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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第15回   15
ミムは意識を拡散させ闇に沈潜した。物と一体化し、自分も含めた周囲の全てが極めてゆっくりした速度で停止に向かっているのを感じた。分子の振動音が少しずつ低下してきている。まるで、自身の鼓動がだんだんと聞こえなくなっていくかのように。
ミムは音を聞き続けた。
周囲の分子の振動は確実に微弱になってきている。自然の摂理とは異なる方法で生じたこの氷の世界。凍てついてしまった都市。凍えて倒れている人々・・・。

待てよ・・・。ミムは疑念を抱いた。

この人たちは飢えや寒さで亡骸となったのか。
彼は亡骸の前に片膝をつき、耳を澄ます。意識が闇に跳ぶ。聞こえない。生命体が有機体が、無機質になっていったとしても、物質としての分子の振動は微弱になりつつも残っているはずだ。この体からは何も聞こえない。この人たちに触れてはいけない。この亡骸は極低温になっている。
そのとき、周囲のゲート管理関連のビル街が一気に崩れ始めた。
ミムはハッとして意識を回復させた。
ガラスが砕けるように粉々に飛散するビルのかけら。残ったのは瓦礫ではなく、砂の山のようになったビルのかけら。

・・・どうする。進むのか、戻るのか・・・。

体の芯から先に凍り始めるこの異常な低温状況からすると、マルケス達は既に調べたブロックのどこかで行き倒れていたんじゃないのか。
この先にいると思ったのは、彼らの生存への希望・・・、願望・・・。
彼らの体質の異常が自身の命を縮めた可能性だってある・・・。

どうする!!
ミムはいよいよ益して、体の芯が冷え始めるのを感じた。体表はまだ温かい。なのに、内部から冷えていく。

・・・・・・進もう!俺はマルケスに会いたくて来たんだ。だれかが、ゲートのレバーに触れた形跡もあった。骸を探すだけなら後でもできる。俺は生存の希望にかける!!

ミムは、急いで反対側のゲートまで移動装置をセットした。辛くも凍りついて動けなくなる前に対岸のゲートを脱出できた。

移動通路は低温化の影響がほとんどなく、出発したときの通路と同様に分岐点が現れた。彼は、前回と同様に音を探った。結果はあのときと同じだった。下方は、より冷えている。すぐさま、前回と同じ行動パターンをとる。

3日後にわかったことは、3ブロックとも、あの凍りついたブロックと同じ状況であったということ。つまり、センサーの反応は無く、移動装置も応答しない。覚悟を決めて、さらに下方へ向かう。
自分達のブロックが優秀だったことが分かる。どのブロックもロックが解かれていて、例外なく中は凍りついている。土と呼べる地面は無く、全てが人工的で端末システムの傍には凍りついたロボットしかいなかった。人々は建物の中で凍てついているのだろう。
と、そのとき、浮遊を維持する磁力装置が停止して地上に転がっている無数の球体住居群に、数日前に訪れたブロックで見たのと同じような光が降り注いだ。住居からはキラキラした微細な粒子がどこへともなく流れ出ていった。


空を見た。満天の星。俺達のブロックで見ていた夜空とは星々の配置が違う。それに、星の数もこんなに多くはなかった。
そういえば、最初に見た左右のブロックの星の配置は自分達のブロックと一緒だった。だが、このあたりのブロックの夜空は全てが満天の星だ・・・。

さらに、下方へ進み、その都度、左右のブロックへも立ち寄る。下方に向かうほど、構造物の様式が旧いように見える。左右はそれに倣う形だ。同一の年代と思われる構造物が左右のブロックにもあるのだ。
船の構造が分かりかけているような気がした。自分はこの船の水平方向の巨大さは分からない。だが、垂直方向の深さは体感してきているんだと思った。下方への垂直方向の移動は、時の流れへの逆行であり、ブロック内の構造物が旧式のものになっていく・・・・そして、低温化も益々、無軌道に凄まじくなっていく。

それでも、ミムはさらに下方のブロックへ向かった。
ゲートに一歩足を踏みいれるだけで骨から凍りついていくのがわかる。音はもう全くしないと言っていいほどに微弱だ。ゲート越しに手のみをブロックエリアに突き入れ、センサーを起動する。
反応は無し。移動装置は例のごとく、稼動可能。
ゲートの外から空を覗き見ると星は数えるほどしかなかった。
周辺ブロックに向かう。同様に星はまばらで強烈な低温化状態だが、移動装置は利かない。センサーの反応はもちろん無い。
低温化は、ゲートとパネルで仕切られた巨大ブロックの中で、それぞれの垂直方向の座標位置に応じて進行している・・・・。
いよいよ、船の構造が見えてきた気がする。
出発からは半年以上が経っていたが、依然、マルケス達の確固たる痕跡は見つけられてはいなかった。


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