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作品名:穢姫 作者:芥都Q子

第1回   プロローグ〜グロ注意〜

この瞬間が一番嫌いだ。
「あれ」を口に入れた瞬間が。

なんともいえぬ匂いがする。

・・・嫌いだ。


少女は空を見上げ思った。
少女がいる部屋の中、唯一外の世界は「空」。


「鳥になりたいなど言わん・・・だがな、」
「だが一度でもいい。外に出たい。外とはどんなものなのだ?」
「外は・・・・濁ってないのだろうか。」

少女の自問自答はただただ虚しいだけ。
少女は部屋の中心にある噴水に近づき、自分の顔を水に映す。

「・・・不細工。」

忌々しく現実しか映さない無能な水鏡など割ってしまいたい。
少女は水を激しく揺らす。
波打った水面はそれを嘲笑うかのように再び少女の顔を映す。


急に叫び声の様な大袈裟な音が鳴る。
部屋の鍵が開いて誰か入ってきたようだ。



「姫様、新しい召し物を持ってきましたわ。」


「・・・鳰(にお)?」
「はい。におで御座いますよ、姫様。ささっ着替えてくださいませ。」

鳰と呼ばれた女は少女の赤い着物を慣れた手つきで脱がし、白い着物を羽織らせた。

「鳰?鳰は私のことどう思う。」
「どう思う・・・ですか?姫様は美しくて優しくて、にお大好きですわ。」

「美しい・・・?」
「はい、とっても。」

女は少し照れながら笑っている。

「鳰。私はお前が羨ましい。」

少女はそっぽを向いて歩き出し、遠くから女・鳰を見つめた。

「あれ?姫様?あの・・・どこに・・・」

鳰は赤い着物を強く握り、きょろつき始めた。
その内鳰は姫を諦めたようで、部屋の外に出て行った。

鍵の閉まる音が大袈裟に鳴る。

「鳰。お前が羨ましいよ。お前は空想の中で生きられるのだからな。」

少女はまた空を見上げた。



     ズルッ


「ん?」

鍵を閉めた鳰は自分の持っている着物のほうに目を向けた。

「今日の人、穢れ・・・重いなぁ。さぞかし黒くて真っ赤なんだろうなぁ。」
「でもにおはそんなの見たくないし、見れないもん。ふふっ」

着物を握った手に紅い液体がたれた。





鍵が開く。

部屋に入ってきたのは女と男。
珍しそうに部屋を見回し、最後に少女に視線を合わせた。

「あなたが穢姫?」
「そうだ。他に誰がいる。」

女と男は互いに顔を見合わせる。

「こんな小さな童(わっぱ)が生き神様なんて・・・」
「しっ聞こえたらどうするのよ、ほら。」

女に叱られ男は仕切りなおしというばかりに咳払いし、話始めた。

「・・・姫様に会えるなんて光栄です。そのお願いなのですが・・・」
「そんなこと言わなくとも分かるわ。さっそく始めるぞ。」

女と男は顔を見合わせた。今度は安堵した表情で。

「さぁその男(お)の子を寄こせ。そうしないとできるものもできないぞ。」
「そうですね。・・・さぁ行きなさい。」

「・・・や・・・嫌だよ」

女の手にしがみ付く子供が声を絞り出す。
震えた体に青い顔。普通なら優しい言葉をかけるべきだろう。
だが女の柔らかく慈愛に満ちた表情が鬼のように変わった。

「何度言ったら分かるの!?あんたはここで穢れを祓って貰うのよ!!」
「・・・嫌だよ、かか様・・・怖いよ・・・」
「駄目よ!!姫様の前で駄々を捏ねるのは止めなさい!!みっともない!!」

子供は何度振り払われようとも女の手にすがった。
涙など流さない。涙などは、流せない。そんな余裕この子供には、ない。

「今度からっ・・・・いい子にする・・からっ・・・」

絞り出す言葉と一緒に涎(よだれ)も出てくる。
それは涙の代わりに出てるのか、止めどなく流れる。

「二度としないから・・・ね・・・かか様・・・とと様っ」
「だからっ・・・みみ見捨てないで・・・助けて・・・」

女は子供の手を振り払うのをやめた。

「かか・・・様?」
「大丈夫よ・・・・見捨てたりしないわ」

子供は女の顔を見つめ、そして現れた希望を確かめようとする。
だが子供が確かめの言葉を発する間も無く、女は子供を少女の前に投げ飛ばした。

「うっ」


「大丈夫。大丈夫よ。」


「かか・・・様・・・?」

少女は手に持った斧を振り上げる。


「次も私達の子として産んであげるからね。」


女の顔は慈愛に満ちー・・・


     ど ちゅ



あぁ嫌だ。嫌だ。


「・・・姫様このたび有り難う御座います。」

女と男はふかぶかと礼をし、笑顔で言った。

「あの子は来世で現世の穢れ無しに生まれ変わることができます。」
「そう・・・よかったな。でもまだすんでない。」

血の付いた冷たい顔、少女は床に倒れてる子供の側に座り込んだ。

「・・・おい。まだいるつもりか?これは常人には辛いぞ。」

女と男はまだ笑顔だ。

「いえ、大丈夫です。最後まで見たいのです。」



あぁ嫌だ。何が常人だ。
少女は二人を睨む。


「?姫様?なにか?」


こいつら狂ってる。



そう思いながら少女は悲しくなった。

私も・・・狂ってる。
こんなことをして狂わないのが狂ってる証拠だ。



手を伸ばし食らいつく。
そうして少女は一番嫌いな瞬間に耐える。


この瞬間が一番嫌いだ。
「あれ」を口に入れた瞬間が。

なんともいえぬ匂いがする。






・・・嫌いだ。


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