十数分が経った。瀬津とタテうらも話題が変わっていた。 「思いついたんですが、交替で泊まったらどうすかねぇ。」 「なるほど。泊まった翌日がレースなら最高だな。」 「泊まる予定の日の朝に降られたら残念ですけどね。」 椎野がそろりと戻ってきた。 「あーっ、俺はずしてー、いい話してんじゃんよー。よー。」 「ん、お前、酒飲んでんな。」 「タテうらさん、帰り、運転頼みますよー。よー。」 「のんきだな。やっぱり、足慣らしじゃん。」 「ちがうわー。あんたら、風流ってもんが無ーい。なぜー、飲んだかーというにー、それはーそこにー酒があるからだー。しかも、月がきれい過ぎたー。」 「うーむ、レースの話、後にするか。」タテうらが椎野に聞いた。 「いえ、だいじょぶです。車乗ったらすぐ寝ーるーと思うんで、今のうちにー。」 「じゃ、しっかり聞けよ。明日、出陣ということもあるからな。」 「ふーい。」 「だいじょぶかなー。」 「まっ、いいか。そんな難しい策じゃないからな。」心配する瀬津のつぶやきにタテうらが答えた。 「よく聞け。基本、体重のあるお前が先頭で下って、ライン(雪上の道)を作る。ブッシュ(草木の上)も同様だ。ただし、ブッシュが相当に深いときは一番軽い瀬津が滑って、およそのラインを作る。軽4輪がダートでとり回しがよい理屈だ。お前だと重くて刺さりこんだらストップ、即リタイアになっちまうからな。」 「それでも、僕が作るラインは少し草が寝る程度だから、次はタテうらさんが踏んでより寝た感じにする。そのあと、お前が滑る。ここで難しいのは互いの距離だ。体重の重いお前が近づきすぎてると俺達が地ならしする前にお前が突っ込んできて、ドミノ倒しになってアウトだ。」 「つーまーりー、深めーのブッシューがー見えたらー、すぐに先頭をー、ゆずってー、減速してーってなわけね。」 「そうだ。」 「平地はどーすんのー。」 「平地は多分、ゴールになってくると思われるんだ。」 「そこでは個々の速度に遵ずる。つまり、速い者が前に出る。理想的には体重のあるお前が最初に先頭で風を切り、減速してきたら、俺が出て、次に瀬津が出てゴール。ただ、それまでのコースで誰が先頭になっているかにもよる。」 「みんなが平地をクリアーしてきたらー、どうなるのかなー。」 「下りなら基本と同じ。考えられるのは傾斜の緩い登りがゴールになってくる可能性もある。」 「そんときも深いブッシュの時と同じだよ。僕が先頭になって、後続チームがクリアできないと判断したらできるだけ遠くへジャンプして膝をついてストップ。そこでゴール。」 「とにかく、ゴールの判断は俺か瀬津がする。相手を見くびっちまったときは許せよ。」 「ふーむ、了解。後続との差がうーんと開いたとか、速度が俺達よりー、おっせぇー、って感じたときにゴールインするわけねー。」 「そういうことだ。」 「やったー。にゅーしょー、できるー。」 「声でかいぞ。」 「でー、さっきのー、寝床の件だけどー。」 「ちぇっ、覚えてたのか。」瀬津が舌打ちした。 「俺もー、泊まりたいんだぞう。」 「ちゃんと公平に決めるよ。」 「いや、俺、明後日がいいー。タテうらさんは明日ー。」 「ジャンケンしなよ。」 「俺、オーナーだしー。金出してるしー、ちょっとぐらいわがまま聞いてくれもいいじゃんかー。」 椎野はレース日を予想する為に天気予報を随時チェックしていた。脳裏にも深く刻まれたその情報が酔った椎野の意識の一部だけを覚醒させていた。明後日は晴れ、やの明後日が雪。ならば、明後日に宿泊した翌日が雪なわけで、つまりレース前に心身とも最高のコンディションになれるわけで、あったかい布団からの目覚めと格別の朝食を摂ってからの出陣。こりゃ、理想的ー。 「瀬津、椎野の言う通りでいいよ。」 「ばんざーい。も少し、あったまろう。」温泉好きの椎野は再び奥の方へ泳いでいった。酒を買う金はもう持っていないようだったので二人は椎野の好きにさせ、先に風呂を上がって休憩室で休んでいた。 「瀬津の板は細めだったよな。摩擦が少ない分、荒れた面では進みそうだが、浮力が弱いからいくら体重が軽いとは言え、ブッシュで沈み込まないよう、気をつけてな。」 「ええ。とりあえず、椎野の板は太いので浮力ありますから、なるべく雪面を見つけてもらうことですね。」
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