昨年、農業に転職したディー氏は悩んでいた。収穫時期を逃して野菜をダメにしてしまうことがたびたびあった。トマトの収穫時期を見逃してダメにしたり、稲の脱穀時期を見誤って真っ青なお米がとれたりした。周辺の農家の助けを求めればよいのだが、就農初日に、 「貴様ら田舎っぺどもの助けなど要らない」 と、豪語してあいさつ回りをしたのだから誰も助けてはくれない。初めよければすべてよし、だったのだ。 「弱った。このままでは破産する」育ちすぎて種に戻ったジャガイモを見つつ、ディー氏は頭を抱え込んだ。 元々バイオ関係の仕事をしていた彼は、職場の上司と不倫をし、それが相手の奥さんにばれて前の職場を追われた。幼いころから木や魚や男の子が好きだった彼は、どうしてもバイオ関係の仕事に就きたかった。しかし不倫相手の伴侶はその道の権力者だった。官庁から八百屋までにらみを利かせたため、彼は仕事に就くことができなかった。ごたごたした社会から離れたいという思いも相まって、彼は田舎で農業をすることにしたのだ。 バイオの知識をフル稼働させた彼は、一つの光を見出した。 「そうだ野菜が話せるようにすればいいんだ」 さっそくディー氏は研究に取りかかった。野菜が話せる薬はすぐに完成した。ただちに畑にばらまいた。すると一つのナスが震えた。 「僕は大丈夫。収穫できるよ」 それに便乗するかのように、他のナスも震えた。 「僕は大丈夫。でもちょっと栄養が足りないかな」 「あたいは大丈夫。栄養満点よ」 ディー氏は喜んだ。収穫時期を教えてくれるだけでなく、品質まで教えてくれるようにしたのだ。いいものだけ出荷して、後は自分で食べればよい。 ディー氏の野菜はその名を辺りにとどろかせた。自らの品質まで教えてくれるから消費者にも好評であった。 「これなら大儲けできる」自分好みの男子を雇う計画を妄想していると、電話が鳴った。 「そちらの野菜を買い求めた者ですが」電話の相手は消費者だった。「ちょっと来ていただけますか?」 ディー氏がその家に向かうと、テーブルに案内された。その上にはナス料理が乗っていた。 「僕は食べちゃダメだよ」皿の上のナスが言った。 「この声黙らせてもらえないかしら」主婦は不機嫌そうに言った。 「はぁ、その点に関しましては耳栓するなどで対処していただきたいのですが……それに健康のためにもこのナスは召し上がらない方がよろしいかと」 「そうじゃないのよ。主人があんまり役立たずだから毒殺して保険金もらおうと思ったんだけど、食べたのに話すのねこのナス。腹の中から、僕は毒入りナスだとって。たぶん今頃警察だし、逃げられっこないからこうしていられるんだけど。で、どうしてくださるの? あなたのおかげで私はお金も手に入らないし、おまけに刑務所送りよ。保釈金払ってくださるわよね?」 「僕は大丈夫」冷蔵庫から声が聞こえた。「まだ毒は入れられてないよ」
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