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作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第11回   風が運んだ家族の絆・・・
6月に入って、日本は韓国よりも一足早く梅雨の季節になった。
  カノンの母親は、窓の外の雨を眺めながらカノンに電話していた。

 母:「カノン、こっちは毎日、雨降りで嫌になっちゃうわ。
    まぁ、6月は梅雨の季節だし、雨降りは覚悟してるんだけど・・・
    やっぱりねぇ〜憂鬱だわ。
     そうそう、パパのお誕生日プレゼント有難うね?パパ、物凄く
    喜んでいたわ。パパはカノンのプレゼントが何よりもうれしいから。
    勿論、シオンやソンジェさん、トワ達、タクト達の家族からも
    嬉しいけれど・・・やっぱり1番はカノンなのよ。昔からそうだけどね?
    カノンの為なら命も惜しくないらしいわよ。アハハ。」
 カノン:「私も、パパ大好きだもの。パパはいつも私の味方だったしね・・・
      喜んで貰えてうれしいな。私は梅雨と云うか雨ってそんなに嫌いじゃ
      ないよ。雨降りの日は家の中でノンビリ本を読んで過ごすのが好きだし
      楽しいよ。でもママはアクティブな人だから・・・
      やっぱり憂鬱で退屈なんでしょうね?・・・」
 母:「そうなのよ・・・外に出ても雨、ビショビショになっちゃうし・・・
    湿気があるから蒸し蒸しして気持ち悪いしね。
    でも鎌倉のお爺様から分けて貰った紫陽花だけが庭先で綺麗に咲いてるわよ。
    ・・・そういえば・・・」
 カノン:「え?そういえば???」
 母:「カノンがパパの誕生日のついでに送ってくれたカタツムリパック、
    凄く良いわよ・・シットリツルツルよ。今、紫陽花見ててその上にカタツムリが
    いたんで思い出したのよ。あのカタツムリが、美容に良いなんて、本当に
    不思議ね?って思ったの・・・アハハハ」っとカノンの母親は明るく云い放った。

 カノンもつられて笑った。もうカタツムリは一昔前の物であり、韓国の美に対する
 欲望は天井知らずで止まっていない状況だった。
 母親も今も韓流ファンであり、基本中の基本は李ビョンホンさんのファン・・・
 今は新しいアイドルグループに夢中になっていた。
 韓国語は相変わらず下手くそで上達していない様だった。
 

 母:「ところで夏休みは日本に来るの?」
 カノン:「そのつもりではいるけど・・・
      ソンジェの仕事の都合もあるし、行けても2泊三日かも?
      後は済州島にもまた行きたいと思ってる・・・シオンのお友達がいる
      から、、、またいつか済州島に戻れたら良いなって思ってるしね。」
 母:「済州島は本当に良いところね?もし行くなら、ママも行きたいわ。
    ・・・ママ達はもう自由気ままな生活だから今度、トワがいる印度に
    行こうかと思ってるの。印度なんて早々行ける所じゃないから、
    駐在している内に会いに行ってみたいし、孫のミーシャにも会いたいし。
    ドバイから印度になって、本当にトワも忙しいわね。」

 カノン:「私も印度に行ってみたいな・・・大学の時、「深い河」って云う
     印度を舞台にした映画があって、映画研究会で見たのを思い出した
     んだけど凄く良かったな〜」

 母:「あら、その映画なら、ママも知ってるわ。遠藤周作の作品でしょう?
    印度が舞台だったかしら?
    なんか日本人の5人が旅行に出かけて背負って来た業や罪を洗い流す
    奥深い内容だった?そんな映画だった様な???
     かなり古い映画よね?」

 カノン:「うん、かなり古い映画で芸術大賞を獲った物をサークルで見ようって
     なって見たんだけど、凄く感動したの。それで原作の本も読んでもっと
     感動したっけ・・・行ってみたいな〜ママ、トワに会ったらお姉ちゃんの
     カノンたちも絶対に印度に行くから案内してって言っておいて!」

 母:「そうね、伝えておくわ。行けば喜ぶだろうし・・・
    でも我が家って凄くグローバルよね?
    タクトはアメリカのボストンだし・・・トワは印度、そしてカノンはソウル
    だもの。皆、国際結婚だし・・・日本で何かが起こってもママ達は
    皆の所に避難出来るわね?安心だわ。ハハハ〜
    パパが最近、最後の住居は気候が良くてノンビリ出来る国、豪州に
    住みたいって云ってるのよ。そのための資料も集めてるの。ママも
    豪州大好きだしね。3.11から色々な事がリセットされて、マイナス
    からのスタートってシンドイなってママ達は思ったの。唯、良かったのは
    子供たちが成人し独立して家庭を持ち、幸せに暮らしている事か
    な?って思って。カノンが一番近い国に嫁いでくれていつも気にかけ
    てくれるから有り難いわ。やっぱり娘は良いわね?って
    パパと話をしているのよ。」

 カノン:「ママはトワがそれでも1番なんじゃないの?」

 母:「全然よ・・今はお嫁さんががっちりだし・・ママの出番はなくなったわ。
    トワも父親になったんで少しは丸くなったし落ち着いちゃったわよ。
    あら、もうこんな時間、買い物に行かなくっちゃ、じゃあ、カノン
    又ね?有難うね?」と云って受話器をおいた。

 相変わらず突風のように電話をかけてきて、云いたい事だけ云って
 切った・・・と云うところだった・・・カノンはママは本当に元気で面白い
 と思って、自分も時計を見ながら、シオンのおやつのお菓子作りを
 しようとキッチンに立った。

 
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  リラ幼稚園でシオンは毎日、元気いっぱい過ごしていた。
  
  事件は3時間目の図工の時間に起こった。
  7/7の七夕の短冊の飾りを作る事になったが、その前に
  鬼頭は子供たちに七夕のお話をしてやろうと、手作りで
  紙芝居を描いた。
  そうこの紙芝居が発端となり、大きな諍いが起こった。

  

  鬼頭先生は生粋の日本人であり、日本式の七夕の
  お話を描いて紙芝居にしたが、猛反発をしたのが、
  韓国人の園児であるマヤだった。
 
7月7日の七夕は日本では雨が降ると川を渡って
織姫と彦星は会う事が出来ないので、てるてる坊主を作って
晴れますようにと祈りをかけるが、韓国の7月7日のチルソクは、
逆で、織姫と彦星が1年に一度会えて嬉しいと涙を流して
雨を降らすと云う意味で、雨が降らないと喜んでいない、
つまり会えなかったとなると云うのだった。
川を渡す橋はカササギが数万羽かさねあってオザッキョと云う
橋を作ってくれるから、必ず渡って会えるのだと聞いて、
教室ではざわめきが起こった。

シオンも少し混乱していた。どっちにも利があった・・・

マヤは生粋の韓国人の子供なので、得意満面で「だから!雨が
降らないといけないの!!日本人のエゴを押し付けるな!
歴史だっていつだって日本人は自分達の正当性を
主張するけど・・間違った内容を教えないでよ!」と云った。
韓国人の子供たちも「うん、僕のお母さんもマヤちゃんの話と
同じ事云ってたし。知子先生のは間違いかも?・・」
「私のお母さんもチルソクは雨じゃないといけないって云ってた・・」
教室がざわめいてきた・・・

鬼頭先生はどうして良いか分からず困っていた・・・
その騒ぎを聞きつけて、ユリは自分のクラスに飛び込んできた。
もはや収拾がつかない状況で、大騒ぎなり、韓国VS日本みたいな
流れになってしまっていた。

ユリは兎に角、静かにと云い、子供たちに「では、今日、お家に帰って
ご両親から七夕のお話を聞いてみて下さい。明日、皆でその話を
しましょう?」とした。



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シオンは今日もジェファと仲良く帰宅しようとしていた時に、
またサムチョンであるテファの車と遭遇した。

サムチョン:「アガシ、ジェファ、また会いましたね?
       乗って行くかい?」

  二人は満面の笑みを浮かべて「うん」と云って車のドアを
  開けた。

  シオンはサムチョンに今日の図工の話をした。


サムチョン:「ふうん〜、そうか・・・興味深いね?」
ジェファ:「僕は、ママンから韓国の方のお話を聞いた事があるから
      七夕は雨が降るって思ってた・・・実際に韓国はね、
      6月の終わりから7月12日まで梅雨の季節で雨が多い
      から、、、」
サムチョン:「そうだね、もし日本の話を韓国と一致させちゃうと、
      何年も何十年も織姫と彦星は会えなくて悲しくなっ
      ちゃうね?カササギと云う鳥さんは、韓国人に取ったら
      幸運を運ぶ・・・う〜ん、懐かしくて会いたかった人に
      会えるよって云うシンボルの鳥なんだ・・・だからカササギを
      見つけると韓国人は凄く喜ぶんだよ。その鳥さんたちが、
      橋をつくってくれて、どんなに雨や風が吹いても、必ず
      二人を会わせてくれる・・・その嬉しさで涙を流し、
      雨を降らせるって云う方が、幸せな気持ちになるね?
      じゃあ、日本のお話は幸せじゃないのかって言うと、
      そうとも限らない・・・
      日本は6月が梅雨で7月になるともう夏で梅雨が明ける・・
      晴れる確率の方が高いし、、、つまり会える事の方が
      多い・・・梅雨が本格的に明けたんだと云う吉兆でもある。
      人って毎日会ってると慣れっこになってその有り難さや
      大切さ、喜びって少なくなるだろう?
      元々は、織姫も彦星も神様に背いたからその罰で離れ
      離れにされちゃって、それで1年に1回会えるってなったん
      だし・・・本来ならもう二度と会えない事をしたんだからね。
      晴れたら川を渡って会える・・・貴重な1日だから、会わ
      せて上げて下さいって、日本人は願ってくれるんだろう?
      罪を犯した人にも優しい気持ちを与えられる日本人は
      素敵だよね?雨が降れば、あぁ、今日は会えないの
      かな?可哀想にって、口に出してくれる日本人は凄く
      優しいとサムチョンは思うよ。だから韓国の話も日本の
      話も・・・
      どっちも正しいし、どっちも優しい気持ちになるよね・・・

      だから、どちらも間違ってないとサムチョンは思うけど?」

  シオンはサムチョンの話を聞いて子供ながらも納得した。
  そして国によって同じお話でも内容が少し違う事を知った。
   それは意地悪な厳しいものではなく、本来は優しさと暖かさに
   満ちたものなのだと云う事を何となく感じとったのだった。


  シオンは笑顔を浮かべながら「サムチョン、有難う!
                  シオン、良く分かったし、、、
                  スッキリした・・・
                  マヤちゃんが、日本人はいつも
                  勝手に話を作りかえるって言ってて
                  なんか悲しくなったから・・・」

  サムチョン:「マヤ?」
  ジェファ: 「・・・あぁ、あの天才ピアニストの呉ジナさんの子供だよ。
        凄く大人びていて、意地悪なんだ。
        先生をやり込めるのが好きみたい何だ。」

  サムチョン:「ハハハ。面白いね?・・・韓国人も日本人も関係ないよ。
        良い事は良いし、悪い事は悪い・・・でもそのマヤと云う子
        の言葉は、ちょっと間違えてるね?日本人はいつも勝手に
        話を作りかえると云うのは間違いだよ。だからアガシが、
        悲しむ必要はないし・・・韓国人だって勝手な人や
        悪い人もいっぱいいるし・・・どこの人だって同じだよね?」

  シオンは益々、嬉しくなって元気が出て来た。
  明日、サムチョンの話をしよう!そう思った・・・



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 ただいまをして、シオンはおやつを食べながらオンマであるカノンに
 日本の七夕の話と、韓国の七夕の話をした。


カノン:「わぁ、じゃあ、日本のお話とは逆みたいな感じね?
     何事もオンマはポジティブでいきたいから、二人が会えるなら
     韓国のお話の方が絶対に会えるから良いよね?
     カササギさんが橋を作ってくれるなんて、素敵な鳥さんだし・・
     お天気の心配せずに必ず会えるのは、良い事だと思うなぁ
     日本だと雨が降れば会えないし、また1年後になっちゃって
     悲しいし、可哀想だもの・・・」

 シオンは、こう言った柔軟な考えが出来るのは日本人だと思った。
 オンマはやっぱり日本人だ、だからどちらの話も否定的に話はしない
 し、どちらも受け止めて、認める・・・更に褒める・・・
 マヤの様に生粋の韓国人なら、きっと「日本のは間違えだ。
  日本の勝手な作り変えの話だ。韓国の話が絶対で正しい。」
  となってしまうだろうと思った。更にはこちらが折れるまで、徹底的に
  やり込めてくるのが韓国式なのかもとフト思った。

 自分のアッパは韓国人と云うものの、本当のお母さんは日本人で
 小さい時に亡くなったと聞いていた。アッパはどちらかと云うと、
 日本人に近い考えだし、凄く繊細で、優しいし、決して威張ったりも
 しない。それにシオンが子供であってもキチンと話をしてくれるから、
 何となく日本人だと子供心に思っていた。

 シオン:「アッパは、どっちって云うかな?」
     シオンはおやつのプリンアラモードのプリンを食べながら
     カノンに尋ねた。

 カノン:「七夕の話を知っているなら、韓国の話かもしれないし、
      、、、多分、どっちも正しいって云うかな?
     会えなかったら可哀想だから韓国のお話が良いかも?
     って云うかもしれないね?アッパは優しいから・・・」


 シオン:「でもね、、サムチョンは日本人も優しいって云ったよ・・」

 カノン:「え?・・サムチョンが?」

 シオン:「うん・・・本当だったら神様の云いつけを守らず、悪い事を
      したんだから一生会えなくてもいい罰なのに、神様は
      それじゃあ可哀想だから1年に1回会わせて上げる事に
      したんだけど、雨だとダメってすることで、なかなか会えない
      事で思いが募って、自分達がしてしまった罪の大変さも
      知るし・・・日本人は、雨が降らないようにって空を見な
      がらお祈りしてくれるし、雨が降れば会えなくて可哀想
      って悲しんでくれるから、凄く優しいって・・・
      シオン、その話を聞いて、悪い事はしちゃいけないって
      思ったし、、、いつも会ってる人は慣れっこになっちゃうから
      その大切さを分からなくなっちゃうから、なかなか会えない
      事の大切なことも分かったよ。
      悪い事をしても、日本人はその人達の為に、お祈り
      してくれるから優しいって云われて嬉しくなったよ」

  カノン:「・・そうか〜、サムチョンて凄いね?
       なんかオンマ、サムチョンに感動しちゃった。」

  シオン:「うん、サムチョンは凄いよ。オボイナレの時も、最初、シオンが
       木の役って云ったら笑わなかったし、凄く良い役って言って
       くれたよ。シオン、凄く元気になったもん。」


  カノン:「・・・そうね、サムチョンは凄いね。」そう言いながら、カノンは、

   オッパ、いつもシオンの力になってくれてありがとうございますと呟いた。


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 次の日、やはり3時間目が図工の時間でチルソクの事での話しあいとなった。
 3時間目になる頃、サヤカとサヤカの取り巻きの父兄が2人腰巾着のように
 教室に入って来た。そしてリラ園長も後から入って来た。

  園児たちはザワメイた。
  「え?公開授業ですか?」っと鬼頭は思ったものの、ユリが肩をポンと
  叩いて「大丈夫、私がついているから・・」と云って笑った。

 挨拶が終わって・・・
 
 鬼頭が話を切り出そうとすると鬼頭の言葉を遮って、サヤカが教壇に
 立った。
 「ムグンファクラスの代表父兄の金ソラミの母親の金サヤカです。
  鬼頭先生、御安心を・・・あたくしは日本人ですから・・・」
 そう言って、「えぇ、皆さん、静かに聴いて頂戴ね?
        昨日、私の娘のソラミから、七夕のお話の事を聴いたの。
        それで、ソラミと私は、ソウル大学の文学教育を担当して
        いる偉い教授から、本当の話を聞いたの。どっちが正し
        いかが分かったの。勿論、東京大学の教授にも聴こう
        と思ったけど、私も、東京大学の教授も日本人だから
        ズルしているって思われたくなかったから・・・
        それで韓国では1番の大学、ソウル大学の教授に
        聴いたの。皆さん分かる?」

 園児はうんと頷いた。賢いリラ幼稚園児なので、ソウル大学が
 韓国では1番凄いと云うのは分かっていた。

 サヤカ:「韓国はお誕生日にしてもお祝い事にしても陽暦と陰暦
      があるでしょう?それと同じでチルソクも陰暦の7/7と
      陽暦の8/25なの。二つあるからここでも曖昧・・・と云うか
      信憑性がないと云うか・・・」

 どうやらサヤカは日本の方が正しいとしたい様子だった。

 これでは不味いと思い、シオンは「ハイ」とまっすぐに手を上げた。

 園長は「あら、李シオンさん、どうしたの?」となった。

 シオンは、昨日、サムチョンが話してくれた通りの事を話し、
 どちらも正しく、どちらも優しい気持ちから作られたお話である事
 を伝えた。
 子供たちから拍手が沸いた。鬼頭も、ユリも感動して、拍手で
 讃えた。

 更にシオンは「私のオンマは、お天気に関係なく必ず会える
         韓国のお話の方が良いねと言いました。それに
         カササギさん達が、一生懸命会わせて上げようと
        自分達で橋を作ってくれるってところも素敵だと
        言いました。私も、ここは韓国だし、韓国では韓国の
        お話が良いのかな?って思いました。
        日本人は雨が降ったら会えなくて可哀想だと一緒に
        悲しんでくれ、晴れたら、あぁ、会えてよかったね?
        喜んでいるかな?ってお空を見上げてくれるから、
        二人は幸せなんじゃないかな?って思いました。
        どっちが良くて悪いんじゃないし、どっちも良いお話し
        だと思いました。」と云った。

鬼頭も「・・実は先生ね、先生も日本人だから日本の七夕のお話
     しか知らなかったの。それで、昨日、韓国の七夕のお話を
     調べたの。そして紙芝居を作って来たの。
     今日はそれを見せたり読んでみようって思ってたの。」
     ・・・と云って用意してきた紙芝居を見せた。

 園児たちはわぁ!!っと云って早く読んで・読んでと云った。

 サヤカは、真っ赤になっていた。こんなソラミと同い年の
 園児に恥をかかせられた気分だった。
 お金を撒き散らして、追求した事が一瞬で泡になったからだったし、
 しかも、いつもいつもカノンに敗北している気分だった。
 ソラミでは、カノンの子供には勝てないのは分かっていた・・・
 そうしてソラミはこんなに冴えないの?どうしてソラミは馬鹿で、
 可愛くないの?どうしてソラミは・・・どうして?どうして?
 ソラミは、自分の母親が自分の事を、醜いものでも見ている様な
 視線を感じた。
  お母様は、ソラミが嫌いなんだ・・やっぱりソラミの事で、また
  悔しい思いをしているんだ・・・お母様、ごめんなさい。
  ソラミは、馬鹿だし、醜いし、シオンみたいに可愛いくないから・・・



園長は項垂れるサヤカに「ほほほ、子供の言う事だし、
              ここは幼稚園だから、子供に華を持たせ
              ましょうよ。ソラミちゃんだってまだまだ女王に
              なるチャンスがあるんだから・・・」と云って
  慰めたが、その園長の裏に隠された言葉は、いつもの様に
  お金だった・・・お金の寄付をしなさいと云う最速の言葉で
  あることはサヤカは承知していた。

 サヤカは気持ちを取りなおして、毅然とした態度になり、
  「分かりました」と云って教室を後にした。


 今回の事で、面白くないと思っている園児がもう一人居た。
 それは呉マヤだった。
 昨日、言ってしまった意地悪な言葉・・・日本人は自分勝手と
 言う言葉を否定され、丸く収められてしまったからだ・・・

 キリキリと痛みが走り、爪をカチカチと噛んだ。
 どうしてシオンは私を怒らせる事ばかりするのだろう?
 シオンさえいなければ、私は天才ピアニスト呉ジナの子供であり
 リラ幼稚園では女王様なのに・・・
 ソラミは大方、金を使って裏口入学したんだろう・・・
 勉強にしても容姿にしてもパットしないし・・・
 皆から嫌われているし・・・

 金も、地位も名誉も使わず、唯、人柄で人気者の・・・
 正真正銘のお姫様の地位を持つシオンが眩しく妬ましいマヤだった。

 シオンは優しいお父様や、そのお父様は音楽家として有名な
 李ソンジェだし、地位も名誉もある・・多分、お金もあるだろう・・・
 美男美女の両親から生まれたシオンはお人形さんのように可愛い
 女の子だった。生まれながらの「お姫様」だと思った。
 ピアノは下手だが、園児にしては上手い・・運動も島育ちだからか?
 かなり運動神経が良く、勉強も良くできた。
 素直で優しいから人気もあり、いつも楽しそうに笑っている・・・
 マヤは酷く惨めな気持ちになってくるのだった・・・
 
 本当だったら、私のお母様とシオンのお父さんが結婚して、
 私がシオンみたいになっていたのよ!!
 
   よし!ソラミを利用して、復讐計画を実行するわ。
   ソラミも、ソラミの母親も、きっとシオンには良い思いをして
   いないから。復讐の良い材料になるわ!!アハハハ、可笑しい。
   見てなさい、シオン、あなたのお父様は私が貰ったわ。



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 「キーっ、今日もシオンにこんな悔しい思いをさせられるなんて!
 ソラミ、お母様は、本当に悔しいわ。一体、ソラミとシオン、どんな
 違いがあるの?」ソファに置いてあったクッションを床に叩きつけながら
 サヤカは、ソラミに怒りをぶつけた。


 ソラミは、悲しくて唯、泣くだけだった・・・

 サヤカ:「ソラミ、お母様は、シオンのお母さんのカノンとは従姉妹同志
      なんだけれど、いつもいつもお母様はカノンよりも上だったの。
      スタイルも顔も、お母様は美しいと云われミスキャンパスを
      4年間通してきたの。県別のミス長野にもなって、学生時
      代はモデルの仕事も頼まれてやっていたの。
      頭だって学年トップよ。カナダ留学も、退屈で本来なら
      1年半はいなくてはならない留学を僅か半年で終えて帰国
      したの。そしてCAにもなった。家柄だって、代だい続く大病
      院・・医者よ。財産だって地位も名誉もカノンよりも上なの。
      お父様だってパイロットだし一流大学出身・・・
      お家は韓国でも有名な家柄・・・大金持ちよ。
      なのに何故?子供の代で、その位置が逆転するの?
      ソラミ、貴女にはどれだけお金を使っていると思ってるの?
      お母様の期待をいつもいつも裏切って・・・お母様は悲しいわ。
      こんな出来の悪い娘なんてもう要らないわ。生まれて来な
      ければ良かったのよ・・・生むんじゃなかったわ。
      私の子供がシオンだったらよかったのに・・・」


 
     生むんじゃなかったわ・・・
      私の子供が、シオンだったら    
            シオンだったら・・よかったのに・・・・


 ソラミは、何度も、何度もその言葉が頭の中でリフレインされていた・・・・
  ただ立っているのが精一杯だった・・・

   それを聞いていた兄のカイトが、怒りに燃え、ソラミを引っ張って、
   自分の部屋に連れて行った・・・


 カイト:「ソラミ、泣くな!ソラミは悪くない。」

 ソラミ:「・・・だって・・・だって・・・お母様は、私が嫌いなんだ・・・」
     ソラミは泣きわめくだけだったが、
     カイトは母親の居るリビングの方を刃のような目つきで眺めながら

  カイト:「ねぇ、ソラミ、僕たちは本当に、必要か必要じゃないか?
       試してみない?」と云った。

 ソラミ:「・・・え???」
   カイトは深く頷いて、しっと人差し指を立てて静かに語りだした

   カイト:「家を出よう。二人でちょっと遠い所に行こう。探しに来て
        抱きしめてくれたら、きっと僕たちは家族をやり直せると
        思うんだ。お母様はリラ幼稚園のお受験の頃から、
        心が病気になっちゃってるんだよ。だからその病気を
        治してあげようよ。きっと大丈夫・・・また4人で楽しく
        過ごせるよ。シオンちゃんの事をお母様は気にするのは
        多分、カノンおばちゃんに勝てないからだよ・・」

  ソラミ:「え?でも・・お母様は自分の方が上だって云ってるよ・・」

  カイトは首を横に振り「いいや、違うよ・・・
               いつも負けているから悔しいんだよ。
               それをソラミとシオンで戦わせているだけだよ。
               でも、僕はシオンちゃんの方がソラミより
               上だと思うよ。」
  ソラミ:「え?」

  カイト:「勉強とか運動とか、顔とかじゃなくて・・・最初っから・・
      シオンちゃんの方が上だよ・・・どうしてか分かる?」

  ソラミ:「ううん・・・」

 カイト:「ソラミだって、本当は分かっているだろう?多分、カノン
     叔母ちゃんが幸せだからだよ。だからいつも笑顔で笑ってる
     ・・・ソンジェオジサンもいつも優しくて笑ってる・・・    
     その笑ってる中にいつもシオンちゃんがいるからだよ・・・
     凄く仲良しで・・・いつも一緒で、、、笑ってるだろう?
     だから幸せだからだよ・・・僕の家は、パパは優しくて好き
     だけど・・いつも忙しいだろう?
     お母様は、それでイライラしてるし・・・ソウルのお婆様に
     いつも嫌みを言われて、悩んでたし・・・泣いてただろう?
     僕たちは、そんなに優秀でもないから、期待にもこたえら
     れなくて、イライラが一杯だったんだ・・・・
     ところが、シオンちゃん達がチェヂュからソウルに来て、いつも
     楽しそうに過ごしていて、リラのお受験も簡単に合格しちゃって
     お母様は、すごく悔しかったんじゃないかな?
     カノン叔母ちゃんは、余り努力もしてないのに・・・お母様が
     欲しい物を全部持っているから・・・もちろん、カノン
     叔母ちゃんが悪いわけでも、シオンちゃんが悪いわけでもない
     じゃない?それなのに、お母様はそのストレスを全部、シオン
     ちゃんやカノン叔母ちゃんにぶつけてるだろう?
     それをソラミにやらせようとしていて・・・お母様は病気だよ。
     だから僕たちで治してあげようよ。ね?出来るかな?」

 ソラミ:「・・お母様は病気なの?痛い・痛いの?」

 カイト:「あぁ、きっとここ、心が凄く痛い病気だよ。」

 ソラミは涙を手で拭いて「・・・分かった・・・ソラミもやる!」と云った。

 カイト:「・・・じゃあ、もしかしたら2日ぐらいかかるから、洋服とか
     お金とか食べ物を用意して行こうか?金曜、幼稚園が終
     わったら家出しよう。多分、土日で見つけて貰って、月曜
     からは幼稚園に行けるだろう?誰にも迷惑はかからないよ。」

 ソラミ:「金曜なら・・・明後日だね?うん、分かった・・・」

  二人は約束の握手を手でした・・・・
  日本の指切りとはちょっと違う、韓国式の約束の仕方だった。




  カイトは、お母様・・・いや、大好きなママ・・元のママに戻って
  欲しい・・・優しくて綺麗で、いつもテキパキとしているママ・・
  いつも僕らの話しの時は屈んで「なあに?」と笑顔で聞いて
  くれたママにきっと戻ってくれるとカイトは信じていた。
  
  ソラミも又、元の優しいママに戻って欲しいと思った。
  ママは何もしなくても、美人で素敵な自慢の母親だったからだ。
  自分がふがいないばかりに、悔しい・悲しい思いをさせているのだ
  とばかり思っていたが、兄のカイトの言葉で救われたし、病気なら
  合点がいった・・・
  心の病気を治せるなら、、、治せたら、きっと前のように笑い声が
  絶えない家族に戻るだろうと思ったのだった・・・・
 

   


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 呉ジナは今日も仕事が終わると、スタッフと次のスケジュールの話しを
 食事をしながらする事になっていた。

 ビョクチェカルビ店と云う名の食堂が予約されており、
 8人貸し切りの個室で行われると伝えられ、ジナはスタッフが用意してくれた車で
 向かった。
      「あぁ、お腹がペコペコだわ。この鞄だって食べられちゃうくらいだもの。
       早くご飯が食べたいわ。」と云って笑った・・・

 良い笑顔だった・・・おそらく、満足のいく演奏が今夜は出来たのだろうと
 相乗りしたスタッフやマネージャーは思った。


     ソウルの道路は相変わらず渋滞し、それでも30分ほど走った所に
     店があった・・・

    店は人で一杯で、ドアを開けると焼き肉の香ばしい良いにおいが
    漂ってきた。
    ソウルでも有名な高級焼き肉店だった。

   マネージャーは食堂のアジュンマに「予約しているレジデンスミュージックの
   ユンです。」と云うと丁重にお辞儀され、貸し切りの8人部屋を案内
   しようとした時、

         「呉ジナ!」っと

              ジナを呼ぶ声がした・・・

   ジナは振り返ると、ジナのかつての恋人。。李ソンジェだった。

   ソンジェ達も、違う場所で演奏会があったらしく、その打ち上げで
   焼き肉店に来ていた様子だった。唯、個室ではなく、食堂の
   テーブル席だった。


    「ソンジェ・・・?」

    「ジナも食事?ちょっと話したい事があるんだけど?」とソンジェは言った。

   いつもはジナが声をかけるのに、今日はソンジェの方から話しかけて
   貰え、ジナは心が躍る思いだった・・・
   だが、その気持ちを悟られたくないので、必死に抑えながら、、、
   素っ気なく・・・
 
   「え?話し?話って??」
         と云ってみた。


   するとソンジェは、「うん、早急に話しておきたい事があって・・・
              食事が終わったら店を変えて、
              2人で話したいんだけれど? 
              駄目かな?」
                 と、微笑みながら言った。

 ジナは鼓動が高鳴りながら「そうね、食事は仕事も兼ねているから
 1時間半はかかるわ。それでもよくって?終わったら、この斜向かいの
 「イアン」でどう?
 先に行ってもかまわないし・・・

    ソンジェは「分かった」とし、会って話をすることにした。
   ソンジェは酒は飲めないので(=ゲコ)ここまでも車で来ているので
   帰りは何時になっても構わないし、ジナを自宅に送っても良いと
   言った。
    
      
 ジナは空腹の事も一気に忘れたかのように心が躍っていた。
 なんとか1時間半で仕事の話と食事を終わらせて、「イアン」に
 向かいたかった。

 何の話だろう?微笑んでいたから、悪い話ではない・・・
 ジナはそう思った・・・




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  カノン:「オッパちゃん、じゃあ、帰りは今日は遅いのね?
       了解!いいな〜ビクチェカルビって凄く有名なお店でしょう?
       しかも高いんだよね?お肉一枚で白菜何玉買えるかな?
       えへへ」と屈託なく笑いながら云うカノンに、
       ソンジェは噴き出しながら「料金は、会社持ちだから
       料金は分からないけど・・・沢山食べて太って来るよ・・・
       いつもカノンに、弱いとか痩せてるって云われてるから・・・
       それにうちは貧乏だから、こんな時じゃないとお肉なんて
       食べられないしね?ハハハ」と云った。

   カノンは真面目に「そうそう、その調子、その調子!
             我が家は貧乏だから、思いっきり食べてきて
             下さい。そして、あぁ、偉大なるカノンちゃんや
             可愛いシオンちゃんにも食べさせてやりたいな
             っと思いながら、必死に働いて下さい。」
   と云うと、ソンジェはこらえ切れなくなってゲラゲラと笑い出してし
   まった。


 ソンジェ:「それから、焼き肉が終わったらなんだけど、呉ジナに
       この前の事、ちょっと話してみるよ。
       だから、二人で会って話すけど、、、カノンにもキチンと
       話しておこうと思ってね・・・良いかな?」

  カノン:「うん、勿論、いいよ〜!!承知しました!!イヒヒ。
       面白くなってきた!!」

  ソンジェ:「え?何が???」

  カノン:「韓国ドラマの展開だとね、ここで焼けぼっ栗に火が
       つく訳よ・・・それで、修羅場になって・・・
       離婚になってカノンたちは健気に生きて行く
       可哀想な人になるんだけど、、、
       その時、格好いい大金持ちなイケ面な人が現れて、
       カノンに求愛して、幸せになっておしまいになるの?
       どう?こう言う展開ってありそうでしょう?」

  ソンジェ:「多分・・・いや絶対にないし・・・カノンに良いような
        展開じゃない?しかもイケ面でお金持ちって云うのがね?
        ドラマの見過ぎだと思うけど???ハハハ。
        とにかく、ジナには娘マヤの事をしっかり受け止め、見つめる
        様に言うつもりだよ・・・あの目の輝きが、かつての義理妹の
        スンミに似ているから・・・気になってね・・・犯罪にならないと
        いいが・・・ジャンフーとの子供だから尚更、気がかりなんだ・・
        ジャンフーは大学時代から、良い噂は聞かなかったからな・・」

  カノン:「うん、だからこそ、ジナさんの力になって上げてね?
       オッパちゃん、アジャアジャファイティング!!」

   ソンジェはハハハと笑いながら電話を切った。カノン、本当に面白い・・
   カノンと居ると心が和むし、争いや諍いなどどうでもいい事だと思えて
   くるよ。そしていつも笑顔でいられる・・・
   ジナも幸せになって欲しいなっとソンジェは心から思った・・・




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ソンジェは食事が終わって、待ち合わせの時間にはまだ少し早かったが
 「イアン」に先に来て、アイスコーヒーと注文した。
 季節は夏に向かっていて、少し蒸し暑い夜だった。

  アイスコーヒーを飲みながら音楽業界の雑誌を読んでいると

  「ソンジェ、お待たせ♪」と弾んだ声が後ろから聴こえた。

  ジナだった・・・あれ?さっきの洋服とは違ったいでたちだった。
  ジナは、早々に食事と仕事を切り上げ、近くのブティックで
  新しい洋服を買い、着替えをしてきたのだった。

  「いや、、僕も今来たところだったから・・・」とソンジェは微笑みながら
   言った。

ソンジェ:「コーヒーで良いかい?僕にもだからホット2つ・・」と
     ウエイトレスにいった。

 ソンジェ:「それより忙しいのに、悪かったね?・・・でもどうしても
       話しておかないといけないと思って・・・」

 ジナ:「何かしら?もしかしたら、あの話?・・・一緒に演奏する
     ロシアへの仕事?」

 ソンジェ:「あっ、、いや、その話ではないんだ・・・
              実は、君の娘…呉マヤの事なんだ・・・・」


 ジナは、一気に奈落の底に落とされた心境になった・・・
 よもやま娘の話が出るとは思わなかった・・・・
   出来れば避けたい内容だったからだ・・・・
   


 ソンジェは、以前、偶然に出かけた映画館での話や、もっと前に
 英国での演奏会で会った時のマヤの冷たい目や大人びた口調
 が、自分の義理の妹であるスンミに似ていて、怖いと云った。
 とてつもなく犯罪に繋がるような予感もする・・・
  だがまだ4歳の園児だ。親子関係は十分立て直せるので
  はないか?と云った。


         「無理よ・・・絶対に無理・・・」

    ジナはテーブルを叩いて叫んだ。
        周囲はその声と音に驚きその様子に目が集中した。

   コーヒーを運んできたウエイトレスもどうしていいか
   分からずマゴマゴしていた。

  ソンジェはつとめて微笑みながら、「ジナ、落ち着いて!
                     コーヒーが来たから、先ずは
                     飲もうよ」とし、コーヒーを
    勧めたが、ずっと硬直し震えていた。


   だが、いきなり頭を抱え「ソンジェ・・・私はマヤが怖いの・・・
                 私はそうしていいか?分からないの・・
                 出来れば、マヤを遠くの国に行かせて
                 目の届かない所においやりたいの・・・
       ジャンフーももしかしたらあの子に殺されちゃったんじゃない
       かって思ったの・・・・本当に怖いのよ・・・考え方もジャンフー
       にソックリなの・・・」っとおびえながら話しだした。


    ソンジェはジナの話を聞きながらみるみる青ざめていった・・・



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  ・・・・とすると、洪ジャンフーの謎の死も、マヤが何かをしたって事 
     なのか?っとソンジェは青くなった・・・

  ジナ:「ええ・・ソンジェ、私は怖いのよ・・ジャンフーよりも、あの子の
      方が怖かったの・・・1度やってしまうと抜けられない麻薬の麻、
      人の心を矢の様に突き刺す意味でマヤと云う名前がつけられ
      たの・・・生まれて来て可愛いと思った事は1度も無く、、、
      母性本能も一切ないの・・・
        唯、あの子は音楽・・・ピアノに関しては天才よ。
       絶対音感を持ち、1度聴いた曲は直ぐに再現してしまうの。
       完璧に・・・その感性の鋭さは凄いとは思うけれど・・・・
       大人顔負けの言葉や考えを持ち、、、相手をやり込めるのが
       得意なの・・・母親として何度も注意したけれど、うすら笑いを
       浮かべ、人の真意をつく言葉を言って、相手が動揺するのを
       楽しんでいるの・・・」

   ソンジェ:「・・んな馬鹿な?・・だってうちのシオンと同い年の幼稚園児
         じゃないか?気のせいじゃないのか?」

   ジナ:「いいえ、いいえ?気のせいじゃないわ・・・本当に私は怖いの。
       やはり、音楽の部分で伸ばしてやろうと思い、ウィーンへでも
       留学させちゃおうかと思ってるの。」

   ジナは尋常じゃない怯え方をしながらソンジェに訴えた・・・

   ソンジェは少し考えて、ジナが嘘を言っているとは思えなくなった。
   「ジナを信じるよ・・・そうか、マヤが怖いんだね?
    ・・・もし良かったら僕がマヤのレッスンを見ようか?
    それでマヤから天性の才能が見出せたら、僕がウイーン留学を
    マヤに勧めてみるよ。どうだろう?母親の君が云ったら、自分の事を
    恐れるあまり、遠くに追いやったとなるだろう?・・・だから・・・
    才能が見出せなかったら、その時は違う方法を考えよう。
    どうだろう?ジナ、僕に任せてくれないか?」っと微笑みながら言った。

  ジナ:「・・・ソンジェ・・・有難う・・・」
      ジナは心が晴れて行くのが分かった。今はうれし涙で泣いていた。




     帰りの車の中で、ソンジェは、今日のジナの話は
     少しだけカノンにしてあらましは語らない事にした・・・
     きっと心配するだろうし、、、、シオンにも影響してくるからだった。
     時計を見ると1時半だった・・・
          あと30分は孤独なドライバーだな?っと思いながら
           車を走らせた・・
      
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  金曜日になって、ソラミは少し落ち着きが無かった・・

  いよいよ兄のカイトとの家出を実行する日になったからだ。
  どの授業も上の空で、ユリも気にかかり「ソラミちゃん、どうしたの?」
  と何度も声掛けをした。
  しかし、ソラミはそれどころじゃなくてうすら笑いを浮かべているだけだった。

  体育はドッチボールだったが、ソラミは早々にボールに当たって、コートの
  外に出て、適当にフラフラしていた。
  マヤは、何かあると思い、自分もボールにわざとあたってコートの外に出て
  ソラミに近づいた。

  マヤ:「ねぇ、金ソラミ、あんた何か隠してない?」
  ソラミ:「え?・・・なっ、何んでもないわよ」
       ソラミはつとめて平静を保とうとした。
  マヤ:「嘘、嘘、嘘だわ。その顔にちゃんと書いてあるわ。何かをやろうと
      していること・・・」
  ソラミ:「え?」っとまた驚いて、手で顔を何度も拭き取ろうとした。

  マヤ:「ほうら、やっぱり・・・ねぇ、何をやろうとしているの?
      場合によったら協力するわよ。
      どうせ、あんたの考えじゃあ、直ぐにバレちゃうでしょう?
      それにあのお姫様にバレタラ、また人気をお姫様に取られちゃうわよ。
      あなたの大好きな自慢のお母様が悲しむんじゃなくて?」
  ソラミ:「え?お母様が・・・悲しむ?」
  マヤ:「えぇ、そうよ・・・あなたのお母様は、このリラでは1番の美人で若い
      お母さんではなくて?更にお金持ちで、上品で、頭もよく、仕事も
      てきぱきしていたんでしょう?そのお母様の子供のくせに、あんた・・
      ソラミは冴えない娘だし・・・この前のオボイナレだって間抜けな
      お漏らしの枯れ木役だったじゃない・・・本来はシンデレラで主役
      だったのよ!!違う?あんたのお母様は、シンデレラのソラミを
      見に来たのに・・・リラの全員に紅白のお饅頭まで配って自慢して
      いたのに・・・あんたときたら・・・」

           「やめて!!」ソラミは泣きながら云った・・・

    ソラミ:「あたしは、お母様にとっては要らない子・・・
            あたしはお母様を悲しませるの?
                ううん、違うわ、、、だって今日、お兄ちゃまと・・・」


    マヤ:「お兄様と???・・・ハハン・・・あんた達、兄妹で何か
        やろうとしてるのね?」

    ソラミ:「え?何で、マヤちゃん、分かるの?」

        ソラミは少しマヤの事が怖くなってふるえながら聞いてみた。

    マヤ:「分かるわよ・・・あたしももうとっくの昔、同じ事をやったんだから。
        でも失敗したのよ・・・そしてガッカリしたの・・・
         あんたには失敗して欲しくないから(=フフフ、嘘よ。皆、
        傷ついて死んでしまえば良いのよ)・・・だからあんたに聞いてるの。
        ねぇ、一体、どうしようとしてるの?
        あたしに教えてよ。協力するよ。」と云って笑った。

    ソラミは、引き込まれるかのように計画を語りだした・・・
    一通り聞き終わって「ハハハ、大方、そんなチンケな計画だと思ったわ。
                失敗するわよ。考え方が甘いわ。」
                と意地悪そうに笑った・・・


   ソラミ:「え?でも・・・でもぉ・・」

   マヤ:「私に任せてよ。私の言う通りにすれば、成功するわよ。」

   ソラミ;「本当?」

   マヤ:「えぇ・・詳しくはお昼休みに話しましょう。」

 
           ピピピィっとホイッスルの音が鳴り試合終了と同時に
           チャイムが鳴った。


     「集合!」先生は右手を挙げて言った・・・・


     「教室に戻って着替えをして、お昼の準備をしましょう。」
      
            「ハァイ」と園児たちは挨拶して、教室へ向かった。




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シオンはマヤとソラミがそんな話をしているとは知らず
     無邪気にクミョンやヨンスと、ドッチボールは楽しかったね?と
     話をしながら、大好きなオンマが作ってくれたお弁当を
     頬張っていた。

 マヤもソラミも早々にご馳走さまをして、校庭に出て行った。
 ふとその場面をシオンは見たが、独断不審にも思わずに、
 見過ごした・・・





  マヤ:「・・・大体は分かったわ。
      あんたたち、家を出てどこに行くの?」

  ソラミ:「お兄ちゃまの話だと、ソウルの江南にあるロッテワールド・・・
       あそこなら安全だし、見つかり易いし・・仲直りした後、
       家族で遊んでお泊りして帰れるでしょう?」

  マヤ:「アハハハ。甘いわよ。直ぐに見つかっちゃったら意味はないし、
      また変わらない毎日になるわよ!馬鹿ね?」
 
  ソラミ:「え?そうなの?・・・じゃあどうすれば?」

  マヤ:「そうね、先ずは今日、うちにいらっしゃいよ。
      うちはお母様は演奏会でいつもいないし、いても寝てるし、
      あたしが何をしても文句も言われないし・・・
      いつも無関心だもの・・・
      あたしの家ならいつまでいたって構わないしね。」
  ソラミ:「・・でも今日から家を出て日曜までには見つかって、
       月曜は幼稚園に行くって云うのが・・・」

  マヤは、興奮しだしたソラミに危険性を感じ「・・そうね、、、じゃあ、
  日曜までに片が付く様にしないとね?それでも、隠れてる場所は
  やっぱり我が家の方が最適よ。どう?」

  ソラミ:「・・・・うん、分かった。じゃあ、マヤちゃんのお家はどうやって
      行けばいいの?」

  マヤ:「じゃあ、ソラミの家の近くまで車で迎えに行ってあげるわ。
        17時に新村の梨花公園南側の入口で車を停めて待
        ってるわ。見つからないようにね?」
    

  ソラミは生唾をゴックンと飲み込みながら「うん」と頷いた。



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   カノンは今日は、日本から韓国旅行で来ている大学時代の
   友人のミドリと久美子と明洞のロッテホテルで待ち合わせをして
   いた。

   今は第2次韓流ブームの後半の時期にさしかかっていると云われて
   いるものの、まだまだ人気は凄かった。
   更に嬉しい事に、日本から韓国に行く旅行代金がかなり安く、
   何回も・・・それこそ毎月行く事が出来る位の安さになっていて、
   国内旅行よりも韓国に行った方がお得だと云う考え方も定着していた。
  
   緑も久美子もカノンと同じ韓国語学科の生徒であり一緒に韓国に
   短期留学した仲間だった。
     

   カノン:「ミドリ、久美、久し振り!!元気そうで?ようこそ韓国ソウルへ」
       と笑顔で出迎えた。

   緑:「・・・っと云っても、安いツアーで来たからね・・昨日の深夜にこっちに
      到着したのよ。だって2泊三日でジャスト1万円よ。もう行くしかない
      って感じよ・・・明日はもう帰国なんだけどね?今日は5時まで宜しくね。
      19時からビッグバンバンのコンサートがあるから・・・
      でもカノンに会えて嬉しいわ。」
   久美子:「カノン、もうすっかりソウル・・・と云うか韓国の生活に慣れてる
         って感じね?楽しそう!」

   カノン:「うん、凄く楽しい・・・さてどこに行きたい?お腹は空いてない?」

   二人は新村やホンデ近くに行って最新のお洒落な洋服とか見てみたいし
        買いたいと云ったのでカノンはお安い御用とし、バスに乗ろうと
        した。二人はビックリして「カノン、バス乗るの?」
           と云った。

  カノン;「うん、だって、安いし、早いし、近くまで行ってくれるから便利だし・・
       どこまで乗っても安いもん。ソウルのバスはちょっと住民でも乗り方が
       難しいって云われてるけど、実際乗ってみるとハマルよ。」と云って
       バス停に手招きした。

  久美子も緑も楽しい気分になってきた。旅行と云うと、安全性や正確性で
  電車か、タクシーが定番で、バスは考えてもいなかったからだった。

  観光と云うと、歴史や文化を感じさせるOPを組んでいく物ばかりで、
  金額も結構良い値段だったし、自分達で行けるほど地理には疎かったので
  地元の知り合いがいるだけで、普段行く事が出来ない所に行ったり、
  穴場のお店や食べ物が食べられそうで、久美も緑もワクワクして来たのだった。

 バスは直ぐにやって来て、カノンは3人分と云ってお金を払い、
 運よく3人が並んで座れた。
 久美子;「カノン、幾ら?払うよ。」
 カノン:「いいって・・・安いから・・・それに結構、運転が荒いから今、お財布出
     してお金出さない方が良いよ。」と云って笑った。
    案の定、運転は荒く、急停車したり、大周りをしたりと、右に左に動かされて
    いた。
 緑:「ねぇ、カノン、いつもあたしたち、お土産をね、ロッテデパートとかで買ったり
    するのね?でも本当は、もっと庶民的な安いお菓子や食べ物が売ってる
    スーパーに行ってみたいのよ。」
 カノン:「うん、分かった・・じゃあ、地元の人が良く利用する安くて楽しい気持ちに
      なるお店ね?」と云って笑った・・・


 ホンデの校門と校舎が右手に見えて来た時、カノンは大きな声で「アジャシ、
     モンジュオ(おじさん、とまって!)」と云って、バスを停めさせ、
     涼しい顔で降りたのだった。

 緑も久美も益々、楽しくなってきた。

 カノン:「ちょっと蒸し暑いし、お茶でも飲んで一休みしてから活動しようか?」
     と云った。

    二人は賛成と云って、カノンに連れられるまま、雰囲気の良いカフェに
    入った・・・・


  カノン:「ここはね、今、若者に人気のお洒落なカフェで
      野菜のケーキが有名なんだけど・・茄子や椎茸、セロリとか
      一杯あるよ。勿論、野菜アイスもあって人気なんだ。」と
      言って、慣れた感じでウエイトレスに「人参ジュースとスイカの
      ケーキ」と注文していた。
   緑は白菜ジュースと椎茸アイスケーキ、久美は大根ジュースと
   玉葱ケーキをカノンに頼んで貰った。

    果たしてどんな味なのか?凄く楽しみになって来た・・・

   韓国はかなり前から美や健康が叫ばれていて、自然の甘さや辛さ
   酸っぱさなど、人工的な甘味料を使わない食材でお菓子・ケーキも
   作ろうと云う方向だった。
   日本人からすると、甘さが足りない感じがするが、慣れて来ると、
   自然の甘さが良くなってくる・・・そんな感じだった・・・
   味も悪くなく、寧ろ美味しいものばかりだった・・・・




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