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作品名:その手のぬくもりを 作者:御影 玉

第3回   記憶
恵太    そして、それから毎日、薫に会えるかもしれないと思い、
      その公園に足を向ける
      
      そのうちに、毎週水曜日に薫がその公園を通ることを知る
      公園の近くでピアノのレッスンをしていることがわかる
      
      よく薫と二人、歌ったものだ
      薫がピアノを得意気に弾くのを傍で聞いていた
      
      『私、ピアニストになるのよ』
      
      自信ありげに薫はよく言っていた
      
      視力を失ってからも、ピアノを続けていた事を知り、見かけは変っても
      ピアノに情熱を傾ける姿は変ってないんだなと思う
      

      ただ、薫は、派手好きだったから、付き合いも大好きで、よく嫉妬して、
      喧嘩になってその度に薫から別れを言われた

      
      そして、ある日いつものように
      
      『そんなに薫に疲れたんなら、別れたげる。さようなら、
       恵太は何もわかってない』
      
      薫の決まり文句に

      『わかってるよ、薫の事は俺が一番、わかってる、薫が好きだから
       俺だけの薫がいいんだよ』

      いつもの自分の決まり文句が出てこなくて、思わず

      『疲れたよ。わかった。さよならだ』
      
      言ってしまった
      
      すると薫は一瞬こわばった顔をしたが、すぐ涼しげな顔になり
      
      『さようなら。恵太さんも自由だね』
      
      と去っていった
      
      どうしてそんなことをいったのか、自分でもわからなくて、
      何度も後悔して連絡をとろうとしたけれど、
      
      一度だけかけてみたかった
      
      男として薫が、どれだけ自分を見てくれているのか、
      必要としてくれてるのか

      だから自分から連絡はせず、待った

      来る日も来る日も待ったけど、薫からの連絡はなく、
      薫のことを封印する事に決めた
   

     
      そして仕事にあけくれる



      そして現在にいたるわけだ

      仕事を失ったら、また薫、薫か・・・
      笑えるなと自分に嘲笑いながら・・・


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