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作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第2回   嵐の前の静けさ・・運命の糸
運命の糸・・嵐の予感


 次の日、カノンは娘シオンを連れて、近所にある幼稚園
 
 見学と願書を貰いに行った。

 前もって、インターネットで調べておいた幼稚園3校に

 絞ってみて、ソンジェとの話し合いで決めた物だった。

 @イテオンにあるイテオン国際教育幼稚園・・ここは名前
  の通り、国際教育が盛んで、英語・日本語・フランス・
  ドイツなど帰国子女やハーフの子供たち、駐在員の子供
  たちが通う幼稚園で、語学に力を入れたリラ幼稚園の次
  に人気の高い幼稚園。だが、ここに入れる条件は、韓国
  生まれの韓国人は除外だったし、両親ともに韓国人の子
  供も海外駐在がなければ受験資格はなかった。
  その点で、シオンは条件を満たしていた。
  カノンは日本人であり、夫ソンジェも、父親は韓国人
  だが、母親は日本人、シオンは日本で生まれた。
   この幼稚園なら、家からも直ぐだし、日本語クラス
  もあり、国際色豊かな教育が受けられそうだとカノン
  は思った。

 Aソウル市内にある梅花女子幼稚園・・女の子だけの
  幼稚園で、付属で小学校と中学校があり、将来は韓国
  随一の女子大学である梨花女子大に100%進学できる
  と言われている。夫ソンジェが、ここの幼稚園を何故
  か気に入っている様子だった。それは男女共学だと、
  大事な可愛い娘が心配だと言う何とも親バカな考えだ
  と知ってカノンはお腹をかかえて笑った。
  女子幼稚園と言う特性を活かして、ピアノやバレエ、
  絵画など芸術に力を入れている様子がうかがえる学校
  だったし、中学校まで受験の心配が無い事も、私立の
  付属出身のカノンは、何となく良いなっと思ったが、
  倍率はかなりのものだった。

 B漢南学院幼稚園・・家からは地下鉄で40分かかる
  幼稚園だが、オリンピック公園やロッテワールド等
  があり、環境が凄く良い綺麗な街並みの中にあり、
  リラやイテオン、梅花に比べて知名度は低く、倍
  率も低いので入りやすそうだったが、日本語クラス
  はないので、シオンが苦労するかもしれないと思
  った。しかし、この学院は運動や情操教育に力を
  入れていて、伸び伸び元気に育ててくれる感じが
  した。


 カノンはB⇒A⇒@の順に回ろうと思った。
 
 「シオン、オンマと今日は1日中、お出かけだよん。
  大丈夫かな?」カノンはニコヤカにシオンに言うと
  シオンは無邪気に笑ってお出かけ用の洋服を何枚か
  引っ張り出しながら「今日はこのピンクの洋服が良
  い」と言って着替えをし始めた。

 3校回ってみても、カノンはどことなくシックリ
 行かなかった。

 Bの漢南学院幼稚園は地下鉄を乗り換える事が1回
  あり、丁度、朝の通勤ラッシュと重なって、小さな
  シオンには厳しい事を感じたし、学院に着くと、
  園児達がきちんと整列してラジオ体操のような体操
  をしていた。一糸乱れないその姿が何となくカノン
  は怖かった。
  「わが校は運動に力をいれているし、生活態度も
   厳しくしています。だから皆、素直だし、誰も
   乱暴な子はいないんですよ」と自慢しながら話す
   教師にも違和感を感じた。

 A梅花幼稚園は、女子だけの幼稚園だけあって、
  外装も可愛い感じで設備もピカピカだった。
  寄付金も半端ない金額で、カノンはビックリして
  しまった。
  「あの音楽家の李ソンジェさんの娘さんですか?
   きっと我が校に入学して下さったら、将来は
   素晴らしい音楽家になれますわよ。」と言われ
  シオンは音楽家になるとも言ってないし、思って
  もいないだろうから、、、そう決めつけないで
  欲しいと心の中でカノンは思った。
  先生の話す内容は、シオンの事ではなく、夫ソン
  ジェの事ばかりで、なんだかウンザリしてしまった。

 @イテオン国際教育幼稚園の門をくぐった時、
  シオンがこの学校は怖いから嫌だと言いだした。
  多分、もう疲れちゃったのだろうと思い、後少し
  我慢してねとシオンを宥めて、見学した。
  英才教育を誇るこの幼稚園は、どの子も賢い顔立ち
  であり、皆がそれぞれの国の言語を使わず公用語の
  英語を流暢に喋っていた。
  遊技場で遊んでいる子もおらず、皆、教室で静かに
  本を読んだり、PCで何かして遊んでいた。
  「うちはリラ幼稚園には負けない位の学習指導を
   しております。特に語学に関しては韓国1だと
   思っております。幼稚園に入る前には、既に
   小学校3年生程度の学習能力が無いと入学して
   から辛いかもしれません。まぁ、今から家庭教師
   を雇ったり、塾に通わせたりすれば大丈夫だとは
   思いますが・・」と言われ、何も準備していない
   カノンは、この幼稚園も何だか、シオンには合わ
   ないし、向かないなと思った。
   シオンも「この幼稚園、皆、何をお話ししている
   のか分からないから、怖かった」と言った。
   そうか・・英語で喋ってたものねとカノンは思
   った。

 3校とも、しっくりしないままの見学会で終わり、
 どうしようかな?とカノンは思ったが、元気を取り
 戻して「シオン、何か美味しそうな匂いがするね、
 、、あ!ホットクだ!食べようか?」と言って、
 屋台でホットクを二枚買って、公園のベンチで
 二人で食べた。

 シオン:「オンマ、甘くて美味しいですね〜」
     と言って笑った。
 カノン:「本当に、美味しいですね〜、シオン、
      オンマね、今日、3つ幼稚園に行った
      けど、どこがシオンに一番いいかなっ
      て、迷ってるんだ。どうしようかな?
      って・・・」
 シオン:「・・オンマ、シオン、済州島に帰りたい。
      済州島の幼稚園に行きたい。そしたら、
      ヒスちゃんや、ナレちゃんとかいるもん」
 
   シオンはカノンを真っ直ぐ見ながら言った。
   カノンは「そうか〜、シオンは済州島に帰りたい
        んだ〜、オンマも帰りたいな〜。
        ・・・でもね、アッパーが困っちゃう
        から・・」
 シオン:「アッパーが困っちゃうの?」

 カノン:「そう、アッパーはお仕事がソウルで沢山
      あるから、済州島には帰れないの。だから
      オンマも、シオンもアッパーと離れるのが
      嫌だからソウルに来たの。でもシオンも
      オンマも済州島に帰っちゃったら、アッ
      パーは一人になっちゃうかな?それでも
      シオンは良い?」
 シオン:「やだ・・アッパーと一緒にいる。」

    シオンは泣きだしそうになりながら言った。

   すると、どこからともなく、風に吹かれて
   シャボン玉が飛んできた。


  「あ!シャボン玉・・オンマ、シャボン玉」
   シオンは言って、シャボン玉が飛んできた方向を
   見つめた。

 
  どうやら、公園の片隅にいる小さな子供たちの集団が
  シャボン玉を夢中になって吹いていたのだった。

  ホットクを食べ終わったカノンとシオンは、その集団
  に近づいて行った。

  すると集団の中心に老いてはいるが、凛とした恰幅の
  良い女性がいた。バケツを片手にして、その中には
  シャボン玉の液体が沢山入っており、子供たちのス
  トローに一本、一本丁寧に液体をつけてくれていた。

    「お嬢ちゃんもやる?」と老女はシオンに
     話しかけた。

   シオンは、やっても良いか?とカノンの顔色を
   うかがいながら、カノンはニッコリ頷いたのを
   見て、嬉しそうに、シャボン玉の仲間に加わった。

 カノンは、老女に会釈して、小さく「済みません」と
 言ったのを、老女が気が付き、日本語で話しかけてきた。

 老女:「お母さんは、日本の方ね?」
 カノン:「・・ハイ、そうです。・・・あのぉ〜?」
 老女:「失礼しました、私も日本人ですのよ。正し、
     夫は韓国人でしたけれど・・・」
 
 カノンは、自分と似た環境だと思い、嬉しくなった。

 老女はニッコリ笑いながら「小さな子供は天使ね、
   本当に可愛いし、無限の可能性を秘めているわね。
   今日はお天気も良いし、皆でシャボン玉を飛ばして
   遊ぼうってなったんですのよ。誰が一番大きなシャ
   ボン玉を作れるかとか、誰のシャボン玉が、風に
   吹かれて遠くまで飛ばせるとか・・子供たちは思い
   思いに考えながら遊んでいて、、本当に楽しそう
   ・・見ていて幸せになりますね?」と言って微笑んだ。

 カノンも、シオンやシオンの周囲に居る子供たちを見て
 本当にそうだと思った。どの子も瞳がキラキラしていて
 可愛いかった。

 暫くして、老女は「さあさ、皆さん、帰りますよ。
 帰ったら、おやつが待ってますよ。」と言って、
 子供たちを呼び集めた。
 子供たちは「わぁ、おやつだ」と言って元気よく
 集まって来た。
 シオンもすっかり、子供達と仲良くなったのか、
 両手がふさがって走り寄って来た。
 
 シオン:オンマ、ジニちゃんとキョンワちゃん」
 カノン:「わぁ、お友達が出来たの?良かったね〜
      ジニちゃん、キョンワちゃん、こんにちは」
 カノンは、韓国語で言った。
 ジニもキョンワも照れくさそうに「こんにちは」と
 言った。
 老女は、「良かったら、一緒におやつを食べませんか?」
 と誘ってくれた。シオンは、一緒に行ってまだまだ遊び
 たい様子だったので、お言葉に甘えて招かれることに
 した。公園の直ぐ傍にあると言われた通り、案内された
 場所は「カササギ幼稚園」と看板があった。

  「カ・サ・サ・ギ 幼稚園?」

 老女:「ホホホ、、申し遅れました、私、カササギ
     幼稚園の園長の金邦子と申します。
     古い幼稚園でしょう?恐らくソウルでは歴史
     ある幼稚園なのよ。でも最近は、もっぱら
     リラ幼稚園とかイテオン国際教育幼稚園に
     人気が集中しちゃっているけれど・・・
     うちは見ての通りの幼稚園で設備も古いし
     教育にもそんなに力を入れている訳でもない
     し・・唯、子供たちの、何故?何?を正面
     から見つめて上げられる教育をしてますのよ
     。」と笑いながらカノンに語った。

 カノンは「金園長先生、実は、私達は、ついこの前
      まで済州島で過ごしてましたが、主人の
      仕事の都合で、ソウルに住むことになり、
      娘の幼稚園を探しているところでした。
      今日は3校回りましたが、どこも娘に合
      わず考え込んでいたところに、シャボン
      玉が飛んできて、、、不思議な縁を感じ
      ました。」
 
 金園長は微笑みながら「・・私も、実は貴女達母子を
    見て、不思議な縁を感じたの・・だからここに
    お誘いしたのよ。ホホホ。カササギ幼稚園は、
    気に入って下さったかしら?・・でもね、私は
    お嬢ちゃんを見たところ、この幼稚園には勿体
    ない感じがしたわ。・・・リラ・・そうリラ幼
    稚園を受験させなさい。」

 急にキラキラと目を輝かせてきっぱりと園長は言った。
 
 カノンはケタケタと笑い「無理ですよ、何も準備も
 させてないし、リラ幼稚園は韓国の子供たちの憧れ
 の幼稚園らしいし・・シオンには合わない感じがし
 ます。」
 金園長は「そうかしら?私は、リラ幼稚園が娘さん
 には1番、合うと思うのですが?」と言いながら、
 更に「勿論、うちのカササギ幼稚園に入ってくれれ
 ば、嬉しいですけれどね?」と付け加えてくれた。


 カノンは「是非、お願いします。願書とかありま
  すか?」と聞くと、特に願書と言う物はなく、随時
 受付をしているらしく、来るものは拒まず入学させて
 くれると云うのだった。更に、もしシオンさえ良け
 れば、明日からでも通えると言われたのだった。
 カノンはシオンを呼んで聞いてみた。
 カノン:「シオン、幼稚園、楽しい?」
 シオン:「すごく楽しい。お友達も沢山できたよ。
      オンマ、さっき済州島に帰りたいって
      言ったけど、帰らなくて良いよ。だって
      シオン、凄く楽しいから・・」
 ・・・と目を輝かせて言うシオンを見て、カノンも
 嬉しくなり「では、明日から通わせて頂いても宜しい
 ですか?」と云った。

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 カノンもシオンも3校周りはヘトヘトだったが、
 カササギ幼稚園との出会いで、足取りが軽くなった。
 カササギ幼稚園は、カノン達が住む高層アパートメ
 ントの直ぐ近くにあり、歩いて5分もかからない場所
 であり、緑豊かな公園もあり、お洒落なカフェや、外
 国人向けの大型高級スーパーもあり、環境も抜群だ
 った。インターネットにも紹介されていなかったし、
 知名度はかなり低い様子だったが、何よりも園長が
 日本人であること、教育方針が伸び伸びとしていて、
 園児達が凄く生き生きしていたことが、好印象だった。
 しかもシオンが、直ぐに打ち解け、友達も出来、「楽
 しい」と言う言葉を何度も言っていたからだった。

 家に帰り際も、カノンにカササギ幼稚園での出来事を
 楽しそうに話すシオンを細目で嬉しそうに聞きながら
 カノンは「ねぇ、シオン、幼稚園はカササギ幼稚園で
 良いかな?」と言うと、シオンは元気よく「うん」と
 言った。

  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ソンジェ:「へぇ、じゃあ、そのカササギ幼稚園に
       シオンは通う事になったんだ・・」

 ソンジェはその晩、カノンとお茶を飲みながら
 言った。

 既に時計は23時を回っており、シオンは深い眠り
 の中だった。

 カノン:「うん、オッパちゃんに相談なく勝手に決
 めちゃったのだけど、、御免なさい・・でもね、凄
 く良い幼稚園だったの。ここから直ぐだし、日本語
 OKだし・・・シオンが大喜びだったの。お友達も
 直ぐに出来たみたいだし・・・」

 ソンジェは笑いながら「ハハハ、だったらそれで
 良いよ。僕はカノンやシオンが良いなら賛成だしね」
 と云った。
 
 カノンはきっとソンジェは賛成してくれると思ったが、
 実際、賛成してくれて「良かった〜」と思いながら、
 微笑んだ。


 カノン「明日から通っても良いって言われてるんで、
     通ってみます。勿論、願書を出した手前、
     リラは記念受験で受けるけど・・・」

  っと慌てて付け加えてソンジェに言ったが、
  ソンジェはヘッドフォンを付けて音楽チェックを
  していて聞いてなかった。

  カノンはケタケタと笑いながら、「一応、報告
  したからね〜」と言い、お先に寝ますねとポン
  とソンジェの肩を叩いて寝室に入って行った。


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 その晩、カノンは夢を見た。不思議な夢だった。

 昼間見たシャボン玉のせいだったのかもしれないが
 もう10年以上も前の、テファとの別れの場面の夢
 だった。鎌倉・・湘南の海辺で、シャボン玉を吹き
 ながら、テファは、1つ1つのシャボン玉を二人の想
 い出話にしてくれて、、、最後のシャボン玉が壊れ
 ると
    「想い出は、シャボン玉のように脆くて
       直ぐに壊れてしまうけれど、
       心の中には、ちゃんとずっと残るもの
          ・・・
        だから悲しまないで・・・

     僕は過去の想い出よりも、カノンとの、
     未来の想い出をこれからも沢山、作って
      行きたい・・・

     カノン、これは別れじゃないし・・
      始まりの一歩だよ。」

 鮮やかに蘇った記憶だった・・・
 シャボン玉が運んでくれた、「縁」を感じた夢
 だった・・・

 そう言えば、テファオッパは、今はどうしている
 のだろうか?
 
 いつも明るく元気なオッパの事だから、きっと今は
 家庭を持ち、家族を持ち、幸せな日々を過ごしてい
 るのだろう・・
  オッパ、カノンも幸せだし、元気にしています。
 オッパ、今日はシャボン玉で良い事がありました。
 オッパ、オッパ・・オッパ・・・

 ジリジリジリ・・・目覚ましがけたたましく鳴った。
 カノンは「え?もうこんな時間?」と言いながら、
 目覚まし音を止めながら、起きあがった。
 ソンジェは昨夜は徹夜だったのか?書斎で仕事を
 ずっとしていた様子だった。
 
 書斎を覗きながら「オッパちゃん、おはようちゃん」
 と、カノンが言うと、ヘッドフォンをはずしながら
 「カノン、お早う!」と笑いながらソンジェが言った。

 カノン:「オッパちゃん、徹夜?」
 ソンジェ:「あぁ、どうしても今日中に仕上げないと
       いけない曲があってね。何となく完成は
       してたんだけど、最後がね、納得いか
       なくて。」
 カノン:「オッパちゃん、ナルシストだねぇ?」
 ソンジェ:「え?ナルシスト?ナンデ?」

 カノンはニヤニヤしながら「秘密ちゃん」と言って
 キッチンに逃げて行った。

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 3人で朝食を食べながら、シオンはソンジェに
 矢継ぎ早にカササギ幼稚園の話をしていた。

 シオン:「アッパ、、それでね、あのね、カササ
      ギでね、ジスちゃんがね・・・

      アッパ、シャボン玉で遊んだよ
      アッパ、今日は木登りするんだよ
      アッパ、シオン、オンマに美味しい
      お弁当作って貰って、幼稚園に行く
      の・・
      アッパ、幼稚園のお友達、お家に呼ん
      でも良い?・・・」

 ソンジェは「わぁ、シオンは沢山、お話しが出来る
       ようになったねぇ。アッパはビックリ
       だな・・お友達が沢山出来て良かった
       ね、もちろん、お家に遊びに連れて来
       て良いよ。オンマに美味しいおやつを
       作って貰って一緒に食べたらいいしね。
       そんなに幼稚園が楽しかったの?」
 シオン:「うん、とってもとっても楽しかった」

 ソンジェ:「そうか、良かったね。今日も楽しく
       過ごせると良いね」

 ソンジェも目を細めてシオンを見つめながら食事を
 した。幼稚園はシオンが一番通いたい場所が良いと
 ソンジェも思っていたからだ。リラ幼稚園は、恐ら
 く記念受験になるだろうし、他の幼稚園も、倍率は
 高く、入ってからも苦労するだろうと思えてならな
 かった。
 
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  「それでは金園長先生、今日から娘シオンを
   宜しくお願い致します」

  カノンは、娘シオンを園長に託して、一旦、
  家に帰ることとした。

 園長:「ハイ、分かりました。ではお迎えは
     15時にお願いしますね。」
 カノン:「ハイ、では15時に・・」
 
 園長:「お早う、李シオンちゃん、今日から
     宜しくね」
 シオン:「お早うございます。園長先生。」
 園長:「きちんと御挨拶が出来て、偉いわね、
     シオンちゃんは今日から、カササギ
     幼稚園のサクラ組です。サクラ組の
     先生は朴ポヨン先生です。」
 朴:「シオンちゃん、宜しくね、先生と一緒に
    教室に行きましょうね」と言って、シオ
    ンの手を取り、教室に向かった。


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 その姿を見届けてからカノンは自宅に戻り、
 一通りの家事を済ませた。何となく、変な気
 分だった。
 いつもはシオンが一緒で、お昼も買い物も一緒
 だったが、今日からは一人で過ごすことになった
 からだった。
 
 でも考えてみたら、シオンが幼稚園や小学校に通
 い出したら、もっとカノンは一人の時間が増える
 のだ。カノンは、子離れ・親離れを少しだけ感じ
 寂しい気持ちにさえなって来たのだった。


 ピンポーン〜チャイムが鳴った。

   「ハイ?どなたですか?」

   「カノン、私よ、私・・
      サヤカよ・・」

 サヤカが今日は、不意の来訪でカノンに会いに
 来たのだった。


 カノン:「わぁ、サヤちゃん、ビックリ!
      しちゃった。どうぞ、上がって、上が
      って!」カノンは、スリッパをサヤカ
      に向けて上がるように勧めた。

 サヤカは、自分の家とは違うごく普通よりも
 少しは上級?そうな高層アパートメント住まいの
 カノンの家を見まわしながら、リビングに通された。
 
 (何か、うちとは全然違うわね。狭いし、高級そうな
  調度品も少ないし、所帯地味た感じがするわ。)

 サヤカは優位な気分になりながら、差し出された
 紅茶を飲んだ。

 サヤカ:「今日は、子供たちの幼稚園の滑り止めと
      思っている梅花とイテオン国際教育の見学
      に行って来たの。まぁまぁのレベルだし、
      滑り止めだから、こんなモンかしらって
      思ったのよ。それでイテオンに来たので、
      カノンの家を思い出して寄ってみたの。」
 カノン:「わぁ、そうなんだ。うちもそこの2校見た
      けど、何かレベル高そうだし、入れない
      感じがしたの・・それにシオンが嫌だって
      言いだしたから・・」

 サヤカ:「え?シオンちゃんが?」
  
 カノン:「多分、レベルが高すぎて、自分には無理だ
      って思ったのかも?国際教育では、会話が
      英語だったから何言ってるのか分からな
      かったみたいだし、、、梅花は上品過ぎて
      シオンには向いてないもの・・」
 
 サヤカはカノンの話を聞いて、確かに済州島で育った
 田舎者は、やっぱり都会の幼稚園は向かないのは当然
 よと、冷笑した。

 サヤカ:「ところで、シオンちゃんは?」
  
  サヤカは辺りを見回した。
 カノン:「えっと、今、近所の幼稚園に通っているの」

 サヤカ:「幼稚園?」

 カノン:「カササギ幼稚園と言って、偶然、見つけた
      所で、年少組に入れて貰っているの。本人も
      凄く楽しんでいて、このまま幼稚園はカサ
      サギにするつもりなの。」
 サヤカ:「え?じゃあ、リラは?」
 カノン:「リラ幼稚園は、記念受験だけ・・だって落
      ちるに決まってるし、、、万が一、受かっ
      ててもシオンが苦労するから行かないと、
      思うの・・・受かるわけないけどね・・」

 サヤカ:「ふ〜ん、そうなんだ・・」
   (サヤカはそれを聞いて心の中で「当たり前よ、
   受かりっこないわよ・・まぁ、シオンはその
   カササギで十分よ」)としたり顔で笑いながら
   言った。

 サヤカ:「ソンジェさんは?賛成しているの?」
 カノン:「うん、パパはシオンや私が良いならOK
      だから、、、あ!でも梅花には未練が
      あるかも?あそこの幼稚園の制服が可
      愛いし、中学までエスカレーターだから
      受験の心配は無いし、将来は有名な梨花
      女子大にも推薦で入り易いって聞いてた
      から・・・娘可愛いさの表れだよね?
      でも凄い人気で、この学校もシオンには
      無理だと私は思ったの・・えへへ」


 サヤカと会話をしていた時に、ドアが開いて
 ドヤドヤト元気よく「オンマ、ただいま〜」とシ
 オンが帰って来た。しかもお友達を3人連れて来た。

 カノンは「え?15時?」っと慌てて時計を見ると
 未だ14時少し前だった。
 カノン:「あれ?どうしたの?帰りは15時じゃな
      かったの?」
 シオン:「うん、あのね、今日、幼稚園ははね、1
      3時半でおしまいになったの。
      園長先生がね、送って行こうか?って言
      ったけど、シオン、自分のお家に一人で
      帰れるっていったの。それにお友達も、
      シオンのお家に行きたいって言ったから
      ・・・・」
 カノン:「・・そうか、、、そうなんだ・・でも何で
      急に13時半になっちゃったんだろうね?」
 シオン:「・・・分かんない・・、あっ、サヤおば
      ちゃん!」

 シオンは、サヤカを見つけると、ぺこりと挨拶して
 「サヤ叔母ちゃん、こんにちは」と云った。

 サヤカは笑いながら、「こんにちは、御邪魔してます」
 と云った。

 それから、シオンは3人の友達を紹介した。
 この前、シャボン玉を一緒に飛ばしていたジニとキョ
 ンワがいた、そして更にもう一人、背の高い、年長組
 らしい男の子が居た。男の子は「こんにちは、鄭ジェ
 ファです。今日はお招きされて来ました。」と挨拶を
 して笑った。
 シオンより1カ月前にカササギ幼稚園に入ったばかりで、
 それまでは家族と豪州で暮らしていたそうだ。
 英語も喋れ、日本語も韓国語も堪能だった。
 「ハイ、日本人と韓国人のハーフなんです。」とジェ
 ファは言った。顔立ちは美しく、きっと美少年になる
 だろうとカノンもサヤカも思った。
 
 サヤカ:「あら、もうこんな時間、そろそろ帰らな
      くっちゃ・・今日はカイトのバイオリンの
      レッスンとソラミの英語塾の日なの。
      じゃあ、カノン、またね。これ、ロッテ
      デパート限定の御菓子よ。皆さんで召し
      上がって」
      ・・・と言いながら、立ち去った。

 カノンは「ろくなお持て成しもしないで御免ね」と
      言って頭を下げたが、サヤカは「気にし
      ないで!突然、御邪魔してこちらこそ、
      悪かったわ」と言って、弾んだ気持ちで
      帰って行った。

 帰りながら、サヤカは、カノンに勝ったと優越感で
 一杯になった。
 受験もあの調子なら、不合格だろうし、生活ぶりも
 うちとは雲泥の差・・・
 カノンも何だか所帯じみた人になったわ〜と思いなが
 ら、自分は、常に輝く女の第一線でありたいと思って
 いたサヤカであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ジニ・キョンワ・ジェファの三人は御行儀良く、
 シオンと一緒におやつを食べ始めた。

 するとジニが「今日ね、いつもの怖いオジさん達がね
 幼稚園に来てね、園長先生が、私達に帰りなさいって
 言ったの」・・・と妙な話をし出した。
 すると、ジェファが「シッ」と言いながら、ジニの話
 を制した。恐らく大人の何か事情で心配をカノンに
 させないためなのかもしれなかった。

 カノンは知らない振りをして「カササギ幼稚園は楽
 しい?」と聞いてみた。全員が「楽しい」と元気よく
 言葉が返って来た。そう、それなら、良いとカノンは
 思った。


 ジェファと言う男の子は見れば見るほど、美しい男の子
 で、物腰も上品だった。
 カノンは幾つか、3人に質問を投げかけてみた。
 「皆はどこに住んでいるの?」
 
 ジニとキョンワはイテオンの三角駅の近くにあるアパート
 に住んでいて、ジェファは、棟は違うが、カノンの住む
 高層アパートメントだと云った。

 カノン:「ジェファ君の家は、うちと近所なんだね?」

 と言うと、ジェファは嬉しそうに頷いた。
 豪州から帰国したばかりで、こんなに近所に同じ幼稚園で
 友達が出来ることが嬉しかったのだった。
 シオンもまた同じで、喜んでいた。

 ジェファの両親は、恐らくお父さんがIT関係の仕事で、
 豪州に行っていた様子で、日本やアメリカにも出張が多く
 多忙な様子だった。母親はいるとかいないとか言っていた
 が深くは聞かなかったし、聞けなかった。

 ジニもキョンワもお父さんがおらず、母子家庭で、母親は
 ホテル勤務で、そこのエステや垢すりなどをする仕事をして
 いると云った。
 カノン:「わぁ、凄いね、おばちゃん、マッサージとか、
      垢すりとか大好きなの。ジニちゃんやキョンワ
      ちゃんのお母さんて凄いね」と言うと、二人は
      ビックリしてカノンを見た。
 今迄、そんな風に尊敬の目で母親を褒められた事がなかった
 からだった。しかも父親がいないとなると、世間の目が冷
 たく、友達になってはいけないと言われたりもしたからだ
 った。

 キョンワもジニも父親は、恐らく日本人らしかったが、
 それも良く分かっていない様子だった。

 カノン:「3人は、今日は何時までに帰れば良いの?」と
 笑顔で聞くと、三人は「遅ければ、遅いほどいい」と云った。
 帰宅しても誰も居ないからだった。大概は20時くらいまで
 一人で留守番して過ごすのだと云った。
 カノンは、「なら、夕飯とか一緒に食べて帰れるね?
       車で送って行くから、思いっきり遊んで頂戴、
       うちならいつでも大歓迎だからね」と云った。

 三人は喜んで満面の笑顔になった。
 カノンは一応、三人の家に、連絡網で電話した。
 ジェファの家には留守番電話に吹き込み、キョンワとジニの
 母親にはホテルのサロンに電話して許可を貰った。

 「助かります」と二人の母親から言われた。
  カノンは「いえいえ、勝手な事をしてしまい済みません」
  と謝った。
 子供たちに夕飯のリクエストを聞いて、今日はハンバーグス
 テーキとなった。
 子供達と一緒に作ったハンバーグステーキを焼いていると、
 夫のソンジェが帰って来た。

 「ただいま〜」ソンジェはドアを開けると「おっ、良い匂い
  だな」と云った。
 シオンは「アッパー、お帰りなさい。」とパン粉が一杯顔や
 手についた姿で出迎えた。
 ソンジェ:「ただいま〜、シオン、顔が真っ白だね、ママの
       お手伝いしてたのかな?えらい、えらい」と
       笑って言った。後ろからモコモコと小さな子供
       達が3人、ついてきた。

 シオン:「アッパ、シオンのお友達・・今日、一緒にご飯
      作って食べるの・・」

 ソンジェは子供たちを見まわした、子供達は、怒られると思い
 緊張した・・が・・・ソンジェは微笑みながら「やぁ、いらっ
 しゃい。良く来たね、いつもシオンと仲良くしてくれて有難う
 ね、ご飯、一緒に作ってくれたの?楽しみだな〜、おじちゃん
 はお腹ぺこぺこだよ」と言った。

 緊張感が一気に解け、皆が笑顔になった。


 その日は、賑やかで楽しい食事となった。
 食事が終わった後、三人を家に車で送って行った。
 先ずは、ジェファの家で、本当に2棟隔てた同じアパートメント
 だった。ジェファの住むアパートメントの方が高級感があり、住
 んでいる人達が上級だった。
 「ここで大丈夫です。多分、まだ誰も帰って無いから」そう言
 って、オートロックの鍵を開けて、入って行った。
 
 次はキョンワとジニの家だったが、二人とも同じ協同アパート
 メントに住んでいて暮らしぶりは裕福とは言えず、寧ろ貧しい
 ものだった。やはりまだ母親は帰ってない様子だったが、キョ
 ンワの方は祖母がいるらしく、祖母が迎えに出ていた。


 帰りの車の中で、ソンジェもカノンも何となく切ない気持になった。
 子供は親を選べないし、親も子供を選べない・・
 当たり前だけれど・・・
 しかし、大人の都合で、子供が寂しい辛い思いをするのは、何と
 可哀相なことだろうかと思った・・・
 ソンジェも寂しく悲しい幼少時代を育って来たから、親の愛情に
 飢えていたからだ・・・
 余計、シオンが愛おしくてならなかった。
 カノンは、ソンジェのそんな気持ちが痛いほど、分かっていたので
 シオンを溺愛する姿を寧ろ有難いと思っていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
  
次の日、カノンは、シオンをカササギ幼稚園に送った後、
 ヒロミと綾と新村で待ち合わせをして、お茶をすること
 になった。
 
 ヒロミ:「カノン、こっち、こっち」通りの向こうから
      ヒロミの声が聴こえた。
 カノン:「あ!、ヒロミちゃん、待ってて!今、行くから」
     
  カノンは横断歩道が「歩く人の姿」に変わるのを待った。
  韓国は・・特に車社会のソウルは直ぐに渋滞になるし、
  日本と違って歩行者よりも車優先の社会かの様に感じら
  れるのが、横断歩道だった。直ぐに「立ち止まれ」の
  表示になってしまうからだ。
  お年寄りや小さな子供には向かない横断歩道だな・・
  っと思いながら、カノンはやや駆け足で渡った。

 カノン:「お待たせ〜」と息を弾ませて言うとヒロミは
      「大丈夫、綾が今、こっちに向かってるから
       ・・・あっ、ホラ、あそこ!」と言って指
       さした。

 カノンは笑いながら、その方向を見ると、

          一瞬・・・
             ギクリとした・・・


      オッパ?
         オッパ?
            

 そう、カノンの特技の1つに、テファがどんなに人ごみ
 にいても、どんなに豆粒でも、テファの姿をいち早く
 見つけることが出来るのだった・・
  

      ヒロミが「どうしたの?カノン?」

     と言われ、カノンは我に返り、再びヒロミが
     指さした人ごみを見つめたが、、、テファの
     姿はなかった。

  
   何だ・・気のせいか・・・もう何年も音信はないし
   遠い・遠い昔の人なのに・・・どうかしているぞっ
   とカノンは首を横に振って笑った。

   カノン:「何でもない・・ちょっと目が
        かすんで・・」

   
   ヒロミは「フ〜ン、そうなんだ・・」と言いながら
        「綾、遅い、遅い!先に行っちゃうぞ!」
        と手を振りながら大きめな声で言った。


 三人は新村の美しい街並みを楽しみながらお洒落な
 雰囲気のカフェに入った。
 「レイン」と言うカフェで雑誌にも何度か載る人気の
  店の1つだった。平日の午前中とあって、そんなに
  混雑はしておらず、三人は直ぐに席に着けた。

 ヒロミ:「取りあえず、珈琲かな?」
 綾:「あたしもホット」
 カノン:「えっと、ココア」

 ヒロミも綾もカノンがココアを頼むことに吹き出した。
 相変わらず、カノンは珈琲が好きではなくココアを注文
 しているからだった。


 綾:「・・ところで、カノン、シオンちゃんはカササギ
    幼稚園に通わせてるの?」

 カノン:「うん、まだ3日目だけど、本人は凄く楽し
      そうだし、家からも5分位で行けちゃうし
      良い幼稚園だしね。園長先生が日本人でね
      、優しい感じだし、先生方も日本に留学経験
      のある人達ばっかりなの。日本人とのハーフ
      の子供たちや、日本と関係のある家庭の子供
      が多いみたい」
 ヒロミ:「余計なことかもしれないけど、そのカササギ
      幼稚園、ちょっとヤバいかもよ。」

 カノン:「え?ヤバイって?」
 ヒロミ:「今、イテオンは、都市開発が進んでいる場所
      なのね。これからもっともっとお洒落で高級
      になる場所なの・・ホラ、日本でもさ、昔、
      千葉の浦安にTDLが出来るって言う時に、
      浦安のマンションを安く買った人が、TDL
      のお陰で、物凄くマンションが高騰して高級
      マンションになったって言う感じかな?」
 綾:「それがカササギとどう関係するのよ」
 ヒロミ:「つまり、イテオンはお洒落な街にドンドン
      変化するから、古い物・・特にカササギは
      古い幼稚園は不要なの・・街の美観にも関
      わるし・・近くの公園ももっと綺麗に整備
      されるだろうし、その公園の近くにマンシ
      ョンを建てたらかなり高いマンションとし
      て売れると思うの。マンションじゃなくて
      も観光客用のホテルでも良いし・・
      旦那のスンジュはホテルマンなんだけど、
      スンジュの勤務するホテルが、イテオンに
      ホテルを建てたがってるみたいなんだけど
      ・・・どこの会社も狙ってるって・・特に
      カササギの場所は一等地になるんだって!」

 カノンは「あっ!  だから・・・」
      と言った・・・

 綾:「どうしたの?」

 カノン:「・・うん、あのね、考え過ぎかもしれない
      けど、昨日、シオンが幼稚園が早く終わっ
      たと言って帰って来たの・・理由は分から
      ないって言ったけど、一緒に遊びに来てい
      たお友達が、いつもの怖いオジさん達が来
      て帰ることになったって・・もしかしたら
      ・・・地上げ屋??って思って・・」

 綾:「きっとそうだよ・・カササギ幼稚園、地上げに
    あってるのかもね?」
 ヒロミ:「カササギ幼稚園て生徒は何人くらいいるの?
      経営状況は良いの?」
 カノン:「良くは分からないけれど生徒は90人位いる
      感じがして、幼稚園の先生は4人いてあとは
      園長先生で・・建物は古いけれど綺麗にして
      いたよ。クラスは4クラスあったけど?
      授業料は確かに他の幼稚園に比べて格安だし
      景気が良いとも、悪いとも分からないけれど
      ・・・でも、折角、良い幼稚園が見つかった
      のに・・・」
 ヒロミ:「でも旦那が言うには、園長が頑なに立即きを
      拒んでるって・・だからどうなるかは?分か
      らないけどね・・」
 綾:「その都市開発って大体、何年計画でやろうとして
    いるの?もう随分前から看板とか立ってて、工事
    とかしているってTVで聞いたけど?」
 ヒロミ:「多分、ここ2年前から指定都市になったと思
      うし・・工事が始まったのは1年半位前だ
      ったと思う・・カノンの住んでるイテオン
      のマンションも飛ぶように売れてたよね?」
 カノン:「え?そうなの?知らなかった・・パパが
      会社で探してくれたって言ってたから・・」
 綾:「カノンは、相変わらず呑気だな〜」
       と言って笑った。

 ヒロミ:「カノン、まだ時間ある?実は、綾と今日は
      リラ幼稚園のお受験の為の洋服を見に来た
      の。シオンちゃんのも見ようよ。」
      と、言われカノンは「え!お受験用の洋服
      ?」と言った。
 綾:「そうだよ、天下のリラ幼稚園、御用達のお店が
    この新村にあるんだよ。1着300万Wかな?
    それに合う親の洋服は二人で700万Wとか
    って言われてるよ。バッグだって靴だってそ
    の他にかかるし・・お受験だけなのに凄いお金
    がかかるんだよ。うちはスンジュの稼ぎは期待
    出来ないから、実家の父と母に頼んだわ。」
 ヒロミ:「うちもトンスはWワークしているけれど、
      リラは大変だわ。だから実家に頼ってる
      の。カノンは、ソンジェさんが旦那さん
      だから、心配ないわよね?」と言われ、
  改めて、カノンは自分が呑気だった事を知った。
  リラ受験の洋服代だけで100万円はする・・
  万が一、入学してからも莫大なお金がかかる・・
  それらをどう捻出してゆくかを考えると気が遠く
  なって来た。
  カノン:「うちは、記念受験だし・・絶対に落ちる
       し・・万が一でも入ったとしてもお金も
       ないし・・頭もない・・シオンには向い
       てない・・だから余りお金かけたくない
       な〜」と、呟いた・・・
 ヒロミも綾も呆れて「私たちだって、受かるか分か
 らないけど、記念受験でも人並みの事をしてやろうと
 思ってるの・・きっと後で子供に感謝されるわよ・・
 うちのママやパパは自分の為に頑張ってくれてたん
  だって・・・だからカノンも一緒に見に行こうよ、
  ねっ?」と言った。カノンは「うん、、じゃあ、
  行こうかな?」と言って笑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 リラ御用達の新村の店はお受験を控えた母親たちで
 賑わっていた。整理券まで配られている程の賑わい
 だった。

 カノン:「わぁ、凄い人だね・・まるでDFSの
      ヴィトンとかの売り場みたい・・」
      と目を丸くして言った。

  最後尾を探して並ぼうとすると、綾が「ねぇ、
  カノン、AXかダイナースとかのブラックカード
  持ってない?あとソンジェさんが夫である証明
  とかある?」と聞いた。
  カノンは、カードも証明書も持っていると言うと、
  ちょっと来てと言って、お店の受付に行った、
  それを受付に見せると、直ぐに支配人らしき人が
  もみ手をしながらやって来て、どうぞ、ご覧にな
  って下さいと言った。
 カノンはこう言ったズルは嫌いなので、ちゃんと
 並びますと言ったが、いえいえどうぞ、どうぞと
 無理やり内に通された。ヒロミも綾も便乗した。
 店の内でも、ステータスが特別高い人と、一般人
 との差が出ており、カノン達はステータスが高い
 部屋へと移された。客層はグンとグレードが高い
 人達が優雅にお茶を飲みながら、店員とパンフを
 見ながら話をしていた。
 すると、奥の方から聞き覚えのある笑い声がした。
 
    サヤカだった・・
  サヤカは、カノン達を見つけ、「あら?貴女達・
  ・・どうやってここに入れたの?・・あぁ、カ
  ノン、貴女ね?貴女のお父様のカードを見せた
  のね?」と冷笑した。

 カノンはサヤカの嫌味を理解せず「サヤちゃんも
 見に来たの?ここのお店って凄いね?」と笑って
 キョロキョロと見まわしながら言った。

 サヤカ:「あら?あたくしは、今日はお洋服を取
      りに来たのよ。ほら、家は双子だし、
      早くからオーダーしておかないと・・
      間に合わないでしょう?最高級の物を
      作って貰っているから、、、カノン達
      はまだ見るだけなの?間に合うの?」
 カノン:「へぇ、もう作っちゃったんだ。凄いお
      金がかかったんじゃない?お金持ちは
      違うね〜、サヤちゃんはやっぱり凄
      いね。私はこんな高級なお店、似合わ
      ないし、お金ないからどんなに頑張っ
      ても1着しか買えないかも?えへへ」
      ・・・と笑って言った。

 サヤカは「フフン、カノンもカードを使えば
      いいじゃない?それともソンジェさ
      んのお金を使えば?」と言ったが、
   カノンは「無理、無理・・うちは無理」と
   笑って言った。

 サヤカは「それじゃあ、車を待たせてるので、
      御機嫌よう、皆さん」
          と言って立ち去った。

 ヒロミも綾も「何なの?お高くとまって!」と
 言いながらも、カノンの親戚でもあり、とてつ
 もなくセレブな環境にいるサヤカが羨ましかっ
 た。

 店員に勧められるお受験用の洋服は最低でも
 300万ウオンはした。

 店員:「先ほどの権様の奥様はこちらのお洋服
     をお仕立て下さいました。」とわざわざ
     教えてくれたが、女の子の洋服は80
     0万Wで男の子のは750万Wだった。
     両親のものはそれぞれ1000万Wで
     4人分で3550万W=350万円位
     洋服代だけでかけた物だった。

 カノンは0の桁が違う生活ぶりに、サヤカは凄い
 と思った。
 ソンジェは確かに有名な音楽家で収入もかなりある
 方かもしれないが、カノンは無駄遣いが好きでは
 ないし、慎ましく暮らす事が当たり前だと思って
 いたし、特に欲しい物はなく、買い物も好きで
 はないので、お金は使わず全て貯金に回した。
 ソンジェも育ちは良く大金持ちの子息だったが
 早くから独立し、自活をしていたので、お金の大
 切さを知っていた。


 結局、3人は、何も買わず・・買えず店を後に
 した。

 綾:「何か、差を感じるね・・」
 ヒロミ:「うん、うちはやっぱりリラは無理かも?」

 カノン:「うちだって最初っから無理だと思って
      るよ。子供のたった1回の受験の為に
      大金をかけられる親ってやっぱり凄いね。
      リラ幼稚園にはうちは私が作ったお洋服で
      行くことにしようかな?」と言った。

 ヒロミ:「あっ、そうか、カノンは家庭科の女王だ
      もんね、良いな〜手先が器用だし・・」

 カノン:「だったら、ヒロミちゃんや綾ちゃんたちの
      分も作るよ。私はどうせ昼間は暇だし・・
      デザインも、さっきあのお店で貰ったパ
      ンフを見ながら作ればいいんだよね?」
 綾:「え?いいの?」
 カノン:「うん、私ので良ければ・・その代わり、
      布とか用意してね。」
 ヒロミ:「じゃあさ、東大門市場に今から行かない?
      布とか一杯売ってるよ」
 カノン:「喜んで!わぁ、何か楽しくなって来たよ。
      私はやっぱりこっちの方が気楽で楽しい
      かも?」と言って笑った。

 ヒロミも綾も、カノンはやっぱり変わらず天使ちゃん
 だと思った。大金持ちの恵まれた環境に育ちながらも
 少しも威張ったりせず、更には可愛い容姿は誰からも
 愛されたし、優しい女の子だった。
 誰の悪口も言わず、真っ直ぐで、純粋で・・誰もが
 カノンが好きだと云うのが分かる気持ちがした。

 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 
 
 車の中でサヤカは優越感に酔いしれていた・・
 カノン、どう?私は貴女には負けないわ。
 シオンがどんなに良い子でも、ソンジェさんがどんな
 に有名な音楽家でも、権家にはかなわない事を、思い
 知って欲しいわ。
 次はお受験だわ。シオンは落ちて、今にも潰れそうな
 カササギ幼稚園かしら?アハハハ、愉快だわ。
 例えリラに運よく入ってもうちのソラミの引き立て役
 にしてやるわ・・
 ヒロミや綾の子供も同じ・・所詮、うちの子供の引
 き立て役よね・・・でもその前に受かるかしら?
 アハハハ・・・
 あの店の洋服で1番良い物を私が先取りしたから、
 、、さて3人はどんな洋服を用意するのかしら?
 楽しみだわ・・・

  サヤカは高らかな笑いをたてながら帰路に向かった。

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