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作品名:恋わずらい 作者:ひな

第4回   夢のカケラ

あのひとの残像に、くらり、と頭が傾いだ。

夢の残り香はまだ、くっきりと思い描けるほど鮮明で。
切ない思いが込み上げて来る。

時計を見れば時間は4時。
このままぼんやりしていればやがて夜は明けるだろう。
うっすらと紫色に染まり始めた窓の向こうに、妙に冴え渡り始めた頭。

きっかけを知っていたら誰でもいいから教えて欲しい。
気がつくと目でその姿を追っていて。いつの間にか探している。

ああ、そうか。

そう思ったときには遅くて。自覚してしまうと上手く立ち回れなくなる。
原因が分かればそれを粉々に砕いてしまえるのに。

「・・・っ、」
自分の中のどうしようもない思いに、強烈な眩暈がする。
ぐっと目を閉じて、再びゆるゆると開けば、そこには少しばかり明るくなった空。

ベッドを抜け出した後。するり、と着ていた物を床に落として。
無垢な朝にふさわしい姿を空に映す。

その身軽さは心地いいけれど。
やはり覆うものが無いと外には出られない。

・・・もし、私があのひとの前に、覆いを払った心を晒したら。

あのひとは何と言うのだろう。

何もかもをさらけだしてしまいたい、甘い薫りに誘われながら。
いつまでその誘惑と眩暈に抵抗できるだろうと思いつつ、
私は服を身につける。

少しだけ腫れた目元と、紅く色付いた頬を手で包み込んで。
夢の記憶を、白く白く。透明に。消して。

ほら、もう大丈夫だから。あのひとに会ってもだいじょうぶ。

パン、と頬を張ると、夢の破片が霧散する。
それは部屋の中にも染み渡っていって。
唐突に訪れるいつもの朝。

きっと、夢のカケラはまだ追ってこない。
今はまだ。きっと。


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