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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第14回   14
ゲートの向こうにあった通路には重力が無かった。パイプ状の通路を飛び跳ねるようにしながら、しばらく浮遊して進む。通路は他ブロックとの中間付近と思われる地点で上下前後左右の6方向に分岐されていた。
ミムから見て、上方向の通路のみが閉じられていた。無重力下では上下の感覚は無い。どちらに行くかはミムの判断次第である。
彼は、考えた挙句、眼をつぶった。自分に備わった能力を信じる。下方の音はかなり微弱だ。前方と左右方向は自分のいたブロックと変わらない。下方は、より冷えている。マルケスと技官の二人は低温を感じない。
携帯移動装置は他のブロックで稼動するかは分からない。使用できない場合、この数日で移動できる距離は限られる。各ブロックの接合部付近のみだ。逆に使用できれば、エネルギー供給の続く限り、いくつものブロックを回れる。
だが、シールドのエネルギーはもう切れているだろうから、向かうブロックがビンゴなら携帯認証センサーで容易に見つけられる。ただし、センサーが届くのは1ブロック内ということだから、はずれたらいずれかのブロックまで自力で移動しなくてはならない。

・・・自分はこの船の形状を知らない・・・。
より冷え込んだブロックに行くとエネルギー消耗が早いし、マルケス達並みの寒さに対する耐性も俺には無い。
パイプ型通路の中は無重力なので、一蹴りでかなりの距離を進める。
問題はブロック内を突き抜けて、さらに先のブロックへ行こうとした場合、移動装置が使えなければ通常重力下を20日ほどかけて移動するしかないということだ。乗物が稼動している可能性は低い。
彼はブロックを縦断して先へ進むという考えは無しにして、周辺の4ブロックのセンサー反応を見ることにした。通路とゲート付近までへの移動だけなら時間はたいしてかからず効率的だと考えたからだ。
とは言え、1ブロックの探索には十数時間ほどかかる。船の構造をつかむのに夜の星の配置が役立つらしいことが、クースの掻き集めた資料の中にあったからだ。何を意味するかは皆目わからないが、1年という期限からすれば、たいした時間にはならない。昼間にたどり着くブロックでは夜まで待ってみることにしたのだ。その間に休息したり睡眠をとったり食事等を摂ったりしながらの探索となる。
ミムは、先ず低温化の度合いがやや緩めな左右の二つのブロックを探索することにした。どちらのブロックもゲートの封鎖は無く、出入りは容易だった。チェックしたブロックのゲート外側には、自分自身が探索に迷わない為と、マルケスに気づいてもらうた
めに、発光イニシャルを拡大して打ち込んでおいた。こんな状況では、そうした行為を咎める者はいないだろう。それに、万が一、自分が帰らないときは捜索隊がそれから足取りを知ることができると言うわけだ。
だが、実際は自分もマルケス同様、捨て駒になるのかもしれないと内心、ミムは思っていた。
ブロック内に入ると、情報どおり、機械任せの末の低温化による荒廃は、彼のいたブロックより進んでいた。二つのブロックは、開放政策を採っていたようだが、こうなっては互いの往来もほとんど無いようでゲートの監視もなかった。ロボットすら配置していない。というより、ロボットも機能しなくなってしまったのかも知れない。どちらのブロックとも携帯センサーは無反応だった。また、移動装置は作動せず、乗物も機能していなかった。ブロックの都市部には住民がいそうだが、このあたりには人影は見当たらない。みな、中心部で凍えながら、どこに行くこともできず、日々、暮らしているのかも知れない。
マルケス達はどんなに急いでも7日ほどで先のブロックまでは移動できない。とすると、センサーの反応が無い以上、彼らが生きて、これらのブロックにいる可能性は限りなく0に近いということになる。
急いで分岐点に戻り、当初の進行方向、つまり前方にあったブロックへ向かった。このブロックも移動装置は働かず、センサーの反応もなかった。
残るは、低温化が進んでいるであろう下方のブロックだ。ここでも反応が無ければ、彼らの生存はほぼ絶望的だ。ただし、時間を稼ぐのが、この特命の意味でもあるから、生死を問わず、彼らの姿を確認することがその後の任務になる。それは、とても空しい仕事だ。
そう思いながら、ミムは、低温化が他の4ブロックよりも進んでいるであろう下方ブロックに向かった。
ゲートは、人が横向きでやっと通れるほどの半開きの状態になっていた。内側はもちろん、凍りついていた。ここも閉鎖政策はとっていなかったようだ。ただ、ゲートをよく調べるとダイヤル式レバーに動かされた形跡があった。ゲート監視の技官が操作するレバーだろうが、凍りついた根元の部分に不規則なひび割れが出来ていた。凍りついたレバーを後から力づくで動かしたような感じだ。もともとは、人の通れるような幅ではなかったのかも知れない。ただ、ロックはされていなかったということだ。
ミムは冷え込んでいるブロックの中でセンサー反応を見た。やはり、反応はなかった。試しに、移動装置を稼動してみた。すると、このブロックでは予想外に移動装置が稼動し、移動ポイントの入力を要請してきた。
「ここだ。マルケス達はここへ来たんだ!そして、通過した!!」ミムは寒さも忘れて、マルケスに近づいている自分を感じた。だが、次の瞬間、自分の爪先と手指が内部から少しずつ凍り始めているのを感じた。手の表面は柔らかいままだ。おかしい!機械のように人体が凍る!!音は・・・・、極めて低い!!
そのとき、遠くの地面に、と言っても、やたら広く障害物の無い巨大な滑走路のような人工の地面の上に人が倒れているのが見えた。多分、生きてはいない。とっさにそう感じた。だれが彼を葬送するのだろう。考えてみれば、生き残れなかったブロックの人たちの骸はどうなるのだろう。
そのとき、空が光り、真っ白く柔らかな光に包まれたその人は次の瞬間、細かな粒子となり、かすかな風に運ばれて無くなってしまった。


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