20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第6回   6
ある朝、気温は急激に下がっていた。これまでも速いペースで下がり続ける気温ではあったが、24時間以内の変化では最大のものであった。マルケスの不安は高まっていった。彼が知りうる情報からは通常の変化であるということしか伝わってこなかった。本当にそうなのか。ひょっとして、システム上のトラブルによって、このブロックだけに急激な変化が生じているのではないか。しかし、それを自身で確かめる術は無い。ゲートの向こう側に行く以外には。もし、本当なら侵入者に会いたい。彼の思いは高まっていった。それに、新種のウイルス発生の情報も気になっていた。低温では不活性で人への影響は無いとのことであったが、いずれにしても情報が足りず、内容も限定的であると感じていた。考えていても不安が増すだけである。マルケスは接合部付近へ移動装置をセットした。瞬時にゲートの前まで到達し、巨大な接合部を見渡した。作業ロボット数体が動き回っていた。しばらくして常駐の中央局の検査官数人が建物から出てきて作業を始めた。定時の作業らしい。遠巻きに見ていたマルケスに気づいた一人の技官が近づいてきた。立ち入り禁止区域というわけでもないので、マルケスは黙ってその場に立っていた。ゲートの堅牢さは比類のもので、その分、管理は案外容易い感じがした。
「どうかしましたか。」検査官が話しかけてきた。他ブロックと交流の無いブロックの住民がゲートに近づくことはほとんど無い。そんな場所には興味をもたずに一生を過ごす。立ち寄るのは、よほど好奇心のある暇人か、こうした数百年ぶりの事態に不安を感じている者たちぐらいだ。マルケスは立ち寄ったわけを正直に話した。
「侵入者はただの噂ですよ。歴史上、こういう事態になると同じようなことが起きてます。ただ、ウィルスは調査中ですが、本当かもしれません。ロボットをナノレベル点検した際に、付着していたらしいです。これまでのどのタイプとも一致しないタイプです。人体への影響はたぶん無さそうですが、放射線耐性が強かったということで警戒しているんです。」若い検査官はマルケスの認証サインから局関係の人間と知って比較的詳細な情報を話してくれた。また、一帯の防疫検査も完了していることを伝えてくれた。そうでなければ、一時的に立ち入り禁止になっていただろう。
「放射線に強いなんて船外から入ってきた可能性があるんじゃないのかな。」マルケスがふと、つぶやいた。
「過去に、と言ってもかなり昔の話ですが、惑星寄航時に船体に付着したウィルスが船外シールドのおかげで増殖し侵入した可能性は考えられます。
でも、数百年間生きていたとすると代謝に必要なものは船外にあると思います。とすると、人体内での増殖等の可能性は低いものと考えられますね。」
「なるほど。でも、船外からの侵入なんて99、いや100%考えられないし、どこから来たんだろうな。」
「今も科学局で検査中なんで詳しいことはもう少し後ですね。」
マルケスは少し平静を取り戻し、食料局研究室に戻った。
 一人で低温実験室に入り、コケの耐性を改めて調べることにした。食糧自給の鍵は、この高たんぱく高ミネラルの変異種の低温耐性にかかっている。防寒衣を着用しようとしたマルケスは多量の汗をかいていた。風邪か・・・、熱を測定したが、特に異常は無かった。部屋に戻り、室温を通常より下げてみた。汗は止まらない。あわてて、水分を補給し、さらに室温を下げる。意識ははっきりしている。疲れも感じていない。汗はひいたが室温は0度に近く、なお、体は温かいのだった。再び、不安がこみ上げてきた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 5058