20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第15回   小さな嘘と大きな偽り
小さな嘘と大きな裏切り・・・


 カノンは大好きなオッパと会えて気持ちも分かり合えて嬉しかった。
 帰宅してからもずっとドキドキと鼓動が高鳴っていた。

    私はやっぱりオッパが好きだ・・・
      オッパとの再会を喜んでいたし、オッパと会えたり言葉を交わせたら
      嬉しくてドキドキでぃて、まるで10年前に戻った気分だった。


 ソンジェに対しては、罪の呵責があった。
 ソンジェの事は本当に愛してたのだろうか?と思った時にカノンは確かに
 愛し合って結婚したこと、今の生活にも何ら不満もなく幸せかと聞かれたら
 十分すぎるほど、幸せだったからだ・・・・
        

              しかし・・・

 10年振りの再会でカノンの心の箍が外れてしまった・・・そんな気持ちだった。

             もしも・・・
                 あの時・・・・

          ソンジェの言葉を信じて、888歩の場所に行ったら
          運命は大きく変わったのだろうか?


         オッパはその場所に居てくれたのだろうか?


        会えなくても、オッパは日本に来てカノンに
           会いに来てくれたのだろうか?

  もう遠い過去として片付け、今の人生を楽しく過ごして行く事が平穏で
  いいのかもしれない・・・しかし、それでも抑えきれないテファに対しての
  気持ちはどうすることも出来なかった。


    嫌いで別れたのではない・・・運命の悪戯で何度も奔走し
                    何度も諦めたり挫折してしまったのだ。

    私は、やっぱりオッパが好き・・
      いつもいつもオッパの傍にいたい・・・
          
  

      「ただいま〜」っと玄関のドアが開いて声がした。

       ソンジェが帰って来たのだった・・・カノンはどんな顔をして
       良いのか分からず、リビングでお絵かきをしているシオンに


      「アッパーが帰って来たからシオン、お帰りなさいって言って
       迎えて上げて・・・オンマは今、揚げ物しているから・・・」

       っと云った。シオンは「うん」と言って「アッパーお帰りなさい」
       と言って玄関へと向かった。



   ソンジェは飛び付くシオンを軽々と片腕に抱きかかえ「シオン、ただ今。
   今日は何してたの?」と聞いた。

   シオンは幼稚園でした事を伝えていたが、ソンジェの心はシオンの言葉を
   通り抜けてカノンに向かっていた。


  ソンジェ:「カノン、ただ今」

       カノンの後ろ姿を見ながらソンジェは挨拶した。

  カノンは後ろを向いたまま「お帰りなさい。・・・今、揚げ物しているんで

               振り返れなくて・・・お風呂沸いてるので、先に
              
               シオンと入って下さい。」と云った。


   ソンジェはどことなく余所余所しいカノンの言葉を感じながら

    「あぁ・・・じゃあそうするか・・シオン、アッパーとお風呂に入ろう」

     と言って浴室へと向かった。



  色々な考えをして居たため、カノンは多量に天ぷらを揚げていた。


 ソンジェは「わぁ、天麩羅屋さんが開ける位だ・・・凄いな〜」と云った。

       大皿に2皿、てんこ盛りに盛られた天麩羅だった。


 カノンは「えっと明日、綾ちゃんたちが遊びに来るから、天丼を作って上げる
      為に沢山作ったの」と咄嗟の言葉を述べた。

 ソンジェ:「そうか・・綾さん達、明日、家に来るんだね。綾さんたちに宜しく
        伝えて欲しいな。でもカノンは2日連続の天麩羅は胃にもたれないの?」

 カノン:「私はざるそばでも茹でて食べるから、天丼は食べないんで大丈夫・・・」と
      笑って言ったが、心は違う方向にあるかのようだった。

    ソンジェは、これ以上は深く話をしない方がいいと思ったのは、何だかカノンが
    遠いところに行ってしまいそうで不安だったからだった。

    もしかしたら、ソンジェから離れテファのもとに行ってしまうのが怖かった。
    恐れる必要は無い・・・そう心に何度も言い聞かせるソンジェだが、テファの存在が
    大きく強くなっていることが分かるだけに不安でならなかった。


 ソンジェは暫くカノンとの会話は避けようと思った。
 仕事にかこつけて、自分の部屋で作詞や作曲の仕事が有るので、カノンは良ければ
 シオンと一緒に寝てくれと言った。
 その言葉にカノンはホッとした。
 昼間、テファが、実はソンジェはとても強いし、独占欲も野心もある男だと云った言葉が
 忘れられなかった・・・自分の目的や目標の為なら、どんな事もするし、一途で熱い
 情熱的な男だ・・・と云った。
 反面、熱が冷めたら結構、冷酷にもなる・・・裏切りや嘘は1度ならまだ見逃しては
 くれるだろうが、2度3度はない・・それは自分自身がとても厳しい性格で完璧主義者
 だからだと・・・
 そういえばソンジェはいつもピンと張りつめたものがあって、音楽にしても何にしても
 完璧を求めていた。音楽家になる夢も、周囲がどんなに反対しても貫いたし、
 全て今迄のことも、今の生活もソンジェの考え通り・・計画通りに進んでいる・・・
 そんな気持ちがした。
 余裕が全くなくいつも全力疾走で、一瞬、挫折したように見えるけれど、挫折ではなく
 もっともっとビッグになっている・・・
 地位も名声も、お金も?全て計画通りの完璧主義者・・・っと思った時、フト、10年前
 の事が何だか、わざとらしい芝居のような感じに思えてしまった。
 明日、綾ちゃん達に相談してみよう・・・カノンはキュウっと胸を押さえながら呟いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  次の日、綾たちを昼時に招いて、天丼を振舞った。

 カノン:「昨日、凄く天麩羅を作り過ぎちゃって・・・もしよかったら
     お土産にも持って行ってくれると嬉しいんだけど??」   

 綾:「それにしても凄いね・・・こんなに揚げたの?胸やけしなかった?」と
   言いながら、草鞋のようなかき揚げを頬張っていた。

 ヒロミ:「ところで、カノン、元気ないけど?どうしたの?胸やけだけが原因じゃ
      ないでしょう?」

 カノン:「・・・うん・・」

 綾もヒロミも「もしかしてリラ幼稚園で、シオンちゃんがなんかあったの?」
        と聞いた。サヤカの意地悪かなとも思ったからだった。


 カノンは、わっと泣き出しながら、テファとの事を話しだした。


 ヒロミ:「・・・そうか、やっぱり運命のいたずらってあるんだね・・・」

 綾:「カノンは、テファさんの事、嫌いで別れたんじゃないものね?
    カノンがショック受けると思うから話さなかったんだけど・・・
    どうしようかな?・・・」
 ヒロミ:「・・・綾、話してもいいんじゃない?」

   二人は顔尾を見合わせて大きく頷いた・・・

 カノンは「え?何?何の事?」と不安そうな顔をして二人を見つめた。

 リラ幼稚園の2次試験が終わって、うちら2家族は夕食を一緒にして帰ったんだけど
 その時に、主人たちが10年前の話をしたの。
 テファさん、仁川のホテルに来てたの。
 カノンに会いに来てたの。ところが、ちょっとした事件に巻き込まれて、薬を
 嗅がされて意識がなかったの・・・そう次の日の帰国の時間まで・・・
 飛行機が飛び立つころに意識が戻って・・・
 
 実は、それは全てサヤカさんの計画と、あとソンジェさんも知っていた事だったって・・
 呉ジナの心を惑わせて、自分達は手を汚さず、呉ジナに犯行をさせたみたいよ。
 ソンジェさんはどうしてもカノンを自分のものにしたかった・・・物凄くカノンが好きで
 全てを失っても良いがカノンだけは失いたくないって言ってたらしい・・・

 カノン:「え?でもオッパちゃんは、パーティ終わった後、海辺に一緒に行こうと言って
      最後のプレゼントにオッパを会わせてくれるって云ったのよ・・・信じられない。」

 ヒロミ:「それは違うのよ。実際、カノンを行かせて、テファさんが来なかった事を知ったら
      カノンが傷つくでしょう?」
 綾:「カノンはテファさんの事、諦めてくれるだろうって云う考えがあったのよ。」

 ヒロミ:「サヤカは最初からカノンとテファさんの事、良く思ってなかったでしょう?」

  カノンはとてもショックだった・・・
    10年前の事が、仕組まれた事だった・・・
      知らずに自分はテファオッパの事を誤解したままだった・・・・

 綾:「ソンジェさんが、直ぐに日本に行ってカノンの家にホームスティしたのも計画的だった
    のよ。テファさんが、カノンを追って日本に来た時、その姿を見せつけてカノンを諦め
    させるために・・・ところが、ソンジェさんのことをサヤカは好きになっちゃって、
    ソンジェさんは、カノン一筋だったから・・・ドロドロしたものがあってさ、その頃から
    サヤカは、カノンに対して冷たくなったでしょう?」

 カノン:「ええ?そうだったの?全く知らなかった・・・」

   カノンはポロポロと大粒の涙を流しながら泣き始めた。

 ヒロミは目を閉じてパット見開き、「カノン、テファさんが好きなの?」

 っと聞いてみた。


 カノンは大きく頷き「ハイ」と答えた。嘘は無かった。ずっとずっと心に仕えていた言葉
 だった。

 綾:「だったら、今からでもやり直しなよ。うちら応援するよ。うちらの中で、本当に
    好きだった人と結婚できなかったのはカノンだけだもの。うちらは結婚できたからね。」
    っとおどけて言った。


 カノンは少し躊躇った・・・ヒロミは「ねぇ、カノン、貴女は今、とても迷ってるでしょう?
 でもね、よく考えて!本当に幸せになりたいなら、自分の思うままに進んだ方がいいよ。
 後悔はしてはいけないと思うんだ。テファさんだって、今もカノンのこと好きでいてくれてる
 から、チョンガー(独身)なんでしょ?ソンジェさんに嘘まで付いて悪ものになってくれたり
 したんでしょ?」
 綾:「カノン、10年前、皆でさ、江原道に行ってさ、カノンはソンジェさんの事はお兄さんみたい
    で家族な感じだけど、テファさんの事は大好きで一緒に居るとただそれだけで幸せだって
    言ったじゃない・・・あの言葉が本当だと思うよ」

 ヒロミ:「過去に時間は戻せないけど、未来の時間は作れるし、人生、何度だってやり直し
      出来ると思う・・・これからの自分の人生や未来の為に、どう?カノン次第だよ。」


  カノンは深く深呼吸して「・・うん、今の私の気持ちは、テファオッパに向いてしまって
              いて・・ソンジェの事は嫌いではないけど、、、今の生活も
              平穏で幸せだけど、それが皆なくなっちゃっても、テファオッパ
              のこと、好きです。正し、今最後のストッパーは・・・
              娘のシオンです。」


  ヒロミ「・・子は鎹だものね・・」
  綾:「・・・分かるよ・・・分かるけど・・・」




               暫く沈黙が続いた・・・

  ヒロミはその沈黙を破った・・・


     「ねぇ、この夏さ、皆で10年を祝して江原道に行ってみない?うちら家族と、
      カノンとシオンちゃん、そしてテファさんと甥っ子のジェファ君とでさ・・
      ソンジェさんは、確か夏の演奏会がベルリンかなんかであるでしょう?
      その時を狙って行ってみない?」


     ・・・・・・


     「そこで一緒に過ごしてみてさ、カノンの思いが断ち切れたらカノンは文字通り
      テファさんにお別れをキチンと伝えて、ペンダントを返しなよ、思いが強く
      なりソンジェさんと別れる位の気持ちなら、テファさんについて行けばいい
      じゃない・・・違う?」っとヒロミは続けて云った。



  綾:「うん、そうだよ・・このままだとずっと心を引きずるよ・・・
     どこかでストップと云うか見切りをつけた方がいいよ」


      カノンは「・・うん、そうだね。」と言って微笑んだ。


  そうだ、ペンダントもずっと半分このままだ・・気持ちをこのまま残しては行けないな
  っとカノンは思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  
 秋の童話の場所に又行ける事も楽しみの1つだった。

 カノンの中では「秋の童話」と云う韓国ドラマが1番好きなものだった。

 10年前に行ったウンソのナム(木)は成長しているだろうか?刻まれた名前はまだあるだろうか?
 泊まったホテルや、民宿はあるだろうか?
 一緒にスイカを頬張り、韓国映画やドラマには欠かせないスイカの談義をオッパは覚えてくれて
 いるだろうか・・・

  カノンはソンジェに対してまた嘘と裏切りをすることになるが、それでもテファに対する
  気持ちが大きすぎて、ソンジェの事を偽ってもオッパと又一緒に過ごせるほうが嬉しかった。

 綾もヒロミも、直ぐに携帯でテファに連絡した。カノンの家の中の電話は全て盗聴されている
 感じがしたからだった。
 テファも賛成してくれて「日程は合わせると」言ってくれた。そして「カノンは大丈夫か?
 ソンジェに対して苦しんでないか?暴言や暴力は振るわれてないか」等など、カノンを心配
 した言葉ばかりが飛び出していて、ヒロミはゲラゲラと笑った。


 電話が終わって、「なんかカノンの事になったらテファさんは相変わらずね・・カノンの
          ことばかり心配していたわよ。」

 カノンは真っ赤になりながら照れていた。


 するとソンジェが突然帰って来た・・・

  「やあ、皆さん、こんにちは・・・久し振りですね?」とニコヤカに挨拶したが突然の
   事だったので、皆は冷たく硬くなった・・・ぎくしゃくした空気をかき消すように
   綾は「おじゃましてます。」とトンチンカンなイントネーションで言った。
   それが余りにも変な日本語だったので皆が一斉に笑った・・・

  カノンは少し腹がたった。自分が信用されてない気分だったからだ。
  昨日、ちゃんと綾たちを呼んで天丼を御馳走すると言っていたのに・・・
  今日はソンジェの帰りは18時の筈だったにも関わらず時計はまだ13時半だった。

  ソンジェはそういえば、いつもそうだ、、自分以外は信じない、頑固なところも
  あり完璧主義者だった。好きなものに執着し、ずっと干渉もする。
  人の意見も聞いたりもしない部分もあった。

  結婚してから疑わず唯幸せだと思って過ごしてきた事が砂の城のように脆く
  崩れ去ってゆく気持ちがしたし、色あせてきてしまった・・・

  綾たちが来ている事を確かめて安心したのか、ソンジェは直ぐ様、仕事に
  南山の音楽事務所に戻って行った。




  綾:「多分、確かめに来たのかな?」

  ヒロミ:「・・カノンには悪いけど・・そう思うよ・・」

  カノン:「私もそう思った・・・最近のソンジェは、疑い深いし、
       嫉妬深い・・・私のすること・やることにイチイチと口を挟んだり
       チェックするの・・あのリラ幼稚園での帰り以来・・・
       オッパと会ってはダメだとか、会話すらもダメだと言われているの。
       甥っ子のジェファ君とシオンは仲良しなんだけど、それすらも
       快く思ってないんで・・・私の心は益々冷えているのに・・」

 ヒロミ:「ソンジェさんが何とか心変わりして、何ていうかな呉ジナさんと
      寄りでも戻さない限り無理だよね・・・ハハハ」


     と云ったが、カノンは正にそうしてくれるのが1番イイナと思った。
     勝手な考えは十分承知していたが・・・
     



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 韓国は日本より1カ月早い季節、夏を迎えていた。

 幼稚園も夏休みはどう過ごすのかをあらかじめ分かっておきたいので、父兄参観日が
 設けられた。

 授業を見た後、保護者会が有り、そのあとでグループ会で各グループ毎に別れて
 先生との面談をすることになった。

 カノンのグループは一番初めの時間帯で、その中にはチュキの母親やサヤカもいた。

 ユリは生徒の一人ひとりの最近の様子を話していった。
 サヤカの娘、ソラミは最近は勉強も運動もピアノも全てにおいて頑張っており
 リラ幼稚園に入ってから才能が開花したと話した。サヤカは鼻高々だった。
 一方、シオンは最近元気がなく、お弁当も残していて心配だと云った。
 カノンもその原因は、ソンジェとの夫婦仲のギクシャク感からくるものだと
 分かっていたし、大好きなジェファと引き離されてしまっていることも影響して
 いると知っていた。だがカノンは「多分、季節の変わり目で夏バテだと思う」で
 笑って流した。
 夏休みはどうするで、サヤカ達は、ギリシャにクルージングに行くと威張って
 言っていた。チュキの母親と顔があったが、チュキの母親はオドオドし、下を
 向いた。
 「李さんのお家はどうなさるんですか?」とユリ先生に質問されてカノンは
 「まだ具体的には決まってませんが、実家の日本に行くか、済州島に行こうか、
  それとも韓国の国内旅行をしようかとも考えてます。韓国の国内の事、実は
  よく知らないので・・きっと沢山の良いところがあると思うので・・」と
  元気よく言った。サヤカは貧乏人の味方って奴かしら?皆が海外旅行・・・
  ヨーロッパやアメリカ、カナダ豪州などに行くのに、近隣の国、日本や
  国内旅行?信じられないくらい地味で野暮ったいわ。っと取り巻きに囁いて
  嘲笑した。
  しかしカノンは平然としていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 懇談会の後、幼稚園の坂のある帰り道で、ジェファとテファに偶然再会をして
 しまったカノンとシオンだった。
 


   「シオンちゃん!!」っと大きな声で呼びとめるジェファにシオンは
    びくびくしながらカノンを見た。

   カノンはまた大きな深呼吸をして、シオンを見てにっこり笑い
   「わぁ、ジェファちゃんと、サムチョンだ」と云った。

   シオンはオンマの笑顔にホッとして、ジェファのもとに駆け寄った。

   テファも、カノンも軽く笑顔で会釈した。

   そしてテファは周囲を見回し、ソンジェに見張られていないかを警戒
   した。カノンはテファに近づいて「ソンジェは演奏会で今、パリに
   います。ですから、大丈夫ですよ。先日は本当に失礼しました。
   お久しぶりですね?」と言って笑った。

   テファも少し安心して「良かったらお茶でも飲んで行きませんか?」と
   言った。カノンは「喜んで!」と言って笑った。

  子供たちもいるので、今人気のファミレスに寄った。
 
  テファ:「今日は暑いから皆でパッピンス(かき氷)食べようか?」
       と言ったが、シオンも、ジェファもキャラクターのパンケーキ
       が良いと言って指差した。子供たちに甘いテファは、分かった、
       分かったと言いながら、パンケーキとパッピンスを頼んだ。

  そんな光景を見ながらカノンはお腹を抱えながら笑った。
  久し振りに自然に笑えた。

  シオンも大好きなオンマが笑っている姿を見て嬉しかった。
  
 洗面器の大きさのパッピンスがテーブルに置かれ、子供たちは「わあ」と
 歓声を上げた。プリン、アイス、チョコ、クリーム、お餅や小豆もたっぷり
 入っていた、ジェファとシオンはスプーンで端っこからすくって食べようと
 すると、テファもカノンも待った!をかけた。

 「韓国のパッピンスの食べ方は違うのだ」と言ってテファとカノンは
  激しくかき混ぜ始めた。破壊的な位に・・・

  子供たちは最初はビックリしていたが、それが段々面白そうになり
  自分達も夢中でぐちゃぐちゃにしていった。

  テファ:「よし!この位でいいかな?」と云った時は、色も混在し
       形もあまり残っていなかった。

  カノンは「じゃあ、皆で食べましょう」として皆でスプーンですくって
       食べ始めた。

   口の中で色々な美味しい甘い味が弾けた。
   誰もが笑顔になる幸せな味だった。

   子供たちはゲラゲラ笑いながら楽しんで食べていた。
   カノンもテファも子供たちの笑顔を目を細めて見ていた。

  カノン:「オッパ、ソンジェの夏の公演は8/1〜8/20迄です。
       ベルリンで行われる音楽祭です。その間に、束草に行けたら
       イイナとは思うのですが、オッパの予定は如何ですか?」

       っと聞いてみた。

  テファは笑いながら「僕の方は仕事はどうとでもなるし、10年振りだね?
            凄く楽しみだ・・・またこうしてカノンと行ける
            のかと思ったら嬉しいよ。時間は戻せないけど・・
            それでも僕の心の時計は10年前のまま・・止まって
            いたんだ。でもまた動き出したよ。ハハハ」と言って
            笑った。
  カノン:「オッパ、私はとても嬉しいし、幸せです。これでソンジェを
       敵に回したり、別れる事になっても、後悔はしないです。
       自分の考えはちゃんと自分で、責任を持ってって云うの・・・
       昔、オッパから教えて貰った事の1つです。えへへ。束草に
       もう1回オッパと行ってみたかったし・・春にミドリ達が来た
       時、ミサンガに願いをかけた事が叶うから・・・あっ!」

      その時、ミサンガが偶然にも切れたのだった・・・


  テファ:「わぁ、凄い偶然だね、ハハハ。幸先が良いね。
       カノン、後悔だけはお互いしないってことにしよう。
       僕は、もうカノンを手放したくない。
       この偶然を大切にしたい。
       僕は神様なんていないと思っていたけど、カノンの事は何回か
      これまで、神様がひょっとしたらいるんじゃないかって思う事が
      あった。今回の再会もそうだった。
      嬉しかった・・・本当に嬉しかった。
      カノンが幸せで、僕の事なんて少しも思い出したり懐かしま
      なかったら、きっと僕は諦められたと思う、又、僕の心に
      トキメキが沸いてこなければ、バイバイとなったかもしれない。
       でも僕は出来ない・・・カノンがこの先、僕の人生で
      いなくなる事なんて考えられないからだ・・・」



     カノンも同感だった。「あの時とか、もしもとか・・過去を
                振り返るよりも、これからの事を考える
                ことにしました。どうなるか分から
                ないけど・・・分からないから未来なんだ
                って思います。オッパ、李カノンではなく
                鈴木カノンは、鄭テファ氏がいまでも1番
                大好きです。途中、迷子になってごめんな
                さい。やっと迷路から抜け出せそうです。」
                っと真っ直ぐにテファを見つめて発言した。

    テファはカノンの言葉が眩しくて嬉しかった。

   カノンは続けて・・・

        「ただ・・・
              ただ・・・ここにいるシオンの事だけが・・・」

           っと云った。親の身勝手な感情で、子供を不幸にして
           しまうからかもしれなかった。


   そんな言葉を組み取って、ジェファは、シオンに話しかけた。

  ジェファ:「シオンちゃん、ちょっと分からないかもしれないけど
        ・・・僕もよくわかってないけど・・・
        なんかさ、シオンちゃんのお母さんとうちのサムチョンて
        イケてない?」
  シオン:「うん、凄くイケてる、、シオンね、前にも言ったけど、オンマと
       サムチョンはスマイル国の王子様とお姫様なの。いつも笑って
       いる国なの。アッパーとマヤちゃんのお母さんは音楽の国の
       王子様とお姫様なの。綺麗、綺麗な音楽の国なの。」と云った。

  テファもカノンもビックリして「え?」と云った。
  シオンはパッピンスをすくって一口食べたからまた話し始めた。

  シオン:「時々ね、シオンね、本当のパパはサムチョンかもって思うなの。
       オンマはオンマのままだけど・・・サムチョンには何でも話せる
       し、サムチョンはいつもシオンのことちゃんと話を聞いてくれ
       るし元気にしてくれるから・・・サムチョンといると凄く楽しい
       なの。オンマもサムチョンといるとずっと笑ってるし、楽しそう
      なの・・・アッパーと居る時、オンマはちょっと無理してるのなの。」

  カノンはビックリして「え?」とまたいってみた。

  シオン;「シオンもだけど、オンマはもっとアッパーに無理していて
       いつも元気にしているし、いつも無理して笑ってるのなの。
       サムチョンの時は無理とかしてなくて凄くイケてる感じなの」


  テファ:「え〜?イケテルの?」

  シオン:「うん、凄くラブラブでお似合いなの。」

  ジェファ:「でもさ、そしたらシオンちゃんのお父さんが可哀想だよ。」
        っと言ったがシオンは首を横に振り、「ううん、可哀想じゃ
        ないよ。アッパーは強い強いなの。それに有名な音楽家だし
        一人でも平気ね人なの。お日様みたいな人だよ。だから
        可哀想じゃないの。サムチョンはお月様みたいなの。
        オンマはこの地球でね、サムチョンはいつも地球の周りを
        回って心配してくれるのなの。凄く優しい人なの。太陽は
        地球だけじゃなくて全部を暖かくするから強いなの。
        だから可哀想じゃないし、強くて凄いなの。」


   テファもカノンも・・そしてジェファもビックリした言葉だった。
   シオンの鋭い感性は一体どこからくるのか?
   この子は凄いと思った。

   テファは優しく「じゃあ、サムチョンがシオンアガシの大好きな
           オンマをお嫁さんにしてもいいの?」と聞いて
           みた。


   シオンは力強く「うん」と言って「だって、最初からサムチョンも
                   オンマもスマイル国の王子様と
         お姫様だから、結婚するのは当たり前なの」と云った。



   ジェファ:「・・あのさ、シオンちゃん、もしかしたら最初から
         サムチョンとシオンちゃんのお母さんは恋人だったの
         知ってたの?」と聞いてしまった。

   シオンはビックリして「ううん、知らないけど・・でも何かサム
   チョンとオンマが幸せそうなの。」と云った。


  
   「大変お待たせしました。パンケーキでございます」と
    ウエイトレスがキャラクターのパンケーキを持ってきて、この
    会話が終わった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




  テファ:「シオンアガシにはビックリしたよ。子供って凄いな、
       何だか見透かされた気分だったよ。ハハハ。」

  カノン:「・・私もビックリしました。・・でも少し嬉しかった。
       オッパとラブラブって言われて・・えへへ」


     カノンははにかみながら笑った。
      テファも「うん、僕も嬉しかった。しかもスマイル国の
      王子とお姫様って云うのも面白いね。ハハハ。
      僕達、軌道修正出来るかな?・・」っと云うと
      カノンは微笑んできっとできると思った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



一方、サヤカの家ではカイトがソラミではないと不審がっていたが
  母親のサヤカはソラミだと信じてやまなかった。
  その事が一層、カイトをイライラさせた。
  ママは、自分の子供さえも見分けがつかないんだろうか???

  ここにいる女の子はソラミではない、僕の可愛いソラミではない、
  きっとマヤだと思った。
  子供部屋で諍いがおきた、「お前、ソラミじゃないだろう?
  僕には分かる、ソラミは不器用で勉強にしても何にしても
  出来ないけど、凄く素直で優しい子なんだ。お前みたいな
  悪意や意地悪な奴じゃない。おい、お前はマヤだろ?
  悪魔の子、マヤだろ?」と詰め寄った・・・すると階段を上がる
  足音がしたので、ソラミはわざと大きな声で泣き喚いた。
  ドアが開けられ、サヤカが入って来た。

  ソラミ:「お母様・・・うわーん・・お兄ちゃまがいきなり
       髪の毛引っ張ってぶったの。」


   サヤカはキッとカイトを睨んで「カイト、妹に何てことするの?
   謝りなさい。何で喧嘩ばかりするの?前は仲の良い兄妹だった
   じゃない?・・・もしかしてソラミが最近、勉強も運動も
   出来るようになったから?嫉妬しているの?
   貴方も頑張って勉強しなさい。そうしたら同じように褒めて
   上げるし、可愛いがってあげてよ。イテオン幼稚園でも劣等生
   じゃあ、先が思いやられてよ・・・ソラミは今やリラでは
   秀才グループよ。お母様は鼻が高いわ。可愛い、可愛いソラミ
   ちゃん、ママの大切な娘よ。ホホホ」そう言って、ソラミを
   抱きかかえ、階下に降りて行き、これから二人で買い物に行
   くとしてお手伝いにカイトの世話を押し付けて出かけてし
   まった。

   カイトは悔しい気持ちよりも、何故、ソラミではないと分
   からないでいるサヤカに腹が立った。


   カイトは何かを決心したかのように、屋敷をこっそり
   抜け出した。
  
   

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  テファ:「じゃあ、ここで!またいつでも声をかけ会おう。
       もう堂々としていよう」

   そう言ってカノンとシオンを高層APTの家の前まで車で送って
   から、立ち去った。
   カノンも同感だった。そしてシオンにも「もうアッパーには
   ビクビクしないで行こうとオンマは思ったよ。だからシオンも、
   明日からジェファちゃんと幼稚園に通えば良いし、一緒に遊んで
   いいからね?」と云った。シオンは「本当?本当にいいの?」
   っとピョンピョン跳ねながら聞いた。「うん、本当よ。オンマ、
   最近、シオンが元気ないねってユリ先生に言われて、一杯理由
   を考えたの。一番はアッパとオンマが喧嘩していること・・
   2番はジェファちゃんと遊んだり幼稚園に一緒に行けない事だ
   って思ったの・・・シオンが元気になればオンマは幸せだし
   嬉しいの・・・だからオンマも頑張るね。」と云った。

  シオンは「やっぱりだ・・・」と云った。
   「え?」とまたカノンは不思議そうに言った。

  「うん、あのね、サムチョンに会うとオンマは元気になるし、
   ニコニコになるの・・シオンも元気になるし幸せになるなの」
   と云った。カノンは「うん、そうね、サムチョンは皆を幸せに
   するね・・・でも、、、一人だけ幸せになれない人がいるかも?」
   っと云った・・・


    「アッパー??」とシオンは言った。

    カノン:「うん、アッパーはお日様・・太陽でしょう?
         サムチョンはお月さまだから、お互いがライバルと
         言うか、仲が悪いの・・・だから神様は、一緒に
         しないように、喧嘩しないように昼間は太陽で、
         夜はお月さまの出番にしたの。そしたら一緒に
        いなくて済むでしょう?喧嘩もしないしね・・・
        太陽の方が強いし熱いでしょう?お月さまも地球も
        太陽に闘いを挑んだら直ぐに焼け焦げてなく
        なっちゃうかもね・・・」と云った。

    するとシオンは「じゃあ、サムチョンやジェファちゃんの
            ことは内緒、内緒なの?」と顔色を窺う
     ようにカノンに尋ねた。カノンは可笑しくなって
    「ううん、内緒にしなくても大丈夫・・・堂々としていよう
     よ・・・それでアッパが怒ったら、又考えようよ。ね?」
     と言って笑った。

    シオンは「うん」と言って幼稚園で覚えた歌を口ずさんだ。
    コヒャンエポムと云う歌だった(故郷の春)




  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






  ソンジェがパリから戻るまでの数日は平穏に楽しく過ぎていった。

  今日はパリからソンジェが戻るので、シオントカノンは迎えに仁川の
  空港に早めに到着していた。
  シオンは今回は不安そうだった。オンマとアッパーはずっと喧嘩していて
  あまり会話もしたがらない仲になっていたからだった。

  その原因がサムチョンだった事も何となくシオンは分かっていた。
  サムチョンはオンマの恋人だった事も、ジェファに聞かされていたし
  ジェファの家に遊びに行った時、サムチョンとオンマの写っている写真や
  ビデオがあり、それを見て、二人はやっぱりラブラブだったと知った。
  アッパーも負けずとイケ面で、有名な音楽家で優しいけれど・・・
  それでも時々、シオンはアッパーは冷酷で怖いと思った事があった。
  特に音楽の面ではとても厳しく完璧主義者だった。
  リラ幼稚園で音楽を受験しなかったのは、アッパーをガッカリさせて
  しまうのが分かったからわざとしなかったのだった。
  呉ジナの娘のマヤも音楽家の娘であり、完璧な演奏をしていた。
  自分はと言えば、ネコ踏んじゃったを楽しく弾く事がせいぜいだった
  し・・音楽的なセンスはなかった。
  オンマはそんな時、いつも「音楽は音を楽しむものだから、楽しんで
  欲しい」とフォローを繰り返して言っていたので、アッパーは気持ち
  を取り直し、そうだね、音楽は楽しくなくてはっと云い聞かせるかの
  様に(ソンジェ自身に)言っていたが気持ちが響いて来なく、逆に
  ガッカリしている感じが伝わって来ていたからだった。

  オボイナレの時も、ピアノを急遽弾く事になり、アッパーの言葉と
  言うよりもオンマの事を重ね合わせてそれで弾いたものだった。
  結果として成功はしたが、改めてソンジェがいなくて良かったと
  シオンは子供心に思ったのだった。

  マヤが悉く、シオンの父親を羨ましがったがシオンは父親が偉大
  すぎて時々身体が緊張して堅くなる事があったので、マヤちゃん
  みたいな子供がアッパーの子供にふさわしいと思ってしまった。

  唯、普段は・・・音楽を抜かせば優しい父であり、皆が羨む
  大好きなアッパーだった。

  オンマはいつでもシオンの1番大好きなオンマだった。
  サムチョンが現れてから、益々、アッパーに対してギクシャクして
  来たのも事実だった。
  サムチョンといるとシオンは自然体で、何でも話せるし、いつも
  笑っていた。オンマも同じだった。
  今のシオンにはアッパーよりもサムチョンの方が実は本当の
  お父さんなのではないかと思う時があった。
  サムチョンと居る時に、良く親子ですかと間違われる事が
  あった。顔がそっくりだと言われる事も何度も有り、特に
  目元が特に似ているとも言われた。
  また腕の所にポラスのようなホクロが点々とありそれも同じ
  位置にあった・・・
  楽器演奏は余り得意ではないが、歌が上手と言われる事があり、
  サムチョンも昔はバンドのボーカルで歌が上手いと言われていた
  ・・・更にグラフィックデザイナーで絵も上手だった・・・
  シオンはどちらかと云うと絵の方が好きだった。
  アッパーには全く似てない顔立ちもシオンはいつも「?」マーク
  でいた。お母さんには似てますねとは言われるけれど、お父さ
  んには似てますねとは言われた事が殆ど無かった。
  シオンが生まれた病院は、長野のサヤカおばちゃんの病院の
  姉妹病院が東京にあると云う事で、そこで生まれたのだった。
  だが確かに父はソンジェで、母はカノンだった。
   
  
     
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「あっ、アッパー!!」と最初にソンジェを見つけたのはシオンだった。

  カノンは努めて明るく「お帰りなさい」と言って歩み寄った。

 ソンジェはどことなく明るい久し振りのカノンの顔を見てホッとし
 「あぁ、疲れた・・早く帰ってママの韓国料理が食べたいよ。」と
 言った。

 カノンは「今日はそうだろうと思って沢山、下ごしらえして迎えに
      来たの。そのまま真っ直ぐ帰れるの?」と聞いた。

 ソンジェは、楽団を振り返り「あっ、いや、南山の事務所に寄って
               からになるから21時くらいかな?」
   と、いった。そこには呉ジナの姿もあった。
   パリの音楽演奏会に呼ばれ、シャンソンを披露した様子だった。
   カノンはこのまま呉さんと二人でどこかに行ってくれても構わない
   とさえ思った。二人は音楽の世界で通じあい、今はゴールデン
   コンビとさえ呼ばれていた。シオンの言う様に音楽の国を作って
   二人で幸せに過ごして欲しいとも思った・・・

  でもそれは勝手な妄想であり、現実は違うものだった。
  ハッと我に返り、カノンは「21時か〜、分かりました!じゃあ、
  お家で、待ってるね。気を付けてね。音楽会、お疲れ様でした」
  と言ってソンジェを後にしてシオント帰った。

  ソンジェは、カノンが迎えに来てくれた事が嬉しかったし、
  今にでも直ぐに一緒に帰りたかった・・・しかし、次の演奏会
  が直ぐにやってくるので、その打ち合わせもあったので、
  皆よりも早くは帰れなかった。皆、自分を中心にした楽団だった
  からだった。


 シオンは「オンマ、アッパーと一緒に帰らなくて良いの?」と
      心配そうに言った。

  カノンは「うん、アッパーはまだお仕事があったみたい。
       21時には帰るって言ってたから・・・シオン、折角
       仁川まで来たから、ちょっとオンマに付き合って
       くれる?」
       と言ってシオンの手を取って、元気よく歩きだした。

 10年前、フェアレルパーティをしたホテルや、約束を交わした
 海辺に行ってみたかったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ホテルはすっかりリニューアルされ、大きく素敵なホテルになり
 10周年のアニバーサリーが8月に催される事になっていた。

 そうか、自分達が韓国に留学した時に建てられた
 ホテルだったんだ・・・

 カノンはちょっと嬉しくなった・・このホテルと共に思い出が
 築けるんだと・・・


 10年前から勤務している方はいらっしゃいますか?とふと受付で
 聞いてみると、いますよと言われて案内されたのが、コンシェルジェ
 をしているベテランの男性だった。名前は湯ウルチョンと云った。

 「10年前は新入社員で、25歳でした。ソウル大学出身です。
  ソウル大学出ても使えない奴だとからかわれてました。ハハハ。
  奥様は、何故?(私を?)」と聞かれ、実は、自分は10年前、
  語学研修でホンデで韓国語を勉強しに来て、最後の日にここの
  ホテルに泊まったんですと伝えた。

  すると湯は「あぁ、覚えてます、覚えてます。確かまだ日本が韓
  流ブームが凄くて、その時の大統領が大変な親日家で・・・
  韓国も日本のお陰で景気が物凄く良かったっけ・・・
  沢山の日本のアジュンマ(おばさん)たちが、韓国に来てくれて
  観光が潤ったし・・・更には韓国語を学ぼうとする日本人が多
  かったですよね・・・うちのホテルが出来て間もない時に
  沢山のVIPの学生さん達が利用してくれるって事で盛り上がった
  のを覚えてます。
  ただ、フェアレルパーティのその日、ちょっとした事件が起
  きたんですよね?それは次の日も引きずってました・・」

  カノンは、もしかしたら真相が分かるかもしれないと思って
  何食わぬ顔で聞いてみた・・

  「ええ、大変な事件でしたね・・・私たちは帰国して聞きました。」
  とカノンが言うと、お喋り好きな湯は弾丸のように話しだした。


 湯の話では、美しい青年と野獣の様な娘がフェアレルパーティの時に
 事件を起こしたと云った。野獣のような娘を庇うために美しい青年は
 渦中に飛び込んだが、薬を嗅がされて気絶した・・・

 ホテルの一室に青年は監禁された。多分、誰かのお別れに来たのかも
 しれないが・・・
 野獣のような娘は首輪をされ下着姿でホテル中を四つん這いで
 歩かされて見世物になっていた・・・
 
 ところが実はこの事件を起こした黒幕は、別にいた・・・
 だが誰も信じてはいなかった・・・

 カノンは「今飛ぶろリの様に活躍している音楽家である李ソンジェでは?
      更に当時から名コンビと言われていた天才ピアニストの呉ジナ
      ・・日本人の美ししいスレンダーな女性・・その人も1枚
      かんでいたと聞いてます。その3人が本当に事件を起こした
      張本人ですよね? 」
      と言ってみた。

 湯は「え?どうしてそれを?何故、そんなことまで知ってらっしゃるん

    ですか?」と驚いていた。

 カノン;「日本の報道・メデイアは凄いです。瞬時に真相なんて
      分かってしまいます。もう当時の学生の殆どは知ってい
      ますから隠しだてしなくても大丈夫ですよ。」と
      余裕の笑みで言い放った。(本当は心中穏やかでない
      カノンだったが、カマをかけたらアッサリと真相が
      分かってしまったのだった。・・・やっぱりソンジェが
      仕組んでいたんだ・・・ソンジェはどうしてそこまでして
      ・・・私もオッパも好きあっているのは知っていたし、
      ソンジェは私たちに協力するとも言っていたのに・・・
      どうして?サヤカが仕組んだ事?サヤカとソンジェが共同で
      したってことでも辻褄があうかもしれない・・・)


 カノンは湯にお礼を言い、砂浜を娘と歩いてみると言ってホテルを
 後にした。


 シオンは心配そうにカノンを見つめた。
 事情は分からないだろうが、ただならぬカノンの顔つきにシオンは
 ただカノンが心配だった。

  カノンは、砂浜に着くと「ここから888歩のところまで行って
  みようか?シオン、歩ける?疲れちゃったら、オンマがおんぶ
  するよ」と言ったがシオンは「歩くと」言った。

  1・2・3・・・と元気よく数を云いながら歩き始めた。



  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



  浜辺は人もまばらで、波も穏やかにザザンザザンとさざ波が打ち寄せては
  返していた・・・お天気も良かったが、日差しはまだ強くは無かった。
  カノン達は浜風を感じながら元気よく歩いていた。

 880・881・882・883・・・・886・887・・888っと言ったところで
 

 ビックリした・・・そこには、サムチョンであるテファがいたからだった。



  え?オッパ???


  テファはカノンに気が付いてビックリした・・・


 テファ:「か・のん?カノンじゃないか?それにシオンアガシも・・

      どうしてここに?」と言った。


 カノンも「それを言うなら、オッパもどうして?」と云った。


 テファ:「実は仕事で今夜7時に、豪州に行くんだ。それで、あそこのホテル
      ・・・カノン達が10年前に最後に泊まったホテルで休憩しようって
      思って・・・早めに来たんだ。空港から近いだろう?それで、、、」

 カノン:「・・やっぱり、オッパは、10年前のあの日、会いに来て
      くれたんですね?」

 テファは慌てて「あっ、いや、最後に泊まるホテルは知ってたけど、行か
        なかったんだ・・・直ぐに日本で会えると思って・・・」と
        嘘をついたが・・・カノンにはもう嘘だとバレテいた。


 カノン:「オッパ、オッパの事、聞きました・・それもつい最近
      分かった事でした。最初に手を離したのは私でした。オッパ・・
      ごめんなさい。あの時、、、もし・・・あの時・・・」

  テファ:「ノッテムネ・・・アイゴー・・カノン、あの時とか、もしもは
       もうやめよう・・・幾ら思っても過去には戻れないんだ・・・

       だからこれからの時を考えようって云ったじゃないか・・・
       僕は、今こうしてまたカノンに会えて嬉しいし・・・
       今この時も、この場所でカノンやシオンに会えて嬉しい・・
       運命や神様は今も信じてないけど・・・時々こんな粋な計
       らいがあると、運命も神様もいるのかなとさえ思える・・・
       都合のいいポジティヴな性格なんでね。ハハハ。
       888歩のところで会えたね、良かった・・・
       カノン、カノンに会えて良かった。そう思うよ。」

  テファは眩しい位の笑顔で言った。


  もう誰がどうしたからとか、あの時とか、もしもなんてどうでも
  良くなった。こうしてまた偶然にも会えてカノンも嬉しかったし
  運命的な物を感じた。

  三人とも笑顔で笑いあった。


  カノンは「7時に飛行機なら2時間前に空港ですね?それまでは
       ゆっくりできるなら、私たちも一緒に遊んだり食事しても
       いいですか?」と聞いてみると、
  テファは「ムルロン(勿論)OKさ」と云った。そして「じゃあ、何か
       美味い物でも食べよう・・丁度、ランチタイムだし・・
       アガシ、何が食べたい?」とシオンに聞くと

      シオンは「ソコギ」と云った。
      テファは「焼き肉か・・いいねぇ」と言って、シオンを
      ひょいと肩車させてカノンの手を取りホテルのレスト
      ランへと向かって行った。





    丸で後ろ姿は仲の良い家族のようだった。




  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




    ジナ:「ソンジェ、ねぇ、ソンジェ、聞いているの?」
       心ここにあらずのソンジェにシビレを切らしてジナは半ば
       怒鳴りながら言った。

   ソンジェ:「あっ、あぁ、聞いているよ・・・」


   シニャン:「いや、聞いてなかったね・・・
           ソンジェ、疲れているんじゃないか?
            今日はこのまま帰って休んだ方がいいぞ」と
         言ってくれたお陰で、ソンジェは予定よりもかなり早く
         帰れる事になった。

    ソンジェは「そうか?そうだな・・・悪いな・・お先に失礼
          するよ・・・明日は必ず・・・じゃあ」と言って
          そそくさと帰って行った。

    
  ソンジェがいないと何も進まないので、皆も早々に切り上げて
  帰る事になった・・・



   このまま真っ直ぐ帰ると、ソンジェは15時半には自宅に到着するが
   カノンもシオンもまさかソンジェがそんなに早く帰宅するとは
   思っていなかった。
   カノンはテファが5時に仁川に行くのを見届けて、又は仁川から
   飛行機が飛び立つのを見送ってから帰っても十分、間に会う
   時間だと思っていた。
 

    カノンとソンジェはドンドン歯車が噛み合わなくなって行った。
    すれ違いも多く、ドンドン心が冷えて行っている・・・
    ソンジェの感がが全く分からなくなり、気持ちも離れて行って
    しまい、カノンは自分の心がコントロール出来なくなっていた。
    シオンも同じで、アッパーが最近はとても遠い人に思えてなら
    なかった。

    済州島の時は少なくとも楽しくて平和な毎日だったような
    気がしたが、遠い昔の事のような感覚だった。


    テファが「シオンアガシ、野菜も食べなさい」と言って野菜に
         お肉をくるくる巻いて手渡した。
     シオンは片えくぼを見せながら「ハイ」と言って受け取って
     頬張った。「マシッソ(美味しい)」と言ってシオンが
     笑った。


   カノンもかいがいしく、お肉を焼いてテファに野菜で巻いて
   渡していた。
   そして負けずと「あ〜チェゴ(最高!)、クンネジョヨ(
   本当に美味い)」と云った。

   ホテルのコックやウエイター達がその光景を見て「微笑ましい家族だな」
   といっていて「本当に、微笑ましい家族だな」とか「女の子も可愛いし
   両親ともに美しい丸で芸能人みたいな家族だ」といっていた。
   その言葉を聞きつけてホテルの広告部署の者がやって来て、遠くから
   望遠レンズでカノン達のランチの光景の写真を何枚も撮っていた。
   良い宣伝ポスターになるかもしれないと思ったからだった。
   宣伝ポスターで使えるかもと思ったのかもしれなかった。
   ウエイトレス:「可愛い女の子ね?お父さんにソックリだし、、」
   ウエイター:「お母さんもかなり可愛いよな。美男美女だな・・」
   口々に言っていた。
   
   日本でなら個人情報の観点から、勝手に写真を撮ったり、
   名前や住所などを断りも無く公表する事は厳しい罰則にも
   なっているが韓国ではそういったところが未だ緩く、簡単に
   公表されたりしてしまうのだった。
   後にこの写真が大きな波紋を呼ぶ事がまだカノン達には分かって
   いない楽しいランチのひと時だった・・・





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







   「カノン、シオン、ただ今〜」

  ソンジェは明るい声でドアを開けたが、中はシンと静まり返って
  いた。・・・もしかしたらソンジェを驚かせる為に、わざと真っ暗
  にしているのかとも思ったが、人の気配が感じられなかった。

  リビングとキッチンの灯りを付けると、確かにキッチンには下ごしらえが
  してあるご馳走が幾つも並んでいた。

  冷蔵庫を開けるとカノンが焼いたホールのケーキがあり、
  チョコレート板にはオッパちゃん、お帰りなさいとメッセージがあった。

  朝の9時に仁川で会って、直ぐに別れて、今は15時40分・・・
  二人ともどうしたんだろう?と首をかしげた・・・

  もしかしたら帰りは21時と自分が言ったから、寄り道しているの
  だろうか?
  まぁ、遅くとも17時には帰って来るだろうとソンジェは思いながら
  シャワーを浴びに浴室に向かった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







  別れるのが惜しくとうとうカノン達は仁川国際空港へ来てしまった。


 テファは時計を気にしながら「カノン、すっかり遅くなっちゃったけど
               大丈夫?もしかしたらソンジェさんが帰って
               いるかも?」と心配してくれた。

 カノンは「ケンチャナ(大丈夫)、ソンジェは21時に帰るって
      言ってたから・・きっとそれよりも遅いと思うし・・・
      オッパ、豪州は季節が逆だから寒い冬でしょ?気を付けて。
      8/2から束草だから、それまでに元気に帰って来てね。」

 シオン:「サムチョン、寂しくないように、シオンがこれ貸してあげる」
      と言って差し出されたのはシオンの分身ともいえる兎のうーちゃん
      のぬいぐるみだった。

 テファはかがんで、「え?サムチョンに貸してくれるの?アガシは
          寂しくないの?」
 シオン:「うん、だってシオンにはオンマがいるもん。サムチョンは一人で
      しょう?だから・・・大切なうーちゃん貸してあげる」と云った。

 テファは笑いながら「アガシ、コマウオ(有難う)」と言ってぬいぐるみを
           抱きかかえた。


  「じゃあ、行ってきます。なんか照れるな・・いつもは一人なのに・・
   見送りとかあると本当に照れ臭いや・・・ハハハ。でも遅くまで
   有難う。嬉しかったし、楽しかったよ。直ぐに帰国したら連絡するよ」
   と言いながら兎のぬいぐるみを振りかざしながらゲートへと入って
   行った。




   シオン:「あ〜、行っちゃった・・・」

   カノン:「サムチョン、行っちゃいましたねぇ〜・・・
        シオン、帰りましょうか?・・」と云うと

   シオンはちょっと残念そうに「うん、帰りましょうか・・サムチョン
                 にまた会いたくなっちゃった」と云った。

  カノンは「また直ぐに会えるし、今、会ったばかりじゃない」と言って
  笑った・・・


  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







  電車はかなりの混雑で、小さな子どもには耐えられるものではなかった。
  途中、シオンが眠そうで、カノンは抱っこをしながら立っていた。
  三角駅から高層APTまでタクシーに乗って帰る事にした。
  「アジョシ(運転手)有難うございました。」と言ってタクシーから
   下りて、ふと自宅の窓を見上げると

    家の灯りが付いているのに気が付いて、カノンは蒼くなった。

  携帯の時間を見ると20時ちょっと過ぎだった。
  ソンジェがもう帰っているんだ・・・そう思った。

  カノンは腹を決めてエレベータに乗った。

  下手に隠し事や、言い訳をするから可笑しくなるのだし・・・
  遠慮とかするからギクシャクするんだと思った・・・

  「ただいま〜」と言って何食わぬ顔でドアを開けると、静かだった。

  台所とリビングは電気がつけっ放しで、よく見るとリビングの
  ソファでソンジェが寝ていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  カノンは寝ているシオンを、子供部屋まで運んで、ベッドに寝かしつけた。
  

  シオン:「・・オンマ、お休みなさい。」シオンは寝ぼけたように言った。

  カノンは笑いながら「お休みなさい、今日はオンマに付き合ってくれて
            有難うね、オンマ凄く嬉しかった。シオン、サランヘ」
  と言って、頭やと顔をなでながら、自分も疲れていたのか、ホット一息ついた
  のかそのまま、シオンの部屋で眠ってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





  


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 10316