あね様 あね様
あね様は綺麗な人 だけどとっても寂しそうに笑うの
何が 寂しいのかな?
ねね知りたい
穢姫〜「偽物」と慕う姉様〜
あたしの名前は寧々。 母はいなく、父と一緒に山の奥で暮らしている女の子。 山を下ってはいけない‥‥父の言い付けだ だけど山には寧々と同じ子供がいないし、父も町で夜まで出稼ぎ 遊んでくれるのは猟師の息子の猿太だけ
猿太は寧々の知らないことなんでも知ってる。 町には巨大な黒い塔があって、それを中心にして栄えている
七色の硝子屋さん。遊び放題の赤い屋根の家。美味しい匂いだけの菓子屋敷。
でもね見て知りたい、触って知りたい、感じて知りたい もう聞き伝えで空想を育てるのは飽きたよ。
変わらない穏やかな日々は 変化の渦で揉まれ続けた大人が求めるもの
幼い少女にとっては刺激のない退屈で ただただ灰色な日々
「猿太ぁ〜猿太ぁ〜」 「なんだよ寧々」 「ねね、何で町に行っちゃいけないの?町は楽しいところなんでしょ?」 「ん〜まぁそうだな楽しいよ」 「じゃあ連れてってよ猿太!」 「それは‥‥できないよ。おめえの父ちゃん恐いんだもんよ」
寧々は頬を膨らませてそっぽを向く。 小さな肩が静かに震えている。
「おいおい寧々泣くなよ」 「おい寧々‥‥」
父様も猿太もダメダメ尽くし だめだめだめだめだめだめ
「きっと猿太も父様も寧々のこと嫌いなんだ」 「はぁ!?」 「嫌いだからねねの願い聞いてくれないんだ」 「あのさぁ〜何でそうなるんだよ」 「ひっく‥‥う、うええええええええぇぇ」 「あ〜」 「ねね一人ぼっちだぁあああ、うああああん」 「あぁ〜!もうっ」
猿太は頭を一掻きして、ため息をついた。 泣き始めた寧々は誰にも止められないことを誰よりも知っていた。
「わかったよ」 「ぐすっ」 「わかった、一日だけだ。」 「一日?」 「明日町に降りて買い出しに行くんだ。明日は一人でいく予定だったから 寧々の父ちゃんにはバレねぇはずだ」 「うん、うん‥‥」 「何だ寧々?つまんねえな。こうゆうときはどうするんだっけ?」
寧々は一瞬きょとんとする。 がしわしわだった顔を伸ばして、ぱっと笑った。
「こうする!!えへへ」 「そうだ寧々、明日は朝早くに出発だぞ!」 「うん!!寧々お気に入りの髪飾りつけてく!!」 「ああ朝寝坊したら承知しねえぞ」 「うん!!」
寧々と猿太は笑いながら鼻と鼻をごっつんこして、離れて行った。 約束をした時、必ずやる二人のルール。 猿太の顔は土でいつも汚れているからこれをやると寧々の鼻の頭は黒くなる。 緑の道を歩く背中に手を振り続けた。
「寧々?」
びくっ
「父様!!?」
寧々の父、至(いたる)が背後に立っていた。 寧々は慌てて取り繕うとするが逆に不自然になっていく。
「えへ、えへへへ」 「‥‥?猿太君はもう帰ったのか?」 「うん!!さっき帰ったばかりだよ!!」
至は寧々に手を伸ばす。
「わわっ触っちゃダメだよ!」 「猿太君と何か約束したのか?」 「うん!あ‥‥あの‥‥その‥‥」
寧々は嘘をつくのが下手である。 理由は簡単。今までつく必要がなかった環境だからだ。 一生分の悪知恵がぐるぐる回る。
「実が‥‥」
「泉の近くに大きくて赤い実がなったから‥‥確かめようって」 「ほぉ」
至は顎に手を当て、短く生えた髭を撫でる。
「赤い実か、そんなものあったかな?‥‥まあいい」
「まあいい‥‥が、町にだけは行くなよ。」 「え」
鋭い鷹のような目が寧々を貫く。 もしかして全てお見通しなのではないか?そう思ってしまう目である。
「‥‥先に家に帰るぞ」
至は寧々の横を通り過ぎた。 ぶわっと吹き付ける風が寧々の背中にしたった冷や汗を更に冷やす。
父の背中は大きい。 その大きな背中は大きさ分の悲しみを背負っているよう。 ‥‥腕の傷は熊にひっかかれたのかな? ねねが見つめると隠すそれ 父様の触れては行けない傷跡、ねね知りたい
「父様‥‥」
寧々は近くの水たまりでその黒い鼻の頭を眺める。
「やっと町に行けるんだよ、ねね」 「だから笑わなきゃ、楽しみなんだもん」 「父様は恐いところなんていうけどね心配ないんだよ」 「楽しすぎて家に帰ってこなくなるんじゃないかって」
「大丈夫だよ父様」 「大丈夫」
寧々の帰る場所は ここだから
〜朝〜 「え?」 「だからあれは無しだ。」 「どうして、約束したよっ!?」
町ニ 行 ケ ナ イ ?
「なんでよぉ!!」
いきなりだった。 約束通り現れた猿太は厳しい顔で、 寧々の思いを裏切った。 昨日の猿太と今日の猿太は何かが違う。
なんで?父様‥?父様が何か言ったの?
「町は楽しいところじゃあない」 「今まで話してきた町なんてないんだよ」 「おまえにとっては恐ろしい町でしかない」 「だから‥‥」
寧々‥‥だから‥‥
「ばか」
ここで初めて目が合う。 涙を浮かべた眼とおののく瞳。
「ばかぁあああああああああ!!」 「おい、ねね、寧々!!」
走り出した寧々。 楽しみにしてたのに楽しみにしてたのに ぬかるんだ土を蹴り上げ、枝を踏みしめ走って行く。 何で昨日はよくて今日はダメなの? 心が沈んで行くと同時に木々が生い茂り暗くなる。
分かっていたの ここは迷いの森 道を知らないものをとりこんでしまう魔の森
道を知らないあたしはいつでも森の中
父様は 私を 閉じ込めたいんだ
「いっ」 「痛い‥‥あ‥‥なにここ」
暗い暗い。 そして寒い。 枝枝が鋭い爪のように寧々を狙っている。
「嘘?ねね迷ったの?」
「ひぃっ」 「やだやだっ!!」
「やだぁあああああああ」
寧々はねねの置かれた状態がわからなかった。 寝ているのか、立っているのか、走っているのか、、、落ちているのか ただただ景色が定まらず、閉じていく眼。
知りたい、知りたい、知りたい
ねねは寧々のこと、知りたいの
「あら?あんた」 「なんだ、なんだ」 「こんなところに子供がいるよ」 「本当だ、本当だ」 「あらあら泥だらけよう。嫌ねえ」 「本当だな、本当だな」 「あら?」 「ん?」
「「白銀の‥‥髪?」」
泥の中で眠る少女の髪は僅かな光を受け、輝いて主張する。
我は、 穢姫 であると
|
|