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作品名:S・O・S : S-CITY OF SYADOWS 作者:ふ〜・あー・ゆう

第11回   11
「じゃ、俺は例の場所に行くぜ。」倉石が出て行った。「あいつはどこへ。」「トイレです、どんな施設でも必ずありますからね。そこでは皆、無防備にもなります。」「そこでターゲットをやるのか。」「いいえ、仕掛けるのはターゲットの潜伏場所です。」「分析室でやるんじゃないのか。」「私達が分析室に行くのは役者がそろうのを確かめるのとギャラリー達にターゲットの末路を晒す為です。実際に仕掛けるのは私の通信機が設置してあるターゲットの部屋です。2年がかりで私の潜伏スペースを仕込みました。」「お前が一人でやるのか。」「もともと倉石と二人でやる予定でしたからね。あなたには雑魚の相手を頼みます。私が完了の連絡をするまでは雑魚の足止めをしてください。もちろん、永遠に眠らせてもかまいません。」「冗談じゃねー。闇雲な殺しはごめんだ。お前の言うようにはなんねー。」「どうぞお好きなように。難しいとは思いますが。」「くそっ、実行はいつだ。」「0時です。」「二時間後か、その時間にターゲットがそろうと言うわけだ。」「例外規定も考えると、分析室ごと一気にふっ飛ばしてもオッケーなのですが、ターゲット本人か替え玉かを確かめてからの実行になります。」「確かめる?」「これを使います。」「髪の毛みたいだな。いや、もっと細いな。」「蚊の口みたいなものです。これをターゲットの体のどこかに刺してこの検査器でDNAを調べます。」「その場で調べられるのか。」「結果が出るまで一時間はかかりますから。つまり、その場ですぐに吹っ飛ばすことは出来ませんね。二人がいつ部屋を出て行くとも限らない。」「お前は吹っ飛ばすことしか考えていないのか。」「いえ、試したい手口はまだありますから。まあ、そんなわけで、、実行はやはり彼らのプライベート・ルームにしたのです。作戦完了は2時です。」そのとき、倉石から連絡が入った。社長は1時間ほど遅れるらしい。「完了は3時に変更です。おそらく急に大国からの依頼が入ったのでしょう。もしくは、ゴルゴダか依頼主が雇った暗殺者からの偽の連絡かもしれません。」「それじゃ、俺たちの仕事がなくなるな。」「それは無いです。彼らトップの雇っている身辺警護の輩は相当な腕です。私が潜入してから5度の暗殺未遂が起きています。」「情報が漏れるのか。」「それもあります。でも全て実行寸前に殲滅されていました。警護はぴったり貼り付いているのや遠くから周囲を監視しているのがいますから、とにかく近づかずに処分することになります。」「あんた一人でか・・。」「倉石はトイレの中に無色無臭の麻酔ガスを散布しています。もちろん昏睡するほどの量ではありませんが、ごく軽い麻痺を起します。つまり、警護の連中が利用してくれれば反応が少し鈍ります。それを期待しているわけです。」「そんなに都合よく行くかな。」「時間がありません。とにかく、あなたは異変に気づいた所員をしっかり止めて置いてくださいね。」「気づく奴なんているかな。」「いなけりゃ、ラッキーです。行きますよ。」
俺は居住区の出入り口付近で待機した。異変に気づいた連中が出てきたら対応する為だ。気づくのはトップに近い連中だけだろうから大した数じゃない。いや、侵入者アリという情報が流れれば町での騒ぎのときのように大勢が一斉に向かってくる可能性もある。そのときは例外規定・・・。適用の理由は知らねーがターゲット以外の抹殺が可能だ。気は進まねーが戦場ならば致し方ない。
マチェクはエレベータに乗り、分析室に向かった。もとより中枢部から招集のかかっていたマチェクだが、そっちの方にちょこちょこ顔を出しては抜け出して俺たちと落ち合っていたのだ。マチェクは室内のメンバーに変わりが無いかをそれとなく確かめる。いつもの8人のスタッフが社長と所長の到着を待っていた。中にジェシーの頭部をつぶさに観察している者が一人いた。マチェクはジェシーを見つめている男に言った。「何か分かりましたか。」「我々の知りうる技術ではないということで皆一致したんだが、どんな連中が何の目的で・・・。」「これは我々への脅迫状か挑戦状だ。」傍らで立ち尽くしている者が言った。「所長はまだ来られないのですか。」「社長と一緒に来る予定だ。遅れるらしい。」なるほど、情報は偽では無いらしい。しかし、マチェクは何か違和感を感じていた。こちらから仕掛けてみることにする。「ゴルゴダの仕業かもしれませんね。」「ゴルゴダか。奴らは大国に雇われて証拠隠滅を図ろうとしてるしな。我々を抹殺するのが彼らの狙いだ。」「でも、ゴルゴダならこんな回りくどいことはしないな。侵入者に先導させて重火器を持った部隊が突入してくるか、せめてこの頭部に爆薬を仕込んで全部を吹っ飛ばすかだろう。」「随分と残酷なことを言いますね。彼女を吹っ飛ばすなんて。」マチェクは、らしくない言葉を発した。「素材に対して同情するのか。確かに美しい女だが、まさかお前もこの女に・・・・。」ジェシーを見つめ続けている男が行った。「あの研究員のようにですか。馬鹿な。でも、あなたよりは彼の気持ちを分かりますよ。」「どういう意味かな。俺だって男としてこの女の美しさは分かる。だが研究者としては素材として見る。」「ちょっとおかしいですね。あなた自分で言っていたんですよ。」「ほう。何のことか忘れてしまったな。」「お前、マチェクのことをゲイに違いないと言っていただろ。俺と同類だと。」長いすに腰掛けて半分寝そべっている男が言った。「優秀すぎる男にゲイが多いのはたぶん進化の速度を調節するためです。あまりに進化のスピードが早いと滅ぶのも早いですから。ちなみに私は優秀すぎますが根っからのゲイではありません。ただ、女を欲さないだけです。いや、形ばかりの儀式はジュニアハイの頃に済ませてありますよ。もちろん、男を欲したこともありません。」「それ見ろ。俺が言ったとおりだ。マチェクは聖職者並みだと言ったろ。」長椅子の男が上体を起こして言った。「そうか。俺とは同類じゃないのか。」男は落胆したように言った。「気にしないでいいですよ。研究への志はあなたの方が高い。」「ありがとう。」「あっ、そうだ。ちょっと来てもらえますか。すぐに戻りますから。」マチェクはゲイの男に声をかけた。「ああ。」男はマチェクに言われるまま、部屋を出た。中の連中は薄ら笑いをしていた。彼らはゲイとしての二人の行状をよく見かけていたからだ。いつもはマチェクが男に誘われていた。実際はマチェクが男を利用していたのだ。潜伏スペースはその恩恵だ。マチェクは分析室から続く廊下の突き当りを曲がると男に顔を近づけた。いつもは男からマチェクを求めてきていた。が、男は一瞬ひるんだ。「いつものことですよ。」端正なマスクのマチェクの唇が男の唇に近づく。マチェクはかすかな声で言った。「この顔は偽物ですね。フェイク・フェイス・・・。」「きさま、ミストか。あの頭部はお前らが。」「ミストを知っているのはゴルゴダですね。さようなら。」マチェクは男の手を握手するように握りしめた。手の平に貼り付けていた注射針からシアンが注入された。男はあっという間に崩れ落ちた。いつものミストのミッションならこの手の手口でお終いだ。だが、今回は晒すまでのミッションがある。マチェクは男の顔のマスクを剥いで放置した。「本当のゲイならあんなに男のような目つきでジェシーを見つめませんからね。それが違和感の正体ですよ・・・。」マチェクは居住区に向かった。本物のゲイの男は社長達の移動経路ではないところに隠してあるはずだ。数時間前に入れ替わったと考えると、どこで接触したかがポイントだ。研究員が部屋から出るのはトイレか自室へ向かうとき。潜入したあのゴルゴダはわざと拉致されたか素材として潜入してきたはず。だとすれば、ゲイだった彼がジェシーのことで混乱してストレスも高まり我慢できなくなって欲求に駆られるまま街へ行った。そして街で好みの素材を確保するつもりだったのが近づいてきたゴルゴダに逆に眠らされてしまったと考えるのが自然だ。マチェクは急いだ。計画実行まで後、一時間。部屋を出てから十分が経っている。素材の街には数人の研究員が歩いていた。いつもと変わらぬ風景だ。この街のどこかにあのゲイの男は眠っている。潜入したゴルゴダが仲間の襲撃を先導するまでは見つからぬ場所。人の出入りが少ないところ、あるいは決まった時間にしか人が出入りしないところ。マチェクは勘を頼りに礼拝堂に向かった。信仰の拠点は素材洗脳の拠点であり、この街の住人は時と共に信仰心が薄れていく。彼らが拠点に出入りする時刻も限られている。マチェクは礼拝堂の奥に向かい、棺の蓋を少しずらした。。本来この棺の中は空だ。しかし、そこには首にアザのついたあの男が眠っていた。今はまだ必要以上の騒ぎは起せない。居住区の研究員には緊急放送で社長と所長の暗殺を告げる計画だ。今は何事もなく、やり過ごさねば、計画した作戦の効果はどうなるかわからない。そもそも暴動でも起きれば作戦そのものの失敗も考えられる。たしかに外の研究員に声をかければこの男を運び出すのは容易いがそうもいかないのだ。マチェクは男を棺から引っ張り出すと腕を肩に回し抱きかかえるようにして街を出た。死後硬直はまだ進んでいない。しかし、その重さは通常の二倍に感じられる。全身から汗が吹き出た。分析室のメンバーはマチェクと男を見て驚愕した。「偽者はどうしたんだ。」「彼が私を拒否したのでおかしいと思いました。そこでゴルゴダかと鎌をかけたらあっさりと認めて襲い掛かってきたので護身用のシアンを射ち込みました。角に放置してあります。」「そうか。尋問してもしゃべらんだろうし、本隊と連絡を取られても困るし、マチェクの判断は間違いじゃないな。」「街の研究員には知らせてません。社長・所長が見える日ですから無用な騒ぎは起したくなかったので。」「ふーむ、後片付けは社長達の警護の連中に頼もう。」マチェクは安堵した。死人に口無し。ミストのこともばれずに済みそうだ。計画実行まであと十五分になった。


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