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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

最終回   25
「だめ。拒否されてる。表層の全ブロックを皮切りに全てのブロックを切り離していくつもりだわ。」

「切り離しは宇宙に塵をばら撒くようなもんだぞ。パネルは、なぜ、それを受け入れたんだ。」

「・・・、彼らの主張よ。強硬派は、自滅すると言いながら自分達の予想を超えた奇跡にも期待しているのよ。」

「クース、よくわからないよ。」

「船を丸ごと停止させるだけなら、いずれ恒星に吸い込まれて全ては確実に終わるわ。でも、散り散りに放出すれば、奇跡的に生き残るブロックがあって、絶望的に低い確率だけど生命が復活することも・・。」

「強硬派はパネルに絶滅を遂行させながら、生き残りにも期待しているのか。やはり、旧式人類の考え方は曖昧だな。」

「曖昧・・・。ミムは自分のしていることに少しの疑いもないの。不安はないの。」

「君と出会うまではね。だから、今だって本当は凄く不安さ・・・。でも、諦める気はない。」クールに見えるミムも実は不安を感じている。それを正直に伝えてくれた。しかも、私との出会いで変わったんだと・・・。クースは何とも言えない嬉しさを感じた。ミムが本当に自分を受け入れてくれた気がした。

ミムは、これまでのことを思い返していた。
俺は・・・、かつての自分は、死を・・・闇を怖れてはいなかった。転生を知る自分は、死を淡々と受け入れられるという思いがあった。しかし、今は生が・・・クースと共にいられることが、ありがたい・・・、クースがいとおしくてたまらない、その分、死への・・・別れへの不安もふくらんでくる。かつては考えもしなかったのに・・・・。


クースはミムの横顔を見つめたまま、何もせずにいる自分に気づいた。

「・・・!!。時間が無いよね。パネルを説得するわ。」彼女は、すぐさまパネルとの交信を始めた。

数十分が過ぎた。ミムもクースを見つめながら周囲に変化がないかに気を配っていた。

クースは、自身の思いも交えながら、それでいて理路整然と絶滅の不合理性、命の意味、航海の目的等をパネルに訴え続けた。

「・・・・・・。クース、話しかけてもいいか。」

「うん。」

「彼らがパネルを説得できたのは何故だ。」

「一言で言えば、人類の選択として、自ら滅ぶべきか、時の流れに任せるかをパネルに問うたのよ。そこからあとはパネルが彼らの要望に応えている。」

「なるほど・・・・・・。」

ミムはしばらく考えていた。

「・・・そうか!!首長が言っていた通り、考えた末にパネルに委ねる・・・。パネルを説得するんじゃなくパネルに委ねる。ただし、考え抜いた結論を出すにはどれほどの時間を要するかわからない。だから、現時点での結論と選択肢をパネルに委ねるんだ。」

「でも、そんなことじゃ、パネルに突き返されるんじゃないの?」

「いや、そうすれば、パネルは自身が信頼されたと判断する。以降、パネルは信頼してくれるものの要望を実行していく。」
ミムは、自身の仮説をクースに伝えた。

「やはり、パネルはコンピュータということね。心をもったようにも思ったけれど、ミムの考えた通りなら、信頼されていると判断させれば言うことをきいてくれるわけね。」

「ほぼ間違いないと思うよ。つまり、回答をパネルに求める。すると、パネルは相手に必要とされていると判断する。同時にそのことはパネルがこれからも末永く安泰でいられるという根拠になる。だから、その者たちの要求を聞き、その者たちの命も守ろうとする。」

「パネルも自分達がいつか必要とされなくなるのが怖かったのね。船内の生命のために何千年も尽して来たから・・・。それで、判断を任されたとき、まだ信頼されてるって解釈したのね。」

「強硬派は偶然そのことに気づいたんだろう。手を尽くした末にパネルに答えを求めた。まるで人に問いかけるように・・。船内の全てを自身の判断で遂行してきたパネルにとって外部の者が直接判断を委ねてくることはこれまで無かった。そして、今回のコンタクトでパネルは信頼を受けるということを学んだんだ。そして信頼に応える為にこれまでの自分達の判断に適宜修正を加えてきた。それが新しい判断基準になっていたんだろう。切り離しの基準が変わってしまったように・・・・。」

クースはミムの推察を確かめるべく、選択的な課題をパネルに送信した。
「今、私もパネルに判断を委ねてみたわ。首長たちに全てを任されてこれから生きていけるのか、今までどおり見守られながら生きていくのがよいのか・・・。」

「反応はどうだ。」

「今は絶滅遂行が信頼に応えることだと判断しているから、かなり混乱してるみたい。」

「そうか。でも、こちらの意志を受け入れる余地があるから混乱してるわけだ。」

「とりあえず、絶滅の時期を遅らせるべきかどうかの判断をしているようだわ。」

「うまくいけば、今後の切り離しの危険は回避できるかもしれないな。」

「パネルから答えが返って来たわ!船内の生体反応の低さから、切り離しブロックの生命復活の可能性に意味が見出せなくなったようね。絶滅の可能性があまりに高すぎて、ブロック切り離しでの生命復活の可能性は想定できなくなったみたい。」

「船内冷却で絶滅の可能性が限りなく高まっているんだ。」

「そもそも絶滅が目的なら宇宙の塵を増やすだけの切り離しには意味が見出せないと言ってるわ。」

「発つ鳥、後を濁さずか・・・。きれいに消え去るのが旧式人類の願いだからな。」

「ミム、切り離しは一時解除されたみたいよ。」

「絶滅手段として切り離しは効率的でないと判断したんだ。よし、この調子で絶滅回避の説得と依頼を続けていこう。」

そのとき、ミムはドロドロとした音を聞いていた。彼らが焦り始めている。潔く宇宙の塵になろうとしたが状況が変わりつつある。彼らも説得を開始したのだろうが偶然は何度も通用しない。お前達強硬派が、旧人類が、滅びたいなら勝手に滅べばいい。俺達を巻き添えにするな、ミムはそう思っていた。

「ミム、形勢が変わったのはいいけど、新たに彼らの排除のための切り離しを検討しているわ。」

「やはり、パネルに心はないか・・・。あっさりと俺達に乗り替えたな。」

ミムは少し考えて言った。
「俺達がこのブロックに留まることを伝えてくれ。そして、パイプライン閉鎖の是非について委ねてくれ。」

クースはミムの真意を理解し、パネルに送信した。
「パネルは私達の存在を優先したわ。このブロックの切り離しによる解決は今のところ、実行されないよ。パイプラインは閉鎖の意味がなくなったので開放されたわ。」

ミムは、流体が中心部からこちらに向かってくる音を聞いていた。ミム達の成功を確信した首長らがこのブロックに向かっているのであろう。

「随分、呆気なかったな・・・。」ミムは安堵の表情で空を見上げながら言った。太陽がまぶしかった。熱さは感じない。辺りは相変わらず凍てついたままだ。

「うまくいったのね。」クースは頭部に装着していた装置をゆっくりはずした。

「急進派の連中は首長たちと話し合ってこのブロックを去るだろう。結局は自分達のしたことを後悔してたからな。それにしても、首長達ときたら、パネルに心があるだの、俺達の能力を使えだの・・・・、実際、能力を使うほどの相手じゃなかったし、案外、頼りない見守り役だったな。」

「そんなことないよ。あの人たちは精一杯、私達を守ってくれていたんだよ。」

「自分達以下の守り神に見守られていたってことだな。」

「そんな言い方って・・・。これまでちゃんと見守ってくれていたじゃない。」

「そうか。クースはあいつらの心が分かるから肩を持つんだな。」ミムは鼻で笑って言った。本心では無い、と思いつつも口を突いて出た言葉であった。

一瞬、哀しさと悔しさが綯い交ぜになった表情のクースがミムの頬を叩いた。

「何するんだよ!あいつらのせいで友達が3人も死んだんだぞ!俺は許せない!!」

「あの人たちだって、きっと心を痛めていたはずよ!でも、手を出しちゃだめだったのよ!!それが宇宙で生きるルールだし、進化の、淘汰の法則なのよ。」

「法則に抗うのも人間だろ・・・。」

「それは・・・・。」

「ごめん・・・。アレス達のことが頭から離れないんだ。首長達が力を貸してくれてたらと思うと・・・。」

「私もいきなり叩いてしまってごめんなさい。・・・なんだかミムの方がずっと人間的かも・・・。気に入らない相手を気に入らないって、はっきり言えて・・・。友達のことをずっと思ってて・・・。」

「いや、クースの方が人間的だよ。俺みたいに能力次第で相手の価値を判断するんじゃなく、ひたすら頑張ってきた首長達の思いをちゃんと分かっているんだから。俺はわかろうとしても分からない。経過よりも求めた結果を出せることが一番大事だと思ってしまう・・・。首長達がもっと慎重に俺達の未来を考えていてくれたら誰も死ななくてよかったんじゃないか、そう思うと許せない気持ちが消えないんだ。」


そのとき、天空より声が響いた。

ミム、クースありがとう。

「首長か?」

君達の話は感情にあふれていて限りなく私達に近いな、これで安心して旅立てる・・・。

「旅立つ?俺達を見捨てるのか?!」

生命は絶滅の危機を乗り越えたほんの一握りの生命によって引き継がれ進化を続けてきた、君達はもう自立した種だ、永遠のときを地球人類として生き抜いて欲しい、我々も我々で生き、時とともにやがては絶える、あとを頼んだよ・・・。

「船の中での共存は考えないのか。」

これが淘汰なのだ、かつての地球でも旧世代の人類は次世代の人類とバトンタッチしている。君達はもう私達に頼ることは出来ないし、私達も君達の未来を見守ることは出来ない・・・・。

「反乱分子はどうする。」

一緒に行くよ、君達に迷惑はかけたくない。

「そいつらの願いを聞く為に旅立つのか。だとしたら・・・。」

自滅の道は選ばんよ。彼らも私達の思いを分かっている。
それにしても、ミム、クース、本当によくやってくれた、ありがとう。確かに私達は頼りない見守り役だったが、最後までがんばり続けた私達と私達の祖先にまで思いを馳せてくれたクース、私達を超えて未来へ立ち向かう意志に漲っているミム、君たちはこれからが本当の船出だ。

「聞いていたのか・・・。」ミムは、すまなそうに俯いた。

とても人間的な懐かしい対話だったよ・・・・、では、そろそろ行く、最後に人類の先輩として我がままを言わせてもらう、このブロックを私達の新天地への船として戴きたい。

「戴くって、じゃ俺達はどこへ?」

ミムには聞こえるだろう、パネルの再稼動の音が・・・・、私達がいなくなる以上、種の寿命が続く限り、パネルが自身で停止することはない・・・、この船と共に生き抜いてくれ、人類のために。

天空投射が二人への退去命令と安全なブロックを示す座標を映し出した。今やパネルはミムとクースを守るためにのみ、稼動している。二人は指示通りに下方のブロックに避難した。首長らを載せたブロックはゆっくりと暗黒に旅立っていった。

手元のパネルアクセス装置に最後のメッセージが送信されてきた。船のパネルに送信されたものが映し出されているのだ。

「私達が滅びても君たちは私達の意思を継いで、人類として宇宙を生き抜いてくれ。」

「く、ど、い、な。似たような言葉を何度も・・・、全く野暮ったいメッセージだ・・・。」首長達の気持ちが分かるほど、心にも無い言葉が口から出てしまうミムであった。

「また、そういうこと言うから。」平手打ちが飛んで来やしないかと冗談っぽく構えているミムの気持ちを察したクースが笑みを浮かべながら言った。

「だってさ、俺達のこれから考えたら、こんな大それたメッセージ、重すぎんだよ。かいかぶりすぎだって。」

くすりと笑ったクースがミムを見て言った。
「そうね。見守ってくれる人達もいなくなって本当に二人きりで船の中の氷河期を生きていくんだものね。」

「ま、何としても生き抜いてくさ。クースがいる限り。」ミムがさり気なく言った。

「ええ、でも、どちらかがいなくなったとしても私達の子どもを守り続けて生きていかなきゃ。」クースは命の芽を宿していた。数ヶ月前、マルケス探索から帰還したミムとの一夜に宿した命である。

「そうだな。氷河期を生き抜ける子ども達を育てなきゃな。これからは俺達自身が後世代の見守り役になるんだ。」

「古代の地球では当たり前のことよ。体外受精や子育てまで、ほとんど中央局が面倒を見てくれてたのは人類的じゃなかったのかもね。」

「また、地球とか古代の話か。死ぬまで聞かなきゃなんないのか・・・。」

「子ども達にも話して聞かせるわ。たとえ、何光年離れてもどれだけの時が流れても私達の故郷は地球・・・。」

二人を載せた船は近隣の恒星軌道を離れ、漆黒の宇宙へ溶け込んでいった。


ほんの少しだけ時が流れた・・・・、二人は自らの子ども達を育てると共に、互いの遺伝子からは距離のある遺伝子をもった男女のクローン達も育てた。
そして、やがて、どちらともなく、深い眠りについた。
未来は、二人の育て上げた子らに託された。
船は数百年の冬に耐え、ミムとクースの生命をリレーしていった。

・・・・・・人類を乗せた船は、命と時の航海を永遠に続けていく・・・・・・。


                   (完)



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