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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第16回   16
なぜ、彼らはブロックから避難しようとしなかったんだ。通路に出てしまえば大丈夫なのに。それを確かめる間もないほど急激に冷え込んだのか。あるいは、その逆で、ゆったりした変化だったから気づかなかったのか・・・・この船の住民は、もともと船内に閉じ込められて数百年・数千年生きてきた。だから、それほど大した変化と感じていなかったのかも知れない。実際、俺達も何とかなると思っていた。
だが、そのうちにどうにもならなくなってしまったんだろう・・・。

とにかく、今はマルケス達を探すことだ。そのためには、船の構造を少しでも明らかにしなければ、当て所なくさ迷うことになってしまう。
仮に船を過去の資料から想定して球体に近いと考えてみる。それは紡錘型の巨大なブロックを縦横斜めなどのパイプ型通路で結んでいて、中心部から外側に向かいながら水平方向と上方、つまり外側に向かって無数の通路を拡散させながら巨大化してきている。それぞれのブロックの夜空は投影されているものがほとんどで、俺達、表層側に住んでいる者が見ていたのが現実の夜空であり、船外の風景ということだ。この船は同心円状の球体で、各ブロックが通路でつながれている。ブロック間には隙間が空いていて、言ってみれば、稠密な分子模型の骨組みのような球体になっているようだ。
ゲート間の通路中央には6つに分かれた分岐点がある。下方は、多分、中心にむかっている。そして、中心に近いほど冷えていて、旧いタイプのブロックになっている。しかも、移動装置は中心に向かうときのみ、作動する。

ミムはゲートの外に出て、思案していた。取り留めの無い思いが次々とこみ上げてくる。さらに、進むべきか・・・戻るべきか・・・。

マルケスは自分達の体の謎を解明する為に・・・、同じような仲間を探しに行く為に、さらに中心に向かったかもしれない。
だが、冷却適用範囲に制限が無く、有機体の分子振動まで低下させていく今期の低温化の凄まじさは生体である彼らの体も凍らせてしまうことだろう。

音に対する違和感の意味も、おぼろげながらつかめてきた。今聞いているこの音は完全な消失に向かっている。それが違和感の正体だ。
体の中に残っているあのときの微弱な音・・・あれは自分が消えうせても、何百年も鳴り続けていたはずだ。生き残った生命を守り続けるために・・・。
だが、今回は違う。分子の振動が限りなく弱くなってきている。自分たちの体そのものの温度も少しずつ下がってきている。このままでは、全ての生命が絶滅してしまうだろう。この数ヶ月でそんなことがわかってきた。

いや、それもプログラムの一つなのか。船内を完全にリセットして新しい生命を進化させる・・・・。そんなことまでプログラムされているのか。
誰がそのプログラムを実行するのだ・・・。
パネルコンピュータすら永遠の眠りに入ってしまうというのに。
一体、誰が起動するんだ・・・・。

かつて俺達の祖先が住んでいたという星では、生命は誰のプログラムに従うでもなく、自然という壮大な時の流れの中で進化を遂げてきたらしい。
しかし、生命のかけらも無くなった船内で新しい進化が始まるとは思えない。

・・・俺はマルケスを探して、ここまで来てしまった・・・・。

これまでのブロックの様子からして、パネルシステムは何か処理を間違えている。だが、パネルコンピュータへの介入は、この辺りの旧式ブロックでも俺達のブロックと同様に、ほぼ不可能だ。
より中心に向かい、より凍てついたブロックの、より旧式なパネルコンピュータになら介入の余地があるかもしれない。

・・・マルケスも、そのことに気づいたのかも知れない。

ああ、音がだんだん聞こえなくなってきている。
俺が闇に帰ったときは幽かだが電子の音は聞こえていた。あのとき、分子振動は0には、なっていなかったんだ。

(ミムは既に数世代前の過去の出来事に覚醒していた)

でも、今の音は違う。ほんとに消えそうだ。
絶対0度になれば、船は、人類は終わりだ。
全てが凍りついてしまう。

ふと眼をやると、ゲートの隙間から凍りついた人々の亡骸が見えた。ミムは遠巻きにそれらを見つめていた。
空が一瞬光る。
氷像のような人々の影は砂のようになって消えた。
やはり、そうか。あれは分子分解だ。都市に人影がなくなったのはああいうことだったんだ。
再び閃光がゲート付近のまばらな住居セクションの中に差し込んだ。たぶん、あの中の亡骸も消去されたのだろう。
これもパネルのプログラムの一つか。確かに、凍ったまま、船内に放置しておくということはないだろうから、これも過去に通り過ぎてきたことなのか。
光・・・そうか・・・・あのとき、痛みも何も無かった・・・・意識が一瞬で消えた、あのときの光・・・。

ゲートに近づき、耳を澄まして音を聞く。生きていた天空の音がやがて聞こえなくなる。
「凍結後の処置を終えてパネルも眠ってしまうのか。」すぐさま、ゲートから通路に戻り、ミムはつぶやいた。
「いや、それはおかしい・・・彼らが眠ってしまったら、この船の航路はどうなる。どこかの恒星に引き込まれてしまうかもしれない。いや、惑星に曳かれるより先に確実にひきずりこまれる。クース・・・、やはり、船はおかしくなってきている。」

そうだ!早く戻らなくては! みんなが凍りつく前に!
今ならまだ間に合うかも知れない!!

クースに会わなきゃ!クースに知らせなきゃ! 一刻も早く!!

そうだ。クースのところへ戻るんだ!!
絶対に戻る!とにかく戻りたい!!
ミムは、ゲートに「リターン」のイニシャルを打ち込んだ。


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