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作品名:潮風のセレナーデ・・・会いたい気持ち・・・ 作者:HAPPYソフィア

第7回   夏の始まり・・・ペンダントの輝き


「カノン、どうしたの?大丈夫?」ミドリが、カノンが頭を押さえて

痛がっているのを、いち早く察知して、声をかけた。

        一時的な、急な痛みだった。

             カノンは心の中で

        「ホンデ・・・そう言えば、ホンデの近くで
               
                交通事故に遭ったんだっけ・・・」

                          そう思った。

あの時は、何が何だか分からずに、車と衝突してしまった・・・

  だからホンデと言う言葉に、敏感になっているのかもしれない・・・

   カノンは思い直して「ねぇ、ミドリ、ホンデになったことは、

        サヤカや1年の時のクラスメイトの典子と栄子には

                    内緒にして貰っても良い?」

          ミドリ:「え?うん、いいけど?どうして?」

カノンは、この春に韓国旅行をして、

        ホンデで交通事故に遭った事を再度、話しをした。

そしてサヤカが、ずっとこの事で心を痛めているから・・・

典子も栄子もサヤカとは仲良しだから、

口を滑らせて話してしまうかもしれないから・・・・

そしたら、サヤカはカナダの留学を途中で投げ出して帰国してしまう

くらいの考えを持ちかねないから・・・」と言った。

 すると周囲の皆が「じゃあ、延世大学になったって事にしたら?

典子たちのクラスは、釜山の方面の大学の語学堂に決まってるから、

  ソウルでは無いし・・・延世大学って言っておけばいいじゃん」

                        と言ってくれた。

          カノンは皆の優しい心使いが嬉しかった。

             そうなのだ。

     このクラスの全員が、幼稚園からの友人で、

          皆、同じ環境で育ってきているので、

  気心が知れ、更には、家族のような仲良しの関係なのだ。

            口は堅いし、結束も堅いのだ。

    カノンは、心が軽くなって、満面の笑顔になった・・・・

学校の帰り際に、案の定、典子と栄子が、教室の前で待っていた。

              そしてお茶して帰ろうとなった。

       場所は駅前のアンジェリアにした。

 アンティークな室内で、美味しいチャイとエッグタルトで
 
          有名なお店だった。

三人はチャイとエッグタルトを頼んで腰掛けた。


典子:「で?カノン、どうだった?うちらのクラスは、

     ソウルでは無くて、釜山と済州島の大学の語学堂に

       なったのよ。カノン達はソウルでしょう?」

カノン:「うん・・・私も、釜山とか済州島が良かったな・・・」

栄子:「えぇ?なんでやのん?うちはソウルが、ええわ。」

カノン:「だって、生まれも育ちも横浜で浜っ子で、

        港や海が大好きだから、、、

       海がある場所が大好きなんだもん。

   ソウルは、修学旅行や、この春にも行ったから・・・

         だから違う所が良かったな・・・」



典子;「でもカノン達の附属組は、絶対、ソウルだと

        思ったよ。お金の額も違うもん。

   やっぱりソウルの方が、50万円位、高いでしょう?

  しかも施設にしても綺麗だし、

      滞在場所もお洒落な家が多いと聞いたよ。

  うちらは、民宿みたいな下宿で、二人1組で1部屋だよ。

   御飯も、自分で作って食べたりするんだって・・・」

カノン:「えぇ、いいな〜、私もそっちが良いな・・・

         お金も安いし、御飯も作れるから・・

                   楽しいじゃん」

栄子:「カノン、何がええねん。うちらは、悲惨な共同生活やし、

     言葉かて、釜山弁みたいな標準語じゃないんよ。」

典子:「栄子は、京都で、釜山は日本の関西と言われてるし、

      関西弁みたいなモンでいいじゃない。」

栄子:「何を言うてるんや?関西弁と京都弁は違うし・・・

     何かうちら、、大学に差別されるなぁ」

         カノン:「え?」

栄子:「だってな、クラス替えがあって、クラス担任にな、

      あなた方と、隣りのクラスは違うんやって

           言われたんよ。

隣りのクラスは、生活レベルも全く違うんだって

              言いたげだったやんか・・・

 それにな、韓国の語学研修でも、

      費用が高いと言った生徒が居て、

先生が、隣りのクラスの生徒はお金に関しては

何も文句は出なかったとか言いはってんねん。

     ほんまに、そうなんか?」

カノン;「そう言えば・・・何もお金の事は話題に

     なってなかったっけ・・・」

栄子:「そやろ?だから、カノンはお金持ち階級なんや・・・

          うちらと、違うやんか・・・」

典子:「栄子、やめな!カノンが、泣きそうだよ。・・・

           カノンは悪くない・・・

    御免、カノン、うちらが、少しカノンに

       嫉妬しただけ・・・先生が嫌味だったから、

         カノンにあたっちゃったね?御免ね」

         ・・・・っと、お姉さんの口調で言った。

カノンは、「大丈夫・・・こちらこそ、御免ね・・・」と言って謝った。

       栄子もカノンに謝った。

「京都弁は結構、きつく・嫌みに聞こえるんよ、、ほんま、堪忍え」

                      と言って謝った。

    三人は顔を見合わせて笑った・・・仲直りとなった。。。

典子:「ところで、カノンは、どこの大学になったの?」

カノン:「うん、・・・・・延世大学。延世大学になったけど・・・

         ホームスティで滞在になるけれど、まだ・・・

               滞在家庭は決まってないって・・・」

           咄嗟に延世大学と答えたけれど・・・

             カノンの良心がチクリと痛んだが・・・

        これで良かったと次の典子の言葉で確信した。

典子:「あぁ、良かった〜、サヤカに直ぐに知らせなくっちゃ。

     直ぐ、メールするね。

      実は、サヤカが、カノンの事を心配していて、

   うちらに、時々、カノンの様子を知らせてって言ってたんだ。

 今年から韓国語学科も、短期語学研修があるとメールしたら、

電話が直ぐにかかってきて、どこの大学に決まったのか、

 必ず直ぐに教えてって・・・

          ホンデだったら、大変な事だからって・・・」

  

       ホンデ・・・・ホンデ・・・弘益大学・・・

       ・・・と言う言葉を聞いてカノンはギクリとした・・・

カノン:「どうしてホンデだと大変なの?」

  典子も栄子も顔を見合わせて・・・

         そして冷静な典子が話しを淡々とした。

典子:「ほら、カノンは春に韓国旅行をして、

        ホンデの近くで交通事故にあったから・・・

 事故の事を思い出したりして悲しくなったりするかも

                   しれないし。。。

交通量も結構、多いから、また事故に遭ったら大変だし・・・・

  だから心配なんだって・・・・そうだったよね?栄子?・・・」

カノンは、その言葉に疑いもなく、やっぱり、そうかぁ〜と思った。

栄子:「ほなかて、カノンは延世になったやんか、

      ええことやんか。延世なら、

     穏やかで伝統と格式がある大学やんか?」と

               典子の口裏を合わせた。

安心したのか、典子は栄子のエッグタルトをパクリと

         食べてしまった。


栄子は「それうちのや!ノリ、なにすんのや」と

        典子の頭をポカっと叩いて怒った。

 そして3人はゲラゲラと笑いだし、

        仲良しの3人になり、歓談をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


カノンがマンションに帰宅すると、サヤカからメールが来ていた。

    ※※サヤカからのメール※※

やっほー!カノン、元気?カノンの事は、

                典子と栄子から聞いているよ。

  韓国語学科で語学研修が今年からあるんだって?

    カノンは、延世大学に決まったと聞いたよ。

   延世大学について、ネットで調べたら、

      慶応大学に似ていて良い大学みたいだね?

    おっとりしたカノンには、合ってるかも?^^

    私は、相変わらず、退屈な授業よ・・・

   英会話も何だかつまんないし・・・

          授業も実践的じゃなくて・・・

  日本の授業と変わらないし・・・退屈過ぎてね・・・

  良い事と言えば、過ごしやすいことぐらいよ。

  空気も綺麗だし、花や緑が濃いと言うか、

       鮮やかで綺麗な感じがするわ。

食べ物は、まぁまぁだけど、

       やっぱりカノンの料理は最高よ!

カノンの作ってくれる日本料理が恋しいわ!

こちらの帰国も、カノンの帰国も同じ時期になりそうよ。

カノン、韓国は、交通量が多いから車には気をつけて!

それから、ホンデみたいな、

       人が一杯いる町や、ホンデ周辺は、

            避けてね?良い?約束よ。

  そうそうロッテワールドへは、もう行ったと言ってたから、

   水村の民俗村とか、

        地方の観光地に行けばいいと思うの・・・

ロッテワールドは、私が帰国したら、機会があったら、

   一緒に行きましょう!それまで、行かないで、

        楽しみをとっておいてね?約束よ。

  韓国に私も興味があるんで、向こうに行ったら、

  毎日、メールして様子を教えてね?

           お願いよ、、、、

6月からだから、もうすぐね?じゃあ、またね。
                                   
                   サヤカ


※※※ーーーーーーーーーーーーー※※※※


メールを読んで、カノンは、何度も何度もサヤカや、

典子、栄子に謝った。



 御免ね、サヤちゃん、、御免ね、


 御免ね・・・ノリにエイコ・・・・

    本当はホンデに語学研修が決まったの・・・

 本当に御免ね。交通事故には気をつけるし・・・

   ロッテワールドには、行かないようにするから・・

  本当に御免ね・・・・そう何度も呟いた・・・・


        「カノン・・・カノン」


  すると又、自分の名前を呼ぶ声がした。

     「誰?」と、

 カノンはキョロキョロとしたが、

           誰がいる訳でもないし・・・

帰宅したばかりのマンションなので、

         TVがついている訳でもなかった。

「何だか・・・本当に変だ・・・

     時々、聞こえて来る優しい声は一体、

              誰なんだろう?」・・・・

カノンは、その声の人が一体、誰なのか?

         気になって仕方なかった・・・・・

 だが、どうしても思い出せないし・・・

 誰なのかすらも全く見当もつかなかった・・・・・

テラスの窓を開け、夜空を見上げると、

     星が沢山、輝いていた・・・・

 すると、胸元のペンダントが、

         悲しい蒼い色を放ちながら、

              キラリと光った・・・・

    カノンは、深呼吸を2度3度して、

          窓を閉め、

     TVのスイッチをつけた・・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    −−−−−−−−−−−−−−−

短期語学研修が6月に決まったので、

   カノンは、研修準備をしようと思った。

少しでも韓国語を上達させたかったので、

週末は、横浜の実家に帰り、

ホームステイしている李ビョンチョルから

  韓国語を教えて貰った。

ビョンチョルは快く、韓国語の教授をしてくれ、

  更には今の韓国の若者が使う言葉や、

流行している物や、TV・映画・食べ物などを話してくれた・・・・

 二人は、本当の兄妹のように、親しくなっていった・・・・

ビョンチョルは、カノンが、意外にも色々な韓国語の単語を

知っていたし、難しい文法上の言い回しも・・・・

恐らく学校では習わない言葉も知っているので

不思議に思った・・・・・

ビョンチョル:「カノンちゃん、何でその言葉を使ったの?」

カノン:「え?ただ何となく・・・ドンアンって、

       お洒落好きな格好良い男の子の事を
     
                     言うんでしょう?」

ビョンチョル:「あっ、うん、そうだけど?・・・

           じゃあ、ヨルゴンは誰から聞いたの?」

カノン:「ヨルゴンは・・・えぇと・・・えぇと・・・カノンが余り、

         勉強をしないから、頑張って

     勉強してねって、、、誰かに言われて、、、

                    ヨルゴンって・・・・」

ビョンチョル:「2つとも正解なんだけど・・・

       でも、ドラマでも未だ流れて無い若者用語だよ

       ・・・・学校で、こんな言葉も習わないだろうし

                 ・・・カノンちゃんて凄いね」

      カノンは、ビョンチョルの言葉を聞いて・・・

      ビョンチョルだけに、実は語学研修は

               延世大学ではなく、

            ホンデである事、更には時々、

    男の人が自分の名前を呼ぶ声を聞く事を話した。

  全く覚えていないし、記憶にもない見知らぬ男の人が、

           自分の「カノン」と言う名前を

       何度も呼ぶことを、怖いと言うよりも、、、

       それがとても切なくて悲しい感じがするので、

    何であるのかを知りたいとカノンはビョンチョルに伝えた。

    ビョンチョルは、じっとカノンの話を聞いていて・・・・

         やっと口火を切った・・・・

ビョンチョル:「カノちゃん、ホンデがキーワードかもしれないよ。

               その声の持ち主は・・・」

                           と言った。

カノン:「え?ホンデ?でも全然、覚えがないし、、、

               知らない場所だし・・・・

  多分、春にソウル旅行に行った時、

        初めて行った場所だと思うから・・・・」

ビョンチョル:「事故を起こした相手の声かも??」

カノン:「あっ、そうかも?・・・でも、事故を起こした人が、

         お見舞いに来てくれたんだけど、

     40歳くらいのアジュンマと中学生の娘さんだったけど?」

ビョンチョル:「韓国人の誰かと交流はなかったの?」

カノン:「えぇと・・・えぇと・・・あったけど・・・多分・・・

                自然消滅しちゃった・・・」

                カノンは、即答で言った。

 どうやら、母親の交流サイトまでは、記憶にあったようだ。

  しかし、自然消滅で、もうやり取りがなくなったと

                思い込んでいるようだった。

        テファが帰国してしまってから、そのサイトには

   もうテファは脱会してしまったと思いこんでいたので、

   カノンもPCの方のハンドルネームだけは残すものの、

       サイトには入り込んでなかったのだ。

ビョンチョル:「・・・そうか・・・何か気になるよね?

      じゃあ、ソウルで会った時に、僕も、カノンちゃんの

          その声の謎解きをしてみるよ。

          多分、ホンデが怪しいよ・・・

           きっとそうだと思うんだ・・・」

カノン:「やっぱり、ソウル大学のお兄さんは、考えが深いね?

    カノンなんて、直ぐに単純だから唯の思い過ごしって

           思っちゃうもの・・・

              えへへ」と笑って言った。


その時、カノンのペンダントが蛍光灯のランプで反射し、

ビョンチョルの目に入った・・・

   「うっ、眩しい・・・」ビョンチョルは咄嗟に目を手で

      覆った・・・・

カノン:「ビョンチョルお兄さん、御免なさい・・・そうそう、この
   
    ペンダントの持ち主かもって思う事があるんだけれど?

    半分の三角形になっているから。。。後の半分は、
   
    その声のするお兄さんの物じゃないかって?時々、、
  
    何となくだけど思うんです・・・韓国語で書かれている

    し・・・・」

ビョンチョルは「そうか・・・じゃあ、一緒に、そのペンダントに
       
ついても、探す手がかりとしようね」と優しく言ってくれた・・・・

      カノンは素直に頷いた・・・

ビョンチョルには、丁度、カノンと同い年の妹がいるが、

かなり我儘で、傲慢だが、カノンを見ていると、

本当の妹がカノンだったら、どんなに良いかと思った。

ビョンチョル:「カノちゃんは、本当に可愛いね?妹にしたいよ。」

カノン:「え?妹?・・・えぇと妹は・・・」

ビョンチョル:「トンセンだね?女の子だからヨドンセンだけど、

           でもトンセンで分かるよ。」



       「トンセン」・・・・ト・ン・セ・ン?

   カノンにまたフラッシュバックが起こった。

       また海辺のさざ波が聴こえて来た。

     そして、隣りで笑い合う二人の姿があって、

      男の人の方が、カノンらしき女の子に、

            優しく語りかけていた。


  「妹はね、韓国語ではトンセン、、

         トンセンと言うんだよ。

     カノンは、今日から僕の可愛いトンセンだね?」

                っと言った。

    ビョンチョル:「カノちゃん、どうしたの?」

      カノンの腕を掴んでビョンチョルは言った。

カノン:「あっ、御免なさい。今ね、同じような情景で、

トンセンだねって言う言葉が聴こえたから・・・

         ボーっとしちゃいました。

        多分、韓国TVドラマの見過ぎで、

      それで思いこんでいるだけかも?えへへ。

    ビョンチョルお兄ちゃんのカノンはトンセンですね?
     
   何だか優しいお兄ちゃんが増えて嬉しいです。」

ビョンチョルは、いや、やっぱりカノンには何かがある・・・

恐らく自分が考えている通りならばその鍵が

           ホンデにあるような気がした・・・・

ビョンチョル:「じゃあ、この話は、カノちゃんと僕の秘密だよ。

      じゃないと、心配性なサヤカさんや、

       御両親は悲しむかもしれないから・・・

    お兄さんと約束してね?」と言って笑った。

     カノンは、「うん」と頷いて約束した。

    ビョンチョルとの勉強会が何度かあって、

  少しだが、簡単な会話も出来るようになって来た。

   一方、一緒に暮らしている母親はと言うと、

       全く上達していない様子ではあったが、

「カノちゃん、ママね、何だか物凄く韓国語が

               上達した感じなのよ。

            もうペラペラって感じよ。

   カノちゃんに韓国語が教えられるかも?」と、

    その気になっている様子で、楽しそうだった。

   そんな平和で楽しい日々が続いたが、

ビョンチョルの研修期間が終わり、帰国の日となった。

母は、前の晩に、やはり沢山の人を呼び、

最後のお別れパーティを開き、陽気に振舞っていた。

 しかし、別れの成田空港では、号泣し、、、

  涙が洪水の様に流れ、床を濡らしていた。

父親は「ママ、韓国と日本は近いし、、、

    夏休みや冬休みに遊びに行けばいいじゃないか?」

       と言って慰めた。

 やはり寝食を共にすれば情も沸き、別れの辛さが痛みとなって、

  一気に押し寄せて来てしまったのかもしれない。

      ビョンチョルも、泣いていた。

  「本当に、良くして下さって、、有難うございます。

   また必ず日本に来ます。鈴木さんたちも、

  韓国にいらして下さい。僕が今度はお世話致します。」と

            言って、涙を流していた。

    カノンに対してもビョンチョルは「カノちゃんは直ぐに韓国だね?

      必ず、連絡してね?そして、約束も果たそうね。

 カノちゃん、僕の可愛い日本のトンセン、、、また会おう。」

              と言ってくれた・・・

       握手をして別れの言葉を言われた時、、、

       またカノンにフラッシュバックが起こった。


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      時間や人や、風景が止まり、

           モノクロの世界になった・・・・

      カノンらしき女の子が、やはり号泣していた。

        場所は、、、成田・・・空港なのだった。。。。

        そして、握りしめた掌の温かさを離すまいと、

            ずっとその手を離さずにいた。

        男の人は靄でぼやけて分からないが、、、、

               声だけはハッキリ聞こえた。

      「もう行かなきゃ・・・カノン・・・カノン・・・

                帰国して落ち着いたら必ず、

                    僕から

            連絡するよ・・・待っていて欲しい・・・

               カノン、いつも笑顔で、、、

              そして元気で再会しよう・・・

                終わりではない、、、

                 始まりなんだから・・・

                    泣かないで・・・
                      
                      笑って

                 ・・・カノン」と言っていた。

               カノンは悲しくて泣いていた。

              床には無数の涙の跡があった・・・・


 ビョンチョルとの別れの辛さで、母親と一緒に泣いているの

      だろうと周囲は、そう思った筈だが・・・

    実は、カノンはその声の言葉で泣いていたのだった・・・・

       しかし、カノンは、どうしても思い出せないし、

             記憶が無いのだ・・・・

      一体誰なんだろう?懐かしくて優しい甘い声だった・・・・



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    ビョンチョルが帰国してから、母は、気力を失い、

                もぬけの殻になった様子だった。

韓国人との交流は、やはり情が厚い分だけ、別れがツラクなると、

韓国通の、親戚のおばちゃんが、言っていたのをカノンは、思い出していた。

おばちゃんは、数年前、韓国人の留学生さんや、ワーキングホリデイで

日本に来た韓国人の人達に、ボランティアで、日本語や、

日本文化を教えていた。

最初、おばちゃんは元々は高等学校の英語の先生だったので、

その経験や資格を生かして、国際交流のボランティアに参加していた。

その年は、まだ韓国流行になる前だったので、外国人と言えば、

韓国人ばかりだった・・・・

 おばちゃんは、韓国語や韓国人との交流は、当時が初めてだったが、

人懐こくて、情に厚い韓国人が大好きになり、愛情を注いでいた。


          彼らが帰国になって、

      一人・・・二人・・・また一人と帰国してしまい、、

          とうとう誰もいなくなってしまった時は、

     気落ちし、寂しさで寝込んでしまったと言っていた、、、

        更には、帰国や別れの寂しさから、

     もうボランティアには参加しないことにしたと言った。

      それくらい、韓国人との交流は熱くて、、、

             別れは切ないと言っていた。

    ビョンチョルお兄ちゃんが、お別れの挨拶をした時、

        起こったあの現象は何だったのだろう?

         今回は、ハッキリと声が聴こえたし、

            言葉もシッカリ覚えている・・・

               もしかしたら、

            私は、かつて同じ状況に遭遇・・・

          いや経験があるのかもしれないと、 

              カノンは思った。

 しかし・・・・それ以上は何も思い出せない状態だった・・・・

    
   全ては、韓国の語学研修で何かが分かるかもしれないと、、

             フト、カノンは思った。

        きっと何かが分かる筈・・・・ホンデが鍵かもと、

           ビョンチョルお兄ちゃんは言っていた。

    カノンも段々と、そう思うようになって来ていたのだった・・・


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  そうこうしている内に、カノンの語学研修の時期がやって来た。

  学校のクラス単位での留学なので、

        空港には沢山の家族の顔ぶれや、

          クラスメイトが集まっていた。

 皆、顔見知りの家族みたいに、「久しぶりですね?」とか、

   「この度は、娘がお世話かけると思いますが・・・」とか、

             言葉を交わしていた。

  カノンの父はかなりの過保護で、娘にベッタリとついて、

     かいがいしく「カノちゃん、忘れ物はないの?」

        「カノちゃん、何か買いたいものは?」

             「喉が乾かない?」

「お金は沢山、持ったの?もう少し、ウオンを

          持っていったらどうだい?

パパが換金して来てあげようか?」と言ってソワソワしていた。

 寧ろ、カノンの方が落ち着いていて、ケタケタと笑っていた。

   母も、ビョンチョルの帰国からようやく立ち直ったが、

   それでも寂しいみたいで、

     「あちらに行ったらビョンチョルに連絡するのよ。

        そして、何かあったら相談しなさいね。

        ビョンチョルのお家にもお土産を

        必ず渡してね?」と言っていた。

カノン;「ママ、寂しいのはチョットだけの辛抱だと思うよ。

       だって、来週にはトワが夏休みで

             日本に戻って来るから・・・

         トワは、何か益々、生意気になってるし、、、

      手がかかるかも?ママはトワに甘いから・・・

      ビシっと怒らないといけないからね?」と言った。

母親も父親も、カノンの姿が見えなくなるまで、見送ってくれた。

ミドリも久美子も「相変わらず、カノンのパパとママは美男美女ね?

 カノンが羨ましいな」と言ったが、カノンも、そうかもしれないし、

    恵まれた家庭である事を常に感謝しようと思った。

  ミドリの家は、母親が見送りに来ていて、ソッケなかったし、

 久美子の家は、年の離れた姉夫婦が見送ってくれたみたいだった。

  丁度、両親は、仕事でタイのバンコクに駐在しているらしく

         ちょっと寂しい門出となったみたいだった。

     両親揃って来てくれているのは、数えるほどだったが、、、

  それでも附属からの生徒たちは、かなり恵まれた家庭環境だった。



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         飛行機が登場開始となり・・・・

          生徒たちは次々と飛行機に乗り込んで行った。

     カノンは、ミドリと久美子と同じ座席で3人で仲良く座った。

   窓側はミドリが座り、久美子はトイレが近いので通路側に座った。

    体が小さなカノンは、二人に挟まれて真ん中の座席になった。

       離陸が始まって、飲み物が配られるほんの少し前、

                先生たちが、座席と名前を

       確認しながら、これから滞在する家庭のアプリケーション

             (調査書)を渡して行った。

      そう、受け入れ家庭は、学校側の全面任せで決まったが、

      サプライズと言う事で、渡韓の当日、飛行機の中で、

           知らされる事を言われた。

 先生に「伊東久美子さん・・・鈴木カノンさん、、

                    そして田中ミドリさん・・・」と、

  名前を呼ばれて右手を上げながら、ハイハイと返事をして言った。

   そしてそれぞれにアプリケーションが入った封筒を渡された。


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