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作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第17回   17
オンマ、オンマ〜
シオンは泣きながらカノンのもとへ駆け寄った。

カノン:「・・・どうしたの?シオン?・・・」
    
    カノンは泣いているシオンの涙を拭きながら膝ずき、笑顔で言った。

シオン;「・・アッパが・・・アッパが・・・」

    
    「アッパがどうしたって?」・・少し遅れてソンジェがキッチンに
     入って来た。

カノン:「 ソンジェ・・」

ソンジェ:「シオン、さあピアノの特訓だ。頑張ろう、ソラミちゃんだって
      かなり頑張って練習してあそこまでになったんだ・・・
      アッパの娘のシオンだって、ちょっと頑張ればソラミちゃんよりも
      上手くなるさ。朝ご飯の前にもう一頑張りしよう。
      これから毎朝特訓だよ。」

シオン:「 オンマァ・・」
    シオンは必死に助けを求めた。

カノンは「シオンはまだ幼稚園児よ。それに、いやいややっても上達なんて
     しないと思う。・・・オッパちゃんはシオンをピアニストにさせたい
     の?」

ソンジェ:「天才音楽家の娘のシオンが何故、ピアノ1つちゃんと弾けないんだ。
      しかも君の親戚の姪っ子と同い年でありながら、、、カノン、君も
      ソラミの演奏、聴いただろう?素晴らしい演奏だったじゃないか?
      皆、リラ幼稚園に入るとその才能が開花すると言われている
      のに・・どうしてうちのシオンは才能の成長がないんだ?
      きっとそれを引き出す努力を我々がしなかったからだと反省したん
      だ。カノンは黙っていて欲しい。君には才能を磨ける教育は
      出来ない。さぁ、シオン、練習だ。」

カノン:「オッパちゃん、音楽は音を楽しむもの・・今のシオンは音楽
     よりもお絵かきや運動やお友達と遊んだりすることの方が楽しい
     の・・無理やりピアノを弾かせてもピアノや音楽自体も嫌いに
     なっちゃうと思うから・・・」

    バシン・・・大きな音がした・・・カノンの頬が熱くなった。
ソンジェは、「うるさい」と言ってカノンの頬を叩いたのだった。
     結婚して初めて・・・いや出会って今日まで1度となく手を
     あげたことのないソンジェがカノンの頬を叩いたのだった。

     シオンはうわ〜んと泣きながら二人の顔色をうかがって、
     更にこの喧嘩は自分がソンジェの言う事をきかなかったせい
     だと思い「ミアネ(ごめんなさい)アッパ、ミアネヨ。
     シオン、ピアノの練習する・・」そう言ってソンジェの手を
     とった。

 ソンジェは、ハッとして「あぁ・・・そうだな、練習しよう。
             カノン、悪かった。僕はシオンを音楽家の
             子供としてふさわしい子供にしたい。
             分かって欲しい。練習が終わったら朝食に
             するから・・・じゃ、シオン練習しよう」
     と言ってピアノのあるソンジェの仕事部屋にシオンを連れて
     行ってしまった。シオンは何度も振り返りながらカノンを
     心配そうに見つめていた。
    カノンはオンマは大丈夫だからと言ってつとめて笑顔で
    ピアノの練習頑張ってのポーズを見せていた。  
   
     カノンは叩かれたショックよりも益々、ソンジェとの溝が
     深まってしまった事の方が悲しかった。


  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


ソンジェは人が変わったように厳しい冷酷な音楽家?というか指導者となって
いた。少しの指の乱れ、音の外れも容赦しなかった。

   「違う、シオン!」どうしてこの音が出せないんだ・・・
    1テンポ、遅い!
        あぁ、どうしてこんな弾き方をするんだ。
          ソラミちゃんは簡単に弾いていたぞ!」

   ソンジェの言葉は刃物のように鋭く矢のように
   シオンの心を突き刺した。

  泣きべそをかきながらもシオンは早くこんな悪魔みたいな時間が終われ
  終われと思いながら厳しい練習に耐えた。


 ソンジェ:「・・・今日はこれくらいにしよう。さぁ、ご飯にしよう。」

  シオンはまだソンジェの豹変した音楽指導者としての顔が怖くてブルブル
  と震えていた。

  無言のままの朝食だった・・・
  シオンはビクビクは止まらずソンジェの顔色をうかがいながらの食事を
  とっていた。


 カノンも無言だった。
 何を喋っていいのか分からなかった。
 
  
  ソンジェは立ち上がり「仕事に出かける」と云い渡し出かけて行った。


  車を走らせながらソンジェは気持ちが爽快だった。
  それは、韓国の家庭や家族と云うものを今、本当の意味で持てた気が
  したのだった。日本のように父親が弱くて威厳も無い・・・
  そんな家族ではなく、父親は家族の要であり絶対的な権力を持つ
  ・・・子供も妻も、皆、主である父親を頼りにする・・・そんな立場
  と云うかプライドが持てた気がした。
  男らしいとか凄いんだと云う事をカノンやシオンに分からせた・・・
  そんな気分だった。

  「きっと、カノンも僕が唯の繊細で優しいだけの夫ではないことや
   シオンにとっても天才音楽家の娘としての自覚を持たせてやった
   んだ・・だからこれで良かったんだ。ソラミよりも立派な音楽家
   の娘として育てたいし、マヤよりも才能ある娘にさせたい・・・
   だからシオンをもっと頑張らせないと・・・」

  ソンジェは心の中で何度も言い聞かせながら仕事場へと向かわせて
  いった。



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カノン:「シオン、ごめんね、アッパー怖かったでしょう?ごめんね。」

     カノンはシオンに何度も謝った。
     シオンは泣きそうな顔をしながらも謝る大好きなオンマを
     見ながら、顔を大きく横に振った。

     「ううん、少しも怖くなかった。でもアッパーがあんなに
      怒ったり厳しくなっちゃったのは、きっとシオンが、
      シオンがいけないんだと思った・・・」とシオンは言った。

カノン:「え?」

シオン;「昨日、ソラミちゃんのピアノを聴いてからアッパーが怖い人
     になっちゃった。アッパーじゃないみたいだった。
      でもね、ソラミちゃんは前はあんなにピアノが上手じゃ
    なかったけど・・でもソラミちゃんが凄く凄くピアノが上手に
    なっちゃったから・・・アッパーの子供のシオンは全然弾けない
    からアッパーがガッカリしたの・・・何でアッパーの子供なの
    にピアノが上手じゃないのかって・・・きっとシオンがいけない
    からなの・・・アッパが、ガッカリしちゃったのなの。」と
    言った。

カノンは「ううん、違う違う、シオンは少しも悪くない。シオンはお歌が
     とっても上手だし、ピアノだって上手だとオンマは思うよ。」

   今度はシオンが「え?」っとビックリした顔をしてカノンを見つめた。

カノンは、うんと頷きながら「うん、本当に上手だと思うし、なによりも
  音楽の楽しさをシオンは知ってるから・・・ピアノは音を出す道具の
  1つでしょう?だから頑張って練習すれば誰だって上手になるけど、
  シオンはもっともっと大切なものを持って居るから・・・
  だからオンマはシオンがソラミちゃんよりも上手だと思うよ。」

  「サムチョンも同じことを言うかな?」っとシオンは思った。
  カノン:「うん、きっと言うと思うな・・サムチョンは昔、大学生
       の時はバンドと言ってお歌を歌う人だったんだよ〜
       凄く格好良くて・・・うーん、イケ面でね、モテモテだ
       ったんだよぉ〜ユリ先生も、サムチョンが大好きだったし
       オンマもサムチョンが大好きだったから・・・歌は上手
       だしダンスも上手だし、楽器はアッパーの方が上手かも
       しれないけど、弾けないわけじゃない。何よりも音楽を
       楽しんでたし・・・だから音楽の神様はサムチョンの
       事が大好きだったと思うよ。シオンもサムチョンに似て
       いる・・・・」

       っと、言いかけた時に、カノンは鋭い痛みが頭に入り
       軽い眩暈を起こした。

  どの位、経ったのだろうか?
  シオンが心配そうにのぞき込みながら水で浸したタオルをカノンの
  おでこにあてて来た時に、意識を取り戻した・・・


 意識が薄らいでいく中で、そうだ、シオンはオッパであるテファに
 似ている部分が多かった。
 瞳といい、愛らしい顔や、音楽も楽器演奏よりも歌やダンスが好きだった。
 筋が通った言葉やいつもまっすぐで、優しくて、平等で人気者なところも、
 笑うとえくぼができるところも似ていた。
 サムチョンと出会ってから、シオンはアッパであるソンジェよりも
 サムチョンに心を許し魅かれている。
 でも、確かにシオンはソンジェと自分との子である。
  何だかしっくりいかないが・・・とてつもなく恐ろしい秘密が何か
  あるのではないか?とさえ思えてしまった。


  「あっ、ごめんね、シオン。今何時かな?」っと言って時計を
  見るとあれから1時間も経って居た。


 カノンは「ねぇ、シオン、オンマね、アッパーがとても怖い人だと
      このごろ思うようになって来てね、今日の朝も、シオンが
      嫌だと言っているのにピアノを弾かせようとしたり・・・
      アッパは済州島に居た時の優しいアッパーじゃなくなっちゃった
      気がしたの。でも本当のアッパーは済州島の時のアッパーじゃ
      なくて、今のソウルに居るアッパーなんじゃないかって・・・
      だからこれからはもっともっと厳しかったり怒ってばかり
      のアッパーになるんじゃないかなって・・・
      オンマはこのままだとアッパーがどんどん嫌い嫌いになっちゃう
      感じなんだ。シオンは、どう思う?難しいかな?」

 シオンは「オンマ、シオンもアッパーが怖いし嫌いなの。
      済州島に居た時は凄く楽しかったなのに、シオンは今のアッパー
      は嫌いなの。直ぐにソラミちゃんと比べるし、マヤちゃんとも
      比べるの。オンマの事もサヤカおばちゃんの方が美人だし頭も
      いいし素敵だって・・・前はそんなこと言わなかったのに。
      自分の事、天才音楽家だって言っていて、だから天才音楽家の
      子供のシオンはそれにふさわしい子供にならないといけないって
      言ったの。オンマ、シオンはピアノとか上手じゃないし、
      好きじゃないなの。上手に弾けないとアッパーがガッカリするなの。
      やっぱりオンマがサヤカおばちゃんやマヤちゃんのママみたいじゃ
      ないからだって・・・シオンは、オンマが1番・・・オンマが1番
      ・・・・」と言いながら泣きだしていた。

  カノンはシオンの気持ちが痛いほど分かり抱きしめながら「御免、ごめんね、
  シオン、泣かないで、ごめんね。・・・そうだ!オンマがサムチョンに歌って
  貰った素敵な歌があるから歌ってみるね?シオンがスマイルになるとイイナ。」

  カノンはテファと日本で付き合っていた時に、喧嘩したり泣きだしたりした
  時に、いつもテファが黙ってカノンに寄り添い、暫くすると歌い出す歌が
  あった。
  
  カノンの唄はシオンの気持ちを暖かく元気にさせていった。


  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


ソラミ(=本当はマヤ):「カイト、誰に言っても無駄よ、アンタってこの家では
           厄介者だし嫌われ者みたいね?アハハ、可笑しい。
           そうよ、私はマヤよ、ソラミじゃないわ。でもあんたの   
           大好きなお母様は、私をソラミと思っているし、今は自慢
           しまくってるわよ。あの音楽家のイソンジェ・・・つまり
           シオンの父親も、私をソラミだと思ってかなり褒めまくり
           ・・・自分の娘がつまらない子でガッカリしてたし・・・
           愉快でならないわね。アハハハ」

カイト:「・・・・」
    カイトは言葉が出なかったが、やっぱりソラミはマヤだったんだと思った。
     でもカノン叔母ちゃんは僕の事を信じてくれるって言ったし、僕は
     何としてでもソラミを救わないと!
     ここにいるソラミの偽物が本当はマヤだと云うことを知らせるには
     どうしたらいいんだろうか?
     どうしたら・・・
     お母様はどうしてマヤだと云う事を見抜けないんだろう?
     ソラミじゃないって・・・何で分からないんだろう・・・
     カイトは悲しくなって涙が出て来た。

     ソラミ(=マヤ)はそんなカイトの姿を見て可笑しくて仕方なかった。
ソラミ(=マヤ):「アハハハ、可笑しい、とっても愉快だわ。どんなに悲しん
          だって、悔しく思ったって、どうにもならないのよ。
          人が不幸になると私は嬉しいし楽しいの。あぁ、何て楽しいの。」


 
 そこへ階段を上がって来る音がしたのでソラミ(=マヤ)は咄嗟に泣くふりをした。

ソラミ(=マヤ):「お兄ちゃま、ソラミは悲しいわ、どうしてソラミに意地悪するの?
     ソラミがリラ幼稚園に入ったから?
     ソラミは唯、お母様が喜んでくれるように必死にお勉強やピアノを練習
     したりしたの。お兄ちゃまは、どうしてお母様を悲しませるの?
     お母様を怒らせたり心配させたり・・・でもソラミ、知ってるのよ。
     本当の事・・」



     「本当の事?」っと言ってサヤカが子供部屋に入って来た。

 サヤカ:「ソラミちゃん、本当の事って?」と云った。

 ソラミ(=マヤ):「・・・お兄ちゃま、本当の事を言っちゃうね・・・
           お母様、お兄ちゃまはね、シオンに変な事を
           言われたの。」
 サヤカ:「変な事?」

 ソラミ(=マヤ):「ええ、私たちのお母様はどう頑張ってもシオンのママには勝てない
           って・・・ 
                          
 お母様はシオンのママとは親戚だけど、知名度はシオンのママの方が上だし、
人気もある。お料理も上手だし、いつも朗らかだって・・・
それにお父様も世界的に有名な音楽家の李ソンジェでしょう?ルックスだって
美しい人だし、かなり人気もあるし・・・天才的な音楽家とも言われている。
自分はその娘だし、これからだって豊かな光の暮らしが出来るけど、ソラミは
幾らシオンのママとは親戚だって言ってもたかが航空会社のパイロットの娘、
権家がお金持ちだって言っても自分の父親の方が上だって・・・それに顔だ
ってシオンは両親の綺麗な部分を一杯貰ってるけど、ソラミはブスだって。
リラ幼稚園ではいつも私・・私は・・・私は・・・」と言って嘘泣きをした。


サヤカ:「・・ソラミ、ソラミちゃん、、、もしかしたらシオンに苛め
     られていたの?」

   

    カイト:「嘘だ!絶対に嘘だ!シオンちゃんがそんな事、言う
         筈は無いし、カノンおばちゃんは優しいし意地悪な
         人じゃない。ソラミ・・・いや、コイツは妹のソラ
         ミなんかじゃない!!・・・」

    真っ赤に震えながら叫ぶカイトに、サヤカは

      「黙りなさい、、、うるさい!カイト」と怒鳴った。


    カイト:「・・・お・・母・・・様・・・?」

サヤカ:「黙りなさい、カイト。ソラミちゃん、ごめんね、お母様が
     悪かったわ。リラでずっとカノンやシオンに苛められていた
     のね?よしよし・・お母様がソラミの事を守るから、安心
     しなさい。シオンがそんな生意気な事を言ったのね。
     許せないわ。そしてカノンも・・・」

    カイト:「何で嘘つくんだ、お母様、信じたらダメだよ。
         カノンおばちゃんはいつもいつもお母様は凄いって
         言ってるし自慢だって。韓国に一緒に住んでいて
         心強いって・・・ソラミだって僕にだっていつも
         優しくて、、、、」

   サヤカはカイトの言葉を遮る為に「あぁ、煩い!カノンやシオン
                   の話は止めて頂戴。
                   ソラミちゃん、昨日はシオン
            よりも上手にピアノが弾けたわね?
            あの時のシオンとカノンの顔ったら・・・
            愉快でならなかったわ・・・本当に・・・
            おバカなカイトは置いて、二人でお出かけ
            しましょうか?
            美味しい物食べに行きましょうか?ねっ?」

    涙顔のソラミの顔を手でぬぐいながらサヤカは笑顔で
    ソラミに言った。

    ソラミ(=マヤ):「はい。お母様。」
      
 
    二人は子供部屋を後にサッサと出てしまった。
    一人残されたカイトは、涙があふれ床にポタポタと落ちた。
 
      お母様は病気だ・・・
      きっとこれはマヤの毒の刺がお母様にささったんだ。
      
      お母様・・ママン、僕は何としてでも本当の妹の
      ソラミを助けるし、ママンを元のママンにする!!

     カイトの中で何か熱い物がこみあげて来た。




 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 一方、本当のソラミであるソラミがいるマヤ家でもささいな
 反抗が起こっていた。

 マヤ(=ソラミ):「お家に帰りたい・・・お母様〜、お父様〜
           お兄ちゃま〜」

 謎の老婆:「ホホホ、無駄よ。今は、マヤが権の家でソラミとして
       過ごしているから。二つの家はね、今に悲鳴を上げて
       共倒れよ。ホホホ」

  


    ソラミは何を言っているのか分からなかったが、唯、早く家に
    帰りたい一心で泣いたり喚いたり暴れたりした。

   老婆:「何をやっても無駄・・今は時を待ちなさい。聞き分けの
       ないガキね。あぁ、うるさい。
       ソラミ、あんたは今はマヤなの、分かってんの?
       今日はマヤの母親が家に帰るから、上手くやるのよ。
       変な真似したら承知しないからね。いい?」
  

      そう言いながら
     老婆は立ち上がり、部屋から出て行き外側から鍵をかけて
     行った。

     このソラミがいる部屋は中二階にあり、誰にも気づかれない
     場所にあった。窓はあるが外側からは目立たないようにな
     っており外の景色は見えるが外側から中の様子は分からない
     ようになっていた。窓は鉄格子になっており逃げ出せない
     状況で、窓を開ける事も出来なかった。
     外の空気は僅かばかり開けられる吹き抜けになっている天窓
     がありそこを自動スイッチで開ける事が出来た。当然、天窓
     へはよじ登って上がれる場所でもなく高く遠い外の世界だった。
   
     中の音は全て防音装置になっていた。
     この中二階の部屋は縦長になっており、トイレや風呂も完備
     されていた。

     ソラミはこれから自分はどうなるのか?とてつもなく恐ろしく
     なり、それでも抵抗する外なかった。
   


     「お兄ちゃん・・お兄ちゃんは家にいるソラミは本当のソラミ
      じゃないって分かってくれる筈・・お母様だって本当の子供
      じゃないって思ってくれる筈。お父様はどうだろう?
      いつもお仕事でいないから、間違えちゃうかも?
      でも、マヤちゃんがどんなに頑張ってもソラミにはなれない
      ・・・でも今は家族を信じよう」ソラミは、強くそう思った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





    シニャン:「ソンジェ、そこはちょっと粗くないか?」


   ソンジェはシニャンに自分の作品に待ったをかけられて
   顔を曇らせた。

    ソンジェ;「いいんだ、この作品にはこの音が必要なんだ。
          粗くは無い。いい出来栄えだ。」と自信満々に
          言ってのけ、シニャンの意見を跳ねのけた。


 女子社員達も、給湯器のある場所でソンジェが最近、荒れていたり
 イライラしているのが分かっていた。

  女子A:「ソンジェ先生、何か最近、イライラしていて怖いって
       言うか、、顔も凄く冷たい感じ。」
  女子B:「うん、分かる。私もそう思ったよ。何か冷酷な感じ。
       顔がとても端整だから何か冷たい顔つきがするよね?
       前はあんなじゃなかったのに・・・」
  女子C:「私ね、ソンジェ先生と同じ大学だったんだけど、凄い
       噂知ってるの。どうやら天才ピアニスト呉ジナとの
       ことが絡んでるんじゃないかな?百済大学のロミオと
       ジュリエットの噂なんだけどね・・・」

       何々と興味しんしんで人が集まって来た。


  一通り、話が終わった後で女子B:「でもさ、ソンジェ先生、今は
     結婚して幸せな家族がいるんでしょう?大学時代のその話は
     とっくに終わってるんじゃないの?」

   女子C:「でもさ、お互い音楽家と云うか音楽の道でまた再会し
        て知名度も高いでしょう?やっぱり音楽を志す者同士
        の方が、意思疎通出来るし、いいんじゃないの?」
   女子A:「そうだけど・・・呉ジナは美人だし、ピアニスト
        としても世界を代表する人だものね。ソンジェ先生も
        韓国では1番の音楽家だし、世界的にも認められて
        いる音楽家だしね。」
   女子C:「しかも、聞いちゃったんだけど、ジナの子供も、
        ソンジェ先生の子供もリラ幼稚園らしいよ。」

          リラ幼稚園!!

    ソンジェ先生の子供もリラならかなり優秀の筈・・・
    
   女子B:「もしかしたら、子供同士の確執?ジナの子供が
        才能が上で、ソンジェ先生の子が下だから悔しい
        んじゃないかしら?」

   

      「お茶はまだかな?喉がカラカラなんだけど?」

      ・・・・っとシニャンがお茶の催促に来てこの話は
      いったん終息した。


シニャンはお盆のカップを1つ取りお茶を飲みながら
蜘蛛の子を散らす様に退散した女子社員を見つめながら、本当に
最近のソンジェは変だと思っていた。
作品にも克明に表れていたからだった。刺々しくて荒々しくて
絶望的な・・・何だかソンジェの本当の性格は寧ろこういった
激しく刺々しい物なのかさえ思えて来た。それはそれで何故か
印象が強く残り素晴らしい作品にはなっている・・・
赤と黒、いや闇の世界とピュアな光の世界・・今はソンジェは
深い闇の中にいる感じがした。
  だが・・・凄いぞ、ソンジェ、お前はやっぱり音楽の
           天才だ!!
    どちらも素晴らしい。
      闇の世界の方が、ゾクゾクする・・・
        新しい音楽の世界を創りだせるかもしれない。

 シニャンは、わくわくしながらソンジェのいる部屋へと
  戻って行った。



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カノンもまた息が詰まりそうだったので、シオンを連れてホンデの
近くのショッピングストリートに来ていた。
シオンは、朝の事はすっかり忘れたかのようにいつもの笑顔で
ニコニコしながらえくぼを作っていた。

ここは英国のロンドンならピカデリーサーカス、日本なら東京の原宿、
と云った感じで芸術とかファッションとか最先端な文化の街の感じが
するところだった。
 カノンはホンデの大学を指差して「シオン、オンマが大学生の
夏休みにこの大学で韓国語の勉強をしたところ」と云った。

 シオンは大きな建物を見て「わぁ、大きいですねぇ」と云った。

通りを挟んで正門前にあったコーヒーショップやドーナッツショップは
今は無く、学習塾の建物になっていた。
カノンは、シオンにちょっと休んで行こうとしてお店を探したが、
当時とはかなり変わってしまった感じに10年の月日の流れを感じた。
 しばらく二人でキョロキョロしていると日本語が聴こえて来た。

観光客の中高年のアジュンマがガイドブック片手に「おかしいな?この辺に
パンケーキが美味しいお店があるんだけど?「f」って言うお店なんだ
けど・・・」と言って行ったり来たりしていた。
 するともう一人のアジュンマが「あっ、あれじゃない?「f」って書いて
 あるよ」と言って、そうだそうだで走り歩きして行った。

  カノンも便乗して「f」に入ってみたくなった。
  シオンの手を取って「f」に向かって歩き出した時に、

   「あっ!」っと急に立ち止まった。


    大好きなオッパと逃避行する前に、打ち合わせをした
    隠れ家のお店があったのだった。

     確か、ここだ!! 

     カノンは「f」に行くのを止めてそのお店に入る事に
     した。ドアを開けるとカランコロンとベルが鳴った。

  可愛いミニチュアのおもちゃの飾りが沢山あって、ちょっと
  奥に行くと地下に続くもう一つのお店の部屋があった。
     やっぱりここだ!!


         カノンの心は高鳴った。

   するとマスターらしき男性が出て来た。

        「オソオセヨ(=いらっしゃい)」

         お店にはお客さんは誰もいなかった。

    カノンとシオンは席に就いて
       
           「クリームソーダ2つ」と云った。

お店は多少、古くはなっていたが当時と変わらない装飾になって
いて時間が止まっている感じさえもした。
 ふと本棚を見ると沢山のノートが置かれていた。

  マスター:「あぁ、そのノートは10年くらい前かな?
        このお店に来た人が誰彼となく書き始めて、
        日記みたいになってるんですよ。
        誰かと待ち合わせで退屈しのぎに読む方も
        いますよ。殆どがホンデの学生さんたちが
        書いた物です。ホンデは芸術学科の学生さん
        が多いから中には無名時代の作家や画家が描いた
        ものもありますよ。」と言って笑った。


   カノンは、一番古そうな10年前のノートを手にとって
   パラパラとめくって見た。

   色々な人達の呟きが書かれていた。
   漫画もあった。シオンが、新しい今年のノートに絵を描
   きたいと言ったので、マスターは「いいよ」と言って
   クーピーペンを貸してくれた。
   歌を口ずさみながらシオンは可愛い絵を描いていった。

   カノンはページを食い入るように見た、そこには懐かしい
   大好きなオッパの文字があった。

    今日は卒論を出す、後は運を天に任せ、来年は日本に
   行くため、資金を稼ぐためにバイトを始めようと思うとか・・

    日本に戻った彼女は元気だろうか?・・つまり彼女とは
    カノンのことだった。

   他にもテファの呟きはないかとノートを探すとところどころに
   テファの文字を見つけた。

   今も、時々来ている様子だった。


   カノンはペンを取りだし、テファが書いた文の余白に返事を
   書いて行った。この時は自分はどんなだったとか・・・
   こうしていたとか・・・


   クリームソーダのアイスが溶けているのも忘れて夢中で
   書いていた。

   シオンは絵が描き終わり、クリームソーダを飲みきっていた。


       「オンマ、おしっこ」と言ってカノンの洋服を
        引っ張った瞬間に、我に返ったカノンだった。


   「あっ、御免、ごめん。おトイレに行こうね。」と言って
    慌てて立ちあがった。
   
    トイレから戻って来て、カノンは勘定を済ませ
    「ご馳走様でした」と言って店を後にした。


     マスターはノートやクリームソーダを片付けながら

    フト、カノンが食い入るように見て走り書きしていた
    ページを見てみた。

    え?ヂョンテファ???
    あのホンデのヂョンテファ?の所にコメント?
    もしかしたら、彼女が、テファの・・日本での彼女??
    
       だが、チョンテファは今も独身で、、、
     彼女はどう見ても結婚していたし、彼女にそっくりな
     子供もいた。
         いや、彼女に・・・と云うよりもテファに
          そっくりな娘がいた・・・

      テファの隠し子なのだろうか?

      いや違う、、、、
          なんだか波乱が起きそうな感じがするな
             っと背筋が寒くなるような
      気がしながら、マスターは片付けをして行った。


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  おかえりなさいませ、ジナ様


 お手伝いたちは一斉に一礼しながら、帰宅した呉ジナに言葉を
 発した。



ジナ:「みなさん、ただいま。留守中はご苦労様でした。
    何か変わった事はあったかしら?」

お手伝い頭:「いえ、特にはございません。」

ジナ:「・・そう・・?それならいいけど・・。マヤはどうだった
    のかしら?また我儘言ってなかった?」

お手伝い:「いいえ、お嬢様は良い子でしたよ。」

ジナ:「え?珍しいわね・・・いつもは散々なのに・・・」

お手伝い頭:「お嬢様にお会いになられますか?」

ジナ:「いえ、いいわ(=会いたくないわ)今日は疲れたし、
    温かいお湯に入って眠りたいわ。」


     お手伝い一同は「かしこまりました」として
     お風呂の準備に向かった。





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「海仁、帰らなくていいの?」

女はベッドからガウンをはおり、ワイングラスにブランデーを注ぎながら1つをベッドにいる海仁に
そしてもう1杯は自分にと片手に持ち飲みながらカーテンを開けた。


海仁:「・・いや、いいんだ。妻は私には興味が無い。」

女:「え?」

海仁:「元々、この結婚は妻のプライドだけで押し進められたものだった。
    私は、彼女の条件に合うだけの1つの駒に過ぎない。
    愛情はこれっぽっちもない・・それが最近になって感じられ、、、
    この結婚は失敗だった。とんでもない間違いをしてしまった。
    済まない・・・君の姉さんにも辛い思いをさせてしまった・・・済まない。」

    海仁は深く項垂れた。
    女は海仁に寄り添い、背中をさすった。
    この女は、かつての海仁の妻になるべきCAの妹だった。
    姉は、サヤカと争ってその闘いに負け、KEを去った。
    それからは何をしても上手くゆかず転落の道を辿った。
    すっかり体調も悪くしたのだった。
    そんな折に届けられたのは海仁とサヤカの挙式への招待状だった。

    心の弱くなった姉へのトドメの一撃だった。
    姉はそれを苦に自殺をした。結婚式の5日前の事だった。
    5日前は丁度、姉の誕生日でもあった。
    家族は泣き叫んだ。
    親戚は手のひらを返したかのように、親戚の恥だとか名誉を汚された
    とか冷たくなった。自殺者を出すなんてと罵られた。
    妹である自分も、就職は取り消され逃げるように家族で夜逃げと
    なった。惨めな生活だった。
    遠目で、海仁たちの艶やかな挙式を見た。幸せそうな花嫁を見て
    ひっそりと寂しく死んでいった姉を思った時、妹である自分は、姉の
    敵をうちたいと思ったのだった。

    何としてでもKEに就職してやりたいと思うようになり、必死で勉強をし
    金にも貪欲になった。金を稼ぎ努力の末、KEで働く事になった。
    もともと同じ血が流れる姉妹、姉に良く似た妹と恋に堕ちるには
    時間はかからなかったのだった。
    海仁も奈落に落としてやると思ってはいたが、妹もまたこの海仁に
    恋してしまった事が誤算だった。

      だが、海仁も自分に恋していることを知り、どうしてもサヤカから
     奪い取ってやりたくなった。
     元々は姉さんの恋人だったのだから返して貰うわよっと、妹は
     心に誓ったのだった。

     妹の名は「ジュリア」沸々と復讐の炎を燃やしていたのだった。


    海仁;「あぁ・・・ジュリア、、、愛している。もう私にはジュリアしか
        いない。ジュリア、ジュリア」


       海仁はジュリアを激しく抱きながら何度もジュリアの名前を
       呼んでいた。




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      ソンジェもまたカノンとは言葉を交わしたくない様子だった。
      

ソンジェ:「カノン、暫く仕事で缶詰だ。悪いが家には帰れない。
      ベルリンへも直接、事務所から行くから、悪いが洋服とか旅行の
      物を事務所に届けて欲しい。」っとカノンに電話で知らせた。


 カノンはホットしながらそれでもそんな気持ちを伝えてはならないと思いながら
 つとめて「え?じゃあ、帰国はいつですか?」と聞いた。

ソンジェ;「8月30日になりそうだ。暫く会えないから荷物を届けてくれた時に
      家族で食事をしよう。朝鮮ホテルのレストランを予約しておくから
      そこで食事をしよう。」

カノン:「じゃあ、荷物は明後日、事務所に届けますね。届けたらシオンと
     一緒に朝鮮ホテルのレストランに行けばいいんですね?
     時間は18時・・・分かりました。明後日・・お身体気を付けて下さいね」
     と言って電話を切った。


    カノンは何故か満面の笑みだった。
                       やった!!

    ソンジェと顔を、言葉を交わさなくて済むと思うとウキウキして来た。

    そして直ぐにヒロミに電話した。


 ヒロミ:「やったね、カノン、神様はカノンに味方してるって感じだね。
      ねぇ、明日、綾と私で会わない?作戦立てようよ。」と云った。

   カノンは「賛成!」と言って笑った。

   ヒロミの方から綾に連絡してくれる見たいだったし、ヒロミが待ち
合わせ場所に何と!「ブラックスワン」と云うお店を口にしたのだった。


カノン:「ブラックスワンて凄い人気で予約も取れないんでしょう?」

ヒロミ:「そうなんだけど、やっと会員に綾がなれて、丁度明日会う事に
    なっててね、予約してあるのよ。アハハ」と笑った。

カノンも一緒に笑った、久し振りに心の底から笑えた感じがした。




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綾とヒロミとカノンは子供たちを子供園に1日預かって貰う事にして
ブラックスワンに向かった。

  最近、韓国の若いお母さんたちは子供園を利用する事が多く
  なった。お金を出せば子供を遊ばせてくれ面倒・・と云うか世話を
  してくれるのだった。勿論、メニューは様々で、唯、遊びをさせたり
  勉強、趣味(陶芸や料理、手芸など)スポーツ(プールや体操)
  など色々あった。

  1時間3000W〜で見てくれる子供園は高いと云う人もいれば、
  助かると云う人もいてさまざまだった。

   カノン達はランチとおやつ付きで遊んで貰うコースを選び余裕を
   持って5時間とした。一人20000Wをそれぞれ支払った。

TDLやTDSより安いし、考えたらご飯も出してくれるのだから安い
よねと綾が言った。二人も同感だった。

韓国のアルバイト料金はとても安い。例えば喫茶店のウエイトレスは
時給300円位だし、正社員として働いたとしても時給計算だと
400円か500円だからだ。
故に日本にワーホリで来ている韓国の学生たちは時給が高い日本での
アルバイトは嬉しいことの1つだった。韓国の下手をしたら3倍の時給が
貰えるからだった。

  今は韓国と日本の関係がかなり悪くなっていて、更に韓国では
  経済状態がドンドン悪くなっているようだった。
  悪い事は、何故か日本がいけないんだと云う噂も耳に入っており
  関係が悪化する一方だった。
  
しかし、それでも韓国が好きだと云う日本人は少なくは無いし、まだまだ
韓国ブームの火は消えていなかった。
韓国映画が日本に上陸すれば、ほぼ満席になる映画館だったし、
新大久保のコリアンタウンもまだまだパワーが一杯だった。




ヒロミ:「これが噂のブラックスワンか〜」
綾:「やっと会員に慣れて予約が取れたのよ。凄い観劇だわ。」

カノンは流石にもう1回来ていてそれも10年前のユリの恋人の
経営する店とは言えずにいた。

 「いらっしゃいませ」と言われて個室のような部屋に通されて、
 飲み物が出された。

 ヒロミ:「雰囲気も良いし、美味しいね?」
 綾:「うん、凄く落ち着くね?」

二人はキョロキョロしながら興奮していた。カノンは可愛いなっと思って
しまいずっと笑顔でいた。


ヒロミ:「・・・さて、じゃあこの夏休みの計画・・・と云うか作戦会議に
     入ります。司会進行は・・・エッヘン、この私が致します・」

綾:「ヒロミっていつも仕切り屋やりたがるよね?まっ、いいっか〜
   前置きはいいから早く決めようよ」

カノン;「場所は、10年前と同じで束草でいいの?」

綾:「うん、束草でいいのよ。」

ヒロミ:「多分、かなり変わってると思うし、あの時の面影とかないかもよ」

カノン:「例えなくても、また行ってみたいな。あの時の夏の事、最近、よく
     夢に出て来てね、あの時よりも鮮やかに覚えている感じなの。」

綾:「カノン・・そっか、そうだよね。私も行ってみたいな。懐かしいよね。」

ヒロミ:「あの時は凄い事件が合ってさ、バタバタしてたけど、今回は事件は
     起こりそうもない感じだしね。」

綾:「テファさん、来られるの?」

カノン:「うん。行くって言ってた。オッパ、楽しみにしてるって笑顔で豪州に
     仕事に行ったよ。偶然だけど、空港のお見送りも出来たんだ。」
綾:「え?何それ?」




    一通り話を聞いて二人は顔を見合して頷いた。

ヒロミ;「やっぱり、神様はカノンの味方かも?」

       カノンはきょとんとした顔をした。
ヒロミ:「こうして10年経った今、またテファさんと巡り合わせたり、カノンの
     気持ちをテファさんに向かわせたりしているんだもの。
     やっぱりカノンとテファさんは強くて深い縁で結ばれていたんだと
     思うよ。」

綾:「そうだね・・・どっちにしても、今回の旅行で結末が分かる感じがするな。」


カノンはそうかもしれないと思った。少なくとも、もうソンジェに対する愛情が
 なくなってきている。多分、もうソンジェとは修復は無理だと思った。
 一方、もしテファともダメになっても・・・当然、もう上手くは行く事はない
のだと思ってはいるが、そうしたら自分はシオンと二人でどうやって生きて
行こうか?どうしようかを考えようと思ったのだった。

カノン:「あのね、もし、この夏の事がきっかけでもう二度とイテウオンの
     APTに戻らない事があっても二人とも心配しないでくれる?
     必ず落ち着いたら二人に連絡するから・・・」と云った。


二人は、真剣な顔で「勿論よ」と云った。何が合っても二人はカノンの
友達であり味方だと云った。


   カノンは、満面の笑顔で「有難う」と云った。



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シオン:「オンマ、どこかにピクニックに行くの?」
    シオンはカノンが沢山のおにぎりやおかずを作って
    バスケットに詰めているのを見て、ぴょんぴょんと
    カノンの周りを跳ねまわりながら言った。

カノン:「ブッブー、外れ〜!!・・実はこれはアッパーの会社の
     人達への差し入れなのよ。」

シオンは、なーんだと思いガッカリした。
カノンは、笑顔で話を続けた。「アッパーは、ずっと会社に居て帰って
               来られないくらい忙しいし、それとね
   そのまんまドイツという外国に行ってお仕事をするのね。
   帰ってくるのは8月30日だって・・・それでね、ドイツに行く
   時に必要なお洋服とか色々と、今日は届けないといけないの。
   シオンも一緒に行くのだけれど、手伝ってくれる?」

シオンは「うん」と頷き笑った。

カノン:「良かった〜、あっ、それからね、暫くアッパーに会えないから
     今夜は皆でお食事をしようってなったの。ホテルでのお食事だ
     から、お洒落して行かないとね?」

シオン;「・・シオン、アニマルズでご飯が食べたい。」

カノン:「ごめんね、アニマルズはまた今度ね。今日は朝鮮ホテルって云う
     高級レストランらしいの。アッパーがもう予約しちゃったみた
     いだから・・・ごめんね。」と云った。


    アニマルズは今、ソウルで流行している家族向けのダイニング
    キッチンでシオンはここの「トキコース」がお気に入りだった。
    トキ=兎なのだが、お皿や食器には全て兎のマークがあり、
    兎さんの顔の形をしたお肉やピラフ、甘く煮込んだ人参、
    人参と苺のミックスジュースや兎にちなんだデザートやご飯が
    ふんだんに盛り込まれていた。
    好きな動物によってメニューが違うのだった。
    


 シオンは大好きなオンマを困らせたくなくて、、、更にはアッパーが
 また不機嫌な顔をするのが嫌なので、笑顔で「分かった〜」と云った。
   そして子供部屋に行き、水色の可愛いワンピースを取りだして
 「オンマ、これ着て行く!」と云った。


    カノンは「そうね、それがいいね」と云って笑った。







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 ソンジェ:「シオンに何で水色のワンピースで来させるかな?」


   ソンジェは深いため息をつきながら不機嫌そうに言った。

  カノンもシオンも「え?」っと思い顔を上げた。

    
     (先にカノン達はレストランに到着していてソンジェの
     来るのを待って居た。
     朝鮮ホテルは5ツ星の高級ホテルであり、どこもピカピカ
     で普段、来なれてないカノン達には落ち着かない
     ところだった。)


   やっと朝鮮ホテルにソンジェが着いて
      二人を見るや否や席つきながらの言葉だった。


 ソンジェ:「シオンはピンクか赤が良かったかな?
       女の子はやっぱりピンクか赤が定番だと思うし、、、
       目立たないじゃないか。音楽家の娘として、レディ
       としてやっぱりシオンは1番でないと・・・」

 カノン:「水色じゃダメなんですか?」

 ソンジェ:「あぁ・・・君は分かってないね?韓国では赤が1番、
       女の子は赤かピンク・・・やっぱり君は日本人だな・・
       侍ブルー・・2番手、3番手でもいいじゃないかと云う
       負けや逃げ腰の日本人だ、そんな気持ちの表れなのか
       な?それとも僕に恥をかかせたいのかな?」
       と、嫌みっぽく言った。

   カノンはそんな大げさなとか、何で嫌みっぽく云うのかを
   思っていた時に

   サヤカとソラミが着飾ってやって来た。
   サヤカは黒とゴールドをあしらったドレス、ソラミは真っ赤な
   やはり金色の模様が入ったドレスで来た。
   

     「おまたせしました」と言った。
     ソンジェは「いや〜、綺麗ですね、サヤカさん、それと
     ソラミちゃんはお姫様見たいだね?」と言って褒めた。

    
    カノンはシンプルな白のワンピース、シオンも水色のワン
    ピースで可愛いデザインのもので日本の祖父母からのプレ
    ゼントだった。華やかさは無いが清楚で可愛いものだった。


   サヤカは自信に満ち溢れながら「今日は、お招き有難うございます。
   カノン、お久しぶりね?」と言ってチラリとカノン達を見て笑った。


  カノンは何でサヤカが今夜呼ばれたのか不思議でならなかったが、
  次の瞬間分かったのだった。



     場内が暗くなりスポットライトが中央にあるピアノに
     あてられると拍手喝采となった。

  司会者が「お待たせしました、本日のゲスト、呉ジナさんです。

       今宵はジナさんの演奏を聴きながらお食事をお楽しみ
       
       下さい。」と云うとまたまた大きな拍手が沸いた。


   ジナは真紅のチャイナドレスで髪や胸元・耳や指先には
   パールの装飾品があった。長い黒髪にとても似合っていて
   美しかった。

  ソラミ(=マヤ)は自分の母親を見て、あっ声をあげたが、
  お母様はやっぱり綺麗だし素敵だと思い、誇らしかった。


   ソンジェ:「今日、サヤカさんに僕の友人のジナを紹介し
         ソラミちゃんのピアノの指導をお願いしようと
         思ってね。それでサヤカさんとソラミちゃんを
         食事に招待したんだ。ソラミちゃんの才能は
         素晴らしいからね。」

   サヤカ:「ホホホ、そんなことないですわ。シオンちゃんに
        比べたら・・・カノンもシオンもうちのソラミに
        忠告して下さったみたいだし・・・」


    カノン・シオンは「え?」っとビックリして声をあげた。

   ソンジェ:「忠告ですか?」

  サヤカ:「ええ、そうよ。自分の夫や父親は天才音楽家、
       自分も天才だしソラミなんかに負けるはずは無い
       し、ソラミは頭も悪いしピアノも下手くそじゃない
       って・・・散々、苛めたそうなのよ。私は、まさか
       シオンちゃんがそんなこと言う筈はないって思った
       し、、、そしたらカノンがそう言えって言って
       るのかなって・・カノンは私がカノンよりも劣って
       ないと気が済まない性格だし・・」と意地悪く云った。

 カノンは(え?そ・ん・な、、、私は、、私はそんな事、1回も
      思った事ないし、ソンジェさんがどんなに有名で凄い
      音楽家でも威張ったりはしてないのに・・・)言葉を
      失い、口をパクパクさせていた。


  その瞬間、ソンジェの顔を見てもっと言葉を返すのを止めた。

 ソンジェが憐れんだ、、いやカノンやシオンならやりかねないな
 と云う顔付をし、深いため息をついたのだった。

  更に「サヤカさん、ソラミちゃん、心から申し訳なかった
     ですね。済みません。・・・ソラミちゃんは実力で
     リラ幼稚園に入り、そこから才能が開花したのでしょう?
     素晴らしいですね。うちのシオンはマグレか恐らく私が
     ちょっと名が知れている音楽家だったから入学は出来たが
     結局は努力を怠ったり、いや才能もなかったのか、
     みるみる転落ですよ。正直、恥ずかしいです。」とも
     言っていた。
  シオンは子供ながらも傷ついたに違いないし、カノンもショック
  だった。





      「誰が、恥ずかしいんですか?」



             後ろから声がした。




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