだった・・

 カノン:「万が一・・・いえ、不合格だと思うの
      ですが、その場合はどうしたらいいので
      しょう?」
 園長:「その時は、私が考えます。今は私達に任せ
     て、受験を迎えて下さい。健康が第一なの
     で、その管理だけはお母様である貴女に
     お願いしますね」
 カノン:「・・ハァ・・・ハイ、分かりました」


  園長は心配いらないと言ってカノンの背中を
  ポンと叩き、笑った。
  そして「シオンちゃんがお庭で待ってますよ」
  と言って、送りだした。


 帰り路で、カノンはシオンに「シオン、今日は
 どんなお勉強をしたの?」と聞くと至って普通に
 「縄跳びをした」とか「歌を歌った」とか変わ
  りない幼稚園での出来事を話した・・・これで
  韓国最高峰の幼稚園に受かるのだろうか?と思
  った。
  更にカノンは「シオン、鄭ジェファ君はどう?」
  と聞いてみると、シオンは真っ赤な顔をして、
  モジモジしだした。「オンマ、オンマ、あのね、
  あのね・・」と言って内緒話をし出した。
  「オンマ、内緒・内緒ね、、あのねシオンね、
   ジェファお兄ちゃんが大好きなの・・ジェファ
   お兄ちゃんと結婚したいの・・」と言いだした。

  ・・・つまりシオンの初恋だった・・・
  今迄はアッパであるソンジェが一番だったのに、
  、、、何となく可笑しくて笑いだしてしまった。

 シオンは少し拗ねて「でもね、オンマ、ジェファ
 お兄ちゃんは、すごく凄く人気があって、女の子
 皆の憧れなの。シオンは・・・シオンは・・・・
 多分、5番目か6番目だと思う」と気弱な意見を
 言いだした。
 
 カノン:「え?そうなんだ・・確かにシェファち
      ゃんはオンマが見ても恰好良いし、素
      敵なお兄ちゃんだものね・・人気があ
      るのが分かるよ。でもオンマはシオン
      もかなりイケテルと思うけど?」と言
     ってフォローしてみたが、シオンは自分
  が片思いであることを自分なりに認めていたし
  カノンが慰めている事も分かって小さな胸を
  痛め、泣きだした。
  
 カノンはビックリして「シオン、どうしたの?」
 と宥めたが、シオンは小さな恋心をからかわれた
 と思い「オンマ、シロヨ(=きらい)」と言って
 泣きじゃくった。

 どうしたものかと思いながら、家のマンションの
 前に来ると、シオンの片思いの王子様、ジェファ
 が、居た。どうやら、シオンを待っていた様子だ
 った。シオンはビックリしてカノンの後ろに隠れ
 た。泣き顔を見せたくなかったからだった・・

 ジェファ:「シオンちゃん、シオンちゃんのママ、
       こんにちは〜遊びに来ちゃいました」
    と言って挨拶をした。

 カノンは後ろで隠れているシオンに「シオン、
 ジェファちゃんが、遊びに来てくれたよ、御挨
 拶は?」と言った。
 シオンは泣き顔をカノンのスカートで拭いて、
 元気よく、「うん」と言って笑った。

 カノンは「今日は寒いからお部屋の中で遊んだ
      方が良いかな?美味しいマフィンを
      作ったから一緒に食べようか?」と
      ジェファに言うと「僕、マフィン大
      好きです。」と満面の笑顔を見せた。


 見れば見るほど、可愛い男の子だった。
 利発で品が良く、紳士的な物腰はやはりオース
 トラリアと言うか英国式な感覚が備わっている
 感じがした。

 シオンは恋心を覚えたのか?ジェファに対して
 照れたりハニカンダり、真っ赤になったりと
 顔や態度・言葉をコロコロ替えていた・・
 それがカノンには可笑しくて、一人でケタケタ
 と笑っていた・・・

 カノンは「ジェファ君、リラ幼稚園をお受験す
      るの?」っとストレートに聞いてみ
      た。
 ジェファは「ハイ、そのつもりです。シオンち
  ゃんのママは、カササギ幼稚園がなくなっち
  ゃうのは知ってますか?それで園長先生が、
  僕にはリラ幼稚園が合うって言って、願書と
  か取り寄せてくれて、エントリーしました。
  リラ幼稚園にもこの前、見学に行ったけど、
  遠いし、、、でもソウルタワーが近くにあっ
  て賑やかな場所だったけど・・・今は、沢山
  のお友達が出来そうで、通ってもいいかもっ
  て思うようになりました。」と言った。

 シオンは、ビックリして「リ・ラ・幼・稚・
     園?」と聞き返した。
 ジェファ:「あぁ、そうだよ、お兄ちゃんは
       来年、リラ幼稚園に通うかもしれ
       ないんだ。ソウルタワーがあって
       景色がいいところだよ。」と言っ
       て笑った。
 状況が分からないシオンは「カササギ幼稚園は
 ?」と聞き返しながら涙目になって来た。
 カノンは慌てて「シオン、シオンもお兄ちゃ
 んと一緒のリラ幼稚園を受けに行って、受かっ
 たら一緒に通うんだよ」と言った。
 ジェファ:「え?じゃあ、シオンちゃんもリラ
       なんだ。カササギからもう一人、
       リラに行くって聞いたんだけど、
       シオンちゃんだったんだね。シオ
       ンちゃんが一緒だったら楽しいし、
       家も近いから、一緒に幼稚園まで
       行けるね?」と言って微笑んだ。
 シオンは泣き顔から一変して笑顔になり、
 俄然、元気になった。「お兄ちゃんと一緒に
 幼稚園に行く」と言って、マフィンを大きな
 口を開けて食べ始めた。
 
 カノンは可笑しくてまたお腹を抱えて笑って
 しまった。一緒に行くと言っても、レベルがねぇ
 ・・・とは思ったが、兎に角、カササギがなくな
 ってしまうのは事実なので、、、さてどうしよう
 かと思う物の、なるようにしかならないと、思い
 直し、今は、この時間を楽しもうと思った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ソンジェがその日は早めに帰宅し、娘のシオンと
 一緒にお風呂に入りながら、今日の会話を父子で
 楽しんだ。

 シオン:「アッパ、あのね、シオンね、ジェファ
      お兄ちゃんと同じリラ幼稚園に行くの。
      一緒に電車に乗って行くの。
      ジェファお兄ちゃんは凄く凄く恰好良
      い恰好良いなの・・英語も話すし・・
      かけっこも速いし、お歌もうまいの・
      ・・何でも出来るし」
 ソンジェ:「わぁ・・さっきからジェファお兄ち
       ゃんの話ばっかりだね・・シオンは
       アッパが1番好きじゃなくなっちゃ
       ったの?」と聞いてみると、シオン
       はアッサリと「うん・・今は1番は
  ジェファお兄ちゃんで、アッパは2番目・・
  でもアッパはオンマがいるから・・」と言って
  笑った・・・父親のソンジェは複雑な心境だっ
  た。
  風呂から上がると、ソンジェは「あぁ、ショッ
  クだ、ショックだ」と繰り返して呟いていた。
  カノンは、きっとジェファの事だと思い「シオ
  ンの淡い初恋なんで、応援しましょうよ」と言
  うと、またまたショックを受けるソンジェだっ
  た。
 カノン:「オッパちゃん、シオンはまだ幼稚園生
      だよ・・もしこれが成人して結婚なん
      てなったら、オッパちゃん、ショック
      死するかもね?」と言って笑った。
 ソンジェ:「いや、今もショック死寸前だよ。
       あぁ、頭が痛い・・心が引き裂かれ
       そうだ〜・・仕事なんて出来ない・
       ・・・もうダメだ〜」と言ってオド
      ケタが、やっぱりショックだった。

 ジェファと言う男の子を思い出した時、どことな
 く、かつてのカノンの恋人、テファを思い出した。
 美しい顔立ちや、自信に充ち溢れた輝きが、より
 一層、テファに重なって見えたからだった。
 親子で、好みが似るのかな?とは思ったが・・・
 それでもシオンの1番でなくなった寂しさは、父
 親でしか味わえない事だった・・・

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 リラ幼稚園に何も準備もせず、時間だけが過ぎて
 行った。

 今日は、リラ幼稚園の受験日だった。

 入学応募者多数の為、1週間かけて選考が行われる
 ことになり、初日だけ、大きなホテルの会場を借り
 きって一斉試験となった。
 採点は直ぐに行われ、二日後に、一次試験通過者だ
 け発表され、二次試験となる。

 算数と国語の問題と、日本語・英語の選択問題が
 あった。
 シオンは、当然、日本語で、ジェファは英語を選択
 した。
 算数も国語も、カササギ幼稚園の園長先生が分かり
 易く教えてくれたものばかりだったので、スラスラ
 と解けた様子だった。特に国語の最後の問題は、
 ある物語の内容で、そのあとの結末の部分を、自分
 で考えて文章にしなさいと言う物で、丁度、三日前
 に、偶然かもしれなかったが、園長先生が、紙芝居
 で読み聞かせてくれた物だった。
 算数の問題も理科の実験の問題もいつも遊びで学ん
 だ事ばかりだったので、簡単だった。
 シオンも、ジェファも満点に近い状態で・・
 ジェファは完全に満点だったが、合格し、二次試験
 となった。

 綾とヒロミの子供は、残念ながら落ちてしまった。
 しかし、補欠枠で、何となくぶら下がることができ、
 二次試験へと進めたのだった。
 当然、英才教育をしてきたサヤカの双子の子供も何
 とか合格をした。
 シオンが簡単にも・・しかもぶっつけ本番で一次
 通過したのには、ソンジェ、カノンは勿論、皆が
 皆、驚いた。シオンはそんなに凄い事なのか?と、
 大人たちが喜び驚く姿を不思議そうに眺めた。
 唯、ジェファと一緒に幼稚園に通えそうな感じが
 して来て、嬉しかった。

 二次試験は、芸能試験と言って、運動能力と
 音楽か絵画のどちらかの選択があり、そして
 午後から親子揃っての面接となっていた。
 シオンはオテンバだったので、運動は大の得意で
 あり、かけっこにしても鉄棒や跳び箱にしても、
 難なくクリアした。
 そして音楽と絵画をその時点で選ぶのだったが、
 シオンは、絵画を選んだ。
 
  「え?音楽家の李ソンジェの娘が絵画?」

   周囲はざわめいた。しかし、シオンは楽し
   そうに沢山のクーピーペンを使いながら、
   歌を口づさみながら課題の「好きな動物」の
   絵を描き始めた。
   ヒロミと綾の子供も絵画を選択し、シオンと
   一緒に仲良く描いていた。

 ジェファは、音楽を選択し、ピアノ演奏をした。
 曲はショパンの「別れの曲」だった。

 「あっ、別れの曲?」っとカノンは言った・・
 ソンジェも「あぁ、そうだね・・これって、受験
 園児が弾いているの?凄く上手いね〜、プロ級だ
 よ」と言った。別れの曲はカノンの大好きなドラ
 マ「秋の童話」に良く出て来た曲だった。
 悲しいと云うよりも、懐かしい曲だった。

 更に呉ジナの娘や、サヤカの双子の子供たちも、
 音楽を選択していた。
 呉ジナの娘は、無難に「エリーゼの為に」を弾き、
 完璧な演奏をした。
 サヤカの子供たちはかなり緊張し、苦戦した。
 特に、呉ジナの娘の後に弾く事になったソラミ
 はかなり気後れし、緊張もあって、何度も失敗
 してしまった。
 テストでも、自己採点したところ、ぎりぎりの
 合格ラインだった。
 サヤカは、爪を噛みながら、なんで上手く出来な
 いのかしら?とイライラした。このままでは落ち
 てしまう・・・だが、せめてもの救いは、シオン
 が音楽家の娘でありながら音楽を受験しない事
 だった。シオンは落ちるわね・・きっと・・
 サヤカは平静を保った・・・
 
 昼食を済ませた後で、面接となった。
 各教室には、親子がどんなコミュニケーションを
 とって食事をしているのかを、盗聴出来るカメラ
 が設置されていて、それを幼稚園の職員室で、逐
 一、チェックされていた。

 そんな事をされているとも知らず、それぞれの親
 子は食事をとっていた。

 サヤカ:「ソラミ、あんな簡単な指使いのミスを
      するなんて、お母様、恥ずかしいわ。
      カイト、あなたも、5回もミスしたわ
      ね。あんなに寝ないで練習したのに!」
 海仁:「まぁ、いいじゃないか・・ピアニストじゃ
     ないんだし・・それに子供ながらも、一
     生懸命やったじゃないか?ん?二人とも、
     頑張ったな?あと少しで終わるからね」
     と優しい眼差しで言った。
     二人の子供はホッとした顔つきで頷いたが
     すかさず、サヤカは「あなた!いつもいつ
     も甘い顔して!二人とも、いい?面接は、
     昨日、練習した通りにやるのよ?分かった?
     失敗は絶対ダメよ。」とピシャリと言うと、
     またまた二人は緊張してしまった・・・

 一方、カノン達は、ヒロミと綾家族と一緒に食事を
 とった。
 ヒロミ:「何だか、夢みたい、まさか補欠で引っかか
      るとは思わなかったし・・」
 綾:「例え、サクラでも、ここまで来れたら本望よ」
 カノン:「うちも、そう思ってる。」
 トンス:「あぁ、俺、緊張して来たよ。綾、大丈夫
      かな?」
 綾:「なるようにしかなんないって!」
 スンジュ:「そうさ、ありのままであたって砕けろだよ。
       幾ら着飾っても、やがてメッキは剥がれるん
       だし・・ならば、潔く落ちようぜ・・」
 ソンジェ:「ハハハ、そうだね、シオン、いつものように
       元気よく楽しく行こうね?」
 
    シオンは状況が分からず、唯、ニッコリ笑われたの
    で、その笑顔に応えようと、満面の笑みを浮かべた。

 カノンは、恐らく音楽を選択しない者は落選だと思った。
 音楽選択者は、殆どが、音楽家の娘や息子が多く、更に
 英才教育を如何にも受けたセレブな子供が多かったからだ
 った。
 一方、絵画選択者の中にも、有名な画家の子供もいたが、
 ほんの一握りで、あとは素人の寄席集まりの様な気がした。
 裏情報・・・と、言ってもサヤカの情報だが、音楽を選択
 しないと、合格は先ず難しいと言われていたのだった。
 当日、好きな方を選ばせてテストされることは分かって
 いたが、多分、シオンは絵画を選ぶだろうと思った。
 
 ピアノは、父親ソンジェが音楽家と云う事で、一応は、
 物ごころつく頃から、習わせてはいたが、そんなに上手と
 いったものではなかったし、歌も園児らしい歌だが、特別
 上手いと言ったわけではなかった。
 絵画も、園児らしいお絵描きは出来るが、芸術的とは言え
 ないし・・
 マグレで一次通過はしたが、もう限界だと思っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 シオンの面接の番になった。

 一番奥にカノン、真ン中にシオン、ドア側の端に
 父親のソンジェが座らされた。

 試験官は5人いて、真ン中に園長先生らしき女性が
 デンと座っていて、両端には秘書らしき人、幼稚園
 の若い女先生が座っていた。

 質問はシオンに集中した。

 シオンは、自分から「李シオンです。宜しくお願い
 致します」と元気よく挨拶して笑った。
 その笑顔が邪心など一切ない可愛い園児らしいもの
 だったので、面接官達はつられて笑った。
 
 園長:「お疲れ様・・席に座って下さい」と言うと
  シオンは、「ハイ」と言って腰かけた。
  堂々として立派なものだった。

 園長:「さて、シオンちゃん、先生が質問します。
     シオンちゃんの家族を紹介して下さい。」

 シオンは「ハイ、お父さんの李ソンジェです。
      お父さんは音楽のお仕事をしています。
      アルトサックスという楽器が得意です。
      お父さんはいつも忙しいけれど、お家に
      いる時は、いつもニコニコしていて凄く
      優しいです。お母さんが大好きです。
      お母さんの李カノンです。
      お母さんはお料理やお洗濯や、御掃除を
      いつもしてくれて凄く優しいお母さんで
      す。このお洋服もお母さんが私のために
      作ってくれた物です。それから・・・
      お母さんもお父さんが大好きです。
      凄く仲良しでラブラブです」と言うと、
        
      一斉に笑いが起こった。
  ソンジェもカノンも顔が真っ赤になった。
  しかし、子供は正直な物で、シオンがペラペラと
  話す事が、楽しくて、笑いに包まれた。

 園長:「ホホホ、面白いわね。・・ところでシオン
     ちゃん、今日のお試験で、何で音楽を選ば
     なかったの?シオンちゃんのお父様は音楽家
     でしょう?先生達は、皆、シオンちゃんは
     音楽を選ぶと思ったのよ」

 シオンはニッコリ笑って「だって、お絵描きの方が
  面白そうだったんだもん。シオン、それにメイサ
  ちゃんもジュリちゃんもお絵描きの方だったから
  皆で楽しく描きたかったの・・」と言った。
  またまた笑いの渦が起こった。

 園長:「ホホホ、じゃあ、シオンちゃんはピアノとか
     は弾けないの?」
 シオン:「ううん、少しは弾けるけど・・でもテスト
      みたいな決まった曲を弾くのは好きじゃな
      いの・・」と言った。

 園長:「ホホホ、今日、お絵描きして貰った物を見た
     のだけれど、これは象さんかしら?」
 シオン:「うん、親子の象さん」
 園長:「・・でも象さんて灰色でしょう?どうして
     オレンジや黄色やピンクの象さんなの?」

 シオン:「・・えっとね・・だってね、お外見てたら
      凄く寒そうだし、、、だから象さんが暖かく
      なるように、、寒くならないように、黄色
      とかオレンジとかピンク色にしたの・・
      お父さん象さんとお母さん象さんと子供の象
      さんがいるの。家族仲良く幸せに暮らしてい
      るの。」
      と言って無邪気に答えた。


 ソンジェもカノンもそのシオンの答えを聴いて、成程
 と思い、何度も微笑みながら頷いた。


 面接官秘書:「ハイ、以上で結構です。
        面接は終了しました。
        結果は後日、掲示板で発表されます」

        ・・・と事務的な冷たい言葉が返って来た。

  3人は一礼して、面接会場を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 多分、リラ幼稚園は落ちたであろう・・・
 だが、ソンジェもカノンも大満足のお受験だった。
 シオンが自分の言葉で、語ったものは、それがすべてであり
 純粋なものだったからだ。

 ヒロミも綾も同じ気持ちであった。二人の方は、子供が
 子供らしい答えをする事が出来ず、塾で教えられた模範解答
 を言ったにすぎず、親であるトンスやスンジュの方が、逆に
 質問されてミスってしまったのだった。

       (電話で)

 カノン:「え?うちは親の方には質問なんてなかったよ。」
 ヒロミ:「うちも綾も父親の方に質問があって、かなり苦
      戦したの・・職業や年収の事も聞かれたのよ。
      多分、カノンのトコは有名な音楽家だから、
      聞かなくても年収は分かるだろうし・・・
      うちはしがない労働者だもの・・」
 カノン:「・・違うよ、恐らく、シオンが一人で喋って
      くれたから、質問される時間がなかったんだと
      思うよ」
 ヒロミ:「うちも綾も、落ちると思って塾に根回しして
      近所のトキ幼稚園に行くことになるけど・・
      カノンは?」
 カノン:「うちは、一応、梅花を受ける予定・・パパが
      コネクションがあるって言いだして、何とか
      入れるようにするって・・・」
 ヒロミ;「え?梅花?!凄いじゃん、あそこは女子幼稚
      園では名門だよ。」
 カノン:「うん、中学校まで受験の心配なく進めるし、
      高校も、推薦で入れるし、大学も推薦で梨花
      に入れるって聞いたから・・・オテンバの
       シオンには向いてないけど・・・入れる
      幼稚園があれば、この際、どうでもいいや
      って思うようになってきたの。」
 ヒロミ:「何と羨ましい贅沢な悩み・・・梅花〜、
      メイサも綾んとこのジュリちゃんも憧れの
      幼稚園よ〜いいな〜いいな〜」
   
  ヒロミはずっと羨ましがったが、カノンは気が
  重かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 サヤカの方の面接は双子と両親で一辺にされたもの
 だった。
  やはり子供たちは塾や家庭教師に教わった模範解答
  しか出来ず、不意の質問に弱かった。

 園長:「ソラミちゃんは、いつもはどんな遊びを
     するんですか?最近、家族でお出かけした
     ところは何処ですか?どんな感じがしま
     したか?」
    ソラミは緊張して、ワナワナと震えだし、
    顔を真っ赤にして泣きだしそうになった。
    カイトは、これは大変だと子供心に思い、
    いきなり奇声を発し、大人たちの注意を自分
    に向けさせた。
 サヤカは、イライラが頂点に達し、ソラミやカイトの
 かわりに、流暢な英語で答えた。
 双子の子供たちは、まだ韓国語が慣れず、日本語も
 そんなに上手ではなく、出来たら英語で質問して
 頂けたら、流暢に答えられるとごまかした。

 園長は、そうだったの?悪かったわとして、今度は
 質問を父親に投げかけた。
 パイロットであり立派な地位を持つ父親海仁は、
 見事に応え、その場を乗り切った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 帰宅後、サヤカは何もかも面白くなく、物に当たり
 散らした。何100万円もする壺や絵画を投げ捨て
 たりした。
 ガシャン、ガッシャンと大きな音をたてた。
 子供たちは怖がり、部屋に閉じこもってしまった。
 父親は、その日、面接が終わると、直ぐに次のフ
 ライトがあるため、直接、仁川の国際空港に向か
 ってしまったのだった。

 ようやく気持ちを平静に取り戻せたのは、カノン
 からの電話だった。

 カノン:「受験、お疲れ様でした。うちは、
      ぶっつけ本番で、今日の面接も大失敗で
      多分、いえ、絶対にダメだと思うけど、
      お疲れ様会をやろうと思って、これから
      食事に行くのだけれど?」と言った。

 サヤカ:「大失敗?・・・そう、そうなの?・・
      ヒロミや綾の方は?」
 カノン:「同じく、失敗したって・・・多分、
      一次テストも補欠だったから面接も
      サクラで呼ばれたんだと思うし、もう
      落ちるから、近所のトキ幼稚園に行く
      って言ってたよ。うちは、パパのコネ
      クションで1つ幼稚園をキープしている
      んだけど・・でも乗り気じゃない・・
      リラよりはいいけどね・・・リラはや
      っぱり韓国最高峰の幼稚園だから敷居が
      高いし、本当に記念受験に終わったって
      感じだったよ〜、それにね、二次試験は
      お絵描きを選択したから・・・サヤち
      ゃんが前、親切で教えてくれたのに、
      音楽じゃなく絵画だったんだもん・・この
      時点で無理だよね?えへへ」

 サヤカは段々と落ちついて来た・・・そうか上には
 上が居るけれど、下にも幾らでも下がいる・・・
 何をイライラしていたんだろう?
 天下のリラ幼稚園で、緊張しない子供なんていや
 しないし、うちは完璧な教育をして来たし、家柄だ
 って良い筈・・・面接だって夫である海仁が取り
 つくろったし・・・総合的な判断で、落ちるわけない
 わ・・・サヤカは自信を取り戻してきた。

 サヤカ:「うちは・・ソツなくやるだけの事は
      やったわ。一応、滑り止めに、梅花と
      イテオン国際教育を受けさせるけれど
      こっちは、楽勝だと思うの・・・」
 カノン:「・・・いいな〜シオンはどうなるか?
      凄く心配・・一応、シオンも梅花を
      受けるんだけど、滑り止めなんて言
      えないくらいのレベル高い学校だよ。
      きっとこっちも無理かも?」とサヤ
    カにはコネクションを隠して言った。
 サヤカ:「フフン、そうかもね?女んの子には
      人気が高いし・・もしよかったら、
      主人に頼んでもよくてよ。KEの
      CAは皆、梅花出身だし、梨花女子
      大の人ばかりだもの・・顔がきくわよ。」
      っと言った・・・
 カノン:「ううん、大丈夫・・多分、こっちも難
      しいかも?えへへ」っと笑って言った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 すっかり気分を良くしたサヤカは、子供たちを階下
 から呼んで「食事に出かけるわよ〜」と弾んだ声で
 言った。
  子供たちは急変したサヤカの言葉に恐る恐るドア
 を開けてサヤカの顔色を伺った。

 サヤカは笑顔で「さあさ、受験も終わったし、美味
  しい物を食べに行きましょう!ほら、支度なさい」
  と言った。
 カイト:「・・ママ、怒って無いの?」
 サヤカ:「???怒るって?怒って無いわよ・・
      さぁ、出かけましょう」
 

  カイトもソラミもホッとして、支度を始めた。

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 ソンジェ:「カノン、ここいつものファミリー
       レストランだけど?」
  ソンジェは、折角だからホテルでのレストランの
  方が良いのでは?と言いたげだった。

 カノン:「え?だって、シオンがここに来たいって
      言ったんだもの、ねぇ?シオン」

 シオン:「うん、シオン、ここのお子様ランチが
      大好きなの・・美味しいよ。」
 ソンジェは何とも面白いなと思い、笑いが絶え
 なかった。

 カノン:「オッパちゃん、私たちは、こう言った
      普通な事が幸せだし、楽しいの。
      豪華な食事とか、物凄いお金を使った
      宝石とかお洋服なんかよりも、こうして
      大好きな人達と一緒にご飯を食べたり、
      楽しい気持ちになる方が幸せなの・・
      旅行もそう!ヨーロッパとかアメリカ
      とか、豪華な海外旅行よりも、近くの公
      園でも良いし、旅行なんて行かなくても
      お家で家族で楽しく過ごす方が良いの?
      アルゲッスムニカ?(=分かる?)」と
      威張りながら言ってみた。

 ソンジェは「アルゲッスムニダ(=分かったよ)」
      と言って笑った。
 
 ソンジェはタットリタンのセットを頼み、カノンは
 洋風セットを頼んだ。
 いつものように、大好きな人と一緒に過ごせることが
 幸せか・・・カノンは本当に可愛い奥さんだと、ソン
 ジェは改めて思った。
 その大好きな人の一人に自分であるソンジェを選んで
 くれた事が、無性に嬉しかった。有難う、カノン、
 心から愛しているよ・・そう何度も心の中で呟いて
 いた。

 カノン:「綾ちゃんもヒロミちゃんも皆、今回の
      リラ幼稚園受験に苦戦したみたい。うちも
      だけれど・・うちは最初っからリラは難しい
      って思ってたから、諦めもつくけれどね・・
       ジェファちゃんは受かりそうな感じがした
       けど・・そしたらシオンとは離れちゃうん
       だけど、まぁ、近所だし・・遊びに行き来
       すればいいんだしね・・・明後日の梅花
       幼稚園、大丈夫かな?」
 ソンジェ:「それは大丈夫さ・・・僕があそこの幼稚
       園長と話をつけるから・・あそこの幼稚
       園・小学校・中学校の校歌とか僕が作詞
       作曲したんだし・・何とかなるだろうし
       ね・・」
 カノン:「・・・何かズルしてるみたいで・・
      嫌だな・・・」

 ソンジェ:「勿論、先ずは実力で受けさせるよ。
       ダメだった場合と、どこにも行けなかった
       ら、頼みこむよ。それだけだよ。
       カノンが嫌だと言うなら、やめても良いし、
       兎に角、やるだけのことはやってみようよ」

 カノン:「・・・うん、それもそうだね・・」
      そう言ってカノンは、ご飯を美味しそうに
      食べ始めた。

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 梅花幼稚園も、負けずと劣らず、物凄い倍率で、
 カノンもシオンも気遅れした・・・ソンジェだけが
 余裕顔で、「やっぱり女子だけの幼稚園は良いな」
 と言って親父顔をしていた。
 テストもひっかけ問題が多く、シオンは殆ど出来
 なかった。面接は、大人中心の物で、何だか形式
 ばったもので終わった。
 ソンジェに質問が集中し、「本当にハンサムで
 素敵なお父様で、可愛い奥様で、お子さんもお姫様
 みたいに可愛いですね。」っと歯の浮くような褒め
 言葉を貰ったが、少しも嬉しくなかったカノンだっ
 た。

 試験会場でサヤカとソラミ、海仁の姿を見かけた。
 光り輝くその姿は堂々としていて、人の目を集めた。

 ソラミも、今回ばかりは失敗する訳にはいかないと
 思い、家庭教師に特訓をして貰い、万全にして来た
 ことと、塾で過去の問題を徹底的に分析して貰い
 訓練して貰った事が功をそうして、テストは割と
 良く出来たのだった。
 それに女子だけの梅花幼稚園は、ソラミ自身にも
 合っているのか、何となく楽しい気持ちで受験出来
 たのだった・・・

 ソンジェ:「何か、スターみたいだね・・
       サヤカさんて本当に綺麗な人だね?」
 カノン:「うん、私もそう思うよ。親戚って言うのが
      信じられないくらいでしょう?」
 ソンジェ:「う〜ン、僕は、カノンの方が可愛いし
       美人だと思うけど?」
 カノン:「えぇ?嘘だぁ〜、何かちっとも嬉しくない
      んだけど?オッパちゃん!!」
 ソンジェ:「本当のこと、言ったんだけど?シオン、
       サヤちゃんとオンマ、どっちが綺麗綺麗?」
      っとシオンに聞いてみると、シオンも直ぐに
    「オンマ」と答えた・・
 カノン:「えぇ?シオン、サヤちゃんの方が綺麗綺麗
      だよ。オンマは綺麗じゃbないよ」と言うと
 ソンジェもシオンも首を横に振って「アーニョ(=違う
 よ)」とムキになって言った。
 カノン:「何か、空しくなってきた・・・でも御世辞
      でも有難う!」とおどけて言った。

 ソンジェは、カノンを見ながら、この会場に居る誰よ
 りも綺麗で可愛いのはカノンだよっと呟いた。
 本当にそう思っているからだった。
 シオンもまた、自分の世界一大好きなオンマが一番
 綺麗で可愛いと思っていた。そして優しくて大好きな
 お母さんだと自慢したかった。
 サヤおばちゃんは確かに綺麗だが、ちょっと意地悪だし
 威張っていると言う印象がシオンにはあった。
 それにソラミちゃんやカイト君が、一緒に遊んでいると
 サヤおばちゃんが怖いと言っていて、子供心にも、サヤ
 おばちゃんは怖いと思ってしまったのかもしれなかった。
 
 オンマはいつも優しくて、いつも笑っていて、
 オンマは皆から好かれていて、シオンが大好きな
 世界一のオンマだとシオンは思っていた。

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 リラは受験生が多く、その採点や、合否などの選定に
 日数がかかり、後から受けた梅花の合格発表の方が先だった。

 梅花は、殆どテストは白紙だったにも限らず、シオンは
 「合格」となった・・・
 恐らく、ソンジェのコネクションだと思った。
 だが、名門、梅花に合格したことは、日本に居るカノンの
 両親を喜ばせた。
 父:「やっぱり、女の子は付属が良いよ。悪い虫も付かないし」
 母:「そうね、エスカレータなら受験の心配はいらないし、
    多少の出費は、こちらで援助するから、これで良かった
    んじゃないかしらね?シオンが合格して本当に良かったわ」

 カノン:「・・でも、私は余り・・梅花って好きになれない
      んだけどな・・」っと愚痴を漏らすと、父親が

  「カノちゃん、何を言ってるんだ、梅花に入れたって事でも
   大したもんだよ。日本でも知られた老舗の幼稚園なんだよ」
   とカノンを窘めた。
   カノンは、そうかなぁ?と思いながら、梅花行きを考え
   始めていた。
   ソンジェも大喜びで、もう梅花だと決めつけていた。

   サヤカの娘、ソラミも梅花に合格し、サヤカは当然と言った
   顔をした。ところが滑り止めにしていた国際教育幼稚園を
   受けたカイトは補欠合格になってしまった。
   だが所詮、滑り止めと思っていたし、補欠でも合格なのだし
   先ず先ずの出だしだったからだ。
   ただ、梅花にシオンも合格したのが納得できなかった。
   「そんなに倍率は低かったわけでもないし、試験もリラに
    比べて難易度の高い物だった・・とても田舎育ちのシオ
    ンがぶっつけ本番で出来る問題ではないのに・・・
    やっぱりソンジェさんが有名だからかしら?カノン、
    上手い事やったわね・・・」と舌打ちした。


  全ては、リラ幼稚園の合格発表で、長く苦しかった受験も
  終わるとサヤカは思っていた。

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 カノン:「シオン、日本のお爺ちゃまもお婆ちゃまも
      梅花に合格したから凄く喜んでいたね。シオンが
      凄く頑張ったねって・・・良かったね」と言うと
 シオンは「でも・・・シオン、全然、テスト出来なかったよ。」
 と、不思議そうに言った。
 ソンジェ:「多分、皆も出来なかったと思うよ。出来なかった
       人達の中でも、割と出来た人達の中にシオンがいた
       んだよ。だから合格したんだよ。良かったね」
       と言った。
 シオンは気持ちを取りなおして、そうか、そうなんだと思い、
 合格を喜び始めた。
 梅花の制服は、有名なデザイナー「姜ユナ」の作品で、
 可愛いと評判のものだった。制服で入学したいと言う生徒も
 いるほどだった。
 娘を持つ男親にも、評判のいい学校であり、ここに入れば
 受験の心配なく名門梨花大学まで約束された道が待っていたし
 結婚相手にも困らないとも言われていた。

 ソンジェは娘シオンを溺愛しているので、梅花はやはり
 入れたい学校だった。
 コネでも何でも使って入れてやりたいと思っていたし、多額の
 寄付も覚悟していた。 
 今は、安堵の気持ちでいっぱいだった。
 リラがダメでも、もう構わない・・そう思った。     

      
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  いよいよリラ幼稚園の合格発表となった。


 カノン達は、もう梅花に行く事を8割方決めていたので、
 どうでも良い気分でいた。

 カササギ幼稚園の園長から朝1番に電話が有り「合格発表は
 誰がいつ行くのか?」と聞かれたが、カノンは「今日は主人が
 仕事で釜山だし、行くとしたらお昼過ぎに、シオンと二人で
 行ってみます。多分、結果は落ちていると思うのですが・・」
 と笑いながら応えた。

 園長:「そう・・それなら、ジェファの分も見て来て下さら
     ない?彼の親も今、ニューヨークらしいの。」

 カノン:「分かりました。今、ニューヨークですか?
      そうすると彼は一人で家でお留守番なんですか?」
 園長:「いいえ、恐らく叔父が、いると思うんだけど?その
     叔父も、豪州から帰国したばかりらしいの。勝手が
     分からないだろうから・・」
 カノン:「分かりました。受験番号を教えて頂けますか?」


 ・・・・・暫くやり取りが続き、ジェファが合格なら、直ぐに
 手続きをしなくてはならないので、その足で書類などをカササ
 ギに届けて欲しいと言われ、それもカノンは了承した。
 「シオンちゃんも受かると良いんだけれど?今年は物凄い
  倍率だったとTVでやっていたし、どうなるかは?分からない
  状態ですが、私は受かると思っている一人なんだけれどね?」
  っといって貰えたが、カノンはケタケタと笑いながら、
  「有難うございます」と言って電話を切った。

  電話口で、シオンは、カノンのスカートを引っ張りながら
  「シェファお兄ちゃんも一緒にお出かけ出来る?」と聞いて
   来た。そうか・・一緒に行っても良いかも?と思い、ジェ
   ファの家に電話をするとジェファの叔父らしい声が寝ぼけた
   声で出た。「ヨボセヨ(=もしもし)」っと・・・

  「あの〜済みません、ジェファ君をお願いします。」とカノン
   は慌てて言った。

   「あぁ?ん〜、ジェファですか?あぁ、ジェファですね、
    待って下さいよ。」っとぎこちない日本語で言ったのが、
   その発音が可笑しくてカノンはクスクスと笑った。
   叔父は、その笑い声に応えてもっと可笑しくオドケタ声で
   甥っ子のジェファを呼んだ。

   「もしもし、あ!シオンちゃんのお母さん、こんにちは。」
    可愛い声が返って来た。
    カノンはクスクス笑いながら、これからお出かけして
    合格発表見た後、美味しい物食べてカササギ幼稚園に
    報告に行こうよと言うと、暇を持て余していたジェファは
    嬉しそうに「行く行く」と言った。


   支度が出来たら、ジェファが、シオンの家に行くと言ったので
   待つことにした。
   数分後に、チャイムが鳴った。
   ジェファだった。息せき切ってやって来たのだった。
   カノンは「凄い早かったね〜」と言った。

   「叔父さんが宜しくって、これ・・」と紙袋を差し出した。
    豪州のお菓子が沢山入っていた。
   「わぁ、御馳走様・・宜しくお伝えくださいね。ジェファ君の
    叔父ちゃんて面白いね?おばちゃん、凄く楽しかったわ」と
    カノンは言うと「うん、凄くイケ面なんだけど、コメディ
    アンみたいに面白くて、、、僕たちはいつも笑いっぱなし
    なんだ。日本語も出来るし、英語も出来るし、ドイツ語も
    出来るよ。歌も上手で、歌手みたいだよ」と自慢げにジェファ
    は言った。
  カノン:「イケ面!!」
  ジェファ:「超イケ面だと自分でも言ってるよ、でも僕もイケ面
        だと思ったよ。独身だけどね・・」
  カノン:「へぇ〜何歳くらい?」
  ジェファ:「僕のママより3歳年下だから32歳かな?」
  シオン:「オンマ、アッパーと同い年ですねぇ?」
  カノン:「あっ、そうだね〜、同い年ですね〜ソロンソロン
       (=同じ、同じ)」と笑いながら言った。

  準備も揃ったので、3人は元気よく出発した。
  地下鉄に乗って、幾つもの駅を通過した。リラ幼稚園は、今では
  余りにも有名になり観光名所の1つにもなっている所だった。
  ソウルタワーの近くに位置しており、近所の駅から無料専用バスが
  定期的に運行していた。
  地上に上がると、丁度、無料バスが来ていたので、3人は乗り込んだ。
  合格発表の日だったが、そんなに混雑していないのは、恐らく、混雑の
  ピークは越したのだろうと云うのと、多分、マイカーで発表を見に来て
  いるのが多いからだろうと思った。
  「御免ね、車で見に来れば良かったんだけど、シオンパパは、お仕事で
   釜山だし・・おばちゃんも運転はするけど、ソウルは怖くて運転で
   きないの・・御免ね」と言うとシェファは「いいえ、僕は車より
   電車が好きです。それに余りお出かけとかしないから、嬉しいです」
   と言って笑った。

  流石に校門近くになると、合否を見に来た人達の群れが一杯で、
  混雑していた。地方からかけつけた祖父母たちも沢山いる様子だった。

  「アイゴーアイゴー」と言って、不合格に泣く親や祖父母もいたし、
   合格に喜び、晴れやかな顔つきの親子もいた。
   
  カノンは生唾を飲み込み、「いざ、出陣!」と言った。
  シオンも、ジェファも意味が分からず、キョトンとした・・・

  カノン:「あっ、えっとね、これから合格かどうかを見に行くん
       だけど、合格したら嬉しいけれど、不合格でも、ここまで
       来れたんだし、後悔はしないこと?むしろ頑張ったんだって
       自分の事を褒めてあげたいね?じゃあ、行こうか?」と言
       って、右手にジェファ、左手にシオンと手を繋いで、掲示
       板へと向かった。

   黒山の人だかりをかき分けて、カノン達は、掲示板の近くに
   進んだ。カノンは眼鏡を取り出して、受験番号を見て行った。
    先ずは合格の確率が高い、ジェファの番号を探した。
    「8000番台はどこかな〜・・あ!あそこだわ。えっと、
     えっとえっと〜・・・」カノンは1つ1つ丁寧に番号を
     見続けた。   

   

               「あ!!」

     先ずは、ジェファの番号を見つけた・・・・
     「8739」(=ハナサク)と言う語呂合わせの良い番号だった。

     当然、ジェファは受かると思っていたし、直ぐに見つかって良か
     ったとカノンは思った。
     携帯を取り出し、カササギ幼稚園に電話し「鄭ジェファ君の
     合格を確認しました」と伝えた。
     園長も、周囲に居た幼稚園の先生たちも喜び、喚声を上げた。

    園長は「ところで、シオンちゃんは?」と言った。
    カノンはまだ見てないし、多分、ダメだと言ったが、
    これから確認してみますと言って、一旦、電話を切った。
    
       シオンは4000番台だったねと一人でブツブツとカノンは
       言いながら、4000番台に異動した。
       シオンの受験番号は「4010」だった。    

    「4010」=無理やりソンジェが語呂が良いと言いだし、どうして?
     と聞くと「しおと」=詩音=しおんになるじゃないかと・・・
       
           するとジェファが、「シオンちゃんのママ、
           シオンちゃんの番号があったよ」と言った。

       「え?そんな馬鹿な・・」カノンは疑いの目で、
        掲示板を見た・・・
      
                 「あ!」

         4010・・受験番号が載っていたのだった・・・

         「シ・・シオンも合格してている!
           シオンが合格した!!」と震えながら何度も
           何度もシオンとジェファに言うカノンだった。

       ジェファは「シオンちゃんのママ、早く学校とか、パパ
       に知らせた方が良いかも?」と言ったが、カノンは、我に
       返って、「おばちゃん、凄くビックリしちゃって・・・
       そうだ!皆を驚かせちゃおうか?先ずは、合格の書類を
       貰いに行こうか?シオン、春からジェファちゃんと一緒に
       同じ学校に通えるんだよ〜、良かったね?」と言って笑った。
       シオンも嬉しくて「万歳、万歳」と何度も両手を上げて
       喜んでいた。
       
     すると周囲が、「あそこの子供、二人とも合格したみたいよ。」
             「凄いわね、どんな教育されたのかしら?」
             「お兄ちゃんの方、凄く賢そうだし、綺麗な
             兄妹よね。芸能人みたいね」っと囁いていた。

     カノンは周囲の声も気にならない程、興奮していたし、夢を見て
     いる気分だった。合格に書類を2つ手にした時、やっと本当に
     合格したんだと実感が沸いて来たのだった。

   帰りの坂道は三人でスキップしながら下って行った。その坂道を
   下ると、公園がありその直ぐ傍にカササギ幼稚園があるのだった。
   
    園長が、今か、今かと三人の帰りを待っていた。
    ただし、シオンは連絡が無かったので、落ちたのだと園長は
    思っていたのだった。


    「お帰りなさい。お疲れさまでした。」園長は、カノン達に
     ニコヤカに会釈しながら、園長室に通した。
     朴先生が、ココアを入れて持ってきてくれた。

     園長:「ジェファ君、やっぱり合格ね。おめでとう!
         先生はきっと受かると思ったわ。あなたはカササギ
         幼稚園始まって以来の秀才だものね。・・・さて、
         シオンちゃん・・良く頑張ったわね。でも残念だっ
         たわね?」っと言ってシオンに話しかけた時、
     「園長先生、済みません・・実はシオンも合格しました。」
      と言って、三人共、クスクス笑いながら合格書類を、見せた。


    「ええ?本当?本当に、合格したの?」園長は目をまん丸させ、
     眼鏡を上下にさせながら、2つの書類を見た。
     1つは鄭ジェファ、もう1つは李シオンとなっていた。


   二人の合格は、最初から園長が太鼓判を押しただけの事はあったと
   言われていたが、それでも実際に蓋を開け、合格を手にするまでは
   分からなかったから、本当にハラハラドキドキするものだった。
    カノン達は、ジェファは合格するだろうが、シオンは無理と頭か
   ら落ちるものだと思っていたので、本当にびっくりしてしまったの
   だった。
   さて、次はオッパちゃんをどうやって驚かせようか?カノンは、
   楽しくなって来たのだった。
  


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