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作品名:ココロ 作者:snow

第8回   8
架空の残業。
架空の休日出勤。

翔ちゃんとの時間を作るために。
言い訳は、増えていく一方だった。

「人事で、人が少なくなったから。」
「会社が、事業の拡大を図ってるから。」
「自分の成績を上げたいから。」

あっちゃんは、これらの言い訳を。
どう思っていただろう。

そして私は。
翔ちゃんと一緒に過ごす時間が増えるたび。
夢中になっていった。

車に乗れば、手をつなぎ。
外を歩けば、腕を組んだ。

季節は春になった。

今日は、架空の休日出勤・デート。
朝一で待ち合わせ。
「今日は、ビール工場に行こう。」と翔ちゃんが言う。
「うわ!いいね。テンション上がるー!」
「出来立てが、飲めるぜ。」
「ちょっと、時間が早いかな。」
「遠回りして調整しよう。昼飯はジンギスカンだ。」

車を走らせると。
街が消え、景色は変わり木々が増える。

「新緑もキレイだろー?」
「へっ?」
「天気もいいしサ。」
「翔ちゃんて、新緑がキレイ。なんて感性あるんだ〜?」
「ナンだよ?」
「だって。全然、そーいうタイプに見えないよ?」

私は半分、からかって窓の外を見た。

「そーだね。太陽の光が新しい葉に反射して、キレイ。」
「だろーーー?外に出れば、空気も旨いぜ。」

やっぱり、そんなこと言う人に見えない。
社内にいる時は、上司顔。
そのギャップに。
思わず、笑った。

到着して駐車場に車を止め、工場内へ入ると係りの人が大きな声で言う。
「ドライバーの方は、シールを胸に付けてください!」
「飲酒されるのは、シールを付けてない方だけで。お願いします!」
促されてシールを付ける翔ちゃん。
「仕方ないよな。…覚悟してたし。」

歩きながら、私は黙って。
翔ちゃんの胸からシールを外した。
「ほら。コレで、送迎バスで来た人達と同じ。」

続けて言った。
「あ、でも。泡だけね!」
と、ニヤケて見せた。
「子供みたいな事をするな。」と、翔ちゃんが笑う。

海の見えるレストランと、出来たてのビール。
ジンギスカンと、楽しい会話と、目の前の大好きな笑顔。
こんな日は、特に離れるのが辛かった。
夕方、部屋の近くで車が止まる。

私は翔ちゃんの手を握った。

「もう、戻らないと。マズイだろ?」
「ん。。。」
「ほら、また明日。」
翔ちゃんの手が滑る様に離れる。

「今日は、ありがとう。明日ね。」
私は車を降りて。走り去るのを見送った。


心があっちゃんへ、スライドする。
「ただいま。」
あっちゃんは、出掛けて帰っていなかった。
カバンを置いた時、メールが入った。
[ まだ仕事?]
あっちゃんだ。

[ 今、帰ったとこ。]
[ コッチも、もう帰るけど。晩飯どうする?]
[ まだ考えてないし、買い物もしてない。]
[ じゃ、近くのスーパーで待ち合わせて。簡単に作るか?]
[ そうだね。今から行くよ。]
[ OK ]

あっちゃんと顔を合わせると。
簡単に。
『あっちゃんとの自分』に、戻れるようになっていた。


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