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作品名:旅情の恋 作者:愛の狩人

第1回   (1)

恵美子は、走る列車の窓際のシートに一人で座り、
さっきからじっと外を眺めていた。

その日の週末の電車は空いており、彼女の周りにあまり人はいない。
彼女はその中で、リラックスして長い脚を伸ばしてくつろいでいた。

彼女の、憂いを含んだような横顔はどこか寂しげだが、
その顔は美しかった。

艶やかな長い黒髪を後ろで軽く束ね、それが車内に流れる風で揺れている。
長めのまつ毛は見つめる眼を引き立たせ、
その唇には上品なルージュが光り、
頬は何を思うのか微笑んでいた。

彼女は首に淡いラベンダー色のスカーフを巻き、
ブラウン色の落ち着いたジャケットを脱いだ少し細めの体には、
スカーフと同色のブラウスが良く似合う。

更にスカートをモカブラウン色できめ、
ウエストには、イタリア製のブロンズベルトをさり気なく巻き付け、
彼女の細いウエストを強調していた。
その姿は、全体的にシックでトレンディな大人の雰囲気を漂わせている。

ファッションから抜け出たような洒落た装いと、
その美しさに、街を歩くとき行き交う男達は彼女を振り返る。
彼女に声を掛け、誘う男もいるがさり気なく断るのが常だった。

しかし、恵美子はいつでも、それを誇示することはしなかった、
自然のままに振る舞い、
優しく、自然の流れの中で素直に生きてきた普通の女性だった。

その彼女が昔の小さい頃、母から教わったことがある。

「ねえ恵美子、可愛い恵美子は大人になると美人になるわよ・・
きっと・・
でもね、人は見た目だけでその人を判断してはいけないのよ。
どんなに綺麗でも、どんなに美しくても、その心が美しくなければ、
優しくなければ・・綺麗とはいえないの・・

逆に、美しくなく例え醜いと思う人の中にも、
仏のような優しい心をもった人はいるわ、
そういう人の心の中は輝いて、生きる喜びに満ちている人もいるの。

だから、本当の美しさとは、
心からにじみ出る優しさと、素直さが一番・・
難しいかもしれないけれど、大人になれば分かるときがくるわ、
きっとね・・」

そういって恵美子を抱きしめてくれた母のことを時々思い出す。




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