ミムは、今日も荒地を耕しながら、時折、瞑想に耽るように休息をとり、音を聞いていた。過去の音との違和は消えなかった。 しかし、だからといって不安なわけでもない。これと似たようなことを過去にも繰り返してきたような気がしているからである。 目の前のことが全てではない。 現在のことが全てではない。 そんな思いから、ただ時に身を任せるがごとく、地面を耕し続けていた。
「侵入者はいる。きっと捕まっていない。・・・そいつは、ここの危機を知らせに来たんだ。」マルケスが唐突に言った。 「俺はやはり知りたい。本当にこのブロックは安泰なのか。中央局の言うように、俺達は本当に外のブロックの者たちより、誠実で優秀なのか。」 「お前は自分が無いんだよ。だから、自分以外のものと比べたい。侵入者と自分の知ってる情報を比べたい。比べるものが無いことへの不安だな。」アレスが言った。 「自分を信じろよ。このブロックを信じろよ。」ソゴルが言った。 「自分を信じたいから、確かめたいんだ。」鍬を手にしたマルケスが呻くように低く、しかし力強く搾り出すように言った。 「たぶん、フェイクだよ。侵入が可能だという情報を流して住民の反応を見てるんだ。中央局のダミー情報だろ。」 「これまでも数回ほど似たような情報が出回ったよな。」 「こういう状況での住民の心理はつかみかねるということだな。マルケスみたいなのがいるから・・・。」アレスが皮肉っぽく言った。 「俺は中央局に試されてるというのか・・・。」マルケスは少し納得しかけたようだった。 「ウィルスのこともあるし、あまり歩き回らない方がいい。」ミムが言った。 「毒性も不明なようだしな。」ソゴルが続けて言った。 「ブロック接合部のゲート付近でしか見つからなかったらしいし。」ミムの言葉に付け足すようにアレスが言った。
あの検査官が言っていた通り、ウィルスは接合部付近でのみ発見されたというのは本当らしい、ブロック全体への拡散はないようだ。マルケスの懐疑心は少し和らいだ。 「確かに、ウィルスサイズなら何億分の一の可能性で侵入できるかもな。」 「いや、それもフェイクかも知れないよ。船外にしろ、隣接ブロックにしろ、真空部分を通過して紛れ込むためには気体の流れもないし、増してや出入りする物なども無い。」アレスの言葉にソゴルが反論した。 「放射線みたいなウィルスならどこへも侵入できそうだけどね。」アレスは負けじと言い返した。 「みたいなって何だ。ウィルスと粒子が一体化したミュータントウィルスってか。限りなくあり得んね。」 「そうまでして住民のパニック耐性が知りたいのかなぁ・・・。」アレスが議論に終止符を打つように脱力しながら言った。 「だからぁ、マルケスみたいなのがいるだろ。パニクってなんかされたら、ややこしいだろ。」ソゴルの言葉にマルケスは少々、ふてくされた。 「ま、氷河期だなんて資料でしか見たことの無い事態だからしょうがないけど。」ソゴルはマルケスの方をちらっと見ながら続けた。マルケスは黙っていた。 「危険だよ・・・。」ミムがポツリと言った。さらに彼は続けた。 「ゲートを越えるのも、侵入者を探すのも危険だ。他のブロックにも同じような変化が起きているという情報は本当だと思うよ。」 「危険って、たとえば。」アレスがそんなことなら、わかっているというふうに聞いた。 「・・・とにかく、寒さだよ。経験したことのない寒さ。」アレスは横目でミムを見ながら、それもわかってるよ、という顔をし、鍬を杖代わりにしてため息をついた。 「大丈夫だよ。俺は寒さに強い体質なんだな。」一人、薄着で作業していたマルケスが言った。 「この頃は温かなぐらいさ。」 「やせがまんしてるんだろう。」アレスが笑ってマルケスを見た。マルケスは応えなかった。 「そんなに調べたいならブロックの隅々まで見てこいよ。このぐらいの寒さならなんとかなるかもな。俺は止めないよ。」ソゴルがあきれたように言った。 ミムは、マルケスの方をじっと見ていた。 彼は、仲間の中でただ一人、流れ出ている汗を拭いていた。 「ほんとに熱いんだな。」ミムはマルケスに静かに尋ねた。 「ああ。」マルケスは困惑するように言った。
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