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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第24回   24
そのとき、クースの体がびくりと動いた。ミムの体の熱が伝わったのだろうか。
「ミム・・・、やめて・・・。」クースはうわごとのようにつぶやくと、自身の手を這うように動かしながら、パックを外そうとしているミムの手の上に静かにゆっくりと重ねた。
瞬間、クースの体はふわりと浮き上がった。ミムは、心なしかクースが自分の体を抱きかかえようとしているように思った。ミムはクースをしっかり抱きしめた。二人は光に包まれたまま、天空に昇った。

そこは生死も判然としない薄暗い空間であった。透明なパイプにゲル状の液体が満たされていた。無重力セクションであるらしく、機材や装置に上下は無く、人の姿は見当たらなかった。クースは傍らに倒れていた。
どこからか声が聞こえてきた。直接、脳内に語りかけている。パイプ内の透き通ったエメラルドグリーンの液体が時折、発光し、流れているように見えた。

私達は君達とともに進化してきた。

ともに進化してきた?誰だ!どこにいる!!

君の目の前にいる。

この液体か、お前達がパネルを狂わせたのか。

狂わせたのではない、そろそろ旅を終わりにするのだ、宇宙の法則に従って・・・。

宇宙の法則?

種として滅ぶ時が近い・・・。

あんたたちがこれまで俺達を見守ってきたのか?

そういうことになる。

ならば、なぜだ、なぜ絶滅プログラムを発動した!俺はあんた達を信用できない!!

絶滅は私達も含めてのものだ。

どうして、俺達までが・・・。

君達は私達が生み出したクローンの末裔、この船のブロックの住人は全て私達の祖先によって生み出されたクローン、君達は数千年かけて船内環境に適応・進化してきたクローンなのだ。

よくわからない、何を元にしたクローンなんだ。

君たちは私達の元の姿・・・・。

?。

私達の祖先は人類という種を宇宙に広げていくためにはるか昔に地球という惑星を出発した、しかし、その行為は一種の驕りでもあった・・・生命として最も適した環境を与えられていたことに満足せず 宇宙の法則に背き 他の生命のテリトリーに土足で踏み込んでいく歴史を繰り返すことになったのだ・・・、人類が足跡を残した惑星では原住微生物が悪影響を受けたり 各種の活動により気候変動が起きたり・・・、私達の祖先は無意識に進化のための生態系を破壊していたのだ・・・・・そればかりか様々な宇宙線の影響と重力の弱い船の中心部での生活が数世代で身体を変化させ生命力も減退させてしまった、惑星開発の理想ばかりを追い 結果 自分たち自らの身体的異変を顧みなかった・・・、やがて、私達の祖先は未だ健全な者の肉体をオリジナルとし宇宙環境への適応力をより高めたクローンの創造に着手したのだ。

それが俺達の祖先・・・。

そうだ、私達の祖先は君達の祖先に、クローン人類に、種としての進化を託したのだ。

あんた達はなぜ、そんな姿になったんだ。

さっきも言ったが私達の肉体は徐々に変異していった、変異が進む中でクローンでない原地球人の純粋な遺伝子を残す為には高分子のコロイド生命体となることが一番望ましいという結論に至ったのだ、現に我々は地球人の感覚を残したまま生き続けている、液体が混ざり合うことで交配し何十世代も生き延びてきている、もちろん個々の液体生命は寿命が尽きればパイプの装置によって浄化処分される、旧い細胞が死に、新しい細胞が生まれるようなものだ、中枢神経のみの脳細胞のみの高分子コロイド生命体だ、当然ながらこの柱状容器の中でしか生きられない、手足はそこの機械群だ。

あんた達のことは何となく分かった、でも俺は友達を3人も失った、あんた達が本当に人間ならパネルのように合理的な判断をするだけじゃないなら、何故船を死の世界にしようとするんだ、なぜ簡単に切り捨てられるんだ。

私達は人間である以上、曖昧な思考もする、それはつまりみんなが同じ考えではないということだ、私はシステムを統括する立場なので事実上、地球人類の首長とはなるのだが、みんなが私に賛成というわけではない、私達は今期氷河期と次期氷河期までの間に種が滅するべきとの立場をとっている、今期氷河期での絶滅遂行を支持する一部の者達の急進的なやり方には反対だ。

ということは、あんたたちに従わないやつらがいるということだな。

そう、早期の絶滅遂行を強行する者たちだ、彼らはパイプラインを通って君たちがいたブロックに終結している、そして私達をここより上に行かせぬよう、パネルに指示を出している。

あのドロドロとした音はそれだったのか、お前達の移動する音・・・。

音?どういう意味だ。

俺は物質を感じることが出来る、過去の生命の記憶も再生できる・・・。

生命の記憶・・・転生を自覚できるということか・・・・。

多分・・・。

それはこの広大な宇宙にもっとも適合した進化かもしれん!
時空を越えて生きることは宇宙全体をも知りうるということ・・・、私達の知識・技術をもっても計り知れぬものを君はもっているということだな・・・。

褒めてくれてるのか、でも俺が感じてるのはあんたらも結局、急進派並みの絶滅支持者なんじゃないかということだ、あんた達はソゴルやアレス達を見殺しにした。

ゆくゆくは滅ぶしかないのだ・・・、私達が創り出してしまった君たちと、液体となり果て ただ意思を保存するだけになった私達は、いずれ共に滅すべき種であると考えている、それが宇宙へ出た人類の最後の身の振り方・・・・宇宙に悪しき影響を与えない責任の取り方だ・・・全ての存在には終わりがあるのだからな・・・ただ、それにはそれなりの時間を要する、彼らは拙速過ぎるのだ、即時自決の道を主張し、その方法として今期氷河期の利用を考えた、仮に自爆装置を組み込んでもこれだけ巨大化したものを粉みじんに吹き飛ばすなど無理なことだからな、せめて、ただの箱・・・棺に変えてしまうことが最善の後始末と考えているのだ、そうなれば君の思うとおり、船はやがて重力場に引き込まれて燃え尽きる。

・・・あんた達の考えが多様だということは他にも違う考えのものがいるんだな。

いる。

どんなやつらだ、あんたたちよりも、ましな連中か。

残念ながらノーだ、それにしても今回のことで私達を相当憎悪してるようだな、ならば聞いてくれ、垂直方向の移動のみを可能にしたのは私達の思惑だ、君達のような者がここに辿り着けるように、君達と直接会うことで種の未来を、種の存続の是非を判断できるように。

それであんた達の答えどうなんだ、ノーなのか?

まぁ、待て、まずは私達と考えを違える者達のことだ・・・、プライドの無い連中には君たちクローンの体内に戻ろうと考える者たちもいた、ロボットを使い体液として注射させ体を乗っ取る、ミュータント化を急激に進めていたブロックにはそうしたテロリストが潜んでいた、君達も立ち寄っただろ、彼らは自滅したようなものだ、もちろん私達も彼らを初期の段階で取り締まっていたが君達の世界より善悪が綯い交ぜになっているのが原地球人の世界なのだ、航海の続行を訴えるもの・船の未来を全て君達へ託そうと言うもの・種としての終末を迎えるべきだと言うもの、どのものたちも真剣に考えていた、結局統一した考えは生まれなかった、自由に思考する地球人類を治めるのは理想社会を構築する能力に長ける君達のそれよりははるかに難しい・・・。つまり、種の存続の是非はその時々の趨勢によって容易に変わるのだ。

あんた達のことはいい、俺達をどうする気だ。

では、話そう、そこにいるクース、彼女の祖先は私達の祖先が特別に希望を託して生み出したクローンだ・・・、その子を守ってきたから君はここに来られたのだ。したがって君達クローンの未来を閉ざす必要はないと考える・・・それが答えだ・・・ただし君をここから出すかは別な話だと考えている・・・。

クースが特別なクローン?俺をここから出さない?一体どういうことだ!!

君達は代々、私達の存在を知らぬが故に存続してこられた、もし知れば早い時期に我々は対立していただろう、そうなればパネルによって君達は早期にリセットされていた、実際、私自身も君と会って絶滅か否かの判断を済ませた後に、君を消去しようと考えていた。

(やはり、そうか!)ミムは心の中で舌打ちした。
(得物は無いか!)一瞬にして込み上げて来た破壊衝動を液体に覚られぬよう、周囲をちらちらと見た。全ての装置を叩き壊したかった。

私たちのことを知った以上、君をこのまま帰せないと考えていた・・・。

液体の中に流れが発生しているように見えた。その流れは緩やかになったり速くなったりしていた。しかし、ゲル状のコロイドの動きであるから全般的に流れは緩慢に見えている。

記憶を消すのか!それとも元素分解する気か!!

そう考えていた、だが、君には無意味だ・・・、元素分解などしても君の意識は新しい生命の中でまた息を吹き返すだろう、私達は種の保存にかかわる生命の操作は出来ても生命そのものを生み出すことは出来ない、元素から生命体の入れ物を合成することはできてもそれはロボットのレベルに過ぎない、生物から得た生きた細胞以外で新たな生命は生み出せないのだ。

クースはどうするんだ!特別だというのはどういうことだ!!

彼女はモニターなのだ、もちろん彼女自身そのことには気づいていない、船内には相当数のモニターがいた。

モニター?。

コロイド生命体はホログラフに地球出航間近の頃の資料を提示した。

!!・・・・この資料には見覚えがある、命の履歴を感じたときだ・・・俺は宇宙船の初期の乗組員だった・・・・。

見覚えがある?こんな過去のものに?転生の記憶とは畏ろしいものだな、科学など意味が無いかもしれない・・・何か分かったのか・・・。

過去の俺がクース達を生み出した・・・。曖昧さと合理的思考をもつモニターは環境への適応範囲が変幻自在だ、モニターのブロック内での生活反応を、船の、人類の未来に生かすためにパネルに流し込む・・・、パネルは増え続ける住民の中の代表であるモニターからデータを収集していたんだ、そして船は、より優れた進化の場になる・・・。

説明の必要は無いようだな、なるほど転生の記憶をもつ者は改めてものを学んだり知ったりする必要も無いわけだ、君は私達にも等しく訪れる死の意味の向こう岸すら知っているわけだな、私達に言えるのは君の記憶の世界が確かなものなら、それは第3層、つまり、この階層にいた人物が考案したモニターシステムだ、モニタークローンが快適に過ごせているかをパネルが把握し、そのデータが船全体のシステム構築に随時生かされていくのだ、彼・彼女らが眼で見たもの、触れたもの、情動・・・それらの情報をパネルにインプットする、それを元によりよい環境の構成を図っていく・・・・、彼女には過去の君の発案で地球人類的な温室育ちの頃の曖昧的思考が温存されている、君はだから多分、クースのそうしたところに惹かれたのではないかね、君の理想を託された生命だからね。理想の女性ということだ。

勝手に俺の気持ちを類推するな!

ミムは、こんな場面で不謹慎だと思ったが、彼の言うことが図星のように感じられた。彼女と出会って愛したのは必然・・・、大昔の言葉で言えば、赤い糸・・・。何千年もかけて理想の人を追い求めてきたのかも知れない・・・・。
だが、現実は刻一刻と破滅に向かっている。彼は質問を続けた。

クースのおかげで俺が助かったというのは彼女がモニターだったからなのか、クースを守ったから助かったのか、だが俺達ただのクローンにだって、あんた達の理想が託されていたんだろ、矛盾してないか、曖昧さなんてことじゃ済まされない、転生が出来たって命が潰えるのは怖いんだ!クースや仲間と別れるのは言葉に出来ないほど辛いんだ!悲しいんだ!!

クースか、君か、ということか・・・堂々巡りになってきたな・・・・、現在生きているモニターはクースだけだ、クースたちは自分達のかかわった人間の愛情によってのみ、秘めた能力が発動されるようになっている、愛情は多分に曖昧さと矛盾を含み揺らぐ要素のある感情だ、モニターに比べ、より合理的に思考する君達には認識しにくいだろうが例えば愛憎という感情などがある・・・いずれにせよ、君が本気で愛したからこそ彼女の潜在能力である再生能力が発動した、彼女は心臓と脳の双方に一部でも生きている細胞があれば80%の確率でそこからの再生が可能だ、蘇生率としては微妙なところだがパネルは再生を察知し救い上げた、彼女はパネルに直接的にデータを伝えられるが君達だってモニターを通して間接的にデータを伝えているのだ、いずれにせよ君達も理想的進化に向かっているからこそ、モニターを守ることが出来たということになる。

・・・・・・。

モニターのもつ古代の知識は、不合理さをもつ地球人類のアイテムの再活用の可能性を探ることと凍結プログラム緊急解除の一手段として、我々や君が、いや、過去の君がモニターの記憶領域に仕組んだものだ、当然ながら、これらの知識や情報はパネルには組み込まれていない、モニターの利用する地上端末でのみ、これらの情報を引き出せる、端末は君達がアクセスするのも可能だが合理思考型の君達クローンは過去の体験を集約した古代の経験知よりも思考結果としての理論との整合性を志向する、したがってアクセスするのは九割方モニターに限られる、そして今やモニターの危機対応能力は我々の想定をはるかに超えた、モニターは無意識に曖昧さや弱さを露呈しながらも同時に合理的・数的判断をこなし最善策を極自然に見出していく、かのマイクロ波の装置を造り出した時のように・・・、そして、なにより強いのは、かつての君同様、心の能力だ、彼女は君達により明確な心の動き・情動を与えてきた、別れの悲しみ・他者への慈しみ・・・・、君と彼女ならパネルに心をも与えられるかもしれない。

パネルと対話しろということか。

それだけではない、君との対話中に同胞との融合を行い、意思の確認をした。

ミムは先ほどの流動体の動きのことを思い出した。さっき見えていた液体の流れは互いの意思確認をしていたということだったのか。

・・・全員一致だ、君に、君達に船の未来を委ねよう、周辺の同胞は皆同じ結論だ、どうか頼む!、急進派の彼らの暴走を止めてくれ、君は種として何ら問題なく、それ以上の存在になりつつある、生命の永遠を感得しているのだからな、我々は種として君達よりはるかに老いた存在になってしまったのかも知れん・・・、我々は後発の者達が未熟であるという偏見をもっていたようだ、生命は必ず進化するのだと考えれば君達は既にスタートラインから我々より優秀だったのだ。そのもてる力を発揮してパネルを説得してくれ。パネルの信頼を得て、その主導権を握ってくれ。

何かアドバイスはあるか。

これと言って効果的なものは何も無い、パネルが急進派の意見を受け入れるか、君らの意見を受け入れるかは私達にも確信は無い、残念だが切り離しのあったブロック周辺のパネルは彼らの見解を受け入れたと言うことになる、手足の無い我々にとって物理的作業はパネルに委ねるしかないからな。

合理性の塊だと思ってたパネルが一時の熱情を訴えてるような急進派の考えを受け入れてるのは俺も信じられない、パネルが心をもったり曖昧さを受け入れたりするとは正直、思えない・・・。

しかし、事実だ、君達の心の動きが説得の鍵を握るに違いない。

理屈じゃなく思いを伝えるというのか・・・、パネルに心がわかるというのか・・・、俺にはどうも納得できないがな・・・。

クースは、私達の切り札でもある、クースには合理的思考と曖昧さがインプットされている、クースの思考は、曖昧さが極めて少ない君達よりは、心の揺らぎをもつ私達に近い、したがって地球人類としての曖昧さをもっている急進派の輩の思いも彼女には十分理解できるはずだ。そこを逆手に取る・・・。

曖昧さってのは、俺にはよくわからない概念だな。いい加減ということか。

いい加減ということではない、より高次の曖昧さだ、対話し考え抜いた末にパネルに決定を委ねるのだ、
それに君の転生の記憶が真実ならば、その心は私達初期住民と同じだ、クースの心と考え方に、君の心を、思いを重ね合わせれば、説得の可能性はより高くなる。
パネルの説得に期待がもてる。

わかったよ、あなた達が自身と俺達にピリオドをつけようと考えていたように、俺は過去の俺がしたことにピリオドをつける、船の未来のために!そこからが新しい始まりになるはずだ!!

用心しろ、心とは移ろうものだ、姿かたちの違う私達も君たちと同じく意思も心も思ったより強くは無い、強硬派の心変わりが不安だ、彼らは全ての終わりを見届けた後、自決する覚悟をもっていた、彼らは彼らなりに理想と誇りをもって行動したとは思うが、最悪の場合、自分達のみ生き残ろうとすることも考えられなくは無い。

曖昧さってのは、ろくなもんじゃないな、とにかく一刻を争うんだ、俺達は行く、クースを目覚めさせてくれ。

すでに起きている、全部聞いているはずだ、怖くて眼が開けられないのだ、自分の能力を知って・・・、いかにも人間らしいことだ。

「クース!」

眼を閉じたまま、クースは小声で言った。
「私はあなたに創られた人間・・・。」

「今の俺じゃない。」

「どうして私達を創る時、創られる側の気持ちを考えなかったの。私は凍えたとき、もう二度と会えないと思って苦しくて・・・でも、そのまま凍りつくしかなくて・・・。哀しくて・・・・・。」

「・・・今の俺も創られた側の人間なんだ。でも、大切なのは今の思いだよ。過去を知っても、なおも進む気持ち・・・・調子よく聞こえるだろうけど、今はそれしか言えない。一緒に来て欲しい。」

「・・・怖くて眼が開けられない・・・死んだはずの私に聞こえていたことが現実のこととは思えない・・・。声が聞こえていただけで・・・、眼を開けたら何も見えないのかもしれない・・・」

「一刻を争うんだ、クース。頼む。」

「・・・もしパネルを説得できなかったら・・・また辛い思いをするのよ・・・なら、このまま・・・眠ったままの方が、私は・・・・。」

ミムはクースを抱きしめた。液体は沈黙していた。

クースはゆっくりと眼を開けた。ミムはクースの眼を見た。

「行くんだ、俺達のブロックへ。」

クースはこくりと頷いた。二人は立ち上がった。

ミムはパイプの方を振り返りながら言った。
「あなたの名前を聞いてなかった。」

私達は名前が無いのだよ、混ざり合ったとき、つまり、触れ合ったとき、全ての固体情報が知覚できるので個々を判別する呼称は必要ないのだ、触れ合うだけで誰なのかがわかるのだ。

「名も無き生命体か・・・・。」

皮肉かね、人知れず船を見守る私達にとって名より志が大切なのだよ。

「・・・なるほど。これまで、ありがとう。俺達はあなた方のおかげで生きてこられた。少しでも恩返しするよ。」

頼む・・。

二人は光に運ばれて地表に戻った。再び寒さが二人を包んだ。彼らから提供された保温スーツはパネルの探索波を数時間前後、吸収できる能力があった。したがって、その存在を認識されることは無いまま、故郷のブロックに戻ってくることが出来た。凍てつく空には似合わないほどに太陽がギラギラしていた。住民が居ないのをいいことに、パネルが天空投射の実験操作をしているのだろう。

ミムは首長から渡されたパイプラインへのアクセス装置を先ず稼動した。急進派の連中の会話を探るのだ。壁面にシート状のパッドを貼り付け、無線のイヤホンを装着した。クースはミムの傍でじっと足元を見つめていた。

やがて、ミムは話し始めた。
「クース!急いでパネルにアクセスしなきゃならない!!彼らは心変わりしていない。それどころか、すぐにでもこのブロックと共に自滅する気だ。」

「自滅・・・」

「彼らは第3ブロックの首長らへの裏切り行為も後悔している。俺はよくわからないよ。なぜ、自分達の主張を通さないのか、後悔するなら実行すべきじゃない・・・。心が移ろう・・・これが人間なのか・・・。」

「・・・彼たちのことはどうでもいいわ。時間がないのでしょう、早くアクセスして。」クースはへッドフォン状の装置を装着した。
「もうミムと別れるのは嫌だから。」

ミムは、合理的な真理にのみ依拠して考えるのでなく、あるときは仲間のことを考えたり、あるときは自分達二人のことだけを考えたりする振れ幅の広いクースの言葉に初期人類の曖昧さと情熱のようなものを感じていた。
(この思い込みとも言える感情の発露が、船を創り出し、俺達を創りだしたのかも知れない。だが、今の俺には単に身勝手としてしか感じられないのも事実だ・・・。クースとの出会いで変わりつつはあるが、こんなことを考えるのはクローン特有の合理思考の故なのか・・・。)

パネルへのアクセスが開始された。クースの思念はデータ化されてパネルに送信されていく。


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