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作品名:S・O・S : S-CITY OF SYADOWS 作者:ふ〜・あー・ゆう

第13回   13
「あの野郎、騙しやがったな。」「本当の爆弾に点火する気じゃねーのか。」「まさか自爆するってのかよ。」「気をつけろよ。」4人が外に残り、二人が後を追って中に入る。倉石の姿は見えない。「どこにも爆弾みたいなものはねーぞ。」「天井裏だ。煙が出てる。」「俺たちはあの幽霊野郎を探す。お前たちは所長室と社長室に分かれろ。」「わかった。」外の連中は2方向に分かれた。二人が天井に上がろうとしたその時、倉石が別の天井ダクトを蹴破って飛び降りてきた。「この幽霊野郎。」一人が銃を抜いて倉石に近寄ってくる。倉石が男の手元を蹴り上げると難なく銃を取り落とす。「こんなはずはねー。」男の表情が唖然とする。すぐさま、もう一人の男の股間に滑り込み、すり抜けざまに急所を殴りつけてトイレの外に出る。「まだマスクは外せねーな。」倉石は刑
のいる街に向かってゆうゆうと歩き出した。「どういうことだー!!。俺たちがあんな幽霊野郎にたやすく先制攻撃を受けるなんてー!!。」トイレから漏れる大声を聞いて倉石はマチェクから渡されていた起爆装置のボタンを押した。トイレの辺りがまぶしく発光し衝撃が長い廊下を突き抜けた。男達は自分達の麻痺に気づくことはなかった。「いい経験だったろ。ま、これでお前たちの人殺し稼業もお終いになるから安らかに眠りな。」社長室では社長を一人で護衛していた警備員が仲間と必死に連絡を取っていた。と、突然、天井のダクト板が外れて蝶番から板が宙吊りになった。経験からすれば、そこから侵入者が飛び降りてくる。警備員は咄嗟に銃を構えてダクト板に向ける。しかし、天井の相手は警備の男の姿も見ぬまま天井裏から銃を持った手のみを出してダクト板の裏側から男の額にブレットを射ち込んできた。マチェクだった。「ファイバー型スコープ付きの銃です。」天井裏から出てきたマチェクは社長に言った。社長はソファにもたれたまま、動けなくなっている。「このくねくね曲がったストローみたいなスコープがあれば、廊下の曲がり角からでも相手を見ないで狙い撃ちできるんですよ。」「ゴ、ゴルゴダか。」「人気ですねぇ、ゴルゴダは。」「何が狙いだ。」「あなたの脳みそが欲しいんです。」「なんだと!!」マチェクはためらわず、社長の頭部にスティレットを打ちこみ、少量のニトロが入ったカプセルを注入する。「何をした・・・・・あっあっ。」「今度はあなたを売り飛ばすんですよ。」彼は社長の肩口に手を回し乱暴にソファから払い落とすような造作をした。社長は床に転げ落ちた。「はっ、がっは」社長は寝ぼけたような半開きの目になった。「さあ、分析室に行きましょう。所長さんが待っています。」そのとき、ドアがけたたましく開かれ、警備員二人が飛び込んできた。
咄嗟に社長を放し、物陰に隠れたマチェクはファイバースコープで一人に狙いを定める。「社長!!」駆け寄るのと同時に頭を撃ちぬく。居場所に気づいた男が向かってくるが、これにも姿を見られずに心臓を撃ちぬいて処理する。「倉石、廊下にも撒いたんですね。おかげでこいつらの動きはちょっと緩慢です。」「念のためにな。ゆえに第3フロアの廊下は通るなよ。お前もラリっちまうからな。」「オッケーです。では、さらしの手順はお願いしますよ。」「了解。お前は社長とジェシーの交換を頼むぞ。」「わかりました。部屋に戻って新作アイテムを使ってみることにします。この男、見た目より重いので。」「新作で怪我するなよ。」「そちらもお元気で」マチェクは冗談を言う余裕があった。倉石は刑に連絡を取ってみることにした。応答が無い。「当然だな。そんな余裕
は無いか。」そのころ、刑は精根尽きはて、今は弁慶の立ち往生のごとく、殴られるままに殴られ、銃を持つもののみを相手にしている状態だった。銃を握った相手の手をひねり上げるその背後からは思い切りパイプで殴られ意識を失いかける。刃物で切りつけられた浅い傷などは気にかけずにゲートを死守していた。そんな刑の姿をじっと見ている所員がいた。その男はしかし、全てが終了したかのような顔をして、そのまま踵を返し群衆の奥へと消えていった。所長室に向かった男達の一団は所長室の爆発と共に潜伏スペースから放出された高濃度の麻酔ガスをたっぷり浴びて二度と覚めない昏睡状態に陥った。ただし、このガスは拡散せず、ひとところにとどまるので他の区画への影響は無い。その効果も数十分で消える。腰に特殊なベルトを装着したマチェクは分析室前の廊下に倒れている先ほどの七人の研究員達の傍に来てフラッシュを発光させた。気を失っていた研究員達が一斉に正気を取り戻した。「第三フロアの廊下は通らずに自室へ戻りなさい。分析室の中は絶対見ないように。直接見ると悪夢にうなされますから。では、さようなら。」研究員達がマチェクの声に目覚めて起き上がりかけたとき、既にマチェクの姿はそこに無かった。「刑、バカヤロウ。死んじまうぞ。」ゲートにかけつけた倉石は群衆の中に閃光弾を射ち込んで叫んだ。「命令で人を殺すような最低なことはしたく無い!!俺はやむをえないときに俺の判断でやる。」「せっかくの新人がテスト期間に死んじまっちゃなんにもなんねー。」「俺の勝手だ。」「よくそれで彼女みたいに透明になりたいなどといえたな。」一瞬の後、その言葉に刑は黙り込んだ。閃光弾の効果が切れて再び数人が向かってきた。「よく見ろ、刑。お前に弾き飛ばされても何度も向かってきてるのはみんな同じやつらだよ。自ら狂った研究に加担した奴らだ。銃をもてない取り巻きの研究員はずっと見てるだけだ。あいつらは拉致された奴らだ。あいつらはお前を見守っているんだ。助けてくれるんじゃないかとな。だから、お前一人でも何とかなってたんだよ。」「・・・・。」「夢中で気づかなかったな。冷静になってりゃ気づけたはずだがな。」そのとき、複数の銃声が連続して聞こえた。この機に乗じて素材の若者たちを外部に通ずるゲートに逃がそうと誘導していた研究員たちを狂信的な研究員達が狙い撃ちしていたのだ。「くそっ。」刑は立ち上がって走り出した。銃を乱射する男の頚椎に手刀を射ち込む。男は痙攣した後、絶命する。銃を所持しているのは拉致された科学者ではない。考えてみれば、当然のことだ。拉致された者たちに銃や刃物などの武器を与えれば、簡単に蜂起されてこの街は内部から瓦解する。なんでこんなことに気づかなかったのだ。銃を持った奴らは進んで悪魔の僕となったものたち。正しいものを悪に染めるもの達。ここでその芽を根絶やしにする。刑は蹴りや突きを次々と急所に撃ち込んで行く。頭からコンクリートに投げつけてやったものもいる。そのとき、大音量で倉石からの通信が入ってきた。「刑、やめろ!お前は結局身勝手な奴なんだよ。俺たちはターゲットだけをやればいい。あとは表の治安機構に任せるんだ。俺たちが何もかもやる必要は無い。」「うるせー、例外規定だよ。」「お前の場合は感情に任せた闇雲な殺しだ。」「マチェクよりはましだろ。あいつは仲間の研究員も殺した。」「あれはただの電気ショックだ。仕事の現場を見られないためのな。そろそろモニターに画像が写る。それで確かめてみな。」言うが早いか、街角の巨大モニターに身の毛のよだつ光景が映し出された。分析室にすえつけられたカメラは、開頭された頭部の中身が空っぽの社長の首と開腹されて臓器が空っぽの所長の前で悪夢を見たかのようにへたり込んでいる研究員達の姿を映し出した。画面には字幕も映っている。<それぞれの犯した罪をそれぞれがしたことと同じ形で償っていただきました。あなたはこの仕事やめますか。それとも人間やめますか>。「どこかで聞いたようなせりふだな。」マチェクからの通信が入ってきた。「直接見るなとは言っといたんですが。」ふと見ると街の中を三角の飛行体が飛んできた。「マチェク!!」刑が叫んだ。「このまま逃げますよ。このグライダーは社長を運ぶときにも役立ちました。」飛行体がこちらに接近してくる。それは超小型のハングライダーのようなものだった。肩と腰から伸びたパイプに固定されているジュラルミン製の三角翼。腰のベルトの左右から突き出した大型のノズルからは勢いよくガスを噴出している。マチェクはベルトの左右からレスキューロープを射出した。「低空でそこを通過します。それぞれ掴まってください。」マチェクが最接近した。倉石と刑はそれぞれロープにつかまった。マチェクは地上ハッチまで一気に加速、上昇した。「あの二人の中身はどうしたんだ。」ロープに揺られながら倉石が聞いた。「分析室の冷蔵保管室に丁寧に保管してきましたよ。新鮮だし、ちゃんと使える状態ですよ。」「ゲーッ、一気に具合が悪くなったぜ。」刑が本当に気分が悪そうにうめいた。「ってか、早すぎねーか。二人を空っぽにすんのが。」彼は吐き気を紛らすように続けた。「携帯レーザーメスと小型電動鋸であっという間ですよ。止血はレーザーで焼くので問題ありません。ただ、血抜きしていないので発見が遅いとお釈迦です。」「ウゲーッ、やっぱりあんたの感覚にはついていけねー。早く地上に出してくれ。」「もう少しですよ。地上に出たら計画当初から地中に隠しておいた小型ジェットに乗り換えです。」「あんた、超不気味だけど超周到で凄い奴だな。」倉石は刑の言葉をわらって聞いていた。そのとき、倉石にミストの中継点から連絡が入った。「任務完了の時間ですが、守備はどうですか。」「完了した。」「では、調査チームを順次派遣しておきます。」ほどなくミストの回収人たちが施設内の遺体やその一部を回収しにきた。数時間で本人かどうかの照合をする。「照合するまでもありません。一人逃がしました。」「ターゲットは二人と聞いていたが。」「いいえ、研究棟で4と言われていた男がいましてかなりジャンキーな奴だったんで私の判断で処分しようと考えていたんです。」「そんな勝手なことをしていいのか。」「行き過ぎていればミストのサポートが入ります。前にも言いましたがミストはプラン後のことはメンバーに任せます。」再び、中継点から連絡が入った。「レーダースタッフからの追加情報があります。ミッションとは別になりますが、聞きますか。」「一応。」「ターゲットの会社のナンバー3とナンバー4は小爆発の段階で早々に逃走したので潜伏の可能性があり、当局に捕らえられるには時間がかかるかもしれません。二人が破滅的・破壊的行動をとるリスクは80%前後あります。ですが、ミストは彼らについて関与はせず、表に任せるということで変更はありません。以上です。」「了解。」「何かあったのか。」「銃撃要員が二人ほど、事前に逃げ出してたそうだ。いや、俺たちが気にすることじゃないがな。」「危険人物じゃないのか。」「あなたは世界中のテロリストを一人で相手に出来ますか。」「そういうことだ。俺たちミストの役目は被害を最小限に抑える手伝いをすることだ。メインは表の連中だ。」地上へ出るハッチが見えてきた。マチェクは上方のハッチに向けてピストルを撃った。粘着物が付着して一瞬の後、爆発が起き、ハッチの隅に穴が開いた。「どんなものでも、もろい部分があります。」マチェクは人3人が何とかすり抜けられる大きさのハッチの孔を目指して、加速した。穴を抜けて地上に飛び出した三人はまだ夜明けまで間がある砂漠の一点に降り立った。「50センチほど掘れば機首を覆った保護シートが見えます。あとは使いきりの浮上用エンジンの稼動で機体が地上に現れます。」三人はすぐさま手にした折りたたみ式のスコップで砂を掘り始めた。程なく機首が見え、マチェクがエンジンを起動した。月に一度は素材の補充に立ち会う際にリモコンで試運転しておいたのでエンジンには問題は無かった。ロケットのように機首を空に向けて浮上した機体を三人で水平にする。車輪の部分は滑走路の無い砂地に対応する為か飛行艇のような形状になっている。ジェットは蒼い地平線に向けて離陸した。「一旦上昇した後は燃料節約とゴルゴダやロシアのレーダーにひっかからないように低空で行きます。4時間ほどで日本海上空に出ます。」「逃げた二人ってのはマッドサイエンティストなのか、それとも思想や宗教にかぶれたテロリストなのか。いったいどんなやつらなんだ。」刑が唐突に尋ねた。「一人は多様な世界の価値観をアウフヘーベンするスーパーイデオロギーの構築のためにかつての天才の復活が不可欠だと考えて国家に売り込もうとしていた。」「ロシア人てことか。」「しかし、そいつの考えはソ連の復活や世界革命をなしとげようというもんでもない。結局は富と名声が欲しかっただけてだ。」「自己顕示欲と金銭欲の固まりみたいなもんか。」「そんなとこだな。旧ソ連の亡霊たちが生み出したいのは天才的独裁者だ。スターリンの強引さ、異質だがヒトラーのカリスマ的アジテーション能力、マルクスやレーニン並みの頭脳。それを提供できると持ちかけたんだ。うまくいけば国家予算並みの金と愛国の徒としての名声も得られる。」「しかしですね。優秀すぎる人間は一代限りで終わり、その知識・知恵は後世には残りますが、その子孫が残されることはほとんどなく優秀な遺伝子はそこで絶えます。私のように・・・。多分、それが進化にとって程よい速度なのです。私を含め、天才を理解するには時を必要としますからね。」「あんたは天才というより、いかれた奴との紙一重なんだよ。」「人のジェットに乗りつつ、よくもそこまで悪し様にいってくれますね。」「刑、あまり嫌味を言うなよ。」「へいへい。つまり、偉人の脳を保存しておいてビジネスにしようとしても意味は無いってこったよな。」「少々、強引な結論ですがね。」「知ったこっちゃねーや。あんな魚の白子みたいなもんのために何人もが実験されて死んだりしてたんだ。」「しかし、だからといって、街に潜入する前にサンプルルームの脳標本に火炎弾を発射して全部焼き払っちまってたとはな・・・。脳だけになっても意識はあったかも知れない。」「そこまでは考えて無かったな。とにかくあれが無くなりゃ野望をもつ奴らも現れないだろうと思ってな。サンプルは一瞬で灰になったぜ。で、もう一人は・・・。」「そいつはただのテロリストだ。有能な人材をテロに利用しようとしてた。元々会社の為にとは考えちゃいない。だが、何も実現せぬまま、リーダーが暗殺されたんで目的を失ったようだ。あいつは死に場所を求めてる。奴の死に場所でのお相手は多分、警察機構になる。」「それはまさか、日本じゃ・・・・。」「極東ル
ートでの脱出となりゃ、ありえねーことじゃないがな。」「そいつをほっとけというねごとをいってるミストについてはどこまでわかってんだ。」「ミストは現在、7人のブレインの合議によって動いている。通称はセブン・ブレイン。ミストは末端の俺たちにも自分たちのある程度の情報は提供してくれてる。ま、裏切りがあれば、俺たちを抹殺するよりも、ブレイン達の方で存在形態を変えてどこかへ消え失せるらしいがな。」「セブン・ブレイン・・・・・、何だかどっかの店のような・・・、こんなときにふざけてんのか。」「今現在の話ですよ。彼らと志を同じくして同じレベルでネットワークの深部に介入でき、暗号を解いて同レベルで対話できる人間がいれば、ブレインの数は増えたりも減ったりもします。彼らは各国諜報部のトップレベルの頭脳を凌駕するスーパーエリートの結合体なのです。ただし、中枢は一極集中ではなく、原始的ですが、昆虫のように四肢のような末端の組織に散在しています。全てを同時に攻撃されない限り、壊滅はありません。」「あんたより優秀なのか。」「私は技術屋です。武器開発と殺人のね。」「あんたの殺人は技術じゃねーよ。アイテムのおかげだ。」「痛いところを突きますね。」「確かに技術なら刑の方が上だな。だから、お前と組むことにした。」倉石がつぶやいた。「サンキュー。でも、それだけの能力があるなら、なぜブレインは表で行動しないんだ。」「この世界で、正しいことが全て通ると思ってるんですか。だいたい世界を動かしてると思い込んでるおばかさんの中にミストの天才の未来予測を理解できる方がどれだけいると思いますか。」「それは言いすぎだろ。優秀な奴もいる。」「優秀なのはほとんどが為政者の側近でリーダーじゃありません。」「側近がリーダーに進言すりゃいいだろ。」「賢い奴は責任を負いたくない。表には出ない。」「まわりくどいな。何が言いたい。」「わざわざ自分の身を危うくしてまで真理を貫ける方は希少だということですよ。天才の存在はリーダーにとっても側近にとっても、むしろ脅威なのです。」「しかも、その天才が一介のパン屋の主人だったりしたらな。」「知ってるのか。ブレインの正体を。」「たとえば・・・だよ。ただ、目立てば危険だからな。」「ミストのことはそのぐらいでいいや。俺はやはり、テロリスト野郎が気になる。」


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