あのひとの残像に、くらり、と頭が傾いだ。
夢の残り香はまだ、くっきりと思い描けるほど鮮明で。 切ない思いが込み上げて来る。
時計を見れば時間は4時。 このままぼんやりしていればやがて夜は明けるだろう。 うっすらと紫色に染まり始めた窓の向こうに、妙に冴え渡り始めた頭。
きっかけを知っていたら誰でもいいから教えて欲しい。 気がつくと目でその姿を追っていて。いつの間にか探している。
ああ、そうか。
そう思ったときには遅くて。自覚してしまうと上手く立ち回れなくなる。 原因が分かればそれを粉々に砕いてしまえるのに。
「・・・っ、」 自分の中のどうしようもない思いに、強烈な眩暈がする。 ぐっと目を閉じて、再びゆるゆると開けば、そこには少しばかり明るくなった空。
ベッドを抜け出した後。するり、と着ていた物を床に落として。 無垢な朝にふさわしい姿を空に映す。
その身軽さは心地いいけれど。 やはり覆うものが無いと外には出られない。
・・・もし、私があのひとの前に、覆いを払った心を晒したら。
あのひとは何と言うのだろう。
何もかもをさらけだしてしまいたい、甘い薫りに誘われながら。 いつまでその誘惑と眩暈に抵抗できるだろうと思いつつ、 私は服を身につける。
少しだけ腫れた目元と、紅く色付いた頬を手で包み込んで。 夢の記憶を、白く白く。透明に。消して。
ほら、もう大丈夫だから。あのひとに会ってもだいじょうぶ。
パン、と頬を張ると、夢の破片が霧散する。 それは部屋の中にも染み渡っていって。 唐突に訪れるいつもの朝。
きっと、夢のカケラはまだ追ってこない。 今はまだ。きっと。
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