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作品名:S・O・S : S-CITY OF SYADOWS 作者:ふ〜・あー・ゆう

第16回   16
砂埃を上げて疾走するフォード・エクスプローラー。今では珍しくもないファッショナブルな4WDカーだ。倉石は一人、中南米の荒地を走り抜けていた。ミストのSOSは幾重にもカモフラージュされていたがマチェクの解析により彼の地より発信されたものだとわかったのだ。ペルー国境に差し掛かった頃、予測通りに所属不明のゲリラが襲ってきた。エクスプローラーを猛追してくる旧型のジープは内部が改造されているらしい。見かけよりはるかにパワーのある加速で倉石に近づき、めくら打ちに弾丸を打ち込んでくる。だが倉石の耳にサブマシンガンのそれはなぜか嬌声のように聞こていえた。俺を死へと誘っているのか。神々の計画通りにミストともに滅せよと言うのか・・・。民兵らしき彼らは何者かに操られている。何か甘く危険なものに操られている、とてもわかりやすい連中だ。大金と女とドラッグすなわち痛みの無い死と・・・。嬌声のように感じるのはそのせいだろう。死への誘惑・・・。「こいつらは何も知らぬまま利用されている。いや所詮、俺たちも同じ・・・か。」やがて、ジープは並走する。「こいつらを殺ってもいいのか!」「・・・少なくとも今のミストにターゲットを指し示す能力はないでしょう。振り切れないのならやむを得ません。」倉石はアクセルを目一杯踏み込んだ。ハンドル操作を誤れば横転する。「私たちはとにかく生き延びて会いに行くべきなのです・・・。」イヤホンにマチェクの声が柔らかく響く。窓越しの外の世界がスローモーションになり静寂に包まれていた。「わかった。」倉石はダッシュボードに手を伸ばし、マチェク特性の小型ナパームを取り出して道に放る。一瞬減速したジープは瞬く間に火だるまとなり、砂埃の中で現実もろとも静寂の世界の一部となっていった。上空にマチェクの小型ジェットが見えてくる。助手席のケイがつぶやいた。「あいつら、半分ラリってるから死の恐怖も痛みもねーんだろうな。」「そんなこたないだろ。薬物で眠らせて執行する死刑も全身でもんどりうつことができないだけで最後の瞬間まで死に至る激痛を味わってることだろうさ。」「作戦遂行に迷いのない倉石も思ったより相手のこと、考えてんだな。だから躊躇したわけか」「躊躇したのはミストの指令じゃねーからさ。俺だってただの殺人はしたくねーからな。」倉石はアクセルを踏み続けた。小型ジェットがエクスプローラーの上空を通過していく。倉石は一刻を争う状況のゆえにマチェクの情報解析のさなか、同時進行で彼の地へ向かうべく行動を開始していたのである。マチェクからの解析の途中経過を随時受信しながら密かに南米へと向かっていたのである。そして今、ミストの緊急指令のほぼ全容を解析したマチェクがケイとともにここへやってきたのだ。遅れてきたのにはもうひとつ理由があった。3人一緒に一網打尽にされないためだ。別行動をとることでそのリスクを回避しようとしていたのだ。真にミストを受け継ぐ者のみが知りうる彼の地、彼の人・・・。マチェクはミストの中枢を担う七人の人物セブン・ブレインのとぎれとぎれで種々の様相を呈したメッセージから・・・つまり、その死に様やネット上の痕跡から、ミストメンバーに告げるラストメッセージを読み解いたのだ。ミスト崩壊は全てゴルゴダの仕業だった。ほどなく多くのミストが人知れず、葬られた。やがて眼前に山々に囲まれた広大な風景が見えてきた。道は幅の広いアスファルトの一本道になっていた。周囲は荒地のままだ。「ここらで本隊が現れるぞ。」ケイが伝えてきた。「やつらは何のために俺たちを狙うんだ。目的地がわかっているなら先回りして彼の人を殺められるだろう。」「奴らにそれはできません。する必要が無いのですよ、多分。」「謎かけかよ。」マチェクの言葉に倉石は苛立った。日は傾き始めた。前方に光る塊が見えてきた。その周囲にはいくつもの砂ぼこりが立ち上がり光る塊を目指していた。おびただしい数の武装したハマーの群れ。装甲車でなく、一般道を走っても思っているよりは目立たない大型ジープの群れは夕日を受けて神々しく光り輝き、彼らの前に集結していた。統制のとれた無慈悲な武力集団。目的のためには全てを葬り去る大胆な殺人旅団ゴルゴダは何としても彼らの行く手を阻みたいのだ。マチェクはジェットの高度を下げた。「神のつもりですかね。一気に蹴散らしますよ。そのまま、強行突破です。倉石は停止してください。」マチェクは超低空で光の塊を目指した。「無茶だ。」倉石が声を上げるまでもなく、ロケットランチャーも含めた機銃掃射が小型ジェットを狙った。マチェクは最高速度で地表スレスレを突っ込んでいく。地面に接触すれば大破して木っ端微塵だ。小型ジェットには武装もないのだ。その分、軽く加速もしやすいが常軌を逸している。ジェットは彼方の光に突っ込んでいくその瞬間、後方に二つの黒い塊を放り出した。猛烈な勢いで転がるマチェクとケイ。無人機は一向に撃ち落とされず、徐々に高度を下げていく。そのとき、倉石は気づいた。軌道が低すぎてロケット弾をうち込めないのだ。ヘタをすれば地面に弾かれて自分たちが被害を被るわけだ。かと言って機銃掃射もままならない。真正面から、しかも銃口をジェットの高度とほぼ同じ角度にして一斉に打たない限り決定的なダメージは与えられないのだ。ジェットはもう地面に数センチと近づいている。全てはマチェクの計算通りだ。操縦桿をロックし、乗員が脱出することで機体が軽くなり超低空飛行を続け、ゴルゴダの集結地点で地面に接触し爆発する。光の塊は散り散りに浮き上がり、ジェットの運動エネルギーと搭載していた火薬によってゴル
ゴダの群れを一気に蹴散らした。「全身エアバッグで脱出しましたがやはり二人共、負傷しました。でも計算通りです。あとは倉石が猛スピードで私たちを拾いに来ればいい。そのまま、残党の群れの中を一気に走り抜けるのです。」イヤホンから聞こえる声の調子に怪我は思ったより大きくはないと感じとった倉石はアクセルを踏み込んでアスファルトの道を一直線に突っ走った。一分も経たないうちに二人が見えてきた。ヘルメットと緩衝材入りのウェアの上にエアバッグが装着されているその姿は萎んだミシュランのキャラクターのようだった。ケイは腕を骨折しているようだ。マチェクは右足を引きずっている。「あの勢いで打ち出されたんだからな。それならカスリ傷で済んだようなもんだぜ。」倉石は二人を車に乗せると再び、メーターが振り切れるほどの加速を始めた。ゴルゴタの残党はどれも瀕死で車のスクラップが飛び散った中、薄れゆく意識の中で彼らをぼうっと見つめているようだった。中には薄らわらいを浮かべているものたちもいた。その笑みは三人を賞賛しているようにも見え、哀れんでいるようにも見えた。ケイは終わりが近づいているのを感じた。それが最終章なのか、第一章なのかはわからなかった。


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