20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:潮風のセレナーデPARTUバトル編 作者:HAPPYソフィア

第1回   運命の糸・・・オレガンマニエヨ
潮風のセレナーデU  神様の悪戯・・・ペンダントの輝き・・・





      シオン、帰るよ〜
    
    「アッパー!!オンマ!!」
     砂浜で遊んでいた子供たちの中で大きな声で立ちあがった元気な女の子が
    居た・・・そして両親の元に駆け寄った。


    シオンは自分を真中にして右にお父さん、左にお母さんと言った具合に手を
    繋いで、家路に帰って行った、途中で、海辺を振り返り「アッパー、オンマ、
    夕日がきれい、きれいね」と云ってピョンと飛び跳ねた。
    そして覚えたての韓国の童謡を韓国語で歌った。「くま3匹」と言う可愛い
    童謡だった。

    母親はニッコリ笑顔で「わぁ、シオンはお歌が上手ね?やっぱりパパに
    似たのね?」と言った。
    父親も負けずに「いや、アッパーは歌は下手だよ、歌はオンマが上手だから
    きっとオンマに似たんだよ。」と云って白い歯を見せながら笑った。


      ここは済州島、、、海に面した長閑な場所にこの家族は楽しく過ごして
      いたが、来週はソウルに引っ越す事になっていた。
      父親の名前は 李ソンジェ、韓国の音楽大学を卒業し、直ぐに日本の
      東京藝術大学の大学院に進み、卒業後は音楽家になった。作詞作曲も
      するし、今や韓国でも日本でも有名な音楽家として活躍をしている。
      母親はカノン、日本の大学を卒業し、ソンジェと結婚した。
  

      結婚してから、済州島で過ごしてから7年半の月日が経っていた。
   
     ソンジェはカノンの思い描いていた通りの生活を実現させていた。
     済州島に家を建て、そこで音楽活動をする、カノンは、ジャージャー麺屋を
     やりたいとは云っていたが、専業主婦でも十分な生活だった。
     温暖で平和な海や山など自然の一杯あるこの島での生活は、穏やかで楽しい
     日々だった。
      ところが、ソンジェの音楽家としての活躍が数々の賞に輝き、
      どうしてもソウルと言う都心を拠点にして欲しいとの依頼を受けて、
      仕方なくソウルへ行く事となった。
      
     済州島の家は、売りに出したところ、ドラマの撮影場所には絶好の場所だった
     為、直ぐにTV会社によって売却された。

     ソンジェはカノンに「ごめんね、カノン、ソウルに行くことになって」と
     云ったが、カノンは、全く気にしてなかったし、新しい環境になる事を寧ろ
     楽しんでいた。ソウルに行けば、KEのパイロットと結婚し、シオンと同じ
     年の双子の息子と娘のいるサヤカも居るし、大学時代、同じ韓国語学科だ
     った友人も、韓国の男の人と国際結婚して、移り住んでいる者も何人かいた。
     一緒にホームステイ留学をした綾もヒロミもそのメンバーだった。
     今でも連絡を取り合い、カノンがソウルに行くことが決まった事を、喜び、
     引っ越しのお手伝いもしてくれると云うのだった。
     私は一人じゃない・・・本当に地球って広いようで、・・なんだか1つに
     繋がってるみたいに近いんだと思ったカノンだった。      


     カノン:「今度は高層アパートメントでの生活でしょう?凄く楽しみ♪
          だって今まで、一軒家とか、日本のマンションでも3階以上の
          所に住んだ事がなかったから・・・」と言って笑った。
     
     ソンジェ:「ソウルも物凄く変わったよ、きっとカノン、ビックリしちゃう
           かもね?新しい生活に慣れるのに時間もかかるから、、、
           ノンビリしていて欲しいよ。」

     カノン:「オッパちゃん、心配性だねぇ〜、あれ?元気ないね?歌って
          上げようか?しょうがないな〜」と云って舌を出して笑った。


      ソンジェもホッとしたかのように笑った。そうだ、どんな状況になって
      も、カノンやシオンと一緒なら、どんな事だって乗り切れる、、
      ソンジェはそう思った・・・・           
      カノンは結構、逞しく強いのかもしれない・・・ソンジェはふとそう
      思う事が度々あった・・・そして自分が決めた事を真っ直ぐに進んで、
      後悔は絶対にしない・・・いつも笑顔で楽しんでいるかのようだった。
      カノンにはいつも僕は助けられるし、かなわないな・・・ソンジェは
      カノンを見つめながら微笑んだ。



  

    ソウルでの新しい生活はイテオンと云う外国人が沢山住む場所の高層アパート
    メントだった。東京で言うならば「福生」みたいな場所で、アメリカ人や日本
    人も沢山住んでいた。セレブな主婦が多いのか?お洒落をした夫人が平日の
    昼間、ティータイムをしている姿が目についた。
  
   カノン:「オッパちゃん、何か私たちって凄い田舎から来た感じがするね?」
        
   ソンジェ:「え? ・・・ハハハ・・・でも済州島は確かに田舎だから、
         しょうがないよ・・・でも済州島の方がノンビリしていて僕は
         好きだったし、気に入ってたんだけどね・・ハハハ」

   カノン:「・・・そうだよね〜、海や山とかも無いのもしょうがないけど、、、
        やっぱり都会だね〜目が回りそうだね〜オッパちゃん、もし、カノンが
        1カ月後、セレブなマダムになっちゃったらどうする?」

   ソンジェ:「えぇ?セレブなマダム?!!」
         想像だけでも面白かったので、ソンジェはお腹を抱えて笑った。

   次々と、空輸や船便で、荷物が届いて来たので荷を解いて、部屋を掃除したりして
   いると、ヒロミや綾が引っ越しの手伝いにやって来てくれた。


            「カノン、久し振り!!」

            「わぁ、綾ちゃん、ヒロミちゃん!!」

       再会を喜ぶのもつかの間で、兎に角、早く引っ越しを済ませてしまおうと
       なった。綾もヒロミもすっかりソウルっ子のお母さんが板についていて
       自分たちの子供に、韓国語と日本語のチャンポンで、「開いているお部屋
       で子供同士で遊んでいなさい」と言っていた。
       子供たちは、何やら家から持って来た本やお絵かきノートを取り出して、
       静かに遊び始めた・・・シオンも、お絵かき仲間に加えて貰い、楽しそう
       に絵を描いていた。



   ようやく引っ越しもほぼ終わり、形になってきた段階で、カノンは引っ越し蕎麦
   ならぬジャージャー麺を作り、サイドメニューとしてキンパブやチヂミを焼いて
   持て成した。

   ヒロミ、綾、子供も大喜びで頬張った。

   綾:「美味しい・・カノンはやっぱり料理が上手ね?」
   ヒロミ:「私なんて、未だに韓国料理は下手くそだから、いつも百貨店のお総菜よ。
        むしろ、そっちの方が安くて美味しいしね。」
  


             皆が一斉に笑った。


  ヒロミ;「カノン、ところで、シオンちゃんの学校はどうするの?」

    綾:「幼稚園受験させるんでしょう?」
  
  カノン:「う〜ん、家は、近くの入れそうな幼稚園で良いかなって思ってる。
       教育熱心じゃないから・・えへへ」

  ヒロミ:「甘いな〜、カノン、ここは日本じゃないんよ。学歴がものを言う韓国だよ」

  綾:「そうそう、ソウルに住んでいるなら、やっぱり、、、ねぇ」



            リラ幼稚園

  二人は声を揃えて云った・・・10年前からもずっと有名だと言われている、リラ幼稚園は
  益々、伝統と博識を持ち、今も韓国随一の幼稚園になっていた。
   この幼稚園出身だと云うだけで将来が約束され、大概の有名な御三家の大学には入れると
   云われていた。
   お金も相当かかるし、並み外れた秀才でなければ入れないし、更には家柄や親の学歴も
   見られてしまうのだ。

  カノン:「無理、無理、シオンは無理だってば・・何もお受験の用意もしてないし、
       パパが幾ら少し名が通った音楽家でも、多分、無理・・それにマグレで入ったと
       しても入ってからのお勉強が大変でしょう?」
  
  ヒロミ:「カノン、ダメダメ、そんな弱気じゃ!サヤカもリラ幼稚園に子供を入れるって
       凄いよ〜、受けるだけ受けてみるのもいいじゃない?記念受験だって思ってさ。
       シオンちゃんの将来の芽をつぶしたら可哀想よ」

  ソンジェ:「ハハハ・・でも、もう願書とか間に合わないんじゃないですか?」

  綾:「それが、まだ大丈夫なのよ、カノン達がソウルに来るって聞いて、一応、余分に
     貰っておいたの。同級生のよしみで、受けてみましょうよ。落ちて元々よ。でも
     ソウルに住んでいて受験させなかったって言ったらこの先、笑われちゃうかも
     しれないからね。」
  カノン:「えぇ、そんな学校なの?何か聞いていて大変そう!!」

  ヒロミ:「引っ越ししたてだから、耳にしないだけよ。きっとここのイテオンAPTの
       同年代のお子様を持つ家庭の人達は、皆、お受験するって思った方が良いわよ。
       もっとも、その前に願書の段階で沢山、落とされちゃうけど・・・」
  ソンジェ:「そんなに人気があるんですね?カノン、家なんて願書で落とされちゃうかもね?
         気楽に願書だけでも出しておこうか?ハハハ」

  綾;「そうそう、そのイキよ。後で後悔しない為にも、応募だけでもしておかないと、
     イジメの対象にもなっちゃうからね・・・」
  

   カノンはイジメの対象と言う言葉を聞いて渋々と願書を受け取った。
   気乗りのしない学校選択だった。しかし、願書の段階で殆どが落ちると聞いて安心感も
   あった。きっと落ちるだろうと思っていたからだ。




          次の日、カノンはソウルの新村に住むサヤカの家を訪れた。
 

    サヤカは大学を卒業して直ぐに、キャビンアテンダントになるべく幾つかの航空会社を
   受験したが、かなり経済状態の悪い時期だったが、日系は良い線まで行ったが全滅だった。
   気落ちをしているところにKEのアテンダント募集が目に入り、ダメもとと思って強気で
   受けたのが功をそうして合格したのだった。
   アテンダントの時にパイロットに見染められ結婚し、引退、今はお受験ママ化した
   セレブ主婦だった。
   一軒家の豪邸に住んでいた。玄関のチャイムを鳴らすと、微笑みの美しいサヤカが
   お出迎えをしてくれた。

    カノン:「サヤちゃん、こんにちは!お招き有難う。早速、来ちゃいました。」
    サヤカ:「いらっしゃい、カノン、お久し振りね。ソウルに良く来てくれたわ。
         さぁ、上がって、上がって・・・あら、シオンちゃんね、こんにちは。」

    シオン: 「叔母ちゃん、こんにちは」
    サヤカ:  「まぁ、きちんと御挨拶が出来て偉いわね〜美味しいケーキを取り寄
           せてるのよ、一緒に食べましょう。」

   サヤカは、何となくカノンにはいつも優位に立った喋り方や態度を示したがるのが
   癖であった。恐らく、すっかり田舎者になった純朴な母子が訪ねて来て、自分の方が
   セレブであり、都会的な生活をしている事を、サヤカは自慢したかったのだった。

   サヤカの子供は双児で、兄であり息子は「海斗(=カイト)」・妹であり娘は「空海
   (=ソラミ)」と名付けた。パイロットの旦那さんが命名したのだと云った。
   もっとも御主人の名前が「海仁」と言う名前から「海」がつく名前となったのだった。
   
   良く教育されており、小さい頃から、英会話やバレエ、ピアノ、体操、スイミング、
   算数教室など、習い事は出来るだけさせているようだった。
 
   カノンが、「サヤちゃんの子供たちは?」っと辺りをキョロキョロして聞くと、
   サヤカは自慢げに「自分たちのお部屋よ、今、家庭教師が来ていて勉強中なの。」
   と、云った。

   それにしても余りにも静かすぎる家だった・・・
   調度品は全て外国製の輸入物のようで、ピカピカに磨かれ、お茶に出されたカップや
   お皿なども全て高級感あふれるものだった。
   とてもカノンの家のように、子供のおもちゃで溢れ、生活感一杯の家とは違っていて
   それがカノンは可笑しくて笑ってしまった。

   サヤカ:「え?カノン、何が可笑しいの?」
   カノン:「えへへ・・・だってサヤちゃんは、私と従姉妹でありながら、何か生活レ
        ベルが全然違うんだもん、高級でセレブで・・でもサヤちゃんはそれが
        似合ってて恰好良いなって・・・カイト君もソラミちゃんもきっと立派に
        育ってるんだろうなって思ったの。私は三日前まで海や山に囲まれた島で
        暮らしていたから、何かビックリする事だらけなの・・」

   サヤカはカノンの裏表ない純粋な言葉に思わず笑ってしまった。
   そうなのだ、カノンと云う子は、いつも純粋で、優しくて明るくて、駆け引きが出来
   ない子なのだ・・・だからいつもサヤカは自分がどんなにお金持ちで恵まれた美貌や
   才能があっても、ぎりぎりのところで、カノンに負けてしまうのだった。
   1番欲しい物を、手に入れられない・・・そんな気分になる事もしばしばあった・・

   サヤカ:「ソンジェさんは相変わらずご活躍ね?この前、ウイーンで表彰されていた
        でしょう?」

   カノン:「え?そうだったっけ?私には良く分からないけど・・お家ではお仕事の話
        とかしないし、マイホームパパって感じだし・・いつも私の冗談を交わす
        のに必死で面白いよ。」
   
   サヤカ:「あのソンジェさんが?信じられないわ。兎に角、ソウルに来たんだから
        自分の夫の凄さを知った方が良いわよ。」              

    カノンはふ〜んと余り興味のなさそうな相槌を打ちながら、キャビネットの上に
    置かれているリラ幼稚園の願書を見た。

       カノン:「あ!!」
    
    カノンの声と視線の先にサヤカは気づき「あぁ、、リラの願書ね?カノン、家の
    子供たちね、リラを受験するの。絶対に、リラ幼稚園に入れさせたいのよ。
    ソウルで生まれ育った子供なら受験させなかったら孫子の代まで恨まれると言われる
    名門学校なのよ。落ちたって良い、唯、受験させたって事が親のステータスなの。
    でも家の子は絶対に入れるわ。何としてでも!」っとキリキリとした感情がカノンに
    も伝わって来るかのような言葉を、サヤカは云った。

    サヤカ:「・・そう云えば、シオンちゃんも家の子と同い年でしょう?幼稚園は
         どうするの?」
   
    カノン:「パパも私も近所の幼稚園で良いかな?って思ってたんだけど、昨日、
         ヒロミと綾が引っ越しの手伝いで来てくれて、やっぱり幼稚園の話が出て
         皆、リラ幼稚園を受けるって・・・それで綾ちゃんが私たちがソウルに
         来るって知って、願書だけ、貰っておいてくれたの。本当は気乗りして
         ないよ。だって済州島に居た時は、何もお受験の事なんて考えてなかった
         し準備なんてしてなかったもん。」

  サヤカはカノンの嘘いつわりのない言葉だと思い、更に今からでは到底、リラ合格には
  間に合わないだろうとシオンを見ながら思った。
  冗談じゃないわ、うちの子は生まれた時からリラに入れる為、頑張って来たのだから・・
  例え、ソンジェさんが有名な音楽家であったとしても、リラに入るのは大変な事・・
  しかも幼稚舎から大学までノホホンと育って来た勉強嫌いなカノンの子供だもの、
  その段階で、もう無理よ。


  サヤカは余裕の笑みを見せながら「記念だと思って受けといた方が良いわよ。ソウルに
  住む親は皆、受けさせないと後悔するんだから・・・子供に恨まれるわよ。何で受験
  させてくれなかったのって・・・小学校に入る時もリラを受けたか受けなかったか?
  って聞かれ、受験番号も聞かれるのよ。ソウルっ子にとっては手形みたいなものなのよ。
  多分・・今からじゃ、難しいと思うけれど、受験番号だけでも貰う為に受けたら?」
  と云った。カノンも素直に「・・分かった。じゃあ、受けてみますか?」とケーキを
  美味しそうに頬張るシオンの顔を見ながら云った。シオンは何の事か分からず、
  カノンの笑顔に応え一緒になって笑った。


   帰りの地下鉄の電車の中で娘のシオンが「アッパー」と言って指差した。
   カノンは「え?そんな筈は?」と思って見てみると、大きな大きな長い看板に
   沢山の自分の夫である李ソンジェの指揮する姿が動く画面のようにずっと
   車窓から写されていた・・・
    あっ、本当だ・・・そして間違いなく、看板右下に「李ソンジェ」と名前
    が書かれていた。その看板が次の駅まで続いていて、李ソンジェの有名さを
    物語っていた・・・
    又、良く見ると、電車の中の吊り革広告にもソンジェの広告が掲載されて
    おり、カノンはビックリしてしまった。
    

     オッパちゃん、いつの間にこんなに有名になっていたんだ・・
     凄い、凄いっとカノンは何度も心の中で騒いでいた。

    
   帰宅すると、ソンジェがカノン達よりも早めに帰宅していたのか?
   エプロン姿で出迎えてくれた。

  「お帰り〜、もう直ぐ帰るだろうと思ってキムチチゲを作っていたんだ。
   オンマの方が勿論、上手だけれどね・・・二人とも、お腹すいただろう?」
   ソンジェは優しい笑みを浮かべながら、シオンを抱きかかえながら
   リビングへと歩いて行った。

   シオンは「アッパーが、電車に乗る時、居たよ、凄く大きいアッパー
        だった。」と興奮して云うと、ソンジェは「えぇ?アッパーが
        いたの?アッパーはお家に早めに帰ってたのに・・」と微笑み
        シオンの頬っぺたにキスしながら云った・・・
   
   シオン:「オンマも見たよ、ねっ、オンマ、アッパーいたよね?」と
        カノンを振り返りながら云った。

   カノンは笑いながら「う〜ん、地下鉄のあの看板は、アッパーじゃない
    かも?何か・・・キムタクだったかも? チョヌン キムタクイムニダ
    って云いながら指揮棒を振ってる写真だったもの」とふざけて云った。

  ソンジェはその言葉で、あぁ、恐らくあの看板の事か・・・っと想像がつい
  たが、自分ではなくキムタクだと云うカノンの言葉が可笑しかった。

  カノンはこのエプロン姿で出迎えてくれる優しいソンジェが大好きだった。
  変わらぬ優しい、家族を大切にしてくれる穏やかな毎日が幸せだった。
  自分の知らない所ではきっとこのソンジェは物凄い有名人で素晴らしい
  音楽家なのだと云う事も知っていたが、無頓着でいようと思った。
  ソンジェもまた、そんな無頓着で明るいカノンが大好きだった。
  そして心の底からこの幸せを生涯かけて守ろうと思っていた。

  
  食事が終わり、シオンを寝かしつけてからカノンはソンジェと
  シオンの幼稚園の事を話した。
  従姉妹のサヤカも、リラ幼稚園に自分の子供たちを入れたいと頑張っている
  事も伝えた。我が家は我が家のペースで、多分、落ちるだろうけれど、寧ろ
  落ちた方が子供らしく伸び伸びと育ちそうだから、記念受験で受ける・・
  何れは、日本に行くか済州島にまた行くかもしれないので、ソウルには拘り
  もなかったからだ。ソンジェもカノンも学校には全く拘りも無かったので、
  思いっきり楽しく・潔く落ちましょうと話はまとまった。
  
  願書を書いている内に、ソンジェが可笑しくて笑いだした。

  カノン:「オッパちゃん、どうしたの?」
  
  ソンジェ:「・・・え?・・・ハハハ・・・だって、カノンが余りにも
        真剣な顔で僕が書く願書を見詰めていてさ、、ハハハ、、
        それに願書の段階で落ちるかもしれないんだから、そんなに
        真剣になってもしょうがない感じもしてね・・落ちる事が
        分かってる受験に何で真剣になってるんだろうって・・
        それが可笑しくてね。ハハハ」
  
  カノンは、ソンジェの言葉を聞いて、それもそうだと思って一緒に笑いだ
  した。カノンは気持ちが一気に楽になり、「お茶お代わり入れるね」と
  云ってスリッパをパタパタとさせながら、コーヒーサーバーを取りに、
  台所へと向かった。そして「明日、近所の幼稚園のパンフレット、貰って
  来るね」とソンジェに云った。「あぁ、悪いね、そうしてくれるかい?」
  と云って笑った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





    その頃、サヤカの家では、もう深夜12時だと云うのに、子供たちへの
     お受験の特訓が続いていた。





   カイト:「ママ、僕もう眠いよ」

   ソラミ:「もういやだ、やりたくない。わーん。」

   二人の子供たちは眠さと疲れからついに泣きだしてしまったが、サヤカは
  それでも止めなかった。
          心を鬼にして

   サヤカ:「何を云ってるの!皆、頑張っているのよ!ヘウンちゃんも、
        スンホン君も、ライ君も皆、皆、リラに行きたいから寝ないで
        頑張っているの。ここで頑張らないと、リラに行けないのよ。
        リラに入ったら、何でも好きな物を買ってあげるし、幾らでも
        遊んで良い日を上げるから。だから頑張りなさい。
         カイト、ママじゃなくてお母様でしょう、オモニムでも良い
        けれど・・・でもリラの創始者は日本人だからお母様が良いか
        もしれないわ。ソラミ、泣く時も、声を上げてはダメ、ハン
        カチで目元を抑えて泣くの!良いわね?お母様の云った通りに
        出来なければ、寝てはいけません。」


     ぴしゃりと云う言葉に、夫である海仁が見るに見かねて助け船を出した。

   海仁:「サーヤ、相手はまだ学校にも上がって無い子供だぞ、何を
       そんなに焦って詰め込むんだ、可哀想だろう。さぁ、もういいから
       寝なさい・・・」っと言った瞬間、

              「あなた!!」と怒鳴り声をサヤカはたてた。

   サヤカ:「あなたは良いわね、いつでも良い人になれて・・もし万が一、
        カイト達がリラを落ちたら、私は何てあなたのお父様や、お母様に
        云われると思っているの?え?また、周囲の奥様達にも私が笑われ
        るのよ。日本人の妻を貰うからこうなるって散々、私はあなたの
        お母様に悪く云われたのよ。せめて子どもたちはリラに入れなさい
        って・・・」
   海仁:「・・・分かったよ・・唯、今夜は皆、疲れているんだ、君だって
       疲れているだろう、だから、ゆっくり休もう。私だって久し振りの
       フライトから帰って来て疲れているんだ。頼むよ」

      サヤカは分かったとし、今夜は眠ることにした。
      昼間、カノンに会ったからだろうか?
      サヤカは夢をみた。それは10年前の自分達の夢だった。
      

   語学研修が終わって、カノン達も帰国し、大学に年の後期が始まった、すると
   間もなくしてソンジェさんが、東京藝術大学院を受験しに日本に来た。
   ソンジェさんの実力なら、合格は間違いないと皆が思っていたが予想通りに
   合格し、2年間の留学が次の年からソンジェさんは始まった。しかもカノンの
   横浜の家でホームスティ生活をしながら・・・
   カノンの家に何度か遊びに行くうちに、ソンジェさんの素晴らしい音楽性を
   感じ取り、優しく穏やかな性格にサヤカはドンドン魅かれて行った。
   しかし、ソンジェの心は常にカノンに向いていて、いつもカノンといると
   自然体でいられ幸せだと云っていた。
    サヤカが一大決心で告白した時も、答えは同じだった・・・

   カノンにはテファがいるじゃないかと云っても、無駄だった・・・
   カノンは帰国してから、テファの事は口に出さず、テファとの思い出の物や
   写真等は、全てはこの中にしまい込み、時が来たら処分すると云って、横浜の
   実家の倉庫の奥深くに眠らせてしまったのだった。
   携帯電話も、全て新しいものにし、心機一転で学生生活を満喫させていた。
   韓国留学最後の日、テファに会えなかった事が、諦めるキッカケになったの
   だと言った。

   ずっと変わらずに思い続けたソンジェさんに軍配は上がり、結婚し、
   幸せな家族を築き、楽しそうに暮らしているのが、今日、久し振りに会って
   みて分かったのだった。
   カノンが悪いわけではないのだが、やっぱりカノンが妬ましかった。
   私が1番欲しい物をいつだって簡単に手に入れてしまうカノンが、、、、

   シオンは、二人のいい所をとったのか?見るからに可愛い愛らしい娘に
   なっていた。しかし、所詮、島育ちの田舎者、今さらどんなに頑張っても
   生まれた時から英才教育をしている家とは雲泥の差・・リラに受かる筈は
   ないわと夢の中でもサヤカは何度も叫んでいた。
   
   ヒロミと綾の子供たちもリラを受けるとカノンが云っていたが、恐らく
   二人の子供は、願書の段階で、落ちるだろうと高をくくっていたサヤカ
   だった。何故なら、ヒロミと綾の主人は、あの時・・韓国に留学した時
   に付き合っていたスンジュとトンスだったからだ。
   スンジュは日本人観光客が良く泊まるスタンダードクラスのホテルに
   勤務ししていおり、トンスは、日本企業の下請けをしている韓国系の
   携帯電話会社の日本語通訳をしていた。それだけでは収入がおいつかず
   夜は日本人に韓国語を教える語学学校のアルバイトをしていた。
   
   リラは学力があって当たり前だが、その上、財力や親の地位や職業も
   関係してくる為、入るのに大変な学校だった。例え、親に財力がなくても
   祖父母が財力があれば、何とかなるだろうが、入ってから散々、同世代の
   親に馬鹿にされるから、、、そういった人も入って貰わないと、自分が
   輝けないので、多少は入って貰いたい物の・・・それでも同類には
   されたくないと言った、なんとも我儘な考えだった・・・・

   
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


   
   優しい夫であるソンジェの計らいで、カノン達は、生活に慣れる
ようにと連日、ソウル観光を楽しんだりした。
   島での生活とは打って変わって、人も多いし、都会での生活は
   華やかで刺激的だった。  

   
   カノンも大好きなロッテワールドや、歴史博物館にも行ってみた。
   シオンは東京ディズニーランドの記憶がかすかにあるが、そこが
   母親の故郷である日本だともちゃんと分かっていなかった。
    ロッテワールドは何年振りだろう?そう思いながら懐かしく
   園内をカノンは見渡した。
    随分、新しいアトラクションが増えていて、より綺麗で、発展
   してきたと云うのが良く分かった。
   シオンはハシャギ、あれも乗りたい、これにも行きたいと云って
   カノンの手を引っ張った。

   
    カノンはニコニコしながらハイハイ、そんなに慌てないで!と
    云って、シオンとロッテワールドを楽しんだ。
    
    途中、食事をとるために、ロッテワールドホテルの民即博物館
    の所にある食堂に向かった。
    再入場できる為のスタンプをシオンとカノンは手に押して貰っ
    て、ロッテホテルのエレベータに乗った。エレベータの中で、
    大きなポスターが貼ってあった。
    見覚えのある顔だった・・・
     
     中央の大きなグランドピアノに腰かけて演奏する呉ジナの
     ポスターで、ロッテワールドホテルの最上階のスカイラ
     ウンジレストランで、ピアノの演奏会があると云う宣伝
     ポスターだった。
    
     シオンがポスターをずっと見つめるカノンを見て
     「オンマ、きれいきれいな人ですねぇ〜」と言った。
     カノンは「・・そうね、きれいきれいね」と云って笑った。

     かつてのソンジェの恋人・・呉ジナは今も光り輝くほどの
     美しい女性だったし、音楽の第一線で働いていた。
     
        シオンはまたカノンにこう言った。
     「オンマ、きれいきれいだけど、オンマの方がきれい
      きれいですね」・・・と・・・
      カノンは子供に気を使わせてしまったと思い、なんだか
     それが可笑しくて、「ごめん、ごめん、シオン、本当に
     きれいきれいな人だったからオンマ、見とれちゃったの。
     アッパーはこう言ったきれいきれいの人が大好きだとオ
     ンマは思ってね。それで見とれてたの。えへへ」と言うと、
     シオンはムキになって「えぇ、アッパーは、オンマの方が
     好きだよ。いつもいつもアッパーはオンマが1番きれい
     きれいって云ってるもん、」と言った。

     カノンは嬉しくなって、「でも1番はオンマじゃないよ、
     アッパーの1番はシオンだと思うよ」と言うとすかさず
     シオンは「シオンは可愛いの、アッパーは1番可愛いのは
     シオンで、1番きれいきれいはオンマだって。」と言った。

     カノンはソンジェの云いそうな言葉だったので、少し恥ず
     かしいやら嬉しいやらで、満面の笑顔になってしまった。


     そうか・・かつて自分が1番好きだったテファオッパが、
     もし呉ジナさんの様に、活躍華々しい人になり、ソンジェの
      知るところとなったら、ソンジェはどう思うだろうか?
   

       人生には色々な道があり、選択は自分本人だ・・・
   
    私は今の人生の選択で良かったと思っているし、幸せだと
    心から思える・・・きっとオッパちゃんも同じ気持ちで
    思ってくれるだろう。
     もうテファオッパも、呉ジナさんも

         過去の思い出の人だと・・・・
   

    どうかしているぞ!っと、カノンは拳で自分の頭をポコポコ
    と叩いて、いつもの笑顔で「シオン、お腹空いたね〜美味
    しい物食べようね」と云ってエレベータから降りた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



   ホホホ〜高らかに笑うリラ幼稚園の園長、金は笑いが
   止まらなかった。
   ここ数10年、リラ幼稚園の人気はウナギ登りであったからだ。
   
  
 政治家の子供や孫、名士の子供、有名企業の社長の子供たち・・・
 学歴至上主義の韓国の時代に乗って、その力は増大していった。
 名目上はキリスト教と言う宗教も利用し、寄付金も集め放題だった。
 何も云わずとも、寄付させて下さいと云う生徒の親たちは絶えな
 かった。

 人はお金に寄って人生や性格も変えてしまうのだろうか?
 ここ10年で園長は、金の亡者になっているかのように変わった。

 幼稚園は常に工事中の看板が建てられ、増設したり、改装したり
 していた。職員室も教室もピカピカで最新式の設備が整っていた。

 

 南ピラン(教師):「園長先生、今年の倍率なんですが500倍を
           超えると思います。6クラス増設しても、
           500倍ですから凄いですよね?去年は確か
           479倍でしたから・・・皆、この幼稚園に
           入りたがってるんですね?凄いですよね」

 徐ヒョヌク(教師):「リラ幼稚園と云うのが1つのセレブな主婦
            たちのステータスになってますからね、
           この幼稚園に入れる為に、赤ん坊の頃から
           英才教育をさせてますから、毎年、そのレ
           ベルは上がる一方ですよ。いや〜凄いです
           よね。」

 金ホドン(事務局長):「えぇ、先生方、今、願書をより分けて
            ますが、今一度、園長先生から、選考方法を
            聞いて下さい。将来、金の卵になるか、なら
            ないか?又はリラ幼稚園に取って偉大な功績
            と有益をもたらすかの生徒です。慎重に願い
            ますよ。では、先ほど配りましたプリントの
            3枚目を出して下さい。園長先生、どうぞ、
            ご説明ください。」


 良く聞こえないと行けないと思い、マイクで行う本格的な、
 選定会議だった。
 
 園長は如何にも人の良さそうな顔つきで、テキパキと説明していった。


 先ずは、ソウル在住である事・・・ソウルでも高級住宅街にここ
 10年は住む事、親の学歴は大学・・御三家を出ている事が望ましく
 ソウル市内の韓国有数の大学を出て、有名企業の会社役員であったり
 政治家、医者、弁護士などその業界では有名人出ること、収入も安定
 している事、、、園長が日本人であることから、母親が日本人でも、
 家柄が良い名家の出身で、それなりの日本の大学を卒業していれば
 良いとした。また親に財力が多少欠けても、親の親、つまり祖父母が
 財力があったり地位があれば、受験資格可とした。   
 日本と韓国の友好にも一役買っている事も恰好のアピールになる事も
 園長は計算していたのだ。

 受験資格のある者を願書選定した後は、再度、園長が吟味すると云う
 のだった。
 全て願書提出者のデータはPCに入力されており、見落としが無
 いかも園長はしていた。


 
   園長は何枚かの束になった願書をペラペラとめくって見た。
 
      あら、今年は良いじゃない・・・
 
     ジャズピアニストの呉ジナの娘も受験するのね?
          
     まぁ、音楽続きだわ、音楽家の李ソンジェの娘も受験?

    凄いわ〜良いCMになるじゃないの。ホホホ〜

    目を細めながら、またもや笑いの止まない園長であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  リラ幼稚園は余りの人気と競争率で、浪人園児を出す勢いも
  あった。どうしても入れたいが為に、わざわざソウルに移り
  住む地方都市の名士の子供たちが増え、社会問題にもなった
  為、急遽、クラスも12クラスから18クラスにしたのだった。
  
  教員の数も増やした。きめ細やかな教育と唱っている手前、
  1クラス20人の生徒に先生を2人にした。それでも先生が
  足りない状況になる事を考えて、今年も採用者の枠を増やした。
  韓国一番のリラ幼稚園・・・だからこそ、教師人も一流でない
  と困るからだ。

  そんな教員採用者の一人に、28歳の・・少し年齢をとった
  女性がいた。
   彼女の名前は姜ユリ・・・



       そう、10年前のあの姜ユリだった。



 運命の糸は少しずつ少しずつ、「縁」と言う言葉に手繰り
 寄せられているかのようだった・・・・


 

  これから起こる「潮風のセレナーデU」の幕開けだった・・・


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 10311