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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第2回   2
 成人した彼は想像を絶する美しい光景にはすっかり鈍感になっていた。視覚はほとんど麻痺していたのかもしれない。彼らの世代にとって、そうした光景は日常でもあったからだ。
 むろん、一生を暗黒の海で過ごした世代もあったであろう。しかし、彼らのいた場所には調節された光が刺激的に降り注いでいたから闇をことさら意識して生きていたものは、そう多くはなかったであろう。一部のものが外の世界に関心をもったことだろうが、それは天文学やら死生観やら未知への興味やらになって、ときにアカデミックにときにセンセーショナルに浸透していったというだけのことであった。 
 一方、危機は少しずつ迫っていた。種として優秀な者のみが生き残るプログラム・・・終わり無き航海を未来にわたって続けていく為に都市管理システムに組み込まれた人口調節プログラムが発動し始めたのである。全てのブロックでそれは始まっていた。
 都市の気温は徐々に下がり、エネルギーの供給量は漸減していった。プログラムは地球でいうところの氷河期、その短縮版を実行していくのである。
 プログラムの始まりのゆったりとした変化は1年ほどで終わり、その後は急激に変化していく。1万年単位の出来事が100年単位に凝縮された形で進行し、適応性を欠く者たちを淘汰していくのである。人口100億を超える都市全体への影響としては、さほど大きくは無いものの、人はデータ上の数・割合ではない。人口のコントロールのために数字として機械的に調節されていくものではなかろう。
 加えて、宇宙空間では放射線も多く突然変異・ミュータントも生じやすい。対放射線シールドをまとってはいるものの、宇宙航海を続ける船内で、その浸入をかつての地球並みのレベルに制御することは難しかった。
 船内氷河期では、単一のブロックや近隣の複数ブロックにおいて、そうしたミュータントが環境に適応した種として多数派となり新人類として生き残ったり、既存の者たちがその頭脳を駆使し科学の粋を尽くしたテクノロジーを開発することで生き残ったり、逆にローテク・低エネルギーの生活システムを構築することで生き残ったりしてきた。したがって、船内には様々な生活様式・文化・文明が共存することになっていったのである。


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