母親からもらったお菓子の缶に私は拾い集めた宝物を入れていた。砂浜で拾った波に削れたガラスや瓶のふた、雑誌の付録を入れていると母親は「まるでカラスね」と笑いをこぼしていたのを思い出す。 その缶も思い出が色褪せるように中身の宝物ごとどこかにいってしまった。それに心が刺されるわけもなく私はいつのまにかその存在を記憶から消して日々を過ごした。 (ねえ、奥からこんな缶が出てきたけれど) (なんだこれ、瓶のふたにがらすに・・・・お前のか?) (まさか。あら、ちょっと。これ見て) (ああこの名前は) (どうする?) (・・・そうだな) 私の缶は私が知らない間に捨てられる。宝物はたくさんのごみに埋められて燃えてしまった。 私は宝物を失ったから悲しいのではない。私もその宝物を忘れ去った。 ただ、誰かに過去の宝を捨てられてしまったことが、どうしようもなく悲しいのだ。
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