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作品名:YOKONORI RACER(ヨコノリ・レーサー) 作者:ふ〜・あー・ゆう

第7回   7
「ステアー(階段)やその左右の仕切り部分の段差、ハンドレール(手すり)、段差とバリアフリーのスロープとの交差部分、駐車場の仕切りのチェーン、アンダーパス(地下道)でのウォールライド(トンネル壁の曲面を上ったりする)等々。でも、一番の問題は登りのハンドレール(手すり)。」
「登りのステアー(階段)かギャップ(段差)の間違いだろ。3段程度の階段に飛び乗ったり、段差に乗ったりとか。登りレールなんて、スノボのジブ(レールやボックス)じゃねーんだぞ。」瀬津が声を上げた。
「加速ポイントで確実に速度をつけろってこったな。」タテうらが言った。
「やめた方がいいのではないですかね。危険でお金もかかりますし。」ジージが言った。
「レースと聞けば、何でもかんでもトライするのがチームってことでもないしね。」瀬津が言った。
「いいや、エントリーはするんだ。でないと、うちらが集まってる意味ねーし、チーム椎野のモットーは〜継続は力な・・・。」
「それ以上、言うなぁ!」瀬津が鬱陶しい感じで椎野を遮った。
「とにかくうちらにとっちゃ、短時間の打ち合わせで済む内容じゃないな。」タテうらが言った。
「だから、俺の都合に合わせて、みんなに集まってもらったわけなのよ。」
「まぁ、ほとんどのレースの資金繰りは椎野さんのおかげですからあまり文句は言えませんなぁ。」チームの経理補佐のジージが言った。一応、経理担当は椎野になってはいるのだが、かなりな丼勘定のため、実質、ジージに丸投げされていた。
「わかりましたよ。じゃ、たとえば、シングルでのエントリーなら、タテうらさんが出て、うちらがサポートに回るってのはありだよね。今回も僕が出るってのは正直、体力きついし。」
「アイテムの補修も1台分で済むし、1人のエントリーなら私ら節制必須のチームとしてはありがたいね。」ジージが答えた。
「椎野のモットーは別として、次回のレースを待つという選択肢は無いのかい。」タテうらが言った。
「オーナーとしてはそういうこと考えてません。毎日踏ん張って働いてんのは1にレース、2にレース・・・・、このチームをメジャーにするためなのですから。」
「お前のチーム作りの動機って、そんな普通だったのか。」瀬津が言った。
「こんな雨後の筍たちのレースで名前売っても、将来なんて保障されねーよ。潮時考えて仕切ったほうがいいぞ。」タテうらがシビアに言った。
「いずれにしても、負けたら選手登録料が丸々むだになるよ。馬鹿にならんよ。」チーム会計の補佐役になっているジージが言った。メインの会計は椎野である。
「地方や海外のときみたいに遠征費が、かかんないだけましだよ。」椎野が言った。
「おいおい、海外は元とれるだけの賞金があるぞ。悪くても、チョンチョンだ。」海外の大会経験があるタテうらが言った。
「とは言え、うちらに海外遠征なんて無理だし、外資系企業主催の大会に出るっていうのが現実的だね。」瀬津が言った。
「たしかにな。でも、今度のレースは優勝以外にゃ賞金がねぇらしいじゃねーか。」スケートの腕前は一番のタテやんこと、タテうらがぽつりと言った。
「優勝だけ!?」瀬津が声を上げた。
「タテうらさん、知ってたんですか。」ジージが言った。
「以前、世話になった人が今でも情報だけは伝えてくれるんだよね。ま、いずれ公になるよう情報ばかりだけど、他人より少し早めに知らせてもらえる。」タテうらが言った。
「また、へんてこな偏った感覚の主催者かよ。」椎野が言った。
「都市部のストリートだからだよ。いつもは風光明媚でも過疎化の進んでる地方だからな。」タテうらが言った。
「近頃の大会スポンサーの大半が日本企業になっちゃってんじゃないの。」瀬津が言った。
「多分な。ゲーム本場の外資系ならもっと羽振りがいいかも知れねーな。」タテうらが言った。
「都市部ではマラソン大会で10億以上、かかるという話ですよ。だから、スポンサーも思案した末に優勝のみ賞金を与えることにしたんでしょう。」ジージが言った。
「スケートレースは参加人数も多い方じゃないしレース時間が短い分、少しは安上りなんだろうけど、それでも、いくらか足りないだろうからスポンサー自身もそれなりに出してるんだろうな。」瀬津がとりあえず納得する調子で言った。
「で、賞金ケチって、エントリーは馬鹿高いってわけかい。」
「仕方ないでしょうな。この国では未だマイナースポーツのゆえにお金のことはとやかく言えないわけですよ。」ジージがため息混じりに言う。
「でも、エントリーが極端に少なかったらどうすんだ。」椎野がぽつりと言った。
「今はとりあえず上り坂のスポーツだし、主催者側でも別ルートで選手を集めたり、協賛金をかき集めたりするんじゃないの。」瀬津が言った。
「どの選手もかなり必死だろうな。大会に出るだけで20万とられんだからな。」バイト代でチームを実質的にサポートする椎野が言った。
「とは言え、都心部でやりゃ、俺たちもスポンサーも知名度が上がるんだし、金はかかるが双方にいい効果があるんじゃねーか。」タテうらが言った。
「そうですね。勝てば、それなりに名も売れるし、大金も入る。」
「でも、負けりゃリスクがでかい。しばらくまともな練習もできねぇぞ。みんなにも働いてもらわなきゃな。」椎野がぽつりと言った。
「いやだぜ。俺は楽して生きたいね。」タテうらがつぶやいた。
「タテさん、レースが好きなの、金が好きなの。なんつって、やっぱ両方だよね。」椎野は立ち上がって作業机の方へ行きながら付け加えた。
「とにかく参加登録の費用は俺が稼いでくるよ、その代わり、レースに出るのはパス。」椎野は自分より腕のあるタテうらや瀬津が練習に集中できるように資金面でがんばる立場にいた。
「個人レーサーは、にわかチームを組むかもね。思ったより距離が長くスタミナが要るみたいだし。」瀬津が言った。
「絶対に勝ちたきゃ、シングルで出るのはきついな。」タテうらが言った。
「俺に策がある。」椎野は作業机の引き出しから何かを取り出した。
「1人で出るってのか。勝ち目はほとんど無いぞ。」
「だから、策があると言ってるじゃないすか。」
「どんな策があんだよ。」
「実は、俺が手塩にかけて磨いたベアリングあるんですよ。」椎野が言った。
「磨いたって?」瀬津が驚いて言った。
「嘘だよ。過去に使ったベアリングから極上のボールだけを集めてエイベック無限にしたオリジナルベアリングなんだ。」
「ほんとかよ。いつの間に。」
「当てになるのか。」瀬津にタテうらが続いた。
「俺の指先は人並み以上に繊細なんだ。精巧なゲージ並みなんよ。」
「異常だな。ありがたいが・・・。」タテうらがあきれた。椎野は港近くの鉄鋼場で非正規の工員をしていたことがある。出来上がったベアリングから抽出したベアリングをテストゲージで測るときに自分の手指もゲージ代わりにして試していたことがある。
「じゃ、見せてやるぜ。このベアリングの実力を。」ずっと黙っていたジージも腰を上げた。

四人は外に出た。夕日が頭上のハイウェイと街灯を照らしていた。
大き目の58ミリウィールに椎野の特製ベアリングを装着したデッキに一番体重の軽い瀬津が試乗してハイウェイの下を滑走してみる。一蹴りでかなりの距離を進む。楽に80メートルは進む。プッシュのときの瞬間的な制動が軽減できれば、数秒でかなりのスピードに到達できそうである。問題は板の加速に体が追いついていけるかだ。プッシュの瞬間に転げて置き去りにされる可能性が高い。
四人は橋梁部の下にある広場へ行き、思い思いに腰掛けた。
「ノーズ(先端)よりに乗って、シューズの裏、ツルツルにしときゃいいだろ。」椎野が言った。
「どう言うこっちゃ。」瀬津が言った。
「なんとなくっつーか、前足がデッキの上でスリップすれば、乗り遅れないかなっと。」
「デッキ上でスリップしながら乗り続けるっての。アホか、そんなん、こけるわ。」
「上半身がついてこれりゃ、そんなわけ分からんことしなくていい。鍛えろよ。」タテうらが言った。
「ロンスケに使ったら安定感あるんじゃないの。今回はロンスケでいきませんか。いや、私が出るということじゃなくてね。」ジージが言った。ロンスケとはロングスケートボードのことで、大きさは通常の1.5倍近い長さがある。
「ロンスケは直線では有利だけど障害物の多いストリートに入ってからがきつい。途中で段差を越えてかなり狭い通路を通る。」タテうらが言った。
「通路の進入は早いもん勝ちかぁ。」椎野が言った。
「素早く段差を越えるには、オーリー(ジャンプ)がいるな。」瀬津が言った。
「ロンスケ(ロングスケートボード)でオーリー(ジャンプ)はきついな。ってか、ほとんど無理だ。」タテうらが言った。
「エリア内を通過するなら迂回は可能ですよ。」ジージが言った。
「そうですね。でも、迂回するならロンスケが有利です。」瀬津が言った。
「それじゃ、エントリーが二人になるかもってか!おい40万出すことになんぞ!!」椎野が思わず声を上げた。そして、声のトーンを下げ、頭を振りながら言った。
「だめだめ、最短コースを行かなきゃ、優勝は難しいよ。迂回は相当な大回りだ。」
「つまり、一番で路地の通路に入って後ろの連中を押さえ込んでゴールを目指そうってことだな。」タテうらが言った。
「そうっす。」
「ピットはどこにスタンバイできるんだ。」タテうらが言った。
「主催者もその点考えてて、路地を出るまではピットを一切設けてない。つまり、スタートでロンスケだと、初めから迂回コース狙いになる。」
「ってこたぁ、基本コースを行くんなら、通常サイズのスケボーが有利なわけね。」瀬津が言った。
「ロンスケが限りなく加速できれば・・・現にスタートがロンスケのエントリーもあるようです。」ジージが言った。
「椎野のベアリングなら可能なんじゃないのか。」タテうらが言った。
「あれは、ロンスケ用に考えたんじゃないんで・・・。」内心、問題ないとは思いつつ、二人分のエントリーを阻みたい椎野は自信無さげに言った。
「路地を出てからピットがあるってのはどういうことだろう?。」瀬津が言った。
「もし、デッキを交換したいなら、その前に路地抜けでトリック見せろってこったろうね。ギャラリーを楽しませる為にね。」タテうらが言った。
「そこから、ロンスケ(ロングスケートボード)や大口径のウィール(タイヤ)に交換してゴールを目指せってことだな。」椎野が言った。
「仕方ない。2人出るというのはどうなんですかね。」ジージが言った。
「2人?1人で十分なように特性ベアリングを用意したんですよ。さっき参加料が倍になるって言ったんだけど。聞いてましたよねぇ。」話をぼんやり聞いていたジージに椎野が念を押した。
「そのベアリングでどちらかが勝てば損しないでしょ。ショートとロンスケでエントリーして・・・」ジージは本気で言ったのだということをアピールした。
「迂回コースならロンスケ派のジージの出番もあるってわけだしね。」タテうらが言った。
「いえいえ、私はとてもとても。」と言いつつ、目はやる気満々のジージであった。元々、エントリーが夢だったのだから、まんざらでもない。ジージは続けた。「一応、ショート(この場合、通常サイズのデッキ)での超低空オーリーぐらいならできるかも知れませんがねぇ。」
「迂回コースはテイクオーバーゾーンの長さが魅力だね。突っ走りながらバトンタッチできる。」瀬津が言った。
「そのまま通過するシングル参加の選手にとってのメリットはほとんど無いってことか。」椎野が言った。
「スタミナ勝負で一定速度を保つシングル参加よりコンスタントに加速し続けるチーム参加に有利になってる。エントリー登録料でしっかり稼ぐつもりだな。」タテうらが言った。
「最短コースと迂回コースのエントリーで40万。さらに迂回でリレーするなら、60万か。」世津が言った。
「世津、簡単に無責任な発言せんでくれぇ・・・。」椎野が呻いた。
「いくら、賞金がでかくても、そんなエントリーをするやつぁ、いねーな。迂回コースに絞って、リレーして40万のエントリーがいいとこだろ。」タテうらが言った。
「・・・ですね。金をかけてエントリーを増やすぐらいなら、せいぜい各ピットでのデッキ交換のバリエーションを豊富にすることを考えるでしょうね。」
「・・・あのね、結局、2人エントリーに決まりなのかね、君達・・・・・でもね・・・両方、負けたらどうなるのかね・・・・悪夢ですよ・・・俺、バイト、フル回転なんだけどね・・・。」全レース参加と言いながらもエントリーが2人になるという予想外の事態に椎野が頭を抱えた。
「必ず、元は取るよ。お前の夢の為にもな。ヘっヘっヘっ。」タテうらがいい加減な感じで笑いながら言った。


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