タテうらの言葉に3人は押し黙った。互いの苦渋した顔を見つめあった。しかし、すぐさま椎野が口を開いた。 「そんな、ジージがそんなこと。ジージは出たいから出たんだろ。」 「でも、今回のレース、あの娘出すって勝手に決めちゃってからジージに知らせたんだろ。」瀬津が間髪いれず、反駁した。 「レースのこと伝えてないの、忘れてましたって言って、あやまっといたんだけど。」 「それでも、ジージ、チーム椎野で出たそうだったもんな。」瀬津が言った。 「ジージが橋上でごぼう抜きしてるぞ。ヘリも併走してカメラ回してる。」タテうらが言った。 「CM大賞はジージになっちゃうのかよ。」 「ジージ、ごめん。やめてー。」 「個人エントリーの際のサポートぐらいしてやりゃよかったのに、お前がせこいことすっからだよ。」タテうらが椎野をたしなめた。 「でも、ジージの方から個人で出るって言ってきたんだからぁ・・・。てっきり、承知してくれてるはずと・・・・。」 「当たり前だろ、さっきも言ったけど、お前が彼女のチーム・エントリー決めちゃってたんだから。」瀬津も椎野を責めた。 「彼女をチームエントリーにするか個人エントリーにするか、1人で先走る前にもっとジージに作戦とか聞いてから決めればよかったな。」タテうらが言った。 「椎野、お前彼女に手とり足取り教えて、単独優勝させてあげたら何か別な狙いがあったんじゃないの。」 「おいおい、店長の職権乱用だ。」タテうらが言った。 「ま、まさか。そ、そんな・・。」 「語彙がすくねーな。図星だな。」 「ひ、人の人生設計に勝手に踏み込むにゃ!にしても、ジージ、いまいましいわい。」 「おいおい、本音がもれてるぞ。」 「聞こえる? ジージが後から来てる。君を抜かす気だ。」 「ジージのパワスラ・テク凄いぞ、あっという間にループ橋を降りてきてるぞ。」 「そろそろ、傾斜がゆるいから、普通にパワスラして体力を温存して。」椎野は瀬津の言葉に無関心を装って続けた。 「でも、ジージさん、もう横に来ちゃってるの。」 「えっ重なってて見えなかった。」 「なんだ?ジージ、彼女の手を引いてエスコートしてるぞ。」タテうらが言った。 「彼女はもう体力が無い、ジージが引っ張ってあげてる。」 「そうか。ジージはこうなるとわかっててエントリーしたんだ。」 「チームのために・・・彼女のために・・・」 「そうか。そうだったのか。俺達はなんて醜い・・・。」瀬津が呟いた。 「ジージ、ごめんなさい。俺はなんて薄汚いんだ。自分の幸せのために人の生きがいを奪おうとしていたんだぁ。」椎野が頭を抱えてうめきながらジージにわびた。 「待てよ、ゴールに男がいる。」タテうらが言った。 「ジージがエスコートして彼女の手を男にバトンタッチしたぞ。」 「おい、よく見ろ。あの男。」 「!」 「元プロスケーターの八千草じゃないか。怪我で引退した・・・。」 「ジージは知ってたのか。彼女と彼のこと。」 「もしかして、彼の夢のために彼女がこのチームに入ってきたってこと・・・。」勘のいい瀬津が言った。 「うそ。だって、俺の店に来て、俺が連れてきたんだぞ。」 「最初からお前がいるのを知ってて、バイトに来たんじゃないのか。」 「チームに入るためにコンビニに・・・、椎野に会いにきた・・・。」 「ジージはそのこと知ってて、椎野に言えなくて、それでわざわざ個人エントリーして、彼女をサポートしたんだ。」 「ジージ、彼ともじっくり話しこんでるもんな。」
椎野はしばし沈黙した。 なにやら思いをめぐらせている。
「・・・・・あっそ。彼女、賞金持ってきても、いらないって言ってね。俺、店に戻るから。」椎野はぶっきらぼうにその場を去った。
夕日が泣いている・・・。優勝。どうってことなく大会は終わった。
鈍感な椎野の淡い恋?が、またも終わりました・・・。
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