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作品名:S・O・S : S-CITY OF SYADOWS 作者:ふ〜・あー・ゆう

第8回   8
「疲れた。眠らせてくれ。」
「はるばる来られたのですから無理も無いですね。どうぞ。」
マチェクはベッドを指差した。
「あんたはどうするんだ。」
「私は見習い同然のあなたとは違う正規のミスト・エージェントです。睡眠などは細切れでも十分に摂れます。」
「じゃ、遠慮しねーよ。ただ、言っとくが俺はまだミストじゃねーし、あんたの仲間でもねーからな。」
「アイム・ノット・ジャパニーズ. ワッツ・アー・ユー・セイ『遠慮』? アンド・・・キャント・アンダスタンド・ワッツ・ユー・セイ.」
マチェクの中途半端にウィットなジョークまがいの声かけを尻目に俺は寝入った振りをする。すぐにでもまどろみそうだったが、まだ状況を納得しきれていない。答えが出ぬうちに眠るのは失敗を招く迂闊な行為だ。マチェクに背を向けたまま、横になってはいるがいつでも反撃できるよう、体の一部は緊張を残している。この男をどこまで信用できるかわからない。いつ、例の武器で俺を串刺しにするとも限らない。そんなことを考えているうちに寝息が聞こえてきた。俺は寝返りを打ち、薄めでマチェクの方を見る。彼はソファに座ったままの姿勢で眠っている。倉石が来るのは三日後か。確かにこのままじゃ、体がもたねーな。でも、こいつをまだ信用できねーし。本当に倉石は来るのか。こいつがゴルゴダとやらのエージェントなんじゃねーのか。俺を捨て駒に利用してここを壊滅させる気なんじゃないのか。だいたい倉石から聞いていたミストの手口としてはこの男のやり方は荒っぽい。それにミストが狙うのはターゲットのみだと聞いている。こいつは俺に絡んできた奴らをことごとく排除しちまった。外で銃撃してきたゴルゴダの連中と同じだ。やつらは組織と無関係の俺も巻き添えにするつもりだった。自ら、やつらと紙一重だとは言っていたが・・・。納得できねー。こいつも俺の寝首を掻くために寝た振りをしている・・・。俺に研究員殺しの咎を負わせて処刑し、組織の上層部に信用させてターゲットに近づく・・・。処刑実行の邪魔になる側近の研究員をあらかじめ片付けておけば仕事は楽だからな。実際、俺は街で複数の研究員を爆死させている。目撃者も大勢いる。罪を被せるには絶好の鴨だ。よし、こっちから仕掛けてみるか。俺は横になったまま、腰のポケットからコインを取り出してベッドの下に落としてみた。彼は反応しない。狸め・・・。今度はベッドから起き上がり首筋目がけて手刀を振り下ろす。加減はしない。本当に影の組織のエージェントならこんな間抜けな最後は無いはずだ。しかし、彼の反応は無く、寸止めも間に合わないと思ったその瞬間、体に電撃が走った。同時に何かのガスを浴びせられた。俺は声も出せずにその場にへたり込んだ。体中に痺れが残っていて声が出ない。しかも、強烈な睡魔が襲ってきた。マチェクは相変わらず寝息を立てたままだった。こいつ、本当に熟睡してやがる・・・・。なんてこった・・・・。俺はその場で眠り込んでしまった。

「やはり、刑が来たか。それにしても早いお着きだな。ミストの予想のうちの最速のパターンだな。」
倉石は軍用トラックの荷台の上に横たわっていた。荷台には幌が被されていた。成人素材専用の運搬チームに捕獲された者たちはクロロフォルムで眠らされていた。一人一人が蓋付きの分厚いウレタン・ケースの中に大事に詰め込まれていた。それだけに倉石としてはマイクロレシーバでの通信が容易く出来た。少々狭いが任務遂行の過程としては実に快適な時間だった。食事は眠ったまま点滴で与えられるので便意も無い。マチェクの用意してくれたカプセルを噛み潰したお陰で麻酔は超高速で解毒され、意識もはっきりしていた。
刑がいるってことは半月の計画が二日で終わるかもしれない。刑にはヘマをしてもらう形にはなるが仕事は早いに越したことは無いな。倉石はほくそえんだ。

「お目覚めですか。」
「う、う・・・。」
「随分と寝相が悪いですね。」
俺は横になったまま、目を開けた。マチェクはテーブルでコーヒーを飲んでいる。
「今は何時だ。」
「ほう、地下なので時間の感覚がなくなりましたか。」
「ふざけるな。お前、俺に何をしたんだ。」俺はゆっくりと床から起き上がった。
「もう、二日経ちましたよ。」
「二日?!」
「おかげで私も規則的に眠ることができました。あなたも疲れがすっかりとれたことでしょう。」
「冗談じゃねー。床に転がらされて体が痛えーや。ベッドに運んでくれてもよかったろ。」
「初日は私もソファで寝たんですから、ミスト・エージェントとしてそれぐらい我慢してください。」
「じゃ、二日目はなぜ放置してたんだ。」俺は手の平の付け根で頭をたたきながらマチェクに近づいた。
「それですよ。不用意に私に近づいた罰です。私もあなたを信じ切れていません。でも、あなたと決定的に違うのは私はあなたより優位にいるということです。」
「どういうことだ。」
「絶対負けない、ということですよ。」
「気にいらねーな。」
「まっ、いいでしょう。私はこれから勤務に出ます。」
「勤務?」
「あなたが寝てた間、私はきちんと、このシェルターの仕事に励んでいました。怪しまれちゃまずいですからね。したがって、昨晩のベッドは私が使いました。働いたのだから当然です。」
「ちょっと、待て。そのことはいいとして、俺が聞きたいのは・・・・。」
「眠りこけた理由ですね。あなたは睡眠ガスの効きが甚だよい体質だということですよ。」
「睡眠ガス?」
「忙しいので、手短に言います。私はどこでも熟睡できるよう、下着に睡眠ガスの発生器具を装着しています。元々、不眠症なもので。ただ、寝首を掻かれぬよう・・・。」
「寝首を!」俺はドキッとした。
「そんな間抜けな最後は嫌ですからね。体の急所には高電圧を発生する超小型の電磁波パッドを着けてます。自分の体に対してはアースを着けているので反応はありませんが他人の体が数センチまで近づくと感電します。同時に通常の2倍の濃度の睡眠ガスを周囲に噴射します。よほど不運で無い限り、昏睡状態になることはありませんが。」
「ってことは、俺は昏睡しかけたってことか・・・。」
「私を信じなかった罰です。では、私は仕事に行きます。今晩、0時過ぎに倉石が着きます。受け取りは私達の部署で行われます。」
「そこで一気に片をつけるのか。」
「それは無理です。ターゲットが逃げてしまいます。」
「なるほど、その場に社長はいないってわけだ。」
「まずは倉石とここで打ち合わせて、連中が素材である倉石の失踪に気づく前に片付けます。あなたが来てくれたお陰で仕事はかなり早く片付くと思います。では・・・。」
マチェクは白衣をまとって足早に部屋を出て行った。俺はソファの上で再び、横になった。運び込みは深夜らしいし、とりあえず腹ごしらえと居眠りでもして倉石の到着を待つことにしよう。・・・・待てよ、またゴルゴダの連中が侵入経路に強行突入する為に襲って来やしないか・・・。う〜ん、そんときゃドサクサで研究員に紛れて外へ出て行って加勢すりゃいいか。それにマチェクもいるし、何とかなるだろ。!! 。なんてこった。いつの間にかミストのメンバーの気持ちになってやがる。俺は彼女のために協力しているだけだ。まだミストの影になる気は・・・・。とにかく今は休息だ。ここは敵地の真っ只中、しかも多勢に無勢。その中でターゲットだけを処分するんだから至難の業だ。万全の調子で臨まなきゃなんねーし、今は余計なことは考えるな。おれは自分の気持ちを整理するのを止めた。とにかく進むしかない。そして生き延びるしかない。彼女の願いの為に・・・。


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