20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第10回   懐かしい風が吹いてきた・・・
リラ幼稚園ではオボイナレの出し物がキッカケで、シオンの人気が上がり、
マヤやソラミは影が薄くなった。
ソラミはこうなることは、幼いながらも分かっていた。
同じ親戚ながらも、シオンは両親の良いところを全部持って生まれていたからだ。
目はクリクリと大きくまつ毛も長い、笑うとエクボが出来、いつも楽しそうに笑っているし、
誰に対しても優しい。頭も良いし、運動も良くできる、絵も音楽も上手、何をとっても
自分には無いものばかりだった。
幾らお金があっても、幾ら親が凄くても、幾ら母親が美人でも、自分がそうでなければ
自信も持てないし・・・心は荒むばかりだった・・・
鏡に自分の姿を見て、ソラミは大粒の涙がこぼれた。
団子っ鼻で、腫れぼったい一重の目、まつ毛は乏しく短い、顔はまさしくお父様ソックリ
、、、沢山の家庭教師をつけても頭は悪いし、極度のあがり症・・・成功よりも失敗の
方が多い、、、その度にお母様は深いため息をつき、沢山のお金を使って、なんとか
してしまう・・・そして「ソラミ、もっと堂々としなさい、貴女はお姫様なのよ。」と云うが、
自分がお姫様じゃないことぐらい分かっていると、何度も何度も心の中で叫んでいた。
     「私は、お姫様じゃない・・・」
       「シオンがお姫様・・・・シオンがお姫様に決まってるじゃない・・・」
          「・・・でもそんなことを云ったら、お母様が怒るし悲しむから・・・
                どうしてお母様はカノン叔母ちゃんのことをライバルに
                   思うんだろう?カノン叔母ちゃんよりもお母様の
                   方が美人だし、スタイルも良いし、頭も良い。
                   仕事だってお母様は自分が望んだものになったし。
                   お金持ちで優しいお父様と結婚もしているし・・
                   シオンの家よりも大きなお家だし、、、 
              ・・・・お母様が悲しい顔をするから・・・やっぱり私はお姫様
                 であり続けるしかない・・・・シオンには負けるわけには
                 いかない・・・」
    ソラミの中でキリキリとした痛みと、闘志が沸いてきた。
               
  

 一方、ソラミと同様に、シオンに対して闘志を燃やしている者がいた。
 
       呉マヤだった。
   「李 シオン・・・わたしを本気で怒らせたわね?
    フン、たかがオボイナレでピアノを弾いたからって良い気になるんじゃないわよ。
    下手くそなピアノ!!それなのに、皆がシオン、シオン、シオンと云う・・・
    私の方が、ピアノは完璧よ!私の方がピアノ奏者の娘なのよ!!
     顔だって私の方が綺麗だわ。あんな島育ちの田舎者に何で私が・・
     この私が負けないといけないの!!・・・悔しい、絶対に許さない!!
     李 シオン、みてなさい!あなたから、大好きなお父様を奪ってやるわ。
     私のお父様に相応しいのはやっぱり 李ソンジェしかいないわ。
    お母様と李ソンジェは昔の恋人同士ですもの。
    シオン、あなたの大好きなお父様は最初はお母様のものだったのよ。
    だから返して貰うから!!・・・待ってなさい、
       あなたの泣きわめく顔が早く見てみたいわ。アハハハ」

  ソラミは、机の中から、ノートを取り出し、楽しそうに復讐計画を書き始めたのだった。


-----------------------------------------------------

  (オボイナレが終わって2週間ほど経った日曜の朝)




 「オッパちゃん、またビデオ見てる・・・そんなに面白い?」

 カノンは呆れた顔で楽しそうに目を細めているソンジェに云った。
 毎日何回も暇さえあれば見ているオボイナレの時のシオンのピアノ
 演奏だった。

 「面白いもなにも、可愛いシオンが頑張ってピアノを弾いているんだよ。
  感動だし、芸術だよ・・・あっ、いや、どんな役だっていいんだけど、、、
  でも僕の仕事の一部である音楽を担当してくれてるんだよ。
  いや〜、凄いよ、芸術だよ、、、シオンは凄いよ。可愛いのは当たり前
  なんだけどね。将来は天才ピアニストにだってなれるよ。うん、なれる
  、なれる。シオンは何だってなれるよ・・・可愛いな〜上手だな〜」
 
 ソンジェのとろけそうな顔と親バカな言葉にカノンはゲラゲラと笑いだした。
  更に、
 シオンが寝ぼけ眼で起きて来て「アッパ、これもうつまんない、アニメ見たい」
 と云った瞬間に、カノンは噴き出してしまった。

 カノンは、オボイナレでかつての恋人チョン テファに会った事を、伝えられずに
 いた。今日こそ、云わなくては・・・と思うものの・・・・なかなか伝えられず
 月日だけが流れて行った。

       「ママ、おかわり」

    ソンジェはお茶碗をカノンに出し、ハッとして

    「あっ、ハイハイ」と言ってカノンはご飯をよそった。

 ソンジェは朝食はご飯が好きらしく、更には納豆や日本の豆腐の味噌汁が
 好きな韓国人だった。食卓には必ず納豆が用意されていると喜ぶのだった。
 
 そういえば、出会った日・・・ロッテホテルでの会食の時も、ソンジェは日本食
 ばかり頼んでいたし、自分であるカノンは韓国の料理ばかり頼んでいたっけ・・
 カレー、牛丼、ラーメンの繰り返しで食べていたとソンジェは懐かしそうに
 語っていた事をカノンは良く思い出しては笑っていた。
 今でも、カレー、牛丼、ラーメンをカノンが作ると喜んで食べてくれるのだった。

 カノンは韓国に来てから、少しづつだが辛いものが食べられる様になり、
 キムチや、唐辛子をたくさん使った料理も好きになっていた。
 ラーメンも、キムチを沢山入れないと、何となく味覚が寂しい・・・
 そんな域になっていた。
 娘のシオンは日本で生まれたものの、育ったのは韓国の済州島なので、
 小さい頃から韓国料理を食べて育っているので、辛い物は大好きで、
 特に真っ赤になったキムチを好んで食べていた。
 
 キムチを食べていると、健康に良い・・・
 ありとあらゆることから栄養のバランスが良く、身体が丈夫になるし、
 美容にも良い事が早くから云われていた。
 カノンもそう思った。

 特にオリンピックの時に、思った。
 日本はかつてマラソンにしても体操にしても強かったが、ここぞ!と
 云う時に、精神の弱さやプレッシャーで負けてしまう。
 しかし韓国は、精神の強さもさることながら、プレッシャーを跳ね飛ばす
 パワーの源が、「キムチ」だと云うのだ。
 日本は「沢庵」、韓国は「キムチ」だから、日本は負けるんだと云う
 ニュースまで流れたほどだった。
 
 でも、カノンは日本が弱くても強くても関係なく日本が好きだった。
 日本人だからと云う事もあるが、日本に生まれ育ち、日本人で良かった
 と思っている。
 何でも1番でならない必要はない、一生懸命頑張って駄目であっても
 納得がゆけば、いいんだと云う事・・・失敗は成功のもと・・・
 100人人が居て99人が自分の事を否定してもたった一人だけでも
 自分の事を認めてくれたら、それでいいじゃないか?とか、、、、
 「すみません」「おそれいります」「申し訳ございません」「ごめんなさい」
 と相手を立てたり、相手の気持ちを先ず最優先に考えられる腰の低い
 考え方が出来る日本人の考え方が好きだった。
 記憶にあるかと思うが、3.11の震災が日本であって、もしこれが違う外国
 で起きたらクーデターが起きるとまで云われていたが・・・
 日本では、皆が協力し合って、この困難を乗り越えたと云う事が世界
 各国から絶賛されていた。
 計画停電も誰一人文句を云わず従ったり、電車も買い物もきちんと
 整列して乗車したり、買い物をしたりしていた。
 更に感動したのは、ニュースで、東京の小学校の給食シーンで、
 出された物がおかずなしで唯のコッペパン1個と牛乳だけだった。
 一瞬、子供たちはビックリしていたが、直ぐに気持ちを取りなおして、
 「いただきます」と挨拶をして食べ始めた。インタビューをしていた大人の
 レポーターが「たったこれだけで、ショックじゃない?」とマイクを向けると、
 子供たちは一斉に「いいえ」と元気よく言った。
 「震災を受けている人達はもっと大変だと思います。」
 「給食が食べられる事だけでも、幸せです。」
 「十分です」
 「この給食でさえも、有り難いし出来たら食べないで東北の人に
 持ってゆきたいです」

 カノンはその時、済州島にいてTVを見ながら、感動し涙で一杯に
 なった。そして「ガンバレ日本」と熱い気持ちになった。

 人生は失敗と諦めの繰り返しだ。だけどその中から強さや希望、
 幸せを見つけ出してゆけばいいんだと云う事を、感じとった。
 それは日本のかつての歴史にも文化にも、日本人の人間性から
 も感じとれるものだった。

 シオンは幸せだなとフト思った。
 日本の良い部分と韓国の良い部分を2つ持てるからだ。
 きっと両国の架け橋になってくれるだろうとも思った。
 
 更に嬉しい事に、寒さに弱い、もともと丈夫でないカノンと違って
 シオンはキムチを沢山食べている事だからか?健康で、大きな
 病気もせずにここまで育ってきたのだった。
 「健康第一」・・・だから有り難いな・・・カノンは微笑みながら
 シオンを見つめていると・・・

 
   「オンマ、シオンもおかわり!!」と云う元気な声で、
  カノンは我に返り「ハイハイ」と云いながら、ご飯をよそりながら

 「オッパちゃん、今日の予定はどうしますか?」と聞いてみると
 ソンジェは「折角の日曜だし、6月の義理父さんの誕生日プレゼントを
 デパートで買おうよ。それからシオンが見たがっていたアニメ映画でも見て、
 デパートで食事して、、、
 勿論、カノンとシオンの欲しい物を買うのもいいかもね?」 と云った。

 「有難う、私のパパのお誕生日をちゃんと覚えてくれていて、
  嬉しいな。私は欲しいものは何にもないし、シオンもお誕生日でも何でも
  ないから、何も買う必要はないと思うし・・オッパちゃんは何か欲しいものとか
  ないの?」

   「う〜ん、ないなぁ。それに僕もお誕生日でもなんでもないしね。
   ・・・カノン、うちは貧乏なんだろう?ハハハ。だったら、何もいらないよ。」
 
   「うん、凄い貧乏だよ〜、だからオッパちゃんに頑張って働いて貰わないと!
   我が家は明日のお米さえ買えませんのよ。それに今年は白菜が高くなっ
   ちゃって、キムチを作るのも苦しいです。やっぱり韓国産の白菜じゃないと
   美味しいキムチは作れませんのよよよ〜」っと云うと、ソンジェはお腹を
   抱えて笑った。
  
 地球の温暖化の影響か?四季のある日本や韓国など、最近はその四季が
 狂いだしている・・・夏は猛烈に暑かったり、雨ばかりの寒い夏になったり・・・
 極端な気候になっていた。
 雨も、いきなり大洪水のように降って来て、道路は川のようになったり・・・
 日本でもそうだった。夏なのに雹が降ってきたり、ゲリラ豪雨と言って
 短時間に滝のように雨が降り、マンホール作業をしていた人が、その雨量で
 流され死亡したりと、自然の脅威を感じる気候が続いていた。
 今年は韓国は農作物に影響が出て、白菜の出来が悪く、国内産の白菜
 の値段が高騰し、キムチ作りが深刻になって来た。
  更には
  韓国もここ最近は、中国経済の台頭で、店頭で売られている農産物も
  中国産が多くなった。
  値段がかなり違うからだ。
  台所事情が厳しい韓国人家庭は、どうしてもその安さから中国産の
  物を買ってしまう傾向にあり、米や野菜は特に殆どの売り場の場所に
  中国産が顔を出していた。
  日本の農産物もあるにはあるが、かなり高く高級品となっていた。
  唯、日本の食料品の良いところは、安全性や衛生面、包装・外装などの
  お洒落な作りはやはり一流ブランドとしての品格があった。
  買う客層はやはり日本人駐在員が多かった。
  
  カノンは中国経済はかつての日本のバブル経済時期と似ているのかな?
  とも思ったが、自分が正に日本が1番元気な1980年代後半〜1990年代
  に生まれ育ったので、その時代の事を思い出してしまった。
  家族でLAに遊びに行った時、旅行会社のガイドさんがユニバーサルスタジオ
  も日本企業が買ったんですよと言ってた言葉を思い出した。
  日本人街も活気があって、確か宿泊したホテルはその日本人街にあるホテル
  ニューオオタニだった。
  ピカピカで綺麗で人が一杯で、高級感が漂っていた。
  外は日本の街並みが再現されていて、下町風な・・浅草みたいな町並みだった。
  櫓があってお蕎麦屋、寿司屋、日本の食べ物屋さんが
  たくさんあり、玩具、洋服・着物、雑貨屋が所狭しとあって、沢山の観光客で
  賑わっていた。

  また車やバスでの移動の時も、ハイウエイは日本車が沢山走っていて、
  通り沿いの大きな建物は見慣れた日本の会社の看板が幾つもあり、
  MADE IN JAPANの商品が沢山溢れていた。
  カノンの父親の米国人の友人がLAに住んでいて、その家族に食事に招待され
  行った時に、その家族のお父さんが「日本人の勢いは凄いな。この国の全ての
  物をお金で買おうとする勢いだ。お金は人も街も国も豊かにするが、一方では
  人の心を傷つけたりする。ついこの間、夏休みを利用して日本人の大学生が
  ホームスティに来たのだが、我々家族は、その日本人の大学生を家族の一員
  として受け入れようと思い、一緒に過ごせる事だけが楽しみだった。だからお土産
  なんて必要ないと思っていたんだ。ところが、日本人のその大学生は、お土産と
  称し、我が家の子供たちに高価なゲーム機とソフトを幾つもくれ、妻には着物
  を、私には電子手帳をお土産にくれた。更には京都の老舗のお菓子やお茶
  など、一体、幾らなんだと思わせる物を持ってきた・・・何だかお金にものを言わ
  せてる傲慢さを感じた・・日本人は心までを金にしてしまうのだろうか?」っと
  言っていたそうだ。(=カノンが父や母の通訳で聞いた話)
  
  そのこともあって、幼い頃からホームスティに行く時は、決して嫌みや華美にな
  らない物をいつもお土産にして持って行ったりもしたが、やはりカノンの学校は
  お金持ち学校なので、生徒の殆どはかなりお金をかけた贅沢なお土産が用意
  されて、持って行ったりもされていた様だった。
  
  今や中国経済は世界第二位、日本にとって変わってしまい、その勢いは
  アメリカを追い越す勢いだった。
  日本の衰退している企業を買い取り、その技術を投資させたりもしていた。
  中国人観光客も日本に多く訪れ、富士山をも買い取ると云う大金持ちまで
  あらわれているとニュースで放映され、そのニュースを見た時、カノンは、あの時の
  米国人の言葉と重ね合わせてしまった。

  唯、心配なのは、日本のように中国もやがてはバブルがはじけるだろう・・・
  その時、世界の経済は?中国の経済はどうなってしまうのだろう?と心配した。
  

   「カノン、平家物語知ってる?
       それと同じさ・・・
        僕は唯のホンデの学生にすぎない。
         やがてはホンデを卒業して社会に出るんだ。いつまでもホンデの
          パランファのテファじゃないよ。綺麗なものや華やかなものは
          やがては枯れて行く・・でもそれは当たり前のことさ。
          良い時もあれば悪い時もある。それはずっと続くわけじゃないし・・」

 
  遠くからオッパであるテファの声が聴こえて来た気がしたカノンだった。
  そうだ、人生は1度きりしかない、だから一生懸命、悔いのないように
  生きよう、笑顔の多い日々を過ごそうと思った。
  

  カノンは「オッパちゃん、国内産白菜が少しでも安く買えるお店を探すから 
       出かけるのちょっと待ってて!」と言って、カノンはチラシやインターネットを
       立ち上げて調べだした。

  ソンジェはハハハと笑いながら「確かに国内白菜は去年の3倍以上の値段だから
                   ママは大変だね?1チョンノンでも安い奴を探して
                   頑張って欲しいね。シオンもオンマに頑張れって
                   応援して上げようね?」と言って笑った。

  シオンは大きく頷いて「オンマ、ファイティン」と云った。
  カノンは「ネェ、ファイティン」と云って笑った。                 
  


 -----------------------------------------------------------------



 5月の終わりの日曜は晴天にも恵まれ、街中は人でいっぱいだった。
 あちらこしらから聞こえる日本語もカノンは楽しい気分になった。
 まだまだ韓流は衰えてない様子だったし、沢山の日本人が観光に来ていたからだ。
 最近は、毒蛇やカタツムリなどコスメ商品が人気があり、「美」に対する気持ちが
 高まっている感じもした。

 「オッパちゃん、カノンも毒蛇クリーム買ってみようかな?」
 「ハハハ、毒には毒を?って云う考えなんだろうか?面白いよね?
  カタツムリや毒蛇自体を想像すると何だか変だよね?余り好きな物の中には
  入らない感じがするけど?」
  街中を歩きながら話をしていると、コスメの店員が「お客様、日本の型ですか?
  今は、ナマコが人気です。玉葱エキスの化粧品も人気が出てますよ。
  見るだけでもパックシートのおまけがついてます。どうぞ、どうぞ。」と言ってカノンと
  ソンジェはパックシートが1枚入ったカゴを渡された。「シオンも、シオンも」と云うと
  「お嬢ちゃんにもどうぞ」と言って店員はシオンにも渡した。

  何か買わないと悪いかな?と思い、カノンは日本にいる母親や親戚の叔母さん
  や友人たちに、最新の流行しているコスメのパックシートを買った。
  韓国のオマケは半端なくつけられる。10枚シートを3個買ったら、オマケが20枚
  ついて更にサンプル品がゴッソリついて来るのだった。
  ソンジェが「僕もパックしようかな?」とおどけて言うと店員は真顔で「お客様も、
  かなりお肌が疲れてますから、是非パックした方が良いですよ」と言われ、冗談で
  云ったつもりが本気にされ、結局、毒蛇のパックを勧められるままに10枚買った。
  「オッパちゃん、段々と親父一直線ですね〜、いつまでも若いと思うな、オッパちゃん、
   もうキムタクの時代は終わったのだよ・・・」とカノンが云うと「実際に、親父だから
   一直線もなにもないし、僕はキムタクじゃないから関係ないね?カノンこそ、
   オバハンなんだから、ちゃんとお肌のお手入れした方がいいんじゃないの?」と
   云い返して来たので「えぇ!!オッパちゃんの分際で、偉大なるカノンちゃんに
   意見するのは生意気!!ぷんぷん」と云うと「ごめん、ごめん。冗談だよ。
   カノンちゃん、本当にごめん」と弱腰で謝って来たので、カノンは「しょうがねぇなぁ、
   許してやるか?」で笑った。

   シオンは、コスメのお店はつまらなかったらしく、早くデパートに行きたいと云って
   カノンとソンジェの手を引っ張った。
   とんだ寄り道をしてしまったとし、百貨店へ向かおうとすると、屋台や露天商の
   誘惑に負けて、ホットクやおでん、キンパブなどをつまみながら、ソンジェたちは、
   露天商を見て楽しんだ。
   シャネルならぬ「チャネル」、ルイヴィトンならぬ「ルイブトン」と云った偽物の
   財布やポーチが安く売られていた。
   韓国でも日本のサンリオのキティちゃんが人気で、キティちゃんの小物も沢山
   売られていた。
   「可愛いな、これシオンに買ってやろう」とし、ソンジェは沢山の髪飾りや、
   玩具をシオンに買おうとした。カノンは、その度に待った!!をかけ、散財を
   防ごうとした。
   その防ぎ方が「ちょっと待った!!オッパちゃん、そのお金で白菜何玉買えるかな?
   シオンの髪飾りは私が手作りで出来るから・・・それにその玩具、もうシオンは
   持っているし・・・二つも要らないよ。」っと云い、買おうとしていた物は全て元に
   戻された。ソンジェは白菜の勝利に笑うしかなかった。

   ロッテの百貨店に到着して、流石に高級品が揃っていた。値段もかなりいいが、
   義理父の誕生日の品物なので、良い物を贈りたかった。
   「去年は懐中時計を贈ったんだっけ?今年はどうしようか?」ソンジェは目を輝かせて
   云うとカノンは「ゴルフやるからゴルフする時のベストは?とか手袋は?」と云った。
   「もうちょっと高くても良いからずっと残るものがいいかも?」と云ったが、カノンは既に
   「これ下さい」と言って包んで貰っていた。
 
   カノンは買い物が余り好きではないし、無駄使いも好きではない。
   今のカノンの頭の中は、きっと白菜の事で一杯なんだろうなと思うと、ソンジェは愉快な
   気持ちでいっぱいだった。

   「オッパちゃん、買い物終了しました。次はシオンのアニメ映画を、オッパちゃんはシオンと
    二人で見て下さい。私はその間に白菜は勿論、色々な食料品を買いに回ってます。
    映画好きだけど、そのアニメって日本の昔の奴で、もう私は見た奴だから・・・
    私が見なかったらその分、白菜代金に回せるし・・・あ!白菜じゃなくても
    節約になるしね。 
    シオン、アッパーと映画見ててね?オンマは買い物して来るね?夜は美味しい
    ご飯を作るからね?アッパーの面倒を見てあげてね?」と云うと
    シオンは「うん、オンマ、気をつけてね?」と云った。
    ソンジェはまたまた可笑しくなって笑い出した。
 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 カノンと別れてから、ソンジェはシオンと映画館に行くと、何やら騒ぎが起こっていた。

 シオンと同い年位の女の子が、大人を相手に喧嘩している様子だった。

 シオン:「あ!マヤちゃん、マヤちゃんだ!」

 ソンジェ:「シオンの知ってる子?お友達なの?」

 シオン:「うん、あのね、リラ幼稚園で一緒のクラスの子、ピアノが凄く上手、上手なの。
      お母さんは有名なピアニストなの。」

 ソンジェ:「え?・・・(とすると、呉ジナの娘か・・・なんでジナの娘が?)」

 群衆に二人は近づいて行き、事の仔細を周囲から聞くと、マヤは本当は今日は
 母親とロッテワールドに行くはずだった。しかし、仕事の都合で行けなくなり、
 急遽、ヘルパーに頼んで映画でも一緒に見てやってとしたらしい。
 マヤは面白くなく、へそを曲げ、映画館までは来たが、見たくないと地団太を踏んでいる
 らしかった。
 今回雇われたヘルパーは、割りとキツイ、怖面のいかついアジュンマだったので、
 大声で「そんな我儘は通用しない。嫌なら帰ろう」と言って腕を引っ張ったそうだが、
 マヤも負けてはおらず、大声には更に大声を張り上げ、アジュンマの手に噛みついて
 暴れたと云う経緯があった。
 ソンジェは、マヤの気持ちも分かるので、マヤが何となく可哀想になった。
 マヤの親はジナしかいない。そのジナも仕事に追われ、子育ては全て人任せなのだろう
 と思った。子供にとって何が幸せかと云うと親と一緒に過ごせる事が幸せだし、愛情を
 感じるとやはり嬉しいものだと云う事を、幼少期から寂しい思いをしてきたソンジェには
 痛いほど分かる事柄だった。

 地団太を踏んでいる時に、マヤはシオンとシオンの父親のソンジェを見つけた。
 マヤは、不味いと思い、冷静になり「良いわ、仕方ないから映画を見るわ。・・・
                     でもこの回と次の回は会場を貸し切りにして頂戴。
                     私は一人で静かに見たいの。支払いは、呉ジナが
                     するわ。婆や、そうして頂戴!」と声を張り上げた。
 そして(フフン、シオン、あなたたちも映画を見に来たのでしょう?見させるものですか!
     だから貸し切りにしてやるわ!)勝ち誇った顔つきでシオン達を見た。

 映画館の関係者は貸し切りの札をたて、深夜の最終上映まで見る事が出来なく
 なってしまった。
 

    「シオン、映画見る事が出来なくなっちゃったね?どうしようか?」
    と、ソンジェは優しく云うと、シオンは「しょうがないですねぇ〜・・・
    アッパ、シオンね、ここの屋上のね、乗り物に乗りたいの。500ウオンでね乗れるの。」
    と無邪気に云った。
    「じゃあ、そうしようか?行こうか?」と言って、シオンを肩車して屋上に向かって行った。
    マヤはその姿を見て、無性に羨ましくなり、爪をカチカチと噛み始めた。
    今に見てなさい。肩車をされるのは私なのよ。。。っと・・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「アッパ、アッパ〜」元気よく手を振りながら、シオンはメリーゴーランドの馬に乗ってクルクル
 回った。その度にソンジェは満面の笑顔で手を振った。
 どの子供たちよりも、シオンが1番可愛いとソンジェは思った。
 携帯のカメラを取り出して、写真を何枚も撮ったりもした。
 500ウオンなので、3周程度の短い物だったが、シオンは大満足で戻って来た。

 「アッパ、凄く面白かった。チェジュのお馬さんの上に乗ってるみたいだった。
  映画よりもシオンはこうしてお外とかで遊ぶ方が楽しいの。
  それかね、お家でね、アッパとオンマと一緒に遊ぶのも好きだし。。。
  オンマの美味しいご飯を皆で食べるのも好きだし。。。
  アッパが楽器を演奏しているのも好きだし。。。。
  アッパとオンマがいつもニコニコしているのも好きだし。。。」

 シオンは無邪気にエクボをつくりながら云った。
 ソンジェも嬉しくなって「アッパも、シオンとオンマがいるだけで幸せだな。
              ノムノムチェミソッソヨ(凄く楽しいよ)」と云った。
 二人は屋上につくられた芝生の上に寝転びながら笑った。
 
 「うーん、お天気が良くて気持ちいいね?」と手のひらを太陽にかざしながら
 ソンジェが云うと、シオンも「お日様がまぶしい・まぶしいですねぇ」と言って
 ソンジェの真似をして手のひらを太陽にかざした。


 「さて、シオン、まだ時間があるけれど、どうしようか?」と云うと、

 シオンは暫く首をかしげて、考えて周囲を見回すと、ペットショップが隣接していた。
 「アッパ、動物さん見たいです。」と云った。そしてソンジェの手を引っ張って、
 ペットショップに向かった。
  ソンジェは、凄く幸せだった。父親としても、夫としても幸せだった。
 この幸せをいつまでもいつまでも失いたくないと思っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 一方、ソンジェ達と映画館で別れたカノンは近くの市場へ向かい、
 元気のよい白菜の品定めと値切りを開始していた。
 「アジュンマ〜、ちょっと高いよ。安くしてくれるか、何かオマケして。
  出来れば、安くしてくれるのとオマケの2つをしてくれると嬉しいな。」とか、
 「自分でキムチ作るんだけど、やっぱりキムチは国産の白菜じゃないと!
  今年は白菜が高くて困っちゃう。アジュンマ、安くして〜」とか・・・
 その面白くて可愛い韓国語にアジュンマは笑いだし「いいよ、いいよ、
 安くしてやるよ。それとオマケね?」と言ってカノンの値切り大作戦は成功に
 終わった。その他にも、ソンジェの好きなスルメや、キュウリやトウモロコシなど
 山のように買った。
 カノンの小さな体よりもてんこ盛りの荷物になった。

   「うんしょ、うんしょ」と云いながら品物を運んでいると、後ろからひょいと
   持ち上げてくれる人がいた。
   
 「重いでしょう?持って上げるよ。これをカノンの家まで運べばいいのかな?」

    その声は、テファだった。
        「あっ!!オッパ・・・じゃないテファさん・・・
           大丈夫です。私も車で来ているので・・・」
                  と、カノンは慌てて云うと、
  テファは微笑みながら車はどこに止めているの?そこまで、一緒に運ぼうか?
  と言ってくれて、荷物の大半をテファは持ってくれたのだった。

  テファは「今日はスタジオで急な仕事があって、ここまで来ていたら、何か
       見覚えのある小さな豆狸が食料品の買い物を楽しそうにして
       いるんでね・・・いや、凄かったな・・・まけてくれって云う姿が
       面白くて笑っちゃったよ。韓国人の立派なアジュンマになりきって
       たよ。ハハハ。自分の顔よりも大きな白菜を3つも買っててどうやって運ぶ
       んだろうって思ったよ。ハハハ。しかし、重いな・・・こんなに買ったんだね?」

  カノンは「オッパ、カノンは馬鹿力が出るの知ってるでしょう?えへへ。だから3個の
       白菜なんてチョロイチョロイ、白菜だけじゃなくてトウモロコシやネギや
       ジャガイモとかも買ったよ。まだ買い足りないくらいだもん。オッパは、
       やっぱりカノンよりも弱いね?この位の荷物でへこたれてるんだもの。」

       と言って笑うと、テファは益々愉快になって笑った。

  駐車場まで来て荷物を車に乗せると、まだ映画が終わる時間には十分時間が
  あったので、カノンは運んでくれたお礼がしたいとして、コーヒーショップでお茶を
  ご馳走させてと云った。テファはチラリと時間を気にして「いや、今日はそんなに
  時間が無いから、また今度。それにいつも甥っ子が世話になってるからお互いっこ
  様だよ」と言って手を振り笑いながら去って行った。
  カノンは何度も「ゴマッスムニダ(有難う)」と言ってペコペコお辞儀を姿が見えなくなる
  までしたのだった。

  カノンの鼓動がトクントクンと鳴った・・・
  オッパ、相変わらず華麗なるオッパだなとか、太陽の王子様だなとか、
  優しくて明るくて格好良いなとか・・・
  何となく嬉しくて弾んだ気持ちになるカノンだった。
  映画館の前にあるソファに座って待っていよう、そう思って、カノンは映画館の建物の
  エレベータに乗った。
  
  映画館のある入口に行くと貸し切りとなっていて、次の回も貸し切りで、カノンは
  ビックリした。じゃあ、シオンやソンジェはどこで何をしているのだろうと?
  映画が終わるのがあと30分位あるので、カノンはスタンドショップでオレンジジュースを
  買って飲みながら二人を待つ事にした時、「オンマ!」と言ってシオンが駆け寄って来た。
  その後ろにソンジェが笑いながら居た。

  
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  帰りの車の中で、カノンは映画が貸し切りになった事や、カノンを待つ間、二人で
  何をしていたかを聞いた。

  流石にシオンは疲れたのか、うとうとと寝ていた。

 
  ソンジェ:「僕は、ただ単に呉マヤの我儘とは思えなかった。
        何となく、マヤの気持ちが分かるんだ。自分の小さい時のこととダブってしまってね。
        それに、シオンが何が幸せで楽しいかって云うのは、いつも僕やカノンがいっしょに
        いて、そして一緒に過ごすことだって・・・子供にとって両親の存在は絶大だし・・
        どんな親だって子供は親が好きなんだ。僕は、何度も冷たくされ、裏切られたり
        厳しくされて、何事も金で解決された事が嫌だったし・・・反抗もしたけれど・・・
        きっと親に振り向いて貰いたかったんだって今なら思えるよ。今なら父さんが僕に
        期待し、僕に李産業を継いで欲しかったんだって素直に思えるよ。それが出来
        なくて、父さんを裏切ったのは寧ろ僕だったのかもしれないな・・・
        マヤが心配だな。ジナは仕事人間だろうし、仕事となると物凄く徹底して
        冷たくなるし、周囲の声や気持ちも受け止めないんだ。
        もう少し、母親らしくして上げたらマヤも落ち着くんじゃないかな?って思ってさ。」

  カノン:「・・・そうか〜、難しいね?マヤちゃんも寂しいんだと思うな・・・お母さんに振り向いて
      貰いたいんだと思うし、もっと親子で過ごす時間を作って上げられれば良いのにね?
      ジナさんは今も昔も相変わらず天才ジャズピアニストだし、世界中を駆け回ってるし
      忙しいんでしょうね?シオンは、比べる事自体失礼だけど、オッパちゃんに溺愛して
      貰ってるし、私も専業主婦を楽しくさせて貰ってるから目も考えも全部、シオンに
      向けられるから、幸せかもしれないね?オッパちゃんは忙しいけど、いつも時間を
      作ってくれるし、シオンにも私にも笑顔で優しいし・・・良いパパだし・・・」

  ソンジェ:「おっ、嬉しいね〜、偉大なるカノンちゃんから素晴らしいお褒めの言葉を
        貰ったね?やっぱり李ソンジェは偉大で素晴らしくて格好良いし、優しいし・・
        凄いね〜!!」

  カノン:「えぇ、偉大とか格好良いとは言ってないよ〜!!何かナルシストだね?オッパちゃん
      何か、生意気!!チョヌン キムタク イムニダって言ってるみたい!!」と云って
      お互いの顔を見合わせて笑った。


  ソンジェ:「ところで、カノン、凄いじゃない、この野菜や食材、全部一人で運んだの?
        重かったんじゃないの?」

  カノンはその言葉に少しためらった。そしてどうしてもテファの話は出来ず
  「うん、偉大なるカノンちゃんは馬鹿力でも有名なのじゃ!!だから全部、独りで運んだのだ。
   凄いでしょう?やっぱ、カノンちゃんは素晴らしいね?」
   と云って笑った。
   ソンジェも疑うことなく「うん、凄いね」と云って、笑った。大方、二度、三度と分けて運んだ
   のだろうと思ったのだった。



  



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 テファは野菜や食材運びを手伝った後、タイトなスケジュールが入っていて、
 そのまま新しくオープンしたカフェレストランのオープン記念パーティに呼ばれて
 いた。そのカフェのチラシやパンフなどのグラフィックデザインを手掛けたのがテファだった
 からだ。
  豪州のシドニーをイメージした魚介類の食材をフンダンニ使ったお洒落なレストランで
  食事時間以外はケーキやお茶が楽しめるカフェとなっていて、外装も女の子が喜び
  そうな、可愛いお店になっていた。

  テファも又、世界に羽ばたくグラフィックデザイナーになりつつあり、カリスマ性とスター性があった。
  仕事の拠点を豪州・日本の沖縄・フィリピンのセブに置いているらしかった。
  テファは海よりも、冬の雪山が好きなタイプで、夏よりも冬が好きだった。
  だが、どこの場所も温暖で・・・いや寧ろ熱い位の場所で、海がある場所だった。
  それはテェファの中で、まだカノンの事を忘れていないからかもしれなかった。

  カノンは冬が苦手で寒いのが嫌いだった。
  海が好きで夏も大好きだった。だから、できたら暖かく海がある場所で過ごしたいと思ったのかも
  しれなかった。・・

  しかし、今となってはもう関係のない事になってしまった。
  カノンは結婚し、幸せな日々を過ごしているからだ。
  テファは後悔があるとしたら、10年前のあの夏の事だったかもしれないと思ったが、元々、
  ポジティブ思考なので、「後悔してもしょうがない・・・、元気に楽しく行こう!」とし、
   今は素直にカノンとの再会を喜び、カノンが幸せなら自分は嬉しいと思ったのだった。
   


  ルックスも美しく、更に紳士的で、仕事も頭もキレ者、誰が見てもテファは
  人気者だった。
  歌を歌えば、どんな歌でもプロの歌手以上に上手く、物腰も柔らかく上品だった・・・
  姉が有名なブロードウエイキャスターで、その昔、一世を風靡した大女優だと云う事で、
  周囲を頷かせた。


       「あぁ、チョンアミンさんの弟さんなのね?どうりで綺麗な人だと思ったわ。」 

       「歌も踊りも上手だから自分も俳優になれば良かったのにね?」

       「仕事も超一流よ。凄いわよね?」

       「彼の大学はホンデなんだけど、ホンデの4年間は華麗なるホンデのスター
        とも呼ばれていたんですって!」

     評判は恐ろしく良く、業界ではテファの名前を知らない人はいなかった。

    今は、誰がテファの心を射止めるか?誰がテファの妻になるか?で話題は
    持ちきりだった。

   有名な女優の昨年ミスコリアになったキムシンシアもテファを狙ってアタックしたが
   見向きもされなかった。



 ミンホ:「やあ、チョン テファ、相変わらず華やかだな?お前が来ると、俺は影が
      薄くなっちまうよ。」とやや酔っ払い気味な業界では同期であり、よきライバル
     であるミンホが、冗談交じりにテファに絡んできた。

 テファ:「ハハハ、冗談はよしてくれよ、ミンホ、僕は大した仕事もしてないし、華やかでも
     なんでもないよ。もし華やかで幸せな生活ならこんな天気のいい日曜に仕事なんて
     してないさ・・・寂しいチョンガー(=独り者)さ。でもこのレストランは評判も上々だし
     デザインを手がけられて僕は嬉しいよ。豪州のイメージで楽しく作る事が出来たしね。」
     とウインクしながら云った。

 ジン:「テファは何を言ってもサマになるし、格好良いんだよな〜、俺が同じ事云っても
     誰も見向きも関心すらも示さないけどさ、、、良いよな、生まれながらにして
     お前はスター性があるよ。相変わらず付き合ってる女とかいないのか?」

 テファ:「自慢じゃないけど、いないね〜ハハハ。もう僕も32歳、アジョシさ、誰も振り向かないって。
     寂しいチョンガー三人で酒でも飲もうや。」と云ってシャンパングラスをボーイのお盆から
     貰い、二人に渡し、自分も1つ取って乾杯し、一気飲みしたのだった。


 
   ミンホはその飲みっぷりがいいので「いいね、いいね、今日はトコトン飲もうぜ」と云って
   ボーイにドンドン酒を持ってこさせるように告げたのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 週が明けて月曜日、今朝は、園児全員が体育館に集められた。

 園長先生:「皆さん、おはようございます」

        と挨拶をすると、一斉に園児たちは元気よく「おはようございます」と
        挨拶を返した。


 園長は嬉しそうに「わぁ、皆さん、元気にご挨拶出来ましたね?
            流石はリラ幼稚園生ですね?

               さて、今日は新しい先生を紹介します。
             日本から来た、日本人の先生です。
             鬼頭知子先生です。鬼頭先生は、日本の名古屋と云う
             ところから来てくれました。主に皆さんの図工を担当します。
             仲良くしてくださいね?では、先生のご挨拶をしますね?」

     と、云って鬼頭知子を手招きして挨拶に立たせた。

  優しく満面の笑顔の鬼頭は元気よく「皆さん、おはようございます。」と云って
  見渡した。するとまた園児たちが「おはようございます」と返した。
  鬼頭は益々嬉しくなって「皆さんと楽しくお勉強をしたいです。仲良くして
   下さいね?」と云うと、やはり一斉に「はぁい」と声が返って来た。

   シオンも、凄く楽しい気分になった。
   何だか黄色いクーピーペンでヒマワリの絵を思いっきり描きたくなったのだった。
   明るく元気な鬼頭は、直ぐに園児たちと打ち解けた。
   絵も漫画も上手で、時々、昼休みは紙芝居を手作りで作り、園児たちに
   読み聞かせたりもした。
   特にスヌーピーの漫画が好きで、「スヌーピーはね、犬なんだけど、
   犬はね、人間にとっては最高の相棒なの。忠実で優しくて賢くて、、
   だから一生人間の良いパートナーとして過ごして行きたいって言う動物さんなの。
   先生は動物の中で1番、スヌーピー・・・犬が好きなのよ。」と云って笑った。

   シオンも動物が大好きで、犬も猫も大好きで、兎も大好きだった。
   唯、今の高層アパートでは動物を飼ってはいけないと云われていて、我慢している
   状態だった。だが、鬼頭の描く動物たちが、生き生きと楽しく元気に描かれている
   ので、シオンは毎日、その絵を見るのが楽しみだった。

  「知子先生、今日はどんな紙芝居?」シオンは、先生の背中越しから抱きついて
   聞いた。鬼頭はそんな可愛いシオンが大好きで「シオンちゃん、今日はね、熊さん
   のお話。シオンちゃんの好きな兎さんも出てくるよ。」
   「兎さんも?わぁ〜、早くお昼休みにならないかな〜」
   「シオンちゃんはお絵かきが大好きみたいね?・・・でもシオンちゃんは音楽の方が
    好きなんだと先生は思ったけど?だって・・・」
   「アッパが音楽のお仕事だから???ううん、シオンは絵も好きだし、音楽も
    好き・・・だけど、今はお絵かきのほうがもっと好きかも?絵を描いていると
    絵の中で色々な所に旅行出来たり、色々な動物さんやお花やお姫様にも
    なれたり出来るし、こんなお洋服とか着てみたいなとか、魔法使いみたいに
    なれた気持ちになるから・・・だから・・・」

            「魔法使い・・・そうか、そうだね?魔法使いになれる感じが
             するね?じゃあ、先生も沢山、沢山絵をかいて魔法使いに
             なろうかな?♪♪」と云って笑った。



  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 「知子先生、貴女も李シオンにメロメロでしょう?」とユリは笑いながら
  鬼頭に話しかけた。

 鬼頭:「ええ・・おっしゃる通りです。可愛いなんてもんじゃないですよ。
     人懐っこくて、いつもニコニコしていて、、、それに話も子供らしい
     部分と、シッカリした部分があって・・・感動すらします。
     不思議な・・・魅力ある子ですね?
     一緒に居ると幸せになれる感じがします。」

  ユリ:「でしょう?私も同感よ。あの子、きっとスターになれるわ。
      あの子は天使かもって思えるもの。いるだけで幸せになれそうだし、
      あの笑顔を見ていると争い事や嫌な事も忘れられそうだもの。」

  鬼頭:「シオンちゃんのお父様は有名な音楽家の李ソンジェですよね?
      きっと素敵なお父様なんでしょうね?」

  ユリ:「ええ、素晴らしい父親よ。更にその妻の李カノンさんは、もっと素敵な
      可愛い女性よ。私は昔、彼女と張り合って惨敗したんですよ。」

  鬼頭:「え?惨敗?何に惨敗したんですか?」

 ユリ:「恋人を・・いえ、私が片思いしていた男性をめぐって・・・
    あ!音楽家の李ソンジェ氏ではないのよ。その前の話よ。
    李シオンを見ていて、私はこんなにものびのびと素敵に子育て出来る
    李カノンさんに負けた事、、、後悔も無いし寧ろスッキリ爽やかな気分なの。
    それにその大好きな男性が、私には見向きもせず、李カノンさんに夢中に
    なったのが分かる気がしたの・・・どういう訳か?上手くは行かなくて、
    李さんと結婚したんだと思うけれど・・・それでも凄く幸せそうで、、、、
    素敵な家庭を持ってていて、羨ましい気持ちよ。フフフ」

 鬼頭:「その好きだった男性はどうなってしまったんですか?」

 ユリ:「・・・さぁ??恐らく大学を卒業して日本の企業に就職したと思うけど?
    又は英語の勉強もしたいと言っていたから米国に留学したかも?
    お姉様が米国にいるから・・・きっと活躍していると思うわ。
    何て言っても、当時のホンデのスターだったから・・・
    私はホンデが出身大学なのよ。」

 鬼頭:「え?当時のホンデって云ったら、もしかしたらチョンテファのことですか?」

 ユリ:「え?・・・えぇ、そうだけど?何故?知子先生が御存知なの?」

 鬼頭;「実は私、大学3年の時に韓国にホームステイ留学をしていて、
     その時、ホームステイしていた家族の三女が、ホンデ出身で、よく
     チョンテファさんの話をしていたんです。
     アイドルよりも俳優よりも綺麗でカリスマ性があるって・・・
     私は残念ながら、長女が通う南ソウル大学で語学研修をしていたん
     です。そしたら私はユリ先生と同い年くらいかしら?」

 タメ年と分かって、二人は手を取り合って笑った・・・そして急速に仲良くなって
 行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー    
        


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 10317