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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第18回   18

「あのときは正直あきらめていた・・・。だから、眼が覚めたときは本当に生き返ったって感じだったよ。」ベッドに寝そべったままのミムが言った。
クースは、アンティークなソファーに腰を掛けてミルクを飲んでいる。
「でも、どうして、この部屋はこんなに暖かいんだ。」
「古代の知恵のおかげ・・・かな。それだけじゃないと思うけれど。」
「この建物のおかげということかい。」
「違うわ。私達、新しい世代はけっこうタフなのよ。」
「タフ?」
「船の窓に近づいてもしばらく平気でしょ。私はちょっと苦手だけど。つまり、少し強めの放射線ぐらい慣れちゃってるのよ。だから、たいていの環境には適応できると思うの。」
「室内にいるだけで暖かいということかい。それじゃ、マルケス達と同じだよ。でも、俺達にはあれほどの低温耐性は無いし、第一、低温化への適応は放射線への適応とは別の原理だよ。」
「分子や原子のレベルで考えたら応用できるんじゃない。」
ミムはクースの話にじれったくなってきた。
「じゃないって、ほんとのこと教えてくれてないだろ。だいたい、さっき古代の知恵がどうのって言ってたし。」
「実は、これ。」彼女は大昔の道具のような銀色の薄い直方体を見せた。
「私の手作り。触ってみて。」
「えっ!温かいな。どうしてこの装置は低温化しないんだ。」
「わからない。すごーく昔の話らしいんだけど、電子を使って物を暖める装置があったらしくて。・・・今は原子組成器で元素と温度を指定してあげれば最初から温かいものがポンって合成されてしまうでしょ。私、興味で古代の調理具を再現してみようと思ったの。あなたがコケを栽培してるって聞いて、これはかなり危ないなと思って。今までのやり方がだめになるんだなって。」
「で、それがそうなのかい。」ミムは、フロアーのテーブル上の複数の装置を見た。
「電子レンジと言うの。形は違うみたいだけれど、要はマイクロ波の発生装置なの。」
「ということは、パネルシステムのデータには無い超ローテクか。それで低温化の影響が無いのか。」
「偶然みたいだけど、そうらしいわ。」
「それをまだいくつか造れるかい。」
「ミムから、いずれ機械が使えなくなるって聞いてたから、これぐらいなら私一人で作れちゃうと思って。」クースはテーブルにある装置の他に10個のマイクロ波発生装置を取り出してきた。
「す、すごいな。あいかわらず凝り性だ・・・。」ミムは装置の数を数えながら言った。
「もっと、あったのよ。」クースがミムの方を見て話し出した。
「実は・・・・。あなたが捜索に出て半年近くになった頃、アレス君とソゴル君が訪ねてきたの。あなたとマルケス君を探すって。」
「えっ。」
「ソゴル君のお父様が亡くなったのよ。体内の一部が凍結してしまって・・・。」
「そんな!」
「あの頃、まだ若い世代に影響は無かったみたいだけれど。」クースは続けた。
「それで、マルケス君は体温上昇の変異体の特性があったようだし、その原因が分かればブロックのみんなも救えるんじゃないかって。もちろん、あなたのことも見つけ出すんだって。」
「それで、これを彼らに渡したんだ。」
「ええ。」
「これがあれば、生き残る可能性が高くなるかもしれない。」
「生き残る可能性?」
「船全体を救う可能性さ。パネルシステムの先回りをするんだ。」ミムは続けた。
「初期パネルコンピュータの指令が、どこかのブロック層から、恣意的になっている。絶滅プログラムと言えるものになっているんだ。」
「今度は私も行く!一人はいやだ。!!」
「だめだとは言わないよ。このままじゃ、この船は巨大な棺だ。永遠によみがえらない。」
クースはミムを見つめた。
「それに、船の中心に近づくほど、過去に近づくんだ。古代に詳しい君の発想が必要になるかも知れない。」
「任せて、ミム。」
「君の手作りのマイクロ波パックだけが頼りだ。」
3日後、二人はブロックを出た。
「まずはアレス達やマルケスを探す。何か役立つ情報を入手していると思うんだ。一週間経っても見つからなかったら移動装置の連続使用で一気に中心に向かう。俺達が介入できる初期のシステムは中心部にあると思う。」
クースはうなづいた。深部は強烈な低温化に見舞われていることもミムから聞いた。
二人は先ず、表層のブロックへ向かった。携帯パックを装着しているとは言え、アレスとソゴルがいきなり低温化の進む中心ブロックに向かったとは考えられなかったからだ。ミムより半年遅れて出発したということは、比較的近い場所にいる可能性が高い。仮にミムとの行き違いでより中心部に向かったとしてもいずれ複数のゲートに残した発光イニシャルに気づいて引き返してくるだろう。相当な危険を冒して二人だけで最深部に向かうのは考えにくかった。ミムは、進行方向にある表層部のブロック内で3人のセンサー反応を確認した。反応は無かった。
「3人とも凍ってしまったんじゃ・・・。」
「おいおい、まだ、探索を始めたばかりだぞ。これからが長いんだ。」ミムはクースの短絡的な言葉に苦笑した。

その時だった。
グゥ・・・グゥー、グ・グ・グ・グゥーーーー。

ブロックのゲートが自動的に閉じ始めた。


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