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作品名:穢姫 作者:芥都Q子

第3回   3



お母様
そんな目で見ないで

お父様
そんな言葉で虐めないで

偽物偽物偽物偽物偽物偽物

私を沈める呪いの言葉を吐かないで


髪を掴んで持ち上げる
殴られた頬。血の味が口を満たしてく

嗚呼どんなに傷ついても嫌いになれない苦しさ
嗚呼どんなに泣いても癒されない現実の悲しさ


私が血を纏って生まれた時のあの嬉しさ歓喜を
私が奪ってしまったせいなのですね


穢姫〜「偽物」と慕う姉様〜


歌が聞こえる。
女の歌声
優しい、心が落ち着く歌声だ。
寧々はまどろむ。

「‥あ」

小さく呟いた瞬間意識が覚醒する。

「っ!!ねねはっ!!」

町に行こうと約束したのに猿太が急に
きっと父様が何か言ったんじゃないかって
悲しくて‥‥

「落ち、た」

けれどここは土の匂いがしない。つんと血のような‥‥鉄の香り。

「ここどこ?」

目の前には壁。触るとひんやりしている。
ダメだ、出られない
暗いこの場所は手探りでどこを触ってもひんやりとしていて、たぶん出口がない。

「誰か!誰か!」

さっき歌っていた女の人を呼ぼう。
しかしまどろみの中で聞いた歌声はぱったり消えている。‥‥誰もいないの?

「誰か‥‥誰か‥‥誰か」

恐い。ただ恐い。自分の存在が暗闇に浸食されて消えて行く。
声を出していないとそれは一気に進みそうで寧々は言葉を止められない。
誰かを呼んでいた口は次第に誰かを特定しだす。

「さる‥‥猿太‥‥えぐ‥‥猿太ぁ」

二人だけの隠れんぼ。いつもすぐに見つけられてしまう

もういいかい
ま〜だだよ
もういいかい
もういいよ

猿太‥‥ねぇいつもみたいにねねを見つけてよ‥‥


「ん?」

猿太は振り向く。
そこには賑わった町と人
赤い提灯がどこかしこに提げられ、深まりつつある闇を明るくする。
この町はいつ眠っているんだろう

「気のせい、か。良かった寧々がついてきちまったのかと思った。」

  ばかぁあああああああああ!!

泣き叫ぶ寧々の顔が浮かぶ。
約束をやぶって泣かせた寧々 俺の寧々
しょうがないんだよ、だって俺にとって楽しい町でもおまえにとって恐ろしい町なんだ

根付いた信仰。穢れという概念。そしてそれを食べ、浄化する穢姫。

人は産まれた時から穢れを身に積んでいく。
食べては積み、食べてはつみ、食べてはツミ‥‥‥
髪の毛の黒は穢れを具現しているらしい。だから人は皆黒い髪を持つ。
寧々は‥‥寧々はその黒い髪を持つ人の間から産まれた白い髪の子供
白い髪は穢姫の証。穢れを積むことはなく浄化できる白の証。

町や人やこの世界は 穢姫 を求めている

信仰に詳しくない猿太は昨夜寧々の父に聞かされて「穢姫」を知った。
猿太の中の思い描くキラキラ光る町の影が濃くなる。
町を支配するように建てられた塔がどろどろとした思想で揺れている。
じゃああの笑っている人々は一人の人間を神として殺しているの?
何故平気なの?何故笑えるの?
今の穢姫はニセモノであるとも聞いた。
ニセモノであっても穢姫なくては保てない砂上の城。ああ犠牲者を求めている‥‥


「なあなあ知ってるか」
「ああ穢姫のことだろう?」

酒を飲んだ陽気な町民が喋っている。
猿太は何気なく耳をそばだてる。穢姫の話題?何だ俺の考えが分かるみたいな話題だな
その穢姫がどうしたんだ?冷ややかに笑う。

「なんでも今日『本物』の穢姫が見つかったらしいな」


ーーーーーーーー。


「‥‥何だい兄ちゃん。兄ちゃんは知らなかったのか?」
嘘だ、そんなはずない。
「おいおい驚き過ぎだぜ兄ちゃんんん〜いやでも目出てえなこりゃあ祭りか?」
寧々は山から出れるはずない。何かの間違いだ。何かの‥
「祭りは明後日か明々後日だとよ。楽しみだなへへへ」
‥‥‥。

穢姫の運命。それは不自由と血の味。
屈折なく笑う寧々にそんなものは似合うはずない。似合うのは空と花の匂い。

猿太はひときわ高くそびえ立つ黒い塔を見上げようとする。
だが天は暗く、塔は闇に溶け込んで見えない。
塔から滲みだしたあのヘドロのように黒く濁った果てしない自己保身の望みに、
空を黒く染めてしまったのだろうか‥‥今宵の星は見えそうにない。


◆◇◆◇◆◇


あれから何時間たっただろう。
もう恐くもない。
何も感じない。
心が死んで行く消えて行く。


ポチャン

あ‥‥この歌は‥‥

あの優しい歌声が聞こえる。
聞いたことがない言葉の羅列が流れに乗って耳に心地いい。
貴女は誰なの?貴女も閉じ込められているの?

「ねね貴女に会いたいよ」

 そう、じゃあ会いましょう

「え?」

声がどこかで響く。

ぎいぃぃぃぃぃいいいいい

闇が去る。ー‥‥眩しい。
目の前の壁だと思っていた場所から光が入ってくる、扉だったようだ。
中からは壁で外からは扉。まさに閉じ込める箱の役割の部屋。

 こっちよ こっち

言葉が寧々を導く。
同じ扉が連なる通路。上から下まで赤く、赤の上に均等に黒い帯が並んでいる異様な空間。
だけれど寧々には見えてない見えているのは奥の部屋の扉だけ。
赤と黒の空間の中の唯一の白、白い扉。少し開いている。

あそこだ
あそこに「誰か」がいる

近づく扉。手を伸ばす。ずっしり、重い。

ぎいぃぃぃぃぃいいいいい

扉が開く。蛍‥‥いや違う所々に蝋燭が置かれ部屋を明るくしている。
見るに狭い通路から想像がつかない程広い部屋。

「どうしたの?そこで固まってて。私に会いたかったんでしょ?」
「あっ‥‥貴女が歌ってた人?」

白髪の‥‥いや黄ばんでいて薄ら白みがかった灰色の髪。床までつくほど長くぼさついている。
けれど顔は凛とし意志の強さが見える、とても美しい女だ。

「歌?ふふふ歌ってたかもしれないわね。ほらこちらに。」

寧々は部屋に入り、女に近づく。
女は井戸の形をした岩に座っており、その岩からは水が噴き出している。
他にも蝋燭を避けるように水が流れていてその周りにはコケのような小さな植物が育つ。
しかし壁や床や井戸岩までも赤黒く、透明なはずの水が全て薄黒くみえる。
その薄黒い水水を小さな炎達がぽつぽつと照らしている、異様だ。しかし綺麗ともとれてしまう。

「可愛いわね、あなた。名は?」
「ねね‥‥寧々だよ。あなたは?」
「ふふふ何とでも呼んでちょうだいよ」
「じゃあ‥‥姉様。姉様は何でここにいるの?ここってどこなの?」
「ここ?何処でしょうね?ふふずっといるけどわからないわ」

からかわれている。と思えなかった。姉様、とても優しい表情。
本当に知らないのかな?姉様もねねと同じで気づいたらここにいたのかな?

「でもね一つだけいえるわ。あなたここを出られない。」
「え?え?」
「‥‥出られないわ」

女を笑う。何の意味も持たない笑顔。
何故か涙が出てきた。
中から湧き出る悲しさでなく外から波のように押し寄せるような悲しさ。
寧々は泣く。

「泣かないで寧々。」

灰色髪の女は寧々を抱きしめる。

「大丈夫よ。まだ大丈夫だから」

何が大丈夫なのか分からない。が寧々はとても安心した。
ー‥‥女の人に抱かれるってこんな感じなんだ、暖かいし、気持ちいい。
姉様って本当に優しい。

「ねね。」
「なあに?」
「ねねお腹空いた。」
「そう‥‥」
「姉様はどうしているの?」

女は静かに寧々を離す。
袖に手を入れ何かを探しはじめた。

「飴玉、一つあるわ」
「え?だって姉様は‥‥?」
「私が食べてるもの、あなたは食べれないから」
「え?」
「これでしのいでちょうだい」

姉様が食べるものはねねには食べられない?
飴の包みを開け口に入れる。

「‥‥。」
「姉様?どうしたの?」

女の優しい表情はこわばり、徐々に無表情になる。
空を掴むように指を小刻みに動かし落ち着きがない。
明らかにおかしい。

「あねさ‥‥」
「いぎゃあああああああああああ!!!!!」

噴水。まさに噴水のそれだ。
女は絶叫しながら自ら髪をひっぱり頭を振り回す。

「あああああ!!!私は偽物なんかじゃない!!偽物なんかじゃ!!偽物なんかじゃ!!」

寧々は恐くなった。恐怖の涙が滲みだす。
狂ってる。今の姉様はそう表現するに相応しい。
凶暴で、周りなんて見えていない。一人の世界で一人の自分に暴力を振るう。

「いたぞ!!」

黒い服の男達が走ってきた。
寧々は一人の男に捕まれて、女は四人あまりの男達に取り押さえられた。
寧々は自分の立場などなりふり構わずで女を見つめる。

「あ‥‥姉様っ!!」

男達に抑えられ身動きがとれなくなった女はまだ自己擁護の言葉と懺悔の言葉を繰り返している。

どうして 姉様 がおかしくなったの?
どうして 偽物 なんて悲しいこというの?


「ー‥私はあなたに全部話したいと思う。」

寧々を連れて行く男が口を開いた。
おかしくなった女のことばかり考えていた寧々は遅れて反応する。

「全部?」
「あなたは今までの間普通の子供として過ごしてきたのでしょう」
「それなのにあなたはこれから急に神として生きなければならない。酷すぎる。」
「神‥‥ねねが神‥?」

男は足を止め抱きかかえる寧々を覗き込む。
男、というより幼さが残る青年は顔をきょとんとして寧々を真っ直ぐに見つめる。

「『ねね』というんですね。ああ、ああ、何故あいつらは分かってくれないんだ」
「姉様。姉様はどうしてああなっちゃったの?」
「姉様?ああ姫様か。」

姫様。
あの方はいわゆるニセモノだから、ああなるんです。
穢姫のニセモノ。

「‥‥ケガレ‥‥ひめ?」

男は語る。
穢れは誰しも持ってるもの、生きることは穢れを重ねるということだから。
けれど人には決まった寿命があるように穢れの器にも限度がある。
一般に生きれば超えることない器、生き物の「死」に直面しないかぎり
溢れてしまった穢れは不幸を呼び寄せ、自分はあまつさえ、その不幸は誰かに伝染する
それは親族にだったり、子供だったり、来世の自分だったり‥‥

「その穢れを祓うことができるのが穢姫だ。」

穢れの器を超えてしまった者を殺し、その死肉を喰らうことで穢れも喰らい祓う。
それは穢姫しかなせない所行。

「でも姫様はニセモノでも穢姫に変わりないんだ。」

浄化ができない穢姫。矛盾がつきまとう姫。
喰らった穢れは彼女の精神を狂わせていく。精神が崩れる音。

「穢姫だから姉様は狂っていってるの?」
「ああでも時々意識を戻すんだ。信じられないよ」

穢姫。白い髪の生神。

「ねねがその穢姫なの?」

青年は目を伏せる。
強く寧々を抱きしめる。姉様の優しさとは違う優しい抱擁。

「まだ‥‥とだけ言っておく。まだ彼女が穢姫だ。でも‥」
まだ、か。
「じゃあまだねねは寧々なんだ。もうすぐ寧々にお別れなんだね」
「ああ、そうだな」

「‥‥悲しくないのか?」

父様は今まで「寧々」を守ってきたんだ。
窮屈に閉じ込めていたのも愛故
猿太も‥‥このことを聞いたのかもしれない
今更気づいた。
もう一度会いたい、会って‥‥‥二人にお別れを言いたい。

「悲しくないよ。だって愛されていたんだもん」

頬に一筋の涙が流れる。
女の叫び声がまだ響いていた。


◆◇◆◇◆◇


寧々はまた暗い部屋。
この前の青年が等間隔にドアを開けに来てくれるが終始無言で無表情。
食事は魚と米、青年は食べている寧々の頭を撫でる。
何日経っただろう‥‥寧々は青年に頼み何度かあの女に会った。

激しく狂って手に終えないようなことはなく、ふと体を固くし沸き上がる衝動を我慢している時があるぐらい。
女は最初に出会ったように優しく心和ませる雰囲気で笑って接してくれる。

「姉様って安心するの」
「安心?私が良いってことかしら?」
「そうだよ。寒くても恐くても体がここからぽかぽかして本当に安心するの」
「ふふふそれは嬉しい。あなたの笑顔も良いわよ」

優しい姉様、綺麗な姉様‥‥
ただどうしてだろう寧々の名前を呼ばない。
あの時爆発した時に一緒に忘れてしまったのだろうか
少し悲しい

「あの‥‥」
「ん?」

「‥‥なんでもないよ」

また寧々って呼んで欲しい。
でも言えない。
また忘れられるのが恐い。

「私ね。この頃夢を見るの。」
「夢?姉様の夢?」
「そう懐かしい夢。」

鬼のような顔をした男と女が私を殴るの。
髪を掴んで「偽物」なんて言ってくる。

「悲しい夢だね」
「ううん、でも私は笑ってるの。偽物だったことに感謝するの」
「‥‥難しいよ。ねね、よく分からない。」
「ふふ私もよく分からないの。でも私の過去だと思うの。」
「姉様の過去って?」
「‥‥過去ね‥‥何も思い出せない。ただここにいて朦朧としている。」
「そう過去の思い出しかたを忘れてしまったの。私にも過去あったということはわかるの。でもー」

女の言葉を遮るよう寧々は叫んだ。

「え?」
「いいの!!もういい!!」

姉様のそんな顔見たくない。

「歌!!歌を歌って!!」
「歌?」

あの優しい歌をねねに歌って
この切なさが空に空に飛び去って行くように



ピチャン

「歌‥‥。姫様の‥‥」

男は呟く。そして男は幼さの残った顔を歪める。
その男の隣に座った腕に傷がある男は流れてくる歌を一つ一つ確認するように聴く。

「狂った姫が歌うというのは事実だったみたいだな‥‥この場所まで聞こえるとは」
「至(いたる)氏、仲間は集めました。計画は明日決行でいいんですよね?」
「ああ明日は祭りで警備が散らばる、ここが狙い目だ。」

男は至と呼ばれた男を見つめる。
その顔は複雑な感情を含み、怒りとも悲しみとも無心ともとれた。

「寧々は至氏の娘さんですからね、辛いで‥‥」
「つらいってもんじゃねえ!!」

ドンッ
至は己の太ももを叩く。人の肉を叩いた音はこんなに鈍い音だっただろうか
男は身震いをする。

「イノに‥‥死んだイノに顔向けできねえ‥‥」
「イノ?」
「妻だ、寧々を守って死んだんだ。」

イノ‥‥綺麗な女、乱暴者だった俺に勿体ないほどの女

「絶対に寧々を穢姫になんてさせねえ。そうだろ?猿太?」

誰もそれ以上語らなかった。
言葉はもう必要ない、ただ必要なのは思いの強さ。

夜が更ける。
空は赤く、やはり星は見えない。
あの欲望の塔は崩れるのだろうか。札が並べられ塔が逆さまになり人は落ちる。
はらはらとはらはらと



◆◇◆◇◆◇



あの男が来ない
寧々は空腹に耐える。
姉様に‥姉様に会いたい

寧々は歌う。あの女が歌っていたものだ。

父様
父様にはまず謝らなくちゃ
わがままばっかりで言うこと聞かなかったし

猿太
猿太にも謝らなくちゃ
お嫁さんになるって約束守れないし
猿太のお嫁になる人なんてねねしかいないのに

この歌は不思議だ。
暗く冷たいこの部屋さえも寧々に優しい空間になる。


ぎいぃぃぃぃぃいいいいい

突如扉が開く。

「あっ!!あの‥‥姉様の」

寧々は男の顔を見る。がいつもの男と違う。
ごつごつとしていて熊のような男だ。
一瞬で分かる、この人は寧々の味方になどなってくれない。

「‥‥‥あ」

寧々はたじるぐ。
男は逃げようとする寧々の腕を掴みあげ、口角を不気味にあげた。

「喜べ。今から貴様は穢姫になるんだ。」
「あっ‥ひっ」

寧々は震えている。

「裏切り者がいるらしい、お前を穢姫にするのを阻止しようとする輩だ。」
「だが今すぐお前を穢姫にしてしまえば、あいつらは何もできない」

男は奇声をあげながら寧々を引きずりだし、黒と赤の廊下を歩かせる。
赤、黒、赤、黒‥‥白い扉に近づく。
いや‥‥いや姉様逃げて‥‥姉様にこの男に会わせてはだめ‥‥
寧々は床に爪をたてささやかな抵抗を行うが男の力は強い。

男が扉に手をかける。

「あねさまぁっ!!」

姉様姉様!!逃げて!!この男はおかしいの!!姉様をどうにかするつもりだよ!!
伝えたい言葉が一気に頭を流れ、何も伝えられない。
女はゆっくりとこちらに顔をむける。

「あねっ‥」

あはははははははははははは、はははあはははははははっ!!

緊迫した空気。その空気をものともせず女は声高に笑い出す。
男に連れられ強張る少女、その状態がおかしいのか指をさして笑っている。

「‥‥何がおかしいんだ?やっぱり狂ってるな、ニセモノは。」

女はぼさぼさの髪を更に手で乱し、妖艶に演出する。

「うふふふニセモノ、ニセモノ。何度でも言うが良い!!この愚か者がっ!!」

男はひるむ、凄い気迫だ。
女はどこか勝ち誇っている。着物の襟に手を当て、するすると肌をあらわにする。

「‥‥はっ、色仕掛けか?」
「ふふふ私やっと気づいたのよ。穢姫を殺す方法。」

寧々は気づいた。あの大量の蝋燭が‥‥一カ所に集まってることを。
蝋燭の火は炎となりごうごうと猛火をあげている。

「穢姫になるには私が死ぬ前に次の者が私の肉を食べなければならない。そうして継承される‥‥」
「おい‥‥止めろ‥‥」
「私の肉が燃えていけば‥‥どうなるかしら?」
「うわああああ!!!やめろぉおおおおおおお!!!」

男が走り出す。が寧々はその足をとる。
男は寧々を振り払うという頭が回らずただただ叫びながら寧々を肘で殴る。

「おいっやめ‥‥何故離さない!!離せっ!!離せぇえ!!」
「分からない!!分からないの!!でもっ‥‥!!」

涙が止めどなく流れていく。
姉様にまた抱きしめて欲しい、姉様にまた歌を歌って欲しい、姉様に‥‥
寧々も止めたかった。が姉様が笑ってるんだもん、楽しそうに笑ってる。
どうしたらいいか分からないよ。寧々は知らないことだらけだもん。

女は火に飛び込む。
着物に火が燃え移り、髪に肌に‥‥笑ってる、優しく笑ってるよ

「このっ‥‥はな‥」

男の肘が止まる‥‥気絶だ。寧々は額からでた血を触り、ゆっくり後ろの気配を確かめる。
もしかしてもしかすると‥‥そうなの?

「猿太‥‥?」
「寧々‥‥おまえ‥‥ばっか‥」


猿太は寧々にゆっくり近づく、そして抱きしめた。
安心なんかじゃない嬉しい。ただただ嬉しい。
抱きしめ返す。

「猿太ぁ‥‥姉様が‥‥姉様が‥‥」
「行こう。もう寧々には関係ない世界だよ。」

本当に寧々には関係ないの?
焦げ臭い。でもまだ姉様はまだそこにいる気がして叫ぶ。
後ろにいる優しい優しい姉様‥‥

「ねねはっ!!寧々っていいますっ!!」
「おい、やめ‥‥」
「ねねはっ!!姉様が大好きです!!寧々って‥最後に呼んで欲しかった!!」

けたたましい音がなって水が井戸岩から噴き出す。
その噴水は雨となり降り注ぐ。‥‥火が消える音がした。
寧々は体をひねらせ、女を見る。女と思われる物体がうごうごと微かに動いている。


「‥‥ね、ね?」

擦れた声で寧々の名を呼ぶ。

「ねね‥は‥愛しい‥‥私の娘‥‥」


風が吹き込む。
ねねは、寧々は姉様の‥‥?

「寧々!!だめだ早く!!もう逃げないと!!」

寧々は猿太に連れられ走った。
どんどん遠ざかって行く‥‥母親。目が離せない。
赤と黒の廊下が白くなり、黒くなった女がただ視界の中でいつまでも浮かんでいる。

「‥母様」

色んな愛に包まれていた。
皆皆寧々を守ろうとしていた。
母様。母様。


‥‥ありがとう


深い深い愛に感謝の言葉を




◆◇◆◇◆◇




昔昔のニセモノと呼ばれ続けた姫の過去。
それは罵声と痛みの数々

信仰深い両親の元に産まれた「イノ」
産気づき産まれた子は黒い髪でなかった。
男は女を褒め、女は慈愛をこめて血に塗れた赤子を拭く。
がその赤子は黒でもなく、待ち望んだ白でもなく‥‥灰色。

ああこの子は穢姫でなかった、穢姫になりぞこないの「偽物」だ

彼女が黒い髪で産まれてきたらこうはならなかった。白だったらもってのほか
彼らに一瞬歓喜を与えた後瞬時に奪う‥‥最も憎まれる行為。

偽物と罵られる日々、苦しい日々が彼女の幼少時代である。


やがて両親に愛されなかったイノは美しく育ち一人の男に愛され子供を産む。
白い髪の子供を‥‥

運命は時として皮肉で人を翻弄する。
白い髪の赤子を取り上げ複雑な気持ちを抱くイノ。だが確かに胸に暖かいものをあった‥‥


「イノっ!!ダメだ!!こっちにも追っ手が来ている!!無理だ!!」
「でもこの子は‥‥この子は‥‥」

腕の中の赤子に目をやる。
口をぱくぱくと動かし、イノの灰色の髪を手を伸ばし掴む。
その姿がなんとも愛らしい

この子は私みたいな痛みなんていらない
この子にいるのは窒息するほどの愛、幸せで涙が溢れる経験
あなたは誰よりも幸せにならければいけないの
心からそう思う。
愛しい愛しい私の娘‥‥寧々。

「イノ!?何処に行くんだ!?」
「私穢姫になるわ。」
「な!?」

寧々を至に渡す。

「あいつらはいつまでも探し続けるはずよ。だから‥‥」
「ダメだ!!」

「‥‥ダメに決まってる。逃げ続ければいいだけのことだろ」

いいえ。上手くいかない
だから私が本物を見つけるまでの偽物になれば捜索の手は緩むわ
白でないけれど私は穢姫になれるはずなの

イノは笑う。
しかし男は泣く。嫌だ嫌だと心の中で現実を否定する、無意味な行為。
寧々はそれを見てイノの灰色の髪を離し、声を小さくあげた。
それはイノに質問しているようだった。ねぇなんで笑ってるのと

「ふふふ偽物で良かった。心からそう思えるわ」

イノは寧々を最後に抱きしめる。

愛しい愛しい、寧々
あなたを守れるなら‥‥


昔昔のニセモノと呼ばれ続けた姫の過去。
それは罵声と痛みの数々
そして微かな幸せ



 寧々‥‥寧々‥‥寧々‥‥寧々‥‥

誰?ねねを呼ぶのは誰?

「寧々?大丈夫か?」
「猿太‥‥?あ、ねね寝てたんだ‥‥」

寧々は猿太におぶられ、森に向かっている。
背中が暖かい‥‥落ち着く‥‥猿太の匂いがする‥‥
さっきねねを呼んでいたのは猿太なのね。

「ねね、夢を見ていた気分だよ。何もかも嘘みたい」
「ああ正直俺もよくわからないよ」
「うん」
「でもよかった。こうして寧々がいる。それは嘘じゃない」
「うん」

どこからかまた声が聞こえてくる。

 寧々‥‥寧々‥‥寧々‥‥寧々‥‥

「‥誰?誰なの?」

あの声は猿太じゃなかったの?
猿太も不思議がって寧々を見つめる。
頭に響く声、女とも男ともとれないもやっとした声。
あれ?この声ってどこかで聞いた。どこだっけ?思い出せない。

 あなたは逃げられないわ

「え‥‥」

 会ったとき言ったよね「あなたは出れないって」

寧々はあの日の記憶の中でぐるぐる回りだす。
赤と黒と白、水と髪と女‥‥歌あの優しい歌は、止まっていた。
ぐるぐる回りながら確実に真実に近づいて行く。
気持ち悪い‥‥吐き気がする。
これ以上思い出すのが恐い、もう目の前にあるその事実。

 あなたがあの時喋っていたのは誰だったのかしら?本当に姉様?

止めて、これ以上言わないで。
耳を塞ぐ。だがその言葉は頭の中で響き、逃げられない。

 ねえ寧々。あの飴玉‥‥

   どンな味だッた?


「ぃやああああああああああああああああああ!!!」


ドロリ 景色が歪む。口の中で弾ける、「あの時」の味が。


寧々は知ってしまった。
あの時食べた飴は赤かった。味も‥‥鉄のような味だった。
いや鉄じゃない血‥‥血肉‥‥穢姫の血肉‥‥


穢姫になるには私が死ぬ前に次の者が私の肉を食べなければならない。そうして継承される‥‥

 ねえ寧々。あの飴玉、どんな味だった?

姉様は寧々に出会った瞬間「穢姫」に負けていたんだ。
「穢姫」の意志に負けていたんだ。

そしてあたしも負けた。あたしはもう‥‥

「寧々!!どうしたんだ!!額が痛いのか!?」
「おい寧々なんで黙ってるんだ!?‥そうゆうのが一番くるんだよ、もう」

猿太は寧々を地に降ろし、顔を覗き込む。
明らかに寧々がおかしい。


「‥‥寧々?」
「‥じゃない‥じゃない。もう‥寧々じゃないの私。」
「え?」

ドンッ

「いっ‥‥」

猿太は頭を押さえて倒れ込む。血が出ている。

「ね‥ね‥?」

寧々は月を背に泣いていた。血のついたいしを持ち泣いていた。

「猿太、幸せになってよ」
「ねっ‥‥」

あたし、猿太のお嫁さんにはもうなれないの‥‥

猿太は手を伸ばす‥‥
が寧々は去って行く、黒い塔にむかって。
穢姫の意志が彼女を支配する。

塔へ向かうのよ塔へ‥‥あなたはもう穢姫なの

皆があなたを求めている


穢れを喰らい浄化する穢姫



●あとがき●
‥‥フィクションです(笑)
またまた長過ぎて分けたくなったけれど後編だし、、、頑張ったよ
長過ぎて後半手抜き感が凄いですが楽しんで頂けたでしょうか?

〜ここからネタバレ、本編見てからよ〜

最初からアンハッピー、寧々の不幸の結末にしようと思ってたのですが
すっごい葛藤。
だって、、、だって、、、、猿太と寧々に幸せになってほしいもん!!(泣)
イチャイチャしてほしいもん!!(泣)というか至父ちゃんがなんか好きだよ!!(泣)
うわああああああああん!!(泣)


今回は頑張って伏線はってみたよ。
皆気づいたかな?
伏線ってバレないように貼るのって難しいのね、、、、すっげえモゾモゾした。
あと細かいところに遊び心を入れたつもり。こっちは気づいて欲しいかも

<一応説明したいこと>
前編
●至の腕の傷→描写描くと微妙だったからここで。逃げてるときにやられた。
                       至がかつて自分の妻だったものの歌声を聴いた時何を思ったでしょうね
                       「狂った姫が歌うというのは少略‥‥この場所まで聞こえるとは」
                       とか言っちゃって!!本当は「イノ‥‥イノォおお(´;ω;`)ぶわ」て
                       うわあああ切ない!!切ないよ父ちゃん!!やっぱり至が大好きだ(?)           
●赤い実(嘘)→ある意味伏線、飴玉のこと。ついた嘘が現実になってしまった的な?
●鼻ごっつんこ約束→あ!!やべっこれ後半で使うこと忘れてた!!

後編
●偽物→わざと偽者にしませんでした。子供を物のように扱ってるということで
●ニセモノ→こっちはバケモノっぽい感じで
●札が並べられ塔が逆さまになり人は落ちる→タロットの正位置と逆位置のことをなんとなく
●イノ→偽物の「偽」にカタカナの「イ」と「ノ」が含まれているから。最初カナだったんだけどね
●穢れをツミ→積みと罪とかけた
●飴玉→うえ、マズぃぐらいにしか思わなかったんでしょうね。ああこれが無ければ‥
●血のついたいし→石と意志。ほんとは漢字まちがったからそうした(笑)

●穢れ→プロローグのあとがきで書いたように一般の「穢れ」と作品の「穢れ」意味が違います
            穢れってそんなんじゃないし(#゚Д゚)という怒りの言葉は‥困りますので
●黒髪→そうゆう世界観なんでふっ!!もう泣いちゃうよ〜



今回は「知りすぎてはいけない」を副テーマにしました。
自分の存在、周りの愛、知りたくて知りたくてたまらない寧々。
だけど知りすぎてしまったことで穢姫となり寧々自身死んでしまったみたいな

知らなくていいことってマジでいっぱいあるよね☆

よ〜しこれから猿太と寧々。イノと至を脳内補完で幸せにしようかな(泣)
本当に不幸にしたくなかった。でも不幸にしないと話が今後につながんないんすよ‥

あ、これ続きものです。
3話はもう少し最後までモチベーション保てるよう頑張ります。
3話からもニュー主人公で行きますよぉお


※長くてチェック辛かった。言葉の間違いがあったら報告してください。
(感想とかもらえたら嬉しいな^^)
こうやってみると苦手だった小説も様になってきた気がする。
過去作は恐くて見れませんよ、本当に

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ここまでブログに載せたままに掲載しました。
前編が短く後編が長いということで見づらかったと思います。
すいませんね><;


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