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作品名:YOKONORI RACER(ヨコノリ・レーサー) 作者:ふ〜・あー・ゆう

第19回   19
市内の山に初雪が降って、数日が経った。人工雪を散布するスキー場はさらなる降雪を待っていた。
チーム椎野のメンバーは冬レースに向けて順調にスタンバイ・・・と言いたいところ。でも、財力のあるチームのように海外で一足お先に練習とも行かず、公園の駐車場の片隅でまったりとロンスケでクルージングの日々を過ごしていたのでありました。
特に無職の元エリートの瀬津などは腹も出てきそうなぐらいに何もしていない異様にまったりな日々を過ごしておりました。就活はもうあきらめたのでしょうか。実際、彼の腹が出てきていないのは単に食生活が貧しいからでありますが、それでも今日もまた1人ニート生活を謳歌してのまったりクルージングをしておるのでありました。
そこへ、血相をかいて腹の出始めた椎野がやってきました。椎野は一応、コンビニの雇われ店長なのでそこそこ栄養もよく、運動不足が重なって恰幅がよくなりかけているのでありました。
「ちょっと遠いんだけど、大雪山方面で初レースの企画があるってさ。」
「まさか・・・。この時期じゃブッシュ(雪上に露出している灌木の茂みなど)ばかりで滑走自体無理だよ。マウンテンボード・レースの間違いじゃないの。」
「いや、さ来週上陸する寒気団を当てにして一週間の予定で旅館に滞在したチームがエントリーできる企画なんだよね」
「また、おかしなマイナーレースかい。まあ、俺達マイナーチームがメジャーなレースに出ても予選前に落とされるだろうけどさ。」
「賞金もまあまあなんだよね〜。」
「ちよっと待てよ。旅館に一週間滞在なんて、はんぱなく金かかるし、賞金でなかったらどうすんの。」
「雇ってもらうかな、女将さんに。」
「あほらし・・。」
「冗談だよ。1名以上が滞在ならエントリーオッケーなんだ。」
「それにしたって浪費だよ。」
「まあ、聞いてくれよ。3位以内なら、旅館の温泉入り放題で高級料理と宿泊料金がただになって、さらに賞金が貰えるんだ。」
「ってことは、4位以下なら食事代と宿泊料をはらわにゃならんくなるわけね。大食い挑戦の店とかと同じじゃねーか。完食できればただ、残したら全額いただきますってか。止めとけよ。」
「いやぁ、高級料理食いたいねん・・・。」
「こういうときだけ、関西弁にすな。生粋の道産子の癖に!!」
「いや、もう登録料、振り込んだんだよね。」
「ばっきゃろう、ミッキーみたいなことしてんじゃねーよ。」
「ミッキー?誰だっけ・・・・、あっ、オタク君ね。・・・・失敬な!一緒にすな!!俺はね、足慣らしの大会にいいかなと思ってね。って言うか、そろそろやばそうじゃん、この腹とか・・・。」
「そりゃ、お前の問題だろ。俺はむしろ、ひっこんでる。」
「だろ!だろ!!だから、レースに出て稼ぐんだ、稼いでしっかり食うんだ、健康的に体を動かすんだよ。」
「いまいち納得いかんな。」
「働けど働けどわが暮らし楽にならざりき、じっと腹を見る・・・。わかるだろ。」
「ますます、わからん。」
「働いて無いから、食ってないから、そんな腹になる。俺みたいにリッチなもんは、ほどよく腹が出るんだ。」
「あ〜、そうかい。お前の支離滅裂な話に疲れてきた・・・。とりあえずレースの話をしてくれ。」
「そうだ。それでこそ瀬津だ。」
「意味無い納得いらんから早く。」
「じゃ、説明しよう・・・・このレースは旅館側とヨコノリ・カンパニーとの共同開催で・・・・。」
「そんなの言わなくても分かるよ。単独で有象無象のホテル代までサポートできる規模のスポンサーなんてそうないよ。実入りは、ぼちぼちでもコアなファンを大事にするのがヨコノリ・スポンサーだからね。」
「さすが、洞察力の瀬津君。で、滑れるのかってことだけど、地域に顔が利く旅館側が知り合いのスノーモービル愛好家の団体とかに頼んで一番早く滑られそうなコースをアドバイスしてもらったみたいなんだね。」
「でも、そんな場所に何で移動すんだよ。」
「ロープウェイだよ。とにかく標高が高けりゃ、それなりに雪は積もってるから。」
「つまり、スタート地点の雪だけは微量ながらもあるわけね。その後のコース上の積雪状況なんてどうでもいいと。」
「なんかいやな言い方だなぁ。」
「そうだよ。だってな、雪待ちで一週間の予定で滞在して降ったらすぐ出陣とは言うけど降らなかったらどうなるんだ。」
「宿泊費等の合計の65%の支払いでオッケー。」
「オッケーってお前、高級料理の食材と人件費で相当ふっかけられんじゃないの。元値が張るだろうから65%を甘く見ちゃだめだろ。それにだ。問題はスノーモービルの人達から聞いたというコース・・・、途中で完全に雪がなくなってたらどうすんだ。」
「それでも滑るんだろ。にわか雪でも決行ってなってたから。」
「どうやって。」
「グラススキーの要領だよ。草っ原の上をシューッと。」
「あのね、椎野君。そんな都合のいい植生があるかな。大体、高山植物の群生地だったら自然保護区域だし、入れない。」
「ふむふむ。」
「ふむふむって、言いだしっぺが簡単に納得すんなぁ!!これ、詐欺じゃねーの。」
「登録料詐欺だってか。旅館の実名出してんだぞ。電話した先も一般広告の番号と同じだったし、“振り込め”じゃねーよ。」
「旅館の破産寸前のカモフラージュ企画だとか。」
「なんで、君はそう、ひねてるんだ。」
「椎野が単純すぎんだよ、すぐ信じるし、すぐ泣くし。」
「泣くっちゅうのは余計だろ。お前こそ、理屈ばっかで1人で納得して悦に入って、おまけに働かないで遊んで暮らして、坊ちゃん面して、いや、言い過ぎた。坊ちゃん暮らしはいいな。そうだ、宿代、実家に無心してくれよ。」
「あのなぁ・・・・疲れるから話を進めようぜ。どうやら、メインの主催者は旅館側らしいな・・・。」
「へぇ、瀬津の言うとおりや。メインのスポンサーは旅館どす。すげー、すっげー、あったまいいじゃん。」
「お前がアホすぎんだよ。高級料理とリゾート・ステイという甘い蜜に釣られて一発勝負のボンビー・レーサーが集まってくる。当然、エントリーが多けりゃ旅館もスポンサーも取り分が増えるし、宿泊代が払えなきゃローンを組ませても払わせるんだろ。ローンが組めないほどの奴らはエントリーしてこない。そこまでボンビーなのは、現地に行く為の旅費もガス代も無いだろうからな。いずれにしても、ヨコノリ・スポンサーはレースのアイディア提供のみだな。」
「へえ、すげー、すっげー、あったまいいじゃん。」
「なんか、お前と話してると頭悪くなりそうだ。」
「な、何を言うか、ニートの癖に。」
「おい、これでも俺は正社員けーけん、あんだぞ。終生アルバイトのお前と一緒にすんな。」
「なんてことを。俺はニートじゃねーし、ちゃんと役職もあるし、お前みたいにな〜んにもしてないのと一緒にすな。」
「ぐぐぐっぐほ。」スケボーに打ち込むことで就職への焦燥感を紛らわし、過ぎ行く時にただただ身を任せてしまうお坊ちゃん育ちの自分を自覚しつつある瀬津は歯軋りしながら続けた。
「と・に・か・く、そのレース、熊笹とかに埋もれるの覚悟しないとな。だいたいそういうところには熊の穴もあるし。腹ごしらえの最中の奴にでも遭遇したら洒落になんねーぞ、ゆえにお前、1人で出ろよ。」
「1人?それは無理だね。」椎野がしたり顔で意味ありげに答えた。
「無理ったって二人以上の宿代なんか出せないだろ。」
「だから、滞在するのは1人からでもオッケーって言ったっしょ。」
「・・・・ほんとに疲れてきた。レースのルール・形式を早く、一刻も早く説明してくれ。」
「ちょっと変わってる・・・。」
「察しは、つくよ。雪もちらつくほどしか降らないこの時期にスノボのレースやろうってんだから。」
「そう。そうなんだ。こんなのはスノボでは初めてだな。」
「初めて?」
「板も傷むだろうな。」
「当然だな。体もボロボロかもな。だから、エントリーしてきたお前だけがでりゃいい。サポートはきっちりやる。」
「だから、1人じゃできねーんだ。」
「だから、どうしてできねーんだ。とっとと説明しろ。」
「ん〜、まねだな、スケートの。」
「スケートってスケートボード。」
「いや、アイススケート。」
「えっ?」
「パシュート。」
「パシュート!?風きり役が交代してチームで滑るアレか。」
「山の緩斜面での最長不倒距離を競うんだ。つまり、ゴールは無し。」
「そりすべりでどこまでいけるかみたいな、カーリングみたいな感じか・・・、ふう・・・気持ち的に疲れそう。」
「何を言うの。足慣らしにはいいでしょ。ちょっかる(直滑降)だけでいいし。速さ勝負ってだけでも無いし。」
「つまり、急斜面の積雪は遅いから、緩斜面で勝敗を決められそうだってんでパシュートっちゅうアイディアが生まれたわけだ。」
「さすが、瀬津君。読みが的確だね。」
「勝負がつく瞬間は非常にノロノロになりそうだな。しかも、微妙な差で勝敗が決するってスピート感無いし、やだなぁ。」
「まっ、1cmでも先に進んだほうが勝ちだから超低速勝負の場面はあるだろうね。」
「ところで、滞在の件だが残り二人の宿はどうすんだ。」
「車中泊。」
「車中泊!?」
「3人一部屋にしても、料理がメインのプランだから、各自の料金は変わらんのよね。」
「つまり、そのまま3人分かかると言うことか。」
「だから、俺以外は車中泊で待機すりゃいいんだよね。温泉はビジター料金で入れるからさ。」


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