35人分の料理をあと7時間で用意しなきゃ。 35人分も? そう、35人分も。
主婦たちが大事な家族のために、御馳走を用意している。金髪と茶髪の上に、きっちりと乗せられた赤と黒の毛皮の帽子が画面一杯に映る。ふさふさとした毛を見ながら、ふと水色のキリンを思い出した。
彼には可哀そうなことに毛が無い。ごつごつとしたプラスチックの外皮と、空っぽの内臓を詰め込んで悠然とテーブルの上を闊歩している。 そしてテーブルに置いてあるものを、食べてしまうのだ。 おかしい。キリンは草食の筈だ。 この憂えた眼に騙されてはいけない。このキリンは常習犯だ。前科12犯。彼が最近食べたもの、ポテトチップスコンソメ味、ダイエットペプシ、サラミピザ、そして携帯。そう、携帯までも彼は牛のようなだらしのない食べ方で、咀嚼し、空っぽの内臓に入れてしまうのだ。被害者は参っている。何故なら彼だか彼女だかは待っていたのだ。テーブルの上でお菓子とピザを広げ、たった一人の客がこのソファで自分の隣に座って、口実にした流行りのdvdなんて放っておいて、なんて。
必要なのは客が来た着信音。 被害者は待っている。もてなしの準備は完ぺき。早くしないとピザが冷めてしまう。
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