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作品名:S・O・S : S-CITY OF SYADOWS 作者:ふ〜・あー・ゆう

第7回   7
武装した研究員が大挙してジープの方に向かってくる。街を突き抜ける巨大な通路が白衣の集団でいっぱいになる。どいつも、こいつも、ここの仕事を信じきっている顔だ。他人から自由を奪ってでも理想を叶えることが人類の明るい未来を築くのだと信じきっている顔だ。分厚い一枚岩。とても勝ち目は無い。どんなに小さなトラブルでも全力で阻止する体勢がここにはある。そう気づいたときにはもう遅かった。それでも抵抗してすぐさま蜂の巣になるよりは捕獲された方がよいと咄嗟に判断した。実験体にされるかなぶり殺される可能性もあるがここの情報を外へを流すチャンスがほんの少しでもあるかも知れないと思ったからだ。彼らが俺を取り巻いた。一人の男が近づいてきた。「ここでは人体を大切に扱う。抵抗しなければこの場で殺しはしない。」「人体・・・、なるほど人命は一番じゃないのか。」「命・・・、そんなものは目に見えない。人体を大切にすれば命というものも守られる。それだけのことだ。」「随分、割り切った考えだな。」「無駄口はもういいでしょう。私達についてきなさい。逆らえば、人体の安全は保証しません。」「わかったよ。」俺は5人の男に連れられてエレベータに乗り、さらに地下へと降下していった。何も無い明るく広い通路を300メートルほど歩いた。「一応、名前を聞かせてもらおう。」一人の男が行った。「刑。」「苗字は。」「播津。」「君は素材として扱う。その前に過去の履歴を調べさせてもらう。」「一つ聞いてもいいか。」「どうぞ。」「あの街の連中も過去を調べられたのか。」「メンバーが集めてきた素材は出所が分かっているからそんなことはしない。洗脳でリセットするから過去はどうでもよい。」「一人一人、調べていたらきりが無いしな。」「俺は正規に集められていないから調べるわけか。」「そうだ。ゴルゴダが潜入したと言う噂もあるんでな。」「まあ、多勢に無勢だし、仮にダイナマイトを使ってもびくともしない施設だから、ゆっくり時間をかけて聞いてもいいが我々もビジネスがあって忙しいのでね。」「自白剤か。」「まさか。その頭に直接聞くから君は何も考えんでいい。」そのとき、一人の男が唐突に尋ねてきた。「倉石を知っているかい。」俺は顔色を変えてその男の顔を見た。端整な顔立ちの白人の男だった。「間違いない。播津 刑 君だね。」4人の男がしまったという顔をした瞬間、男達の体を細いワイヤーが目にも留まらぬ速さで貫いていくのが見えた。全員の心臓を縫うように串刺しにしていく。瞬間的に痙攣するところを見ると電流も流れているのだろう。しかし、全員が一瞬で絶命するとは限らない。絶命までのショック状態のまま、懐から火器を取り出し振り回す者もいる。手榴弾でも使われたらこっちもただではすまない。駆け寄り、首を一撃する。彼らの体をすり抜けたワイヤーがするすると抜けていき、1人の男のリストバンドに収まる。「どうでした、頭を吹っ飛ばした快感は・・・。私がニトロを打ち込んどいてやったんですよ。」「あんたは。」「私はミストのエージェント。マチェク。2年前から潜入していました。倉石とのミッションで半年後に壊滅作戦を実行予定でしたが、ゴルゴダが動き出したということで計画を早めていました。彼らが動き出すと静かに仕事が出来ないですからね。でも、あなたが来たのは想定外でしたね。よくここまで潜入できましたね。」「日本人でもないのに謙遜なんかしてんじゃねーよ。ミストの天才さんなら俺が来るのは想定内だったんだろ。」「確かにあなたの合流の可能性は指摘されていましたがこんなに早く来るとは・・・。」またしてもミストの手の内にあるのかと俺は舌打ちをした。「わかった。詳しいことは後でいいや。これからどうするんだ。」「倉石を待ちます。」「来るのは倉石だけか。」「そうです。」「おい、無理だろ。たった二人でここを壊滅させるつもりだったのか。」「そうです。二人で落とします。」「本気か。」「ミストのミッションは最少人数で臨みます。達成難度はかなり上がりますが裏切りや稼動人数の多さによる発覚の可能性は逆にかなり下がります。証拠・痕跡が最小限に出来ます。」「はぁ〜あ・・・、さすがだな、あんたら・・・。」俺は半ば呆れながら言った。「これまでのところ、しくじったことはありません。」「なるほど。ところで、俺の周りにいた奴らがぶっ飛んだのはあんたの仕業ってわけか。」「奴らを爆破したのは倉石からあなたのことを聞いていたからです。先ほどまで確信はありませんでしたが、万一と思い、街の住人の振りをしてこれで仕込んだんです。」マチェクはスティレット(錐刀)のようなものを手にしていた。「何だそれは。」「今、説明している時間はありません。この亡骸を片付けないと。」「あんたほどの技術があれば消去できるんじゃないのか。」「もちろんです。でも、作戦後にミストのスペシャリストが身元を鑑定するので。」「何のためだ。」「ターゲットの側近にゴルゴダや某国の諜報員が紛れ込んでいたり、ターゲット自身が部下に成りすましてリーダー格に据えた替え玉を暗殺させようとしていたり、一筋縄ではいかない状況が増えてきているので確認が必要なのです。」「ふーん、相手を殺るまでだって一苦労だってのに、殺ってお終いってほど単純じゃないんだな。」俺は白衣を身につけた。それから4人の亡骸をマチェクと二人で脳検査室のダイヤル・ロックのついたトランク・ルームに押し込んだ。この部屋に入れるのはマチェク始め、脳科学に詳しい数人だと言う。発見まで少しは時間が稼げるらしい。俺たちはエレベータに乗って研究員の生活ブロックに向かった。マチェクは一室を提供されていた。広いフロアーに応接セットとリビングとベッドルームが配されていた。俺は彼らの計画とは別に自分の感情をぶちまける質問をした。「なぜ、彼女をここに戻した。」「ジェシーのことですね。」「ミストのシナリオなのか。彼女のことで奴ら、返って警戒態勢に入っちまってるし、なにより人間のすることじゃない。」「倉石の案ですよ。素材回収時に私がこっそり受け取って街の教会に置いといたんです。ミストは各国諜報部とは違って自由裁量です。シナリオの解釈と実行はエージェントに任されているんです。」「じゃ、何のために彼女を。」「彼女の頭部はターゲットへの挑戦状です。あなたにとってはミストへの招待状だったそうですね。」「死んでまで利用するのか。倉石は人でなしだ。」「違います。彼女の希望ですよ。」「なんだって。」「脱出した彼女を助けに行ったのは倉石です。」「!?」「彼女は潜入作戦の際に倉石に頼んでいたそうです。」「頼んでいた?」「潜入作戦は倉石と彼女が進めていました。潜入後に入った彼女からの通信によると、万が一のときは自分の身を作戦のために使ってくれということだったらしいです。脳への移植措置がなされた時点でこの体はもう自分の意識下のものでは無くなると彼女が判断したからだろうと倉石が言ってました。そして、あなたは信頼できる人間であり、彼女の代わりにミストのミッションで必ずコンビを組んで欲しいと倉石に伝えていたそうです。それで倉石は物言わなくなった彼女とあなたを合わせたのです。」「・・・だが、倉石はあの日、俺をそのまま日本に返した・・・。」「倉石は私と違って待てるタイプですからね。私は早く片付けたいタイプなので先ほどのように一遍に処理してしまいます。後始末は苦労しますがね。」「彼女は今どこにいるんだ。静かな場所に戻してやりたい。」「この仕事が終われば戻してやれます。今回はミストのミッションであると同時に彼女の弔い合戦でもあります。」「弔い合戦?」「倉石がそう言ってました。ターゲットを打ち倒す様を彼女に見せるのだと。私はそんなことに興味はありませんが。」「あいつ、案外、古風な男なんだな。」俺は倉石という人間を軽蔑していたことを少し後悔した。「あー、一応、言っときますが会話は盗聴されてますよ。」「なんだって!!」「でも、室内マイクの発信機には別音声を送信してあります。外との通信時も同様の処置をしてあります。」「脅かすなよ。」「あなたが安心しきっているので・・。」「常に疑えと言うことか。」「生き残るためです。私が敵のスパイだったらどうします。盗聴に気づいていなかったらどうします。」確かに俺は盗聴を警戒していなかった。完全に安心しきっていたからだろう。「あんたの手口にすっかり感心して疑う気が全く起こらなかった。それほどの人間が相手なら、やられちまっても本望だしな。」「うれしいですね。でも、あなたが見たのは私の開発したアイテムのほんの一部ですよ。」「一部?」「今回の仕事のための最新アイテムがあります。仕事場が私にとっての最高の実験場です。」「実験場?あんたもここの奴らと一緒か。」「否定はしません。紙一重の違いですよ。」
俺は少し背筋が寒くなった。「倉石はいつ合流するんだ。」「素材に混ざって運ばれてきますから三日後ですね。ただ、ゴルゴダが動き出したので予定通りに到着できるかは分かりません。」「ゴルゴダってのについて知りたいが・・・。」「さっき、倒した連中から聞いたとおりですよ。」「体内ニトロでふっ飛ばした連中か。」「はい。」「天才のミストさんにもわからねーのか。」「はい。分かっているのはゴルゴダが善悪の判断無く、外部の依頼で動いているようだということです。ミストは外部の依頼は一切受けません。上層部のプランの実行のみです。」「つまり、あんたとここの連中と同じようにミストもゴルゴダと紙一重ってことか。」「そうでしょうね。私見ですが否定はしません。」


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