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作品名:ボイジャー 作者:ふ〜・あー・ゆう

第11回   11
ブロック内居住者認証センサーではマルケスの居所はわからなかった。彼が携帯シールドを施していることも考えられたが、その場合、シールドの影響で彼の周囲にいる人々の情報も隠される。ミムは高速端末により、全住民の認証データの自動発信をくまなく点検した。不明・不具合データは2件あった。1件はマルケス。もう、1件は中央局の人間で療養中とのことであった。このブロックでは、個人の情報が容易く確認できる。ブロック内の教育システムと社会を構成する種々の環境により、それらの情報を悪意をもって利用する者はほとんど皆無であったからである。なお、個人認証システムとして、住民には脳内特定部位のシナプス上に、半細胞処理が施され心拍や脈流を発電に利用した発信セルが定着されていた。これは、経口薬等によって投与・注入され、脳内に定着する仕組みになっていた。もちろん、住民の合意の上での施策である。定着位置も個人の記憶や思考等には携わらない部分になっている。
不明・不具合なデータが意味するのは、生命活動の極端な低下および停止、稀ではあるが発信セルの極度の劣化、ブロック内構成物以外の場所への移動などである。マルケスはシールドを張り続けたまま、どこかにずっと隠れているか、万に一つ、ブロックを出たということも考えられる。
実のところ、ミムは例の音に対する違和とマルケスの失踪が気になっていた。一方、失踪に騒いでいたソゴルと楽天家のアレスは、マルケスはちょっと雲隠れしてるだけなんだと結論し、さして気にもとめていなかった。

ミムには、低温化の速度と例の音のボリュームの急激な低下がリンクしているように感じられていた。通常の温度から切り替える初期の段階はあれほど大きく聞こえていた例の音が、氷河期実行の準備が完了したのか、小さくなっていったのである。しかも、消え入りそうなぐらいに。もし、完全に聞こえなくなれば、それはシステムの完全な停止を意味する。そうなれば、氷河期は永遠に解除されない。船は死の塊となって宇宙を放浪することになる。
そして、マルケスはいなくなり、未だ隠れている動機もわからない。精神に不具合があるなら科学局の治療で完治できる。なのに、彼は失踪した。
こうして、ただ黙ってじっとしていても何の解決にもならない。分子振動の低下現象からして隠れているマルケスのシールド効果はいずれ薄れてくるはずだ。しかし、依然、ブロック内での彼の認証反応は無い。まさかゲートを出ていったのか、だが、そんなことは出来るのか・・・。ミムは自問自答した。


マルケスが姿を消して七日が過ぎた。アレスやソゴルは、もう少ししたら戻ってくるさと言っていた。
だが、実のところ、ミムも彼が言っていた他のブロックの様子が気になり始めていた。それは、音の変化に対する違和感が原因である。ここと周辺ブロックとでは、低温化現象は同じでも、その進行速度や程度に開きがあるのではないか。実際、局で予測していた分子振動の低下速度が僅かではあるが予測を上回り、加速度的に低下してきているようなのである。振動が0になることはあり得ないだろうが、急激な変化は住民にとってかなりのストレスとなる。ミムは、中央局に呼び出された。食糧局プロジェクトの経過を上司と一緒に報告するのだろうと思っていた。


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