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作品名:魅せられて東京 作者:あまね

最終回   魅せられて東京
 家は決して貧乏なんかじゃなかった。一人っ子の私は、私立の四年制大学まで行かせてもらえたし、毎日のご飯、おかずは必ず二品以上出ていた。
 
 それでも、家の外観はとても見窄らしいく、両親が営むケーキ屋は繁盛しているとはお世辞にも言えない程寂れたもので、店の看板は相当はげかかっており、それをネタに中学時代は少しいじめられたりもした。
 
 だからというのはおかしな話ではあるが、ずっとお金持ちになりたいと思っていたし、初詣でお願いすることは決まって毎回「お金持ちになれますように」だったと思う。


 東京の大学に行きたいと言い出したとき、両親は一切反対しなかった。むしろ喜んで応援しているようで、なんなら、東京の大学の資料なんかを沢山勝手に取り寄せてくれたりもした。ただ、ケーキ屋の未来についての話は、私達の間では一切かわすことがなかった。当時はそれを不思議に思ったが、今では何となく、父と母がどうしてその話を私にしなかったのか、何となく分かるような気もする。

 あこがれの東京の大学。見事なまで「東京に染まったお上りさん」に、私は仕上がった。クラブに通い、BARを渡り歩き、肝心の大学の授業にはあまり出席せず、当時付き合っていた彼女の家に入り浸り。バイト代は全て遊びに使っていた。

 親から(大体は母親)たまにメールや電話がきたのを覚えている。
「帰ってこないのかい?」「たまには帰ってきたら?」
 いつも話題はそれだったので、私は適当にはい、はいと流す。結局、大学4年間、1度も家に帰ることはなかった。あの寂れた看板を見たくなかったせいもあったと思う。

 単位ぎりぎりで大学を卒業し、ある中小企業に内定をもらう。
 東京本社に勤めだしてからもう二十年が経った。両親はとうにケーキ屋を辞め、先週父親がこの世を去った。

 実家に母親一人を置いておくわけにもいかず、私は東京に来いと誘った。妻も息子もそれを望んでいると。だが、私の母親は頷くことをしなかった。

「東京になど行けない。私に気を使うことなどない」

 そう言うと、電話は一方的に切れた。

 
 それから一年後、今度は母親が亡くなった。原因は老衰ということだが。
 父が死んだあの時、私は強く母親を連れてくるべきだった。実家に帰るという選択肢は、一切ないのだから。

 両親は私を限りなく愛した。私はそれ以上に、東京を愛している。
 ああ、魅せられて東京。


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