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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第13回   13
だが、はたして、その瞬間、ゲート下方の一角に小ハッチが開くのが見えた。検査官が作業をロボットのみに任せ室内に入った瞬間、巨大ゲートの一隅の小ハッチが開いたのだ。特に強い気流が発生しないのは接合部にも同一な温度の気体があるからだろう。ゲートの向こうは真空ではなかったのだ。ロボットが高速で移動し始めた。ハッチの向こう側を点検しているのだろう。もし、外からのウィルスが付着するとしたら、あの瞬間だろう。粒子確認用のシートを取り出して目の前にかざし、前方を凝視した。すると、ハッチの下方から正体のわからない粒子が一定感覚で噴き出しているのが見えた。多分、あれがウィルスだ。あそこからウイルスが侵入している。ロボット達はそれをうまくかわしながら交替でゲートの向こうと行き来している。だが、一度だけロボットにウィルスが付着するようなことがあったのだろう。仮に、一度ならずとしても大抵のウィルスは作業中に周辺に付着したり、短時間で死滅したりしてほとんど痕跡が残らないタイプのものなんだろう。だが、人への影響は・・・。ここの局員には感染しているはずだ。それでも一人を除いて体調の変化は無かった・・・なぜ・・・何のためのウィルス放出なんだ・・・。わからない。
約2分後、検査官が戻ってくるのと同時にハッチは消えた。残念ながら数百年前の噂は本当だった。ロボットは作業行動の記録を自身で、あるいはパネルのサポートによって改ざんし情報操作している。ミムは驚きと落胆を共に感じていた。進まねばならない。若い技官も体調の変化を真剣に悩み、その原因と解決の可能性を、自分が守っていたこのゲートの向こうにあると考えたんだろう。そして、マルケスと出会い、その可能性のとびらが現れるのを待った。ゲートの向こうに答えは無いかもしれないが、ここにいたままでは二人は誰からも理解されない。答えも出ない。
では、俺は何のために向こうに行くんだ。局の特命は、探しているふりだけでもかまわないというものだ。
なぜ、クースをおいてまでしてゲートを越えようとしているんだ。
俺にはここへの疑問は無い。ただ・・・ただマルケスに会いたいだけだ。会って、話をしたいのだ。俺と同じように自分自身にしかわからない感覚をもったものとして。
・・・・いや、俺にも疑問・・・違和はある。このブロックで聞こえているあの音への違和だ。俺はそれを確かめるために行こうとしているのかも知れない。

まずは、明日を待つしかない。一つの場所に留まり続けるのも局の人間には怠慢と映る。
俺は移動装置でゲートと反対側の壁面まで移動した。ここには、まだゲートは造られていない。局には俺がきちんとあちこちを捜査しているように伝わるだろう。
しかし、それも探索開始1日で終わりだ。明日でその情報も途切れる。俺は外に行く。マルケス達のように。
俺はわずかに宙に浮く球体テントの中で眠りについた。

翌日も同時刻、検査官がいなくなる間、ロボット達の合図によって、ハッチが現れた。こうした光景は前回の氷河期以来のことなのだろう。したがって、封鎖中のゲートをロボット達が勝手に開閉していることなど予想し得なかったのだろう。だが、同じような閉鎖ブロックでは、俺やマルケス達のようにこうした場面を見た者たちが過去にもいただろう。そうした記録が正式に無いのはなぜだ。記録が抹消されているのか。パネルコンピュータにとって不都合な記録が抹消されてきているということか。わからない。
いずれにしろ、中央局も把握しない実態が今そこにある。と、携帯センサーが反応した。ウィルス噴出の反応だ。ハッチの周りにウィルス検出反応が出ている。しかし、向こう側に行くには今しかない。数秒後、ウィルスの噴出が止まった。次の噴出まで、わずかの間がある。ミムは、携帯シールドの出力を最大にしてハッチの向こうに転がり込んだ。再噴出に見舞われはしたが、シールドのおかげでウイルスの付着は免れたようだ。ロボット達にもシールドで覆われたミムの姿は見えていなかった。


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